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116 新たな動き

時間は少し戻り、アキト達や自衛隊組は建物の中にいる人を外へと運び出していた。

多くの人が彼らが歩み寄っても反応を見せず、動ける者は恐怖に逃げ惑っているからだ。

その為、思うように救助が進まず肉体的な疲労よりも精神的な疲労が溜まっていた。

彼らも色々な場所で救助の経験があるが、まるでテロリストから救い出した人質の様な状態になっている。

アキトは裏でも色々な仕事をして来た為に国内においてもそういった経験を持っていた。

世界で多くの事件が起きている中、日本でそういった事が起きていないのは彼らが水際で塞き止めているおかげである。

それでも後手に回る事が多く救えなかった命もある。

その時の苦い記憶を思い出しながらアキトは根気よく彼らを説得し外へと誘導していた。

そんな時、アキトの横に一人の天使がやって来て声を掛けてくる。


「カエデさんよりこちらに行くように言われました。」

「カエデからか。本人は何をしているんだ?」

「彼女は私達の状態を観察し、無理をさせない様に監視しています。残念ですがこちらには来られないでしょう。」


カエデには天使全員の指揮を任せている。

しかし、アキトと違いそういった訓練を受けてはいないので苦労しているだろう。

それでも天使の中にはアキトたち人間の指示に従わない者もいるのでどうしてもカエデが彼らの上に立つ必要があった。

そして、それを知るアキトはいつもの様に淡々と天使に頷いて同行を認める。


「カエデの事は気にしなくて良い。アイツにはいい経験になるだろう。それよりもお前が来たという事は何か意味があるのだろ。」


すると彼女は無表情な顔に笑顔を浮かべ被害者たちに歩み寄った。

その途端彼らの表情が緩み縋る様に天使へと駆け寄ってくる。


「助けに来てくれたのですね!」

「はい、彼らのおかげで私達もこの通り天使として復活出来ました。さあ、一緒に外へと向かいましょう。」


すると歩ける者は外へと進み始め、歩けない者達はアキトたちにも手を伸ばし始めた。


(彼らはこの世界の住人として、天使が裏返ればデーモンになると知っているはずだ。それでもこれだけの信頼があるとは。)


それだけ天使がこの世界の人のために、その存在を投げうってまで助けて来たという証がここにある。

それにデーモンの行いが酷い程、その反対の性質を持つ天使に彼らは希望を感じてしまうのだ。

天使なら何があっても自分たちを命がけで助けてくれると心の底から信じている。

そこには人間としての一方的な主観が含まれているが、今のところそれが覆った事はない。


「ここの人を運び出したら次へ行きましょう。この町にはまだたくさんの人が救いを求めています。」


そして外に出るとそこにはゲンが待ち構えていた。

その横には自分たちと同じように天使がいるがどうやら何か話がある様だ。

それを物語る様にゲンはアキトに声を掛けた。


「話がある。アキトを少し借りるぞ。」


そして二人は少し離れた所にあったベンチに腰を下ろすと同時に空を見上げた。


「上ですね。」

「そうじゃ。先程から何者かが儂らを見ておる。」

「衛星かスキルでしょうか。」

「この感じはスキルではないな人の感情を感じん。」


どうやらどこかの国がこの戦いを覗き見していたようだ。

その様なスパイ衛星を持っている国は限られるが大国に違いはない。

そして二人は、何かの前触れの様な不安が湧いてくるのを感じた。


「アキトよ。」

「はい。」

「ユウとその周りの警護を強化せよ。手段は選ぶな。」

「了解です。」


そして、ゲンはユウの事をアキトに命じ溜息を吐くと首をバキバキ鳴らした。

その顔は何か面倒臭そうであり、何処かとても楽しそうでもある。

その横ではアキトはユウの警備強化をいかにして行うかに思考を高速で回し、現在の戦力状況の把握と今後の増強で思考の海に沈んでいた。



そして場所は変わり、ここはある国の会議室。

そこでは先ほどの魔王の戦いを見て激しい言葉が飛び交っていた。


「あの様な力を個人が保有するのは許される事ではない。可能な限り素早く、確実に抹殺すべきだ。」

「馬鹿な事を言うな。あの男の傍に居るライラという女のおかげで、どれだけの利益と技術革新がもたらされたか分かっているのか。」

「それも問題なのだ。あの男の許にそういった存在が揃いすぎている。そういった人材こそ我が国の国民に相応しい。あの様な極東の黄色いサル共に持たせておくことは無い。」

「私もそれに賛成だ。捕らえて更に有益な情報を聞き出せば我が国の利益になる。」

「何を言っているのだ。そんな人権を無視した考えをここで口にするな。」

「お前こそ奴らを見て人間だと。あの中に何人そう呼べる者がいる。資料によればアヤネとかいう娘が唯一人間と呼べるくらいだろう。それ以外は人どころか人間ですらない。」


どうやら、彼らの中でユウは既に人間と見なされていないようだ。

すると今まで周りの話を聞いていた者の一人が手を上げた。


「ならばこうしようではないか。彼らを我が国に招待し、そこで男は事故にあい死亡。その仲間たちは行方不明。それで良いのではないかね。」


どうやらこの男が全ての決定権を持っている様だ。

男が話をまとめると誰からも異論は出なくなり、静寂な時間が流れた。

すると一人の男が立ち上がりその男に声を掛ける。


「結果が出た所で手段についてですが?」

「それは君たちに任せよう。だが言っておくがあの男はともかく、女は金の卵を産む雌鳥だ。絶対に生かして捕らえろ。もし、損耗させるならこのヘザー、アヤネ、ヴェリルは構わん。女としての価値はありそうだが死んだからと言って困ることは無い。」


すると男はニヤリと笑うと軍人の様な敬礼をして部屋を出て行った。

その様子からユウ達を穏便に連れて来るという選択なさそうだ。


「大統領。本当によろしいのですか?」

「私は決定を下した。それだけだ。」


ここは永久凍土がある国の1つで、冬には外がマイナス50℃になる事もある極寒の地である。

そのため一部の人間の心も冷え切っているのか今回の様に冷たい決定を下す事もあった。

もし、ユウが、あの様な力に目覚めず、ライラの知識がもっと平凡なものならこの様な事は起きなかったかもしれない。

しかし、そんなもしもの世界は存在しない。

賽は投げられ、ユウ達の知らない所で新たな危機が動き出した。


しかし、その会議を陰で笑って見ている存在がいた。

そして彼らはそれに気付く事無く動き始める。



時間と場所は戻り、ユウ達のいる城の庭である。

そこでユウはアキトたちと同じように空に顔を向けていた。


(やっぱり見てる奴がいたか。)


今のユウの瞼は閉じられ傍からは眠っているように見える。

しかし、千里眼にはそんな事をしていても関係なく、空を飛ぶ衛星がこちらにカメラのレンズを向けているのが捉えられていた。

今なら破壊する事も出来るかもしれないが面倒事を誘発させそうなので放置している。

それに破壊するなら魔王との戦い前に行う必要があったため今では既に手遅れだ。


(もし、ライラ達が露天風呂に入る事があれば真っ先に破壊しておこう。)


そして俺は目を開けると傍に居る天使に視線を向けた。


「座ったらどうだ。」

「ならお言葉に甘えて。」


そういって彼女も傍に準備しておいた椅子へと腰を下ろした。

その姿は赤い髪に黒い瞳。

勝気そうな顔で口は真一文字に閉じられている。

まるで融通の利かない学級委員長か風紀委員の様な印象を受ける。

身長は150センチと小柄だが、どうやら天使の標準身長というよりもこれがデフォルメのようだ。

200人近い天使を見たが全員が殆ど同じ身長だった。

俺は親睦を深めるためにアイテムボックスからお茶とお菓子を出して彼女の傍の机に置いき声を掛ける。


「好きに食べてくれ。食べる必要は無くても食欲はあるだろ。」

「この状況であなたは食欲が湧くのですか?」


確かに周囲は魔王との戦いで破壊され、町には今も苦しんでいる人がいる。

そんな状況でも美味しく物が食えるのかと聞いているのだろう。


「俺は俺が護りたい者が無事ならそれで良い。町で苦しんでいる奴はその対象に入っていないからな。」


そういって俺はお菓子を食べながらゆっくりとお茶で喉を潤す。

すると天使は俺に嘲る様な顔を向けて来た。


(ホント、他の奴と違って感情豊かな奴だ。)


「最低ですね。なぜあなたの様な人間にあの人が協力しているのか理解できません。」


あの人とはメノウの事だろう。

俺としては契約しているからという理由しか知らないが、もっと別の理由もある気がする。


「そんな事よりも食べないのか?」

「結構です!」


そして、天使は俺を罵倒すると椅子から立ち上がり離れて行った。

どんな者にも馬が合わないという事は多々ある。

彼女の言う通り、俺は最低な人間だという自覚もあった。

護りたいモノ以外には興味を示さず、苦しみ泣いていようが放置する自信がある。

ただ、それは命が掛かっていない場合に限られる。

流石の俺も手の届く範囲で敵でない人間が死にそうなのを放置するほど鬼ではない。

しかしそう言っても、あの天使は何も納得しないだろう。


そしてライラ達も何も言わず苦笑を浮かべて俺達を見ていた。

ヴェリルは以前の自分に似た所があったのか手で顔を隠して恥ずかしそうにしているがあれは自業自得だろう。

彼女ともある意味で会い方は最悪だったので今の状況と少し似ている。

するとそんな俺にメノウが声を掛けて来た。


「もし、気に入らないようなら私が家に殴り飛ばしておきますが?」


俺はその提案に首を横に振り返事を返しておく。

あちらが俺を嫌っているからと言って本人の意思を曲げる程の事では無いからだ。


「別に気にしていない。理解されるとも思ってないしな。」


すると周りが少し寂しそうな顔になったのでちゃんと言葉を付け加えておく。


「俺が好きな人に理解されてれば満足だからな。だからこれからも頼む。」


すると彼女達の表情は変わり優しい笑顔を浮かべてくれるので俺も心が安らぐのを感じた。

そして、マップを確認するとどうやら移動が始まった様だ。

歩ける者はこの町から出て1つ前の町まで移動をしてもらう。

これには冒険者を護衛に付ける事になるのでこちらの戦力は人数の面で半分以下になる。

それでも数千人の人間をたったの600人程度で護衛しながら移動しなければならない。

ただ、彼らには結界石を渡しておいたので魔物の心配はないだろう。

あるとすれば肉食の野生動物による襲撃だが、それ位なら対処できるはずだ。


そして、怪我で移動が出来ず、特に足の無い者に関しては可能な限り馬車を用意して運んでいる。

秘薬を提供すれば彼らも回復するが流石に数百も持ち合わせはない。

その為、乗り切れなかった者はこの町に残す事になった。

その数は100人といった所だが残された人々の多くは老人たちだ。

残されたと言えば語弊がある。

彼らは自分の意思で決断してこの場に残ったのだ。

老人たちはまだ若い命を繋ぐため、町を出て行く馬車を見送っている。


俺はそんな彼らを見て城の一角に視線を落とした。


(そういえば今回の旅でも沢山魔石を手に入れたな。)


俺は以前にアリシアがしていた風に魔石を砕き土に混ぜて行く。

するとスピカが気を利かせて俺を手伝ってくれるようだ。


『ホープエンジン出力上昇30パーセント。』


すると今度は皆が俺の傍に来て種を植え始めた。

俺が何も言わなくても分かってくれる彼女達に感謝と笑顔を送りつつ俺は作業を続ける。


そして今度は蛇肉をその場に出してみんなで解体を始めた。


「クオーツ。こいつを浄化しきれるか?」

「この程度なら余裕よ。」


そういって彼女は再び麒麟の姿になると角を大蛇の巨大な体に突き刺した。

すると大蛇の体は激しく発光するとその黒い鱗を白いものへと変える。

そして人の姿に戻った彼女は苦笑いと共に「またやり過ぎちゃった。」とこぼした。


「いや、問題ない。もし何かあったらまた頼むな。」

「うん。」


俺はそう言ってクオーツの頭を撫でると褒めておいた。

手を抜くよりも全力でやっておいて損は無いだろう。

それでなくても呪いと毒に侵されていそうな肉なのでこれなら誰でも安心して食べられそうだ。

そして、俺は気付かなかったがクオーツの浄化と、この時に流れた血が畑にも届いていたようだ。

その結果は後で知る事になるがそれはもう少しだけ先の話である。


そして、次に俺達はこの蛇肉の解体に入る。

ハッキリ言って肉の量だけならメガロドンよりも多い。

ただ、今回は状態が良いのでライラは大喜びで血、骨、内臓、肉と分けて行く。


「ユウ、こっちは私に任せて。あなたは皆と一緒に肉の解体をお願い。」

「大丈夫か?」

「ええ、こんなに穢れてない魔物は初めてよ。これはウキウキが止まらないわ。」


今回はクオーツがしっかり浄化してくれているのでメガロドン程の危険もない様だ。

ライラは内臓全般を処理し、俺は長い胴体を処理していく。

そしてある程度解体が終わると再びアイテムオックスに仕舞い細かな処理は後で行うことになった。


「それではここからは私達の仕事ですね。」

「その様です。」


そう言ってクリスは袖を捲ると肉を捏ね始める。

そしてメノウは水を沸騰させて野菜を投入し最後に肉団子を丸めて入れて行った。

どうやら野菜と肉がたっぷり入ったスープを作っている様だ。

その匂いに誘われ次第に兵士たちが集まって来た。

彼らの分も用意するがまず食わせる相手は別に居る。


そして、王城の庭で急な食事会が幕を開いた。

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