127 お仕置デート ④【メノウ】
今日はメノウと出かける事になっている。
しかし、彼女は特別な事は求めずに只の買い物に付き合ってくれれば良いそうだ。
「本当にそれで良いのか?」
「はい。少し遠出しますが一緒に飛べばすぐに到着しますから。」
そして、俺はメノウと共に飛び立った。
それに彼女も飛べるので事前に抱き上げる必要はないと言われている。
どうやら、一緒に飛びたいらしく俺としても人と一緒に飛ぶのは初めてなので少し楽しみだ。
そして飛び上ってすぐに俺達は速度を上げて行った。
その現在は時速500キロを超えて目的地へと向かっている。
(あれ、これって一緒に飛んでる気がしないな。)
しかし、横を見ればメノウは笑顔を浮かべているので彼女は楽しいのかもしれない。
そしてまずは山間にある牧場に降り立つとそこには小さな販売所があった
メノウはまるで通いなれた店に入る様に扉を開けその中へと入っていく。
「おじさん。牛乳頂戴。」
「お~メノウちゃんかい。よく来たね~。今日は出来が良いから美味しいよ~。」
どうやら本当に通いなれた店の様だ。
最近、家の牛乳の銘柄が変わり、味が良くなったと思っていたがこういう事だったのか。
「もう、おじさんったら。ここの牛乳は美味しいんだからもっと大々的に売り出せばいいのに。」
「ははは、大量生産しないから管理も行き届いて美味しい乳を牛が出してくれるんだよ。サービスしとくからまた来ておくれ。」
そしてメノウはおじさんから牛乳を受け取ると苦笑を浮かべた。
たしかにここの牛乳は今までの人生で飲んだ中では一番美味しい。
「それじゃあ、また来るからね。」
そう言うと俺達は販売所から出ると再び飛び立った。
そして次に行くのは日本海にある漁港で瀬戸内では手に入りにくい魚を購入するそうだ。
「おばちゃん。ノドグロとカレイ頂戴。」
「あらメノウちゃん。今日もお買い物?」
(ん?今日も?)
俺はおばちゃんの言葉を聞くと頭に?が浮かぶ。
日頃から食材の買い物は任せていたがこんな所まで買いに来てたのか。
「うん。それと何かおすすめある?」
「今日は寒ブリで良いのが入ってるよ。」
「ならそれも一本お願い。」
「いつもありがとね。」
そしておばちゃんは魚を準備しながら俺に視線を向けた。
何やら値踏みされているような気がするが間違ってはいないだろう。
その目はまるで競りを行う仲買人の様に光り、鋭い目付きで俺を見詰めて来る。
「この人はメノウちゃんの良い人かい?」
「そうよ。私の運命の人。」
メノウはあえて言葉を濁して恋人ではなく運命の人と答えた。
するとおばちゃんの目がクワッと開きブリで突きを放って来る。
(売り物じゃないのかそれ!?)
俺は一応ブリの下顎に手を入れ相手より早い動きでそれを引くと身が痛まない様に力を流した。
「ブリは身崩れしにくいと言ってもあまり乱暴に扱わないでください。」
「中々やるようだね。メノウちゃんが選んだだけはありそうだよ。」
するとおばちゃんはぼそりと言葉をこぼして表情を和らげた。
どうやら試された様だが魚で突きを放たないでもらいたい。
素直に言えば良い突きなのでコボルト程度なら今ので倒せそうだ。
もしかして魚を武器にすると強化してくれるスキルでもあるのだろうか?
「今日の所はサービスしといてあげるよ。でもこの子を泣かしたらみんなで袋叩きにするからね。」
おばちゃんがそう言うと同時に周囲の店から威圧が放たれた。
それは店員以外にも魚を買いに来ている地元のお客からのも含まれている様だ。
(これは返さない方が良さそうだ。それにしてもメノウは愛されてるな。)
その様子を見てメノウは顔を赤くして「そんな事しないでください。」と手を振り上げて宥めている。
しかし、メノウの見た目ではそんな事しても返されるのは周りからの笑顔だけだ。
そして、俺達は次に少し飛んだ所にある道の駅に到着しそこにはとても色の良い鶏肉が売られている。
メノウが籠一杯に鶏肉を入れるとレジへと持って行った。
「お姉さんこれ頂戴。」
「あら、メノウちゃんこんにちは。最近あなたのおかげで家の通販は大盛況よ。」
どうやらここは道の駅に集まる商品を通販で売り出している様だ。
しかし、おかしいな。
家にネット関係で強い者はいない筈だが。
(近所のリョウタさんにお願いしてネットで宣伝してもらいました。)
(いつの間に。しかし、アイツのネット上での交友関係は広いからな。口コミで上手く行ったんだろうな。)
最近忙しくて会っていなかったがライラの魔法陣をパソコンに落としてもらってから、時々何か頼んでいたな。
その事を思い出して周りを見回すとここにはジビエの猪肉、シカ肉、カモ肉。
それ以外にも地域で取れる物で色々な加工品がある。
よく見ればリンゴやレモン等の果物を蜂蜜に漬けた物まで置いてあった。
(あ~、あれは少し前にメノウがオリジンにデザートとして出してたな。)
リンゴの蜂蜜漬けなどは俺も好きで昔はよく自分で作って食べていた。
それにレモンはビタミンも取れて美味しく、子供の頃にはその蜂蜜をスポーツドリンクに混ぜてよく飲んだ記憶がある。
すると会計のお姉さんは袋を抱えて俺の傍にやって来た。
「重いから気を付けてね。」
確かに入っている物から考えれば重いだろう。
しかし、このお姉さんはそれを軽々と片手で突き出している。
(なかなかの力持ちだな。)
俺もそれを片手で受け取り「どうも」と返しておく。
(だいたい20キロくらいかな。)
すると彼女はクルリと回るとメノウの許に戻って行く。
そして親し気に挨拶すると俺達はその場を離れて行った。
その後も俺達は中国地方を飛び回り野菜を買い、肉を買いと奔走する。
そして帰ってきたころには昼を回っていた。
あれだけ回っても昼までに帰って来れたので少し驚きである。
すると地面に下りるとメノウが笑顔で声を掛けて来た。
「今日はユウさんとのお買い物で張り切り過ぎてしまいました。疲れませんでしたか?」
「いや、最近ご飯が美味しくなった秘密が知れて面白かったから大丈夫だ。」
材料で料理の味が決まる訳ではないが俺はメノウがみんなのために頑張っている事を知る事が出来た。
その感動に内心で感心していると俺の前に伏兵が現れた。
「お帰りなさいメノウさん。今日は転移ではなく飛んで行かれたのですね。」
するとメノウの動きがピシリと止まり笑顔が引き攣った。
どうやらメノウは集めた力を無駄遣いして日頃は買い物をしている様だ。
俺はそんなメノウに笑顔で歩み寄るとその頭に手を乗せた。
すると彼女は強く目を瞑り痛みが来る覚悟を決めるが俺はその手を頭に沿って動かし優しく撫でた。
「へ!?怒らないんですか?」
メノウは少しビクビクしながら目を開けると俺を見上げる様に見つめてくる。
「当然だろ。俺はお前の頑張りに感心したぞ。みんなの為に頑張ってるんだな。少しくらい無駄使いしても家の皆の胃袋が優先だ。それに今日行った所以外にもいろいろ行ってるんだろ。これからも家の事は任せたからな。」
「はい!任せてください。」
メノウは嬉しそうな顔で返事と共に頷くと今日の夕飯の準備のために気合を入れた。
それにしても家の夕飯には何処で買ってきたんだと思える物が並ぶ事がある。
今日でその秘密が明らかになったが訪れた所は何処もメノウを可愛がったり、感謝の言葉を送っていた。
それに自分で移動して分かったが、あれらを回るのに飛ぶのでは時間が掛かりすぎる。
これからも転移を使わなければ家の料理の質が下がってしまうだろう。
それは即ち、ホロのご飯の質が下がると言う事だ。
「ユウさん・・・。」
「なんだ?」
「最後で台無しです。」
「ん?」
そして俺は呆れられながら家に入り今日の夕飯の準備を手伝った。
久々のまともな料理だがメノウが手際よく指示をしてくれる。
そして完成した海鮮鍋をみんなで突きながら今日のエピソードを話すと、みんなの中でメノウの株が何段も上昇した。
そして俺はその日は布団に入り眠りにつこうとした・・・。
すると布団の中に何者かが侵入して来たので最初はホロかと思ったが匂いが違う。
この微かにしか匂わない澄んだ葡萄の様な香り。
これは・・・。
俺は布団を捲り中を確認するとそこには既に裸のメノウが居た。
他の皆ですら最初は服を着ていたのに大胆な奴だ。
俺は溜息と共にもう一度
布団をかけてベットに横になる。
するとメノウはゴソゴソと動くと俺の前に顔を出した。
「これは・・・OKと言う事で良いのですか?」
俺は苦笑して頷くとメノウは今にも飛び上りそうに喜んだ。
それに彼女との付き合いもそれなりに長い。
長いと言うと語弊があるが彼女と出会ってからの時間はかなり濃厚なので俺にそう思わせるだけの多くの出来事があった。
しかし、メノウには他のメンバーとは違う大きな問題がある。
ある意味ヒスイも一緒なので聞いておく必要があった。
「天使は子供を作れるのか?」
「分かりません。」
俺の言葉にメノウは真剣な顔で即答した。
恐らくは本当に分からないのだろう。
するとメノウはその理由を話し始めた。
「天使には食欲、睡眠欲、性欲と人が持つ3大欲求が存在しません。そのため子供を作ろうと考えた天使はいないようです。犯される者がいたとしても魔法で全て対処できてしまいます。きっとこの行為を嬉々として望んでいるのは私が初めてでしょう。」
確かに天使は人を救うこと以外にあまり興味を示さない。
それは先日の天使達を見ていればどことなく分かる。
愛と言う言葉すら理解しているかも怪しいものだ。
そうやって見るとメノウとヒスイはかなり異質に見えて来る。
食べるのが大好きでこうやって体を求めて来るからだ。
するとメノウは少し心配そうな顔で俺を見詰めて来た。
「やっぱり子供が出来ない女は嫌ですか?」
「いや、そんな事はないよ。」
坂上夫婦も子供が出来ないと知りながら結婚してずっと愛し合って暮らしてきた。
今は互いに抱えていた問題も解消され愛と希望の中で生活しているはずだ。
それに愛の先にあるのは子供だけとは限らない。
するとメノウは頬を染めると笑顔ではにかんだ。
「その気持ちがとても嬉しいです。」
どうやら、俺が口にする前に考えが伝わってしまった様だ。
すると彼女は一つの可能性の話をしてくれた。
「昔ある国を滅ぼしたデーモンがいました。そのデーモンはその国の王を誑かしましたがその際に人間の子供を出産したようです。」
「それなら可能性はあるんだな。」
「はい、デーモンと天使では体の構造は一緒です。もしかすると私も子供を産めるかもしれません。」
それは未だに誰も行った事がない道の試みになる。
しかし、もし互いにそれを望むなら可能性は0ではない。
特にメノウは家の中で一番子供を作るのに適した位置にいる。
本人が望むならチャレンジしても良いかもしれない。
「メノウ。」
「はい。」
「俺の子供を産んでくれないか?」
「喜んでお受けします。」
そして、俺達はそのまま愛し合った。
メノウは知識こそあったが初めての行為で痛みに涙を流していたがその顔はとても嬉しそうだった。
「天使は痛みに鈍感なのにユウさんの傍に居ると普通の女の子になったみたいです。でも、今はそれがとても嬉しく感じます。」
そう言って彼女は俺を抱きしめた。
俺もメノウを抱きしめ返しその日を終えた。
次の日に目を覚ますとメノウは少しいつもと違う女の顔で俺を見詰めている。
俺は彼女に軽くキスをすると起き上がって汗を流すために一緒にお風呂へと向かって行った。




