126 お仕置デート 【ホロ】
今日はホロとのお出かけの日だ。
何処に行こうかと考えていたのだがホロ自身が行きたい場所があるらしい。
そして、何故かマリベルは机の上に大量の魔石を準備している。
今からどうするのかと思えばゲートを開くとホロは俺の手を引いて行った。
するとその先には天使が一人おり、その横には複数の犬猫がいる。
どういう事かと聞くと天使は答えてくれた。
「飛行中に助けを呼ぶ声が聞こえました。」
それだけで俺は理解した。
これらは施設で殺処分を待つ動物たちだろう。
近年殺処分の数が減ったとは言っても0ではない。
どうやら天使が助ける命とは人に限った事ではないようだ。
しかし、引き取り手のない犬とは病気であったり性格が悪かったり必ず理由がある。
「それで、そいつらは何で助けを呼んでいたんだ?」
「大半は病気を患っていたからだそうです。数頭は性格に問題がありましたが躾けておきました。」
俺は周りを見回すとどの犬猫も従順そうだ。
体を見ても鑑定しても病気の者も居ない。
しかし、家で飼う事は出来ない。
もし、俺が何かしてやれるとすればそれはレベル上げだけだ。
するとそんな俺にホロが話しかけて来た。
「実はもっと沢山居るの。」
俺はその言葉に納得するが責任の持てない飼育はしないと決めている。
どんな理由があろうとも、それが例え命に関わるとしてもだ。
しかし、俺の思考に反して俺は携帯を手にするとある所に電話を掛けた。
「サツキだけど、どうしたのユウ君。」
「実は・・・。」
俺はサツキさんに連絡をして犬猫を飼う人は居ないかを問いかけた。
彼女は意外と顔が広そうなのである意味では最初で最後の希望でもある。
こういう時に交友関係が乏しい自分を恨めしく思う。
実際、後になってからよくよく考えると、そうでもなかった事に気付くがこの時にはそこまで頭が回らなかった。
「それなら少し見せてもらおうかしら。その子達の生きる覚悟を知りたいわ。」
俺は相談する相手を間違えたかもしれない。
そして急いで全国から犬と猫を集めてサツキさんの許に向かう。
彼女は道場で待っているらしく俺達は数百の動物を引き連れてそこに現れた。
「まあ、沢山連れて来たのね。まあそれはそれで好都合だわ。」
何が好都合なのか分からないが俺達はそのままサツキさんと道場で戦闘訓練をしているメンバーと共に富士山の麓にあるダンジョンへと向かった。
するとそこには数百人の自衛隊が待機しており、彼らは俺達を見ると声を掛けて来る。
「その子たちが今日から訓練に参加するのですね。」
「ええ、ある程度の基礎は教えてるから即戦力よ。それと今日から2人一組でこの子たちをパーティに入れて訓練を行います。」
そう言ってサツキさんは俺達の連れて来た犬と猫を指差した。
それを見て彼らも首を傾げてサツキさんに問いかける。
「この動物たちをですか?」
「ええ、魔物を倒すとレベルが上がるけどそれだと感覚が追い付かないでしょ。この子たちに分配して経験値の入りを緩やかにするの。」
すると彼らは「なるほど」と納得して首を縦に振った。
(かなりサツキさんに毒されてるな。普通なら一つでもレベルを早く上げたいだろうにそれを簡単に放棄している。彼らはどんな地獄を味わってきたんだ。)
そしてよく見るとここにはベルドに先日会ったガイとウイルも居るようだ。
普段は彼らとここで訓練を受けているのだろう。
ベルドも久しぶりに見たがかなり体も鍛えられ引き締まっている様だ。
そしてサツキさんは俺に向くと何故か笑顔を浮かべて来た。
「それじゃ、当然手伝ってくれるわよね。」
「当然です。」
任せたとは言ってもこちらからお願いした事だ。
当然ある程度の面倒はこちらで見る予定である。
俺は家に連絡を入れて今日は遅くなる事を伝えるとホロと一緒に手伝いを始めた。
そしてしばらくすると日本に残る他の天使も数人ほど現れた。
「通訳が必要だろうと言われて来ました。」
現在、犬と話せるのはホロだけだったのでとても助かる。
天使は念話により相手と意思疎通が出来るので自衛隊と動物たちを繋ぐ架け橋になってもらおう。
「それじゃあ外で仕事を頼む。動物たちに今からする事を教えてやってくれ。今のところ戦うのは彼らではなく人間だけだ。怖くても我慢する様にと。」
「分かりました。お任せください。」
そして俺達はホロと一緒に犬を数十匹引き連れてダンジョンに入って行く。
その姿を後ろで自衛隊の人たちが心配そうに見つめていた。
「あの人は大丈夫ですか?」
「慣れてるから大丈夫でしょ。彼はいろんな所で知り合った相手のレベル上げを手伝ってるし、あの横の子も元は普通の犬なのよ。」
すると自衛隊員は驚いた様な表情を彼らに向けるとニヤリと笑った。
「それではお手並み拝見と行きましょうか。」
俺達はダンジョンに入ると前に俺が立ち後ろにはホロを待機させた。
まずは犬たちにステータスを与える必要がある。
そのためには魔物に攻撃させなければならない。
そして俺達はさっそく前方にゴブリンの群れを発見した。
数は5匹なので丁度いい。
これだけいれば犬たちが攻撃しても最後まで残るだろう。
俺はゴブリンたちに駆け寄ると木刀で手足の骨を折って行動を封じた。
威圧だと人間よりも脆弱なゴブリンを殺してしまう可能性があるからだ。
そして手足の自由を奪うと今度はホロの出番だ。
ホロは犬たちに指示を出しゴブリンを引っ掻かせた。
どうやら初めてゴブリンと戦った時に噛みついて酷い味がした事を覚えていたようだ。
そして全ての犬が攻撃していくのを見ているとまるで踏み絵をさせているような気になって来る。
しかし、彼らの進む道はキリシタンよりも遥かに険しい。
今から命を懸けた戦いに同行しなければならないのだ。
その為にもレベル上げは必要である。
俺はホロに言って彼らに言語スキルを取ってもらうと俺の言う事を理解してくれるようになった。
どうやら俺もあと1か2、言語スキルを上げれば犬との会話が出来る様になりそうだ。
しかし、俺はあれからレベルがあまり上がっていない。
王都での戦闘ではレベルが3上がったがスキルポイントに大きな余裕は無い。
今はこの先何があるか分からないので温存しておく方が良いだろう。
そして、俺達はレイドを組んで先へと進んでいった。
こうなればもう後は進むだけなので問題はない。
ここはかなり大きなダンジョンの様で広さもあり魔物の数も多い。
それにどうやらここは一階層は普通のダンジョンだが2階層は違うようだ。
俺達は早速階段を見つけ下へと降りて行った。
「ユウ、ここ広くて明るいね。」
「そうだな。始めて来たがこれが前にアスカが言っていたフィールドタイプってやつか。」
俺達は階段を下りて出口から出るとそこには広大な森と草原が広がっていた。
天井からは光が降り注ぎ、まるで地上の様に明るい。
そして早速俺達の姿を見つけた大量の魔物が駆け寄って来ており、その数は既に100を超えているようだ。
(これは入れ食いだな。)
しかし、今の俺達にはまさに最高の狩場だ。
魔物が魔物を呼び、その数は尽きる事が無いのではないだろうかと言う程こちらへと向かって来る。
魔物の種類はゴブリン、コボルト、ウルフ、スネークと種類は多いがまだ2階層なので上位種は居ないようだ。
俺は犬たちを一カ所に集めると久しぶりに両手に剣を抜いた。
するとその横に同じく両手にククリを抜いたホロが並ぶ。
そして、経験値が入る50メートル以内に入ったモノから順に始末していった。
相手は下位の魔物でしかも日頃から狩られている魔物なので魔石だけを残して消えていく。
すると、後ろで見ていた犬たちの何匹かが立ち上がり俺達の傍まで来た。
「ワン!ワン!」
「自分達も戦うって言ってる。」
「分かった。ゴブリンを回すから倒してみろ。それと希望者は前に出てこい。でも無理をするなよ。怖い者はそのまま待機しておけ。」
犬にも当然、人間と同じようにそれぞれ性格がある。
現代の犬は狩猟本能が弱く人に従順な者を掛け合わせている事が多いので戦闘にはあまり向かない。
それでもこうやって狩猟本能が刺激されれば候補者が出るだろうとは確信していた。
その為、俺はゴブリンの両手首を折り、武器を奪った奴を後ろに回していく。
犬と言っても必ず本能が存在し教えられなくても何処が弱点で攻撃しやすいかは分かるはずだ。
すると犬たちはまず相手の移動力を奪うためにその足に噛みついた。
そして脹脛に牙を立て相手が攻撃に出る前に離れる。
その隙に更に大腿部に噛みつき更に背中から襲い掛かる。
その後は大型犬が首に噛みつくとゴブリンは耐えきれず消えて行った。
「良し、その調子だ。」
その間に俺とホロは100近い魔物を倒している。
そして更にやって来た魔物を定期的に後ろに回していく事で訓練を継続させる。
すると次第にレベルが上がって来たので俺達は足を止めずに移動する事にした。
犬たちの数が多いので必要な経験値も多い。
早く移動して次の階層に移動しなければレベルが中々上がらない。
ここの階層は半径で2キロほどなので階段までは意外と近い。
俺達は魔石を回収すると駆け足で魔物を葬りながら進んだ。
「ワンワンワン。」
「石拾いは任せろって。みんな匂いを覚えたみたい。」
すると戦闘には参加しないが魔石を拾うのを手伝ってくれるようだ。
俺は犬に口広のバックを括りつけ、それを首にかけて固定した。
少し不格好だが魔物を倒しながらなのでそれほど早く走ってはいない。
恐らくは大丈夫だろう。
そして俺達は階段から下の階層へと進んでいった。
するとそこには俺が初めて見るハーピーの巣の様だ。
ハーピーは鳥の足に鳥の腕。
女性の体を持ち、顔は鳥というより人に近い。
しかし、鋭い歯がずらりと並び口は大きく裂けている。
それに空は魔物が埋め尽くし、その数を数えるのも面倒なほどだ。
しかも上空からと言う事で俺達をすぐに発見するとまるで一つの生物の様に襲い掛かって来る。
しかも蜂の様に女王がいる様で、1匹だけクイーン・ハーピーが混ざっていた。
しかし、以前の俺なら面倒だっただろうが今なら格好の餌食だ。
俺は犬たちを結界石で包むとハーピーが直前まで来るのを待つ。
そして来た瞬間にカマイタチを含んだ竜巻を発生させて一気に群れを飲み込んでいった。
するとハーピーは切り裂けれて魔石へと変わり天井に魔石となってぶつかると俺達の周囲に雨の様に降り積もって行く。
「ワンワン。」
「ユウ、レベルが12を超えたって。」
どうやらこれで目的は達成できた。
後は彼らを連れ帰れば問題ないだろう。
後の事は天使たちに任せ次のメンバーを連れてこよう。
「よ~し。帰るぞお前たち。」
「「「ワン。」」」
そして魔石を回収すると俺達は地上へと帰って行った。
数時間は掛かるかと思っていたがここがフィールドタイプで魔物がまとめて襲って来てくれたのでかなりの時間短縮になった。
どちらかと言えば犬たちに言語スキルを取らせる方が時間が掛かっていたくらいだ。
そして俺達は外に出るとサツキさん達に声を掛けた。
「ただいま戻りました。」
「早かったわね。いくつまで上げて来たの?」
「まだ、他にもいるので12でやめてきました。言語スキルを取らせているのでこちらの会話は理解してくれます。後は変身のスキルを取らせれば人と変わらない姿にもなりますよ。」
「そうなのね。それじゃあ、その調子で次もお願い。」
そう言って彼女は犬たちを連れて移動していった。
すると一人の自衛官が俺の所へとやって来る。
「ところで3階層はどうやって突破したんだ。あそこは数だけは多いからな。」
「ああ、それなら魔法で全て吹き飛ばしたよ。おかげで4階層までおりないと次の魔物がいない。とんだ時間ロスだ。」
すると自衛官は驚きの表情と共に苦笑いを浮かべた。
そして俺はそんな彼に今回、回収した魔石を渡しておく。
それ程大きくはない物だがこれだけあればしばらくは動物たちの食費にはなるだろう。
最悪こちらで提供しても構わないのだが食べ物は大事にしておきたい。
特に何が起きるか分からない今は。
そして俺は魔石を渡すとそのまま次のグループを連れてダンジョンに入って行く。
それを何度かこなして全ての動物のレベルを12以上にまで上げた時にはここのダンジョンの魔物を15階層まで狩り尽くしていた。
そして、夜になるとこの場には犬も猫もいなくなっていた。
ここにいるのは自衛隊の服を着て、俺が与えたコボルト装備に身を包んだ獣人たちだ。
自衛隊員の中に錬金をある程度出来る人がいたので鎧はその人達が調整してくれた。
そして彼らは俺とホロの前に来るとその場に膝を付き頭を下げる。
「ユウさん俺達に力をくれてありがとうございます。それとホロ様。どうか我らの忠誠をお受け取り下さい。」
どうやら、俺よりも彼らからすればホロの方が上の様だ。
どうしてそうなったかは分かるのだが飼い主としては微妙な所である。
するとホロは俺を見て来るが忠誠くらいなら受け取っても良いだろう。
飼う必要はなくなったのでこれで家に帰れる。
俺は頷いて返すとホロは彼らに頷いて答えた。
すると周りの獣人たちから歓声が上がり辺りを包み込んだ。
「あらあらみんな元気ね。明日からはそれぞれの希望に沿って訓練を行うわよ。その後は各地で仕事をしてもらうからしっかりお願いね。」
ちなみに彼らは、これからここである程度のレベルを上げた後に政府の指示でダンジョンや魔物の捜索。
空港や各施設での仕事に就く事になっている。
元が犬なので鼻が良く、しかも人と話せるので仕事に困る事はない。
明日からでも警察犬として働く事だってできる。
そして、一仕事終えたので俺達はサツキさんに声を掛けた。
「それでは俺達は帰りますね。」
「ええ、ありがとう。これで人材不足もかなり解消されるわ。自衛隊が動くとなると手続きが大変だし、こういう軽く動かせる人材が欲しかったの。また次もお願いね。」
「え、ええーー!?」
「お願いね。」
「・・・はい。」
俺はごり押しされる形で頷かされるとそのまま渋々帰って行った。
今回かなり大変なお願いをしたのは分かっているし、数百人になった獣人たちの面倒もお願いしている。
ハイと言う以外に選択肢はなかったのだ。
そして家に帰ると俺とホロは一緒にお風呂に入りそのまま一緒の布団に入り眠りについた。
(そう言えばデートできなかったな。)
そんな事を思っているとホロは布団の中に潜り込み人の姿へと変わる。
そしてそのまま幸せそうに寝息を立て始めた。
デートは出来なかったがどうやら満足はしてくれたようだ。
そして俺は最近は自分でもスキルチェックを行っているので新たな寵愛が追加されているのに気が付いた。
『獣王の寵愛』
効果は動物と意志を交わせられるようになり、所有者の指示に従う様になる。
どうやらこの事からホロは獣王となったようだ。
もしかしたら多くの獣人から忠誠を受けるのが条件なのかもしれない。
ただこれは確実に特殊スキルだろう。
俺はホロの顔を見詰め微笑むとその頭を撫でながら眠りについた。




