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125 お仕置デート 【アリシア】

今日はアリシアとお出かけをする日だ。

向かう先はエルフの国でライシアと結界石を届けるのが目的である。


「それじゃあ行ってきま~す。」


アリシアは俺と手を繋ぎ皆に手を振りながら門へと入って行った。

ここからエルフの国は歩数にして60歩ほど。

向こうに到着しても手を放す気はないが今は俺達しかいない空間を歩いている為、彼女はいつになくニコニコしている。

向こうに到着するとどうしても周りからの目を気にしてしまうのだろう。


そして門から出る前に少し残念そうな表情を浮かべると外へと踏み出した。

そこは首都からは少し離れた草原で距離にすると3キロくらいはありそうだ。

するとアリシアは手を放して俺に両手を掲げる様に突き出した。

どうやらここからは抱えて欲しいと言う事だろう。


「分かりました、お姫様。」


すると彼女も満足そうに笑顔で頷くと「よろしい。」と頷きを返して来る。

そして俺はアリシアを両手で抱えると空に飛び上った。

急いでいる訳ではないし、距離はかなり近い。

全力で飛ぶとすぐに到着してしまうので俺は小鳥が飛ぶくらいの速度で移動していった。

それでも数分で到着するので再び下りると仲良く手を繋いだ。

そして、城門の前まで行くと、すぐに対応をしてくれる。


「アリシア様お待ちしておりました!トゥルニクス様より直接の指示を受けております。」


そう言って彼は俺達を通して、門のすぐ傍に待機させていた馬車へと案内してくれた。


「どうぞこちらをお使いください。おい、そこの従者。しっかりアリシア様を王城にご案内しろよ。」


その言葉から奴は俺の事をアリシアの従者として伝えていたようだ。

どうりで先程から俺への対応が雑だと思った。

するとアリシアの背中に底知れぬ怒りが巻き起こる。

実は我が家で最も怒らせてはいけないのはアリシアなのだ。

滅多に怒ったりしないのだが彼女が怒るとその気配は深く重い。

まるで背中に巨大な石を背負わされた様な錯覚を覚え、底知れぬ恐怖が心に圧し掛かる。

その証拠に、俺達の目の前にいる兵士は顔面が蒼白になり今にも意識を失いそうだ。

しかし、彼女が真に恐ろしいのはここからで、どんなに苦しくても意識を手放すことが出来ない。

何をどうしているのか分からないがこれに耐えられる者は少ないだろう。

そして、そんな状況でもアリシアは笑顔を絶やさない。

彼女は表情を変えず、兵士へと訂正を行った。


「この人は私の婚約者です。決して従者ではないので覚えておくように。」


すると兵士は震えながら敬礼すると「了解しました!」と、声を絞り出した。

そして自ら御者席に座ると俺に縋る様な目を向けて来る。


「アリシア、彼が御者をしてくれるようだから行こうか。」


俺はアリシアと手を繋ぎ馬車の扉を開けると手を引いて中へと誘導する。


「そうですね。ユウさん、ありがとうございます。」


そう言って彼女は怒気を収めると中に入って行った。

俺は兵士の許へ行き小さな声で耳打ちをしておく。


「家で怒らせると彼女が一番怖いんだ。」

「ならあなたも・・・。」

「ああ、怒らせない様に気を付けてるよ。」

「ユウさん聞こえてますよ。」

「おっとそれじゃ頼んだな。」

「お任せください。」


俺は急いで馬車に乗り込むとアリシアの横に腰を下ろした。

すると彼女は少しムスッとした顔で俺を睨みつけて来るが慣れればこれ位は可愛いので問題ない。

その容姿と相まって逆にほのぼのしてしまう程だ。


「もう、ユウさんは変な事を他人に吹き込まないでください。」

「まあ、そう怒るなよ。それに今の事はしっかりとトゥルニクスに文句を言っておかないとな。」

「そうです。お父様にはきつく言っておかないと。」


きっとそれだと奴は両手を上げて喜ぶに違いない。

もしかしたらそれが目的かもしれないが、父親の性癖を知らせてもショックを受けるだけなので何も言わないでおこう。

そして、しばらく互いにこの後の事を話しあっていると王城に到着した。


「ア、アリシア様。到着しました。」


どうやらいまだに先程の恐怖が残っている様だ。

顔色はだいぶ良くなったが、まだ口が縺れている。

しかし、アリシアはすました顔でその声に答えると馬車から降りて行った。


「ありがとうございます。」

「いえ、お気になさらず。」


そして俺も馬車から下りると逃げる様に去って行った。


(昔はあんなに大人しかったのに、今では立派になってしまったな。)

「昔は昔。今は今です。」


その言葉に俺はドキリとしてアリシアに問いかけた。


「俺何も言って無いよね?」

「顔に書いてあります。」


(顔を見て何でそんなピンポイントの返答が出来るんだ!?)


すると彼女はクスクス笑うと俺の手を取って歩き出した。

どうやら秘密は笑顔の下に隠されてしまったらしい。


「それは秘密です。」


俺は嘆くのを止め、諦めて彼女の手に引かれ歩き出した。

すると、すぐに案内の兵士が近づいて来る。


「よくお越しくださいました。アリシア様、ユウ様。こちらへどうぞ。陛下がお待ちしています。」


どうやら城の中までは俺の事を従者と言う者は居ないようだ。

そのため、アリシアは先程よりかは少し機嫌よく案内に付いて歩き始める。

そして部屋の前に到着すると兵士はどうぞと言って俺を促した。


(あれ、開けてくれないの?)


しかも中ではトゥルニクスが扉の前に立ち剣を構えているのが見える。

どうやら不意打ちを仕掛けるために俺の油断を誘って兵士に丁寧な対応をさせた様だ。


(そう言う事なら俺も手加減は必要ないかな。)


そんな事を考えていると俺の横をアリシアが通り過ぎていく。

そしてドアノブに手を掛けて扉が開いた瞬間に中で構えていたトゥルニクスが動いた。


「死ねーーー。え~~~~!」


しかし、車は急には止まらないという言葉がある様にトゥルニクスも急には止まれない。

振られた剣はアリシアに向かい真直ぐに振り下ろされていく。

それに対し俺も奴も慌てて動こうとするが間に合わない。


『寵愛をアリシアに付与します。』


するとアリシアの中で急激な変化が生まれる。

彼女は精霊力を体中に循環させて素早く剣を弾くと拳を握りトゥルニクスの顎に一撃入れ、そのまま手を取って後ろの壁に投げつけた。


「ホエ?」


それに驚いたのはアリシア本人だが俺の後ろでは投げつけられたトゥルニクスが壁を突き破り城の外まで飛んで行くのが見える。

曲がりなりにも上位スキルを持っているであろう男なので問題は無いだろが、俺は奴の事を放置してアリシアに駆け寄った。


「大丈夫かアリシア!?」

「は、はい。それよりもいったい何が?」


それを聞きたいのは俺の方だ。

スピカなら何か知っているだろうが今はアリシアの確認が最優先だ


「怪我はないか?剣を素手で弾いてただろ。」


俺はアリシアが剣を弾いた方の手を取り入念に確認を行う。

どうやら骨は折れていないようで表面にも打撲の跡はなく擦り剝けた様子もない。


「あ、あの、くすぐったいです。」


しかし俺はアリシアの手のチェックを終えるとアリシアを抱きしめた。

あの瞬間は俺も本気でダメかと思った。


「よかった無事で・・・。」


すると彼女も笑顔で俺を抱きしめ返してくれたので俺はしばらくその温もりを噛み締めてからアリシアを解放した。


「それで、何か変わったことは無いか?スキルが変化したとか。」


確かアリシアに俺の寵愛を与える様な事をスピカが言っていた。

その効果が何か知らないがまずはアリシアにステータスを確認してもらう事にする。

すると彼女はステータスを開きそこに書かれている事を見て驚愕の表情を浮かべた。


「あの、幾つものスキルが上位スキルに変化してます。それにユウさんからの寵愛って・・・。う、嬉しいで。これこそ愛の証です。これがきっと私を助けてくれたんですね。」


そう言って彼女は笑顔で涙を浮かべながら俺に抱き付いて来た。

どうやらあの動きは複数の上位スキルのおかげなのだろう。

恐らく格闘系と身体強化系、に防御系のスキルも習得したはず。


それにしても奴には生きているならお仕置が必要だな。

俺はオール・エナジー・クロスを纏うと奴が飛ばされていった穴から下を見下ろした。

するとそこからは笑顔を浮かべて地面にめり込んでいるトゥルニクスが目に入る。

普通はあれだけのダメージだと追加で何かする必要はないが奴の場合は肉体よりも精神的なダメージが必要の様だ。


俺はアリシアを手招きするとまるで子犬の様に嬉しそうな顔でこちらに駆けて来る。

そして俺の傍まで来ると俺は彼女の腰に手を回し、空中へと飛び出した。

するとアリシアは俺が空中で停止すると同じように空中を足場にして同じように足を着いた。

どうやら天歩も習得したようだ。


そして俺はアリシアの顔を見詰めてその唇に自分の唇を重ねた。

アリシアは突然の事に頬を赤らめるが、抵抗する事無く俺のキスを受け入れる。

それを下で見ていたトゥルニクスは一瞬で顔に怒りを浮かべて立ち上がった。


「き、貴様ーーー。俺のアリシアちゃんになんて事を。」


俺はアリシアから唇を離すとそんな事を叫ぶトゥルニクスに言葉を返した。


「何が俺のだ。アリシアはオ・レ・の!アリシアなんだから変な事を言うな。なあ、アリシア。」

「はい。」


すると彼女は赤い顔でコクリと可愛らしく頷くと、父親であるトゥルニクスに声をかけた。


「そう言う事です。ごめんなさいお父様。私の身も心も既にユウさんのモノなのです!」


それを聞きトゥルニクスは完全に撃沈され、その場に倒れ込んだ。

流石にあの見るからに重症な体で起き上がるには無理があったのだろう。

騒ぎを聞きつけた兵士たちが急いで回復魔法を掛けながら秘薬と思しき物を飲ませている。

すると奴は即座に復活してそのまま駆け上って来た。

その姿はまるで祟り神の様に鬼気迫る物がある。

俺達は面倒なので一旦城の中に入り先ほどの部屋で待機する事にした。

そして昇って来たトゥルニクスは俺達を追って部屋に駆け込んでくる。


するとまだ懲りないのか奴は俺に剣を抜いて飛び掛かって来た。


「お父様~!」


しかし、それをアリシアがあっさりと止めてしまう。

当然、トゥルニクスが止まったのはアリシアが俺の前に立ったからではない。

その底冷えしそうな声で話しかけられたからだ。

それだけで奴は額から汗を流し、俺の前でピタリと剣を止める。


「お父様・・・。こちらに座ってください。」

「しかし・・・。」

「聞こえませんでしたか?」

「は、はい!」


もしかしてアリシアが命を狙われた本当の理由はこれではないだろうか。

セドリアス達が何人死んでも眉一つ動かさなかったのにアリシアにはまるで従順な猫の様だ。

あくまで犬ではない事が重要だ。


そしてセドリアスはアリシアの前に座り体を縮めて正座している。

しかし、顔を俯けているのでアリシアからは見えないだろうが、俺の角度からは奴の口角が僅かに上がっているのが分かる。

ブレない男だと思うと同時に奴は俺に目で絶対に言うなよと語り掛けて来る。


「何処を向いているのです。私の話を聞いていますか?」

「と、当然だ。愛しの娘の話を聞かない父親がどこに居るんだ。」


その後、アリシアは1時間ほどトゥルニクスを説教すると解放した。

その間に俺は納品する事になっていた結界石を部屋に並べ、担当の文官からお金と受領書を受け取る。

こうしてみるとトゥルニクスの周りにはかなり優秀な者が集まっている様だ。

これなら国王が変態でも国は回るだろう。

そして解放されたトゥルニクスは何故か顔が艶々しているのでとても不思議である。

その後、俺達はやっとソファーに座るとライシアをトゥルニクスに渡した。


「これがライシアか・・・。おい小僧。なんでアリシアと付けなかったんだ。」

「そんなのライラとアリシアが同時に発見したからに決まってるだろ。もし、その植物にユウライシアとか俺の名前が入ったらどうするつもりだ。」


するとトゥルニクスはあからさまに嫌な顔になると頷いた。


「そんな名前なら我が国は断固として拒否したかもしれないな。今回は許してやろう。」


するとアリシアが俺とトゥルニクスを同時に睨んで来る。

彼女も自分の名前の半分が入って恥ずかしいと言っていたので今の会話でムカッと来たのだろう。

しかし再び怒気を立ち上らせるがそれはため息と共にすぐに霧散する。

それを見て俺とトゥルニクスは同時に胸を撫で下ろすと顔を向け合った


「小僧、お前はアリシアを化け物にでもしたのか?」

「そんな事するか。お前の教育のせいだろうが。」


ハッキリ言うと聞いていた話から考えて俺はアリシアにかなり優しく接している。

最近になってこうなったので、これが本来のアリシアなのだろう。

するとアリシアは急に立ち上がり、俺の手を取って立つように促して来た。


「ここでの用事は終わりました。これからはデートの時間です。」


そう言えばこれからデートだったな。

ここに居ても楽しい事は無いので俺も立ち上がるとアリシアと歩き出した。


「お、おい。もう帰るのか?」

「お父様も仕事が大変でしょうからお暇しますね。」

「俺はアリシアには逆らえないからな。それじゃあさらばだ。」


俺達はその場から先ほどの穴を通って外に出てゲートのある場所へと向かった。

それを後ろでトゥルニクスは茫然と見つめていたが時間は有限だ。

特に俺はアリシアよりも遥かに寿命が短い。

こうして一緒に過ごせる回数にも限りがあるので急いでゲートのある場所に向かいマリベルに連絡を入れる。

そして日本に帰ると俺達は再び出かけてデートを満喫しその日を終えた。

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