表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/225

121 暴露 ①

部屋に入ってすぐに一人の男が怒りを込めて二人の医師を怒鳴りつけていた。


「何だこの検査結果は。こんなこと現代医学であり得るはずはない。」

「しかし、検査結果は確かに彼らが健康であると示しています。今のまま放置しても何時まで経っても死ぬことはありません。」


すると院長は冷たい視線をカルテに向けるとそれを破り捨てた。


「院長!?」


二人の医師は院長の行動に驚愕し破られたカルテに目を向けた。

しかし、院長はそれを鼻で笑うと彼らに残酷な命令を下す。


「これは存在しない。健康になった患者には悪いが薬の量を増やしてでも死んでもらえ。」

「そんな。それでは我々は何のために医者になったのですか?」


そう言った医師は今にも掴みかかりそうな勢いで前に出る。

恐らくは院長がこんな判断を下すとは思っていなかったのだろう。


「五月蠅い!魔法を現代医療へは踏み込ませない事は集会の決定事項だ!それに議員の中には我々に協力してくれる方も少なくない。」

「その人たちは現状を理解しているのですか!?」


今も病棟には救いを待つ患者が何人も居る。

そして二人には何故この様な事が起きたのかがある程度だが想像が付いていた。

それは通達があった魔法とポーションという、新薬を越えた夢の薬だ。

上からはもし外部から何かを言われても相手にするなと言われている。

しかし、恐らく誰かが病棟に侵入してそのどちらかで治療を行ったのだろう。

もしこれが真実なら末期癌の患者ですら助けることが出来る。

そうすれば今の日本で問題になっている医療保険の問題も一気に解決するはずである。

しかし、彼らはそれが分かっていないのかそれらを一切使う事を認めず、禁止さえしている。

そして再び院長は怒鳴り声を上げた。


「五月蠅いと言っている!この病院では儂がルールだ!前の院長とは違うのだぞ!クビになりたくなければ命令に従え!」


すると二人の医師は諦めたように歯を食いしばり部屋から出て行った。

ユウはカルテをこっそりと回収し、更に二人の声に聴き耳を立てる。


「この病院はもう駄目だな。」

「ああ、ここは棺桶と同じだ。これだと助かる人も助からない。」

「俺は今から警察に駆け込もうと思う。お前はどうする。」

「お前とは長い付き合いだからな。こうなれば最後まで付き合ってやるよ。」


その言葉を聞きユウは部屋から出て少しすると何食わぬ顔で彼らを追い越し先へと進んだ。



俺はスキルを切ると通路の曲がり角から顔を出した。


「よっ。不景気な面してるな。今から警察に行くんだって。」


俺の言葉に二人は警戒し表情を引き締める。

どうやら俺が院長の回し者にでも見えているのだろう。


「誰からそんな事を聞いた!?」

「そんなに警戒するな。警察より先にもっと良い所に行こうぜ。お前らもきっと気に入るはずだ。」


すると二人は警戒しながらも一応後ろから付いて来る。

そしてそんな彼らに看護師の一人が焦った顔で駆け寄った。


「101号室の患者さんが消えました!」

「なに!あの人は点滴をしていたはずだぞ。」


そして二人の医師も焦り始め不意に俺に視線を向ける。

俺は何も言わずに手に先ほど破られたカルテを取り出して二人に見える様に軽く揺らす。

すると二人は何処か面白いモノを見た様な顔になり看護師に告げた。


「俺達は外を探す。君たちは院内を徹底的に探してくれ。それと今日検査した残り9人の薬の量を最小に減らしておいてくれ。」

「分かりました。院長に報告は?」

「俺達がしておく。それと薬の事は院長からの指示だ。明日、再検査を行う事になった。」


そして看護師は背中を向けて去って行った。

今彼が言ったのは病院から出る口実作りと、患者の身を守るための嘘である。

あの院長がそんな指示を出すはずないし、先ほど確かに薬の量を増やせと命令していた。

彼らもどうやら医師生命を懸けた勝負に出る気になった様だ。


「それで、これから何処に行くんだ?」

「テレビ局が全ての準備を整えている。今から向かえば十分に間に合うだろう。」

「でもテレビ局は政府の息がかかってるだろ。」


確かにテレビ局は政府の意向を尊重しなければならない。

しかし、総理であるゲンさんは今の病院の対応に頭を抱えていた。

ここで病院側とそれに協力する反勢力に打撃を与えれば一気に話が動き始めるかもしれない。

最悪、その反勢力を聞き出し、そいつらを吊るし上げれば良いだろう。

俺達ならそれも容易くすることが出来る。


「そこは大丈夫だ。総理は魔法とポーションに対して肯定派だからな。」


すると俺の言葉に二人は驚いた様に目を見開いて足を止めた。

しかし、互いに顔を見合わせると口元に笑みを浮かべて俺に追いつく様に駆け出しすぐ横に並ぶ。


「それで、俺達の役割はやっぱり証言する事か?」

「その通りだ。っと、なんか警備員が出口に並んでるな。」


そして俺達が表フロアの自動ドアの前に来ると10人ほどの警備員がおり、声を掛けて来た。


「お二人を院長がお呼びです。すみませんが付いて来てください。」


どうやら俺が持っているカルテを彼らが持っているとでも思ったのかもしれない。

これだけだとあまり問題が無いが、知る者からすれば絶対に表に出してはいけない物だ。

そして、警備員の言葉に二人は同時に俺を見る。

普通なら碌に鍛えていないように見える俺と医師の二人では万事休すといった場面にしか見えない。

しかし、碌にレベルも上げていない人間が俺の道を遮るのは不可能だ。


俺は一瞬だけ彼らに威圧を放ち言霊で行動を縛る。


「止まれ。」

「な!」


すると俺の言霊は初めて成功し警備員は完全に動きを止めた。

その様子に二人は再び驚いた顔を浮かべるが俺が歩き出すと恐る恐る後ろを付いて来る。

そして外に出ると俺は残りの天使を呼び出した。


「な、今度は天使かよ。」

「前見た娘とは違うな。俺、握手会行ったんだぜ。」


どうやら片方はメノウかカエデと面識がある様だ。

しかし、彼らは女の子の天使に抱えられるという現状に微妙な表情を浮かべるとそのまま空へと飛んで行った。

そして俺もそれを追う様に空に飛び上り彼らの後を付いて行く。


「アンタ、どうして飛べるんだ?」

「スキルの力だ。」


すると二人は今日何度目かもしれない驚きの顔を浮かべて空を見上げた。

どうやら彼らはまだ魔物を倒した事もなさそうだ。

もし倒した事があれば習得可能スキル欄を見る事が出来るので、この程度の事は知ることが出来る。

もし、この件が片付いても彼らが職を失いそうなら今回の礼に少し力を貸してやろう。


「もし、今日の事で病院を止めないといけなくなったらどうするんだ?」


すると二人は一瞬悩んだがすぐに声を揃えて答えを口にした。


「「レベルを上げる。」」


その顔には迷いはなく何処か少年の様な輝きが目に宿っている。

確かに俺が今日見せたスキルだけでも夢が膨らんだ事だろう。

特に空を自由に飛ぶというのはロマンを駆り立ててくれる。


「それなら知り合いに許可を取って少しだけレベル上げを手伝ってやるからその時は言ってくれ。でも言っておくがスキルは職業に依存する傾向があるからな。」

「え、もしかして、俺達ブラッ〇・ジャッ〇になるのか?それはそれで夢が膨らむな。」

「俺あの漫画とアニメ大好きなんだよな。」

「それなら俺も見たな。OVAもテレビ版もなかなかいい出来だった。」

「俺は声優が好きなんだよな。あの渋い声が堪らないぜ。」


そして俺達は飛びながら話に花を咲かせた。

するとあっと言う間に時間は過ぎてテレビ局の前に到着する。

俺達はすぐに中に入ると受付に声を掛けた。


「連絡したユウだがみんな揃っているか?」

「はい。皆様お待ちしております。飛び込みですが他にも何人か来られております。」


俺はマップを確認し誰が来ているのかを確認する。

するとそこには何故かゲンさんや偽勇者の従者であるガイとウイルが来ていた。


(そういえばあの二人はまだ腕を治していなかったな。)


きっと彼らをデモンストレーションとして利用するのだろう。

少し再生時はショッキングな映像なのでそれは伝えておかないといけないな。

それにしてもゲンさんのメイクが凄い。

まるで若返る前と変わらない様に見える。

あれならテレビに映ってもバレる事は無さそうだ。


その他にも数人のゲストが揃っている。

名前を確認するとどうやら以前見た番組で、ポーションを否定していた人物の様だ。


(こいつは晒し者として呼ばれたんだな。こういう奴が居るからいまだにポーションをテストできず、反対派がデカい面をしているんだ。)


そして、病院で助けた夫婦もちゃんと来ていた。

どうやら間に合った様なので俺達は皆が待機している部屋へと案内されて中に入る。

その際に事前にコピーしておいたカルテや録音データを渡しておいた。


すると俺達の前に先ほどの夫婦と思しき二人がやって来た。

その二人を見て俺は強烈な頭痛を感じる羽目になる。


(メノウの奴。食わせる肉を間違えたな。食わすのは蛇じゃなくてメガロドンの肉だ。)

(間違えちゃいました。ごめんチャイ。)


すると俺の心の叫びにとても軽い謝罪の声が届く。

俺は周りを見回しマップでも確認するが一瞬上空に反応があり、今は家に移動している。

流石の逃げ足の速さだと無駄に感心してしまうほどだ。


「どうすんだよこれ。誰がこの人を同一人物だって思うんだ。」


俺の前には若々しく、ムキムキになったあの時の患者の男がボディビルダーの様に小麦色の肌でポージングをしていた。

確かに最初から少し褐色の肌をしているがどう見てもこれは病人じゃあない。

しかも何気に俺の心に念話を飛ばして来るメノウの周到さ。

ここに居ないので怒られるのが怖かったか確信犯だろう。

これは後でお仕置が必要だな。


すると男の横に先ほどの女性が並んだ。

そのギャップに眩暈が起きるが二人ともかなり若々しい姿になっている。

恐らく20代と言っても通用しそうだ。

しかし、奥さんの方はとても嬉しそうに旦那を見詰めている。

だが、どうしても二人には確認をしておかなければならない事があった。


「あの、二人のお子さんは・・・?」

「子供はいないのよ。昔、病気で子宮を失くしてしまったから。でもこの人はそんな私を愛してくれたの。だから気にしないでね。」


それだけでこの夫婦がとても愛し合っているのが伝わって来る。

それなら俺の方でも、もう一つ確認しなければいけない事が増えてしまった。


「あの、家で何か聞きましたか?」


すると彼女はまさに花が咲いた様に嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「教えてもらったわよ。だから、今度は希望を持ってこの人と愛し合えるわ。そしてこの喜びをもっと多くの人にも伝えたいの。だからこれからがとても楽しみよ。」


すると奥さんの言葉に反応したのか一人の男がこちらへとやって来た。

その顔は不機嫌そうに俺達を睨みつけている。


「何が希望だ。ペテンの様な薬に効果があるはずがない。そこのあなたも今日は生放送なのだから下手な事を言って恥をかかないようにな。」


そう言って男は奥さんに釘を刺すと、言うだけ言って去って行った。

すると旦那さんの頭に明確な青筋が受かぶ。


「おい、馬鹿野郎。後で吠え面かくなよ。」


するとまさか言い返されるとは思っていなかったのか、男は顔を真っ赤にして再び振り向いた。

しかし、旦那さんの引き締まった肉体と射抜く様な鋭い眼光に押され、声を出す事なく逃げる様に去って行った。

俺は、一応その行先を確認し、何かしでかさないかを確認しておく。

どうやら、奴は今から使う予定の秘薬の許に向かっている様だ。

そして千里眼で確認すると、男は薬を入れ替えて別の薬と交換している。

俺は近くにいるゲンさんに視線を向けると気付いた様で小さく頷きを返された。


まあ、国会議事堂でステータスが無くても毒入りのお茶に気付いた人なので大丈夫だろう。


そして声がかかり、俺達は準備された部屋へと向かって行った。

そこにはゲスト達が座る椅子が準備されており、書いてある名前を見て初めて夫婦の名前や先ほどの男の名前を知った。

医師の二人は供述をしないといけないので名前も顔も分らない状態で摺りガラスの付いたスペースに入っている。


ちなみに夫婦の名前は坂上サカガミ 幸人ユキト幸紀サキ

二人とも名前に幸せの文字が入っているのに大変な人生を歩んで来たようだ。


そして先ほどの男は悪土井アクドイ 保良言ホライ


まるで芸名の様な名前だが本名なのだろうか。

それとも本名を明かすと支障が出るので適当な名前を書かせているとか?

そんな事はどうでも良いがアクドイの顔は先程と違いまるで別人の様に笑顔を浮かべている。

何の薬にすり替えたのかはまだ分からないが、それで溜飲を下げたのだろう。


そして、とうとう番組が始まろうという所で俺はある席を発見した。

そこには俺の名前が書いてあり、しかもアクドイの隣だ。

俺はそれを見て周りを見ると何故か「急いで急いで。」と急かされた。


(まったく聞いてないんだけど。)


しかし、席がある以上は座るしかない。

どちらにしろ生放送ならここに居るだけでもカメラは向けられる。

俺は直接この成り行きを見届けたいので席に着く事にした。

すると隣のアクドイから笑顔のまま声を掛けられる。


「余計な事は言うなよ。」


どうやら名前に相応しい性格の様だ。

スキルで確認するとこの名前が本名である事に一瞬驚いたが今なら納得できる。

名は体を表すと言うがまさにその通りだ。

しかし、笑顔で脅しをかけて来るとは器用な事をする。

俺は感情がそのまま顔に出やすいのでこんな風に顔が歪んでしまい返事を返してしまった。


「お前こそ馬鹿な事を言ったら殺すぞ。」


ついでに威圧も込めておいたのだがアクドイは顔中から汗を流しながら震え始めてしまった。

本番直前だというのに困ったものだ。

俺はこういう経験がない一般市民なので礼儀や上下関係など知らない。


(脅しをかける相手を間違えると今の世の中で生きて行けませんよ。)


俺は心の中だけでそっと忠告を送り、放送が始まるまでのんびり待ち続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ