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113 デーモン戦

時間は少し遡りここはライラ達が滞在する町。

そこでは、アルフェが部屋で静かに休息をとっていた。

彼女はここ数日の強行軍の為、体は疲労し精神を擦り減らしている。

もともと第3王女という立場はそれほど偉い立場ではない。

良くて周辺国の王子か国内の上級貴族と結婚し政治の道具になるのが普通である。

それが先ほど急に国王になると宣言してしまった。


そのため彼女の胃は今にも吐血しそうな程に痛みを発している。

そんな中で彼女はある事を思いつき外の護衛に声を掛けた。


「オニキス、そこにいますか?」

「はい、控えております。」


彼はユウから返還されたのちに周りからの声もありアルフェの護衛に戻っている。

他の3人も同様であり、今は食事の為に席を外していた。


「あの人たちともう一度話をしておきたいわ。誰かを呼びに行かせてくれない。」

「分かりました。すぐに指示を出しておきます。」


そして使いの者がライラ達の許を訪れ宿の1階で休憩している所へと現れた。


「アルフィエノ様がアナタ方とお話をしたいそうです。ただ、他の方々は外に出ている様で見当たらないのですが。」

「それならユウは居る筈だから呼んで来るわ。話の内容は後で伝えておくわね。」


その話を受けたのはライラだった。

そのため使者には少し待ってもらいユウの部屋へと確認に向かって行く。


「ユウ、起きてー。アルフィエノ様が会いたいって言ってるらしいわ。入るわよー。」


そしてライラが中に入るとそこには誰もい居なかった。

ベットが使われた形跡もなくただ窓だけが開け放たれている。

それを見てライラはすぐに声を上げた。


「全員集合!」


すると周囲の者達が動き出し瞬く間にユウの部屋に集合した。

使者もその流れに巻き込まれてしまい一番最後に部屋へと入って来る。


「ユウが消えたわ。ホロは何か知ってる?」

「知らないよ。でもこの部屋、殆どユウの匂いがしない。」


それはつまり部屋に入って直ぐにここを出て行ったと言う事だ。

その事に思い至りライラは先程のユウの事を思い出した。


「そういえば町に入って直ぐに何処か遠くを見ているような顔してたわね。もしかして一人で王都に向かったんじゃ・・・。」


すると慌てるメンバーの中でただ一人冷静な者がいる事にライラは気付いた。

そちらへと視線を向け問い詰める様に声を掛ける。


「メノウは知っていたの?」

「はい。ユウさんから皆さんの事を任されました。」

「なら教えて。ユウは一人で行ったの?」

「ゲンジュウロウさんやサツキさんを含め自衛隊組にカエデも付けています。」

「それだけ居れば少しは安心できそうね。」


そう言ってライラは思考を巡らせると決断を下し周りに声を掛けた。


「まずは王女様に話をして私達も行きましょう。何か行った方が良い気がするわ。」


するとライラの意見に全員が首を縦に振った。

どうやら漠然とした何かを感じているようだ。

そして彼女たちは使者に案内される形でアルフェの所にやって来た。

ライラは部屋に入ると礼をしてユウ達の事を説明する。


「まさかたった10名程で王都に乗り込んだのか?」

「恐らく時間からして既に戦闘は始まっています。私達も今から出発しますが皆さんは予定通り明日の朝に出発していただいて構いません。」

「いや、それなら問題ない。へばっているのは私くらいだ。他の者は問題なく動ける。」


そして彼女は立ち上がるが足を縺れさせて前に倒れ込んだ。

それをライラが倒れる前に急いで胸に抱き留める。


「大丈夫ですか?ちょっと失礼。」


そう言ってライラはアルフェの体に視線を向ける。

ライラの目には繊細鑑定により悪い所が一目で確認できるようになっていた。

そして彼女の胃のあたりに異常を見つけ、霊気を込めて治療を行う。


「あ、なんだか体が軽くなって来た。」

「貴女の胃に穴が開きかけてましたよ。自身の身をご自愛ください。それと出かける前にこれを食べて来てください。」


そう言ってライラはメガロドンの肉が刺さった串を差し出した。

アルフェはそれを見た瞬間に食べたいと本能が囁き、気付けば口の中に唾液が溢れていた。

彼女はそれを受け取ると待てをされている犬の様にジっとライラを見て視線を固定している。


「これを食べれば精が付きます。これからが真の戦いなので一緒に頑張りましょう。」


そして、アルフェは口の中の唾液が邪魔をして声が出せない為、大きく頷いて返事を返した。

するとライラは背中を向けて部屋を出ると全員で町から飛び出した。

しかし、ここから王都まではかなりの距離がある。

車で走っていては間に合いそうになかった。

するとそんな彼女たちにクオーツが声を掛ける。


「私が背中に乗せてあげる。」


そう言って彼女は麒麟の姿に戻りその体を5メートル以上に巨大化させると乗りやすい様に膝を曲げた。


「あなた麒麟だったのね。でもこれなら間に合うわ。」


ライラの言う様に麒麟はとても早く空を飛ぶことが出来る。

その速度はスレイプニールを軽く上回り、ここから王都迄を1時間もかけずに移動出来るほどだ。

ライラ達はクオーツに乗るとそれぞれの体をロープで縛り、それをクオーツの首に巻き付けた。


「準備出来たわ。」


するとクオーツは段々と駆け始め、その速度を次第に早めて行く。

そしてその体を浮かせると王都に向かい飛んで行った。



そして場所は戻り、ユウ達は城の前にまで到着している。

あの後も襲い来る魔物を倒して進み、既に町の中には魔物は存在していない。

残るは城の中だけだが城門はまるで誘い込むようにその口を開いていた。


デーモンと戦ったのは最初の20体のみ。

現在、街中では天使たちによる救助が進められていた。

やり過ぎてデーモンに戻ってしまうのも厄介なのでしっかりとカエデが監督している。

下級天使だった頃と違い、中級に上がってからは彼女も人間らしくなってきた。

それともアキトとアスカの影響を受けるのかもしれない。

そのため、トリアージはカエデが担当していた。

例え力を得た今のカエデにも不可能な事はある。

それ程までにこの町の惨状は厳しい。

助かった人間もほぼ全てが一般人なのでレベルが低く回復の役には立たなかった。

彼らが出来るのはただ祈り、天使たちに僅かでも力を与える事だけだ。



そして、俺達は覚悟を決めて城に入って行った。

この城の中には既に人間はいない。

そう、国王を含め全てが人間でない者しか居ないのだ。

それにアルフェの言っていた事は正しかったようで、国王は魔王となっていた。

ただ、真の魔王がマップにどのように表示されるのか俺は知らない。

その為、この魔王が進化してしまっているのかの判断は出来ないのだ。


俺達は城に入ると最初に巨大なホールに出た。

そこには血の様な赤い絨毯が敷かれ目の前の大階段の上には国王と思しき肖像画が飾られている。

そして、俺達はここで一旦足を止め得物を強く握り直す。

すると周囲の影や扉を開きデーモンたちが湧いて出て来ると俺達を包囲した。


「貴様らが侵入者か。これだけの事を行って生きて帰れると思うなよ。」


これだけの事と言っているがそれはこちらのセリフだ。

助けた人々の顔は絶望に染まり切っていた。

千里眼で見た子供も既に解体されており頭が店先に並んでいた。

俺だけで来れば間に合った可能性もあるがそれだと最後には俺もあの子供の様に店先に並んでいたかもしれない。

俺は漫画でよくある様な絶対無敵の正義のヒーローではない。

出来る事と出来ない事が明確にあり、無茶をすれば簡単に死ぬ。

それを分かっているからライラ達を残し、こうして少数ながらも仲間とここに来たのだ。

俺は腹の中から突き上げる怒りに任せて声を上げた。


「それはこちらのセリフだ。お前らこそ生きて逃げれると思うなよ。今日の俺達は虫の居所が悪いからな。」


そして魔力を剣に込めると俺はスサノオを発動し剣を振るった。

するとスサノオは俺の怒りに応える様に巨大化し、目の前のデーモンの首を切り落として見せる。

その攻撃を合図に周囲も動き出した。


ゲンさんも既に顔を憤怒の表情に変え剣を振るっている。

相手は中位デーモンだが今の俺達の敵ではない。

ゲンさんが剣を振るえば相手を切り裂き、その後ろの壁をも切り裂いて破壊する。

恐らく近寄ればとばっちりを受けるのは確実だろう。


その横ではサツキさんも戦っていた。

その動きは無駄がなく、また無駄な破壊をしない。

的確に相手の四肢を切り離し、最後に首を切り取っている。

その顔には冷笑が浮かび、こちらの方がまるで悪魔の様だ。


そして今日はアスカも負けてはいない。

この戦いを生き残ればアキトとの未来に一歩近付くどころか王手を掛けられる。

結婚という死亡フラグを立てなかったのは彼女としてもファインプレーだろう。

彼女も剣を振るい、まるで獣の様な眼光でデーモンたちを斬り殺している。


アキトはそんなアスカを後ろからサポートする様に傍で銃剣を振るっている。

殺す事よりも手傷を負わせ、行動を阻害し、隙を作る事に専念していた。

そうすればアスカがそれらの首を飛ばしてくれるのでとても連携が取れている。


そして、他のメンバーは斬り殺されたデーモンが天使に変わると同時に安全な所まで移動させていく。

特にヒムロの動きが目覚ましく、スキルが進化したおかげで攻撃を防ぎダメージまで与えている。

あれが聖装なら主戦力としても期待できたが仕方ないだろう。

そんな中でシラヒメだけは戦闘面で活躍していた。

彼女の進化は留まる事を知らないのか、格闘系のデーモンに戦いを挑むとそれらの技を吸収し、相手以上の完成度で叩き返していた。

止めはやはり螺旋撃の様でそれを受けたデーモンは木っ端微塵になり天使に変わっている。


そして、俺達は戦闘の末に150人のデーモンを倒した。

そのおかげでこの町の人間を更に助けられそうだ。


「お前らは町に行ってカエデの指示を仰げ。」

「カエデとは何者ですか?」

「中位天使と言っていたがそれで分かるか?」

「感じました。それと更に大きな力を持った天使がこちらに向かっています。」


どうやらこの天使は感覚が鋭い様だ。

まだかなり遠くにいるメノウの存在を感じ取っている。

それでもかなりの速度なのでもうじき到着しそうだ。


「今はこの街に居るカエデの指揮下で救助を行え。またデーモンになったらせっかく助けた人達を殺してしまうかもしれないからな。」


すると彼女は俺の言葉を聞いて素直に頷いてきた。

先程の天使とはえらい違いだ。


「その意見には賛成です。それでは私達は外に向かいます。皆さんも気を付けてください。」

(こいつは素直だな。やっぱり天使にもそれなりに個性があるんだな。)


彼女は他の天使たちを引き連れて城から出て行った。

残り30体ほどのデーモンがいるがその中でも5人ほど強力なデーモンが混ざっている。

恐らくはこいつらが上位デーモンだろう。

その中でも更に一人頭一つ抜けている者がいるので魔王を抜きにすればそいつがここのボスかもしれない。

俺達は階段を上り、上の階へと登って行った。


その間に散発的にデーモンの攻撃があるが少数では今の俺達を止める事すらできない。

ただ、天使になる度に同じ説明をしなければならないので無駄に時間が掛かる。

そして、俺達はとうとう最後の部屋に到着した。

どうやらここは謁見の間の様で大きな扉とこの先にも大きな部屋がある。

そこには5人のデーモンと魔王が待ち構えているようだ。


そして俺達は蹴破る様にして扉を開くと中へと入った。

すると玉座には先程一階で見た肖像画の人物が座っており、その前に5人のデーモンが立ちはだかっている。

その中心に立つ男が恐らくは最も強いデーモンだろう。

先程から感じていたが伝わって来る気配が全く違う。

するとそのデーモンが俺達を見て口を開いた。


「ようこそ客人たちよ。楽しんでくれているかな?」


このデーモンの気配は凄いがそこに怒り等は一切感じない。

俺達は奴の仲間であるデーモンを大量に倒しているのにそれは大した事ではないようだ。


「歓迎してくれている様でありがたいが、お前らに仲間意識は無いのか?」


すると奴は俺の言葉に豪快な笑い声を上げた。

それに釣られる様に周りのデーモンも冷笑を浮かべてこちらに応えている。


「いや~失礼。あまりにも可笑しな事を言うものでね。もしかして君たちはあちらの世界の者達かな。それなら仕方ない。別に君たちはデーモンを幾ら倒そうとも関係ないのだよ。」

「どういう事だ?」

「愚かな人間がいる限り我々はまた増える。そして、君たちの様な人間がそれを倒しまた数を減らす。我らはそれを生まれてからずっと繰り返して来た。それはこれからも変わる事は無い。」


そう言ってデーモン達は蝙蝠の様な翼を広げ体を浮かせ始めた。


「そろそろ時間だな。それでは今代の勇者達よ。最上位デーモンであるナイトメアからの最初の試練を与える。見事魔王を打倒し世界を救って見せろ。」


そして、ナイトメアと名乗ったデーモンはそのまま窓を破って残りの4人のデーモンと共に飛び去って行った。

マップを確認してもその速度はかなりのもので、今から追いつくのは大変そうだ。

その様子を俺達は呆気に取られて見ていると玉座の魔王が立ち上がり叫びを上げた。


「キエエエーーーー!」


これは既に叫びと言うよりも奇声だろうか。

しかし、その途端に国王の体は筋肉が盛り上がり、まるで巨人の様に変わっていく。

皮膚は裂け筋肉がむき出しになったような姿は既に人というより鬼の様だ。

それを示すように額からは二本の角が突き出し、口からは鋭い牙が覗く。

そして大きさが4メートルに達しようかという所で縦への巨大化が止まった。

しかし、今も体の筋肉は成長し手足は太く、強靭な姿に変わり続けている。


「ガァーーーー!」


そして成長が止まると同時に今度は咆哮を上げ俺達を見下ろしてきた。

しかし、その目に理性は感じられず、まるで魔物の様に赤く輝き、体からは禍々しいオーラを発している。


するとデーモンたちが飛び出した方向とは反対側の窓が砕け、そこから空飛ぶ馬が駆けこんで来た。

当然それは麒麟であるクオーツとその背に跨っているのは俺の仲間たちだ。

タイミングが良いのか悪いのか微妙だが何故か心が落ち着いて力が湧いて来る。

しかし、ゆっくり話をしている時間はない。

既に魔王は動き出しているのだ。

俺は剣を構えると挑発を使い魔王の意識をこちらへと誘導する。


「こっちだデカ物!」


そしてこの国での最後の決戦が始まった。

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[一言] この魔王が進化してしまっているのかの判断は出来ないのだ。 →この魔王が進化してしまっているのか、判断は出来ないのだ。
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