101 旧王都攻略戦 ②
俺達は戻りながら彼らから話を聞く事にした。
冒険者や農民は分かるが何故盗賊も含まれているのだろうか。
ただ、マップには盗賊と出ているがそれが何を基準としているかは俺自身も知らない。
主観や彼らの見た目だけで判断するなら同じような人間はこの世界には幾らでもいるからだ。
そして、オリジンの言っていた様に世界に何らかの意思が存在し、観察をしているのなら俺達の行いそのものが常に見られていると言う事になるだろう。
しかし、その様な存在が居るのなら幾つかのスキルには納得が出来る。
(そう考えるとあんな事やこんな事も全部見られてるなの・・・。きゃー恥ずかしーーー。)
と言うのは置いておくとして、俺は先程から横を歩くリーダー格の男に声を掛けた。
風格もあるが実力は彼らの中でこの男が一番だろう。
見た目は30半ばのおっさんだが背にある大剣はドワーフ製の業物の様だ。
体も2メートル以上あり、森の中を歩いているというのにその足取りにブレは無い。
「ちょっと聞いても良いか?」
「内容による。こういう事をしている以上、個人を特定する情報は教えられないからな。」
どうやらこちらの世界にもこういった個人情報を守る意識はある様だ。
最近は変なエルフに家へ矢を射られたり、何処かの馬鹿が変なのを送り込んで来ていたので不安だったがそれを聞けて少し安心した。
「それなら誰とは言わないが何故盗賊が混ざっているのか知りたい。」
この世界で荷物はアイテムボックスに入れて移動するのが基本だ。
その為、盗賊は何らかの手段で相手から荷物を出させなければいけないのだが、その一番簡単な方法がスキルの略奪を使用する事だ。
これを使えば相手の意思に関係なく荷物を奪うことが出来る。
「そいつらの事は周り言うなよ。一応、信頼できる者からの紹介だが一部の者しか知らない。それにあいつらは盗賊だが王国兵からしか物は取らない。取った物は村や町に無料で配っているんだ。」
しかし、そうなるとどうやって彼らは利益を出しているんだ。
幾ら善意の行動だとしても活動するには金もかかる。
「それならどうやって組織を維持しているんだ?言っては何だが人間は欲望を叶えるために汗水垂らして働いている。もしかしてそいつら全員、聖人みたいに欲望とは無縁の存在なのか?」
もしここでそうだと言われたら俺はこいつらと協力するのを止めるつもりだ。
天使ですら善の塊と見られがちだが、それはこちらからの一方的な主観で彼らも本能という欲望に従い人を助けているだけだ。
それなのに人間がそう簡単に欲望と無縁になれるはずがない。
「詳しくは言えないが奴らの後ろには強力な支援者が居る。ただ言える事はその支援者は国の中枢に関係していると言う事だけだ。そこからの情報で俺達はあの町に子供が集められている事を知って奪還しに来た。各町や村から少しずつ信用できる者達を集めてな。」
一応は話の筋は通っているので協力関係は継続しても良いだろう。
そういえば、ボルツで冒険者たちの一部が町を去ったとモニカが言っていたな。
その中に今回の作戦に参加する者も密かに混ざっていたんだろう。
冒険者の移動が良いカモフラージュになったって事か。
しかしたった500人であの町を落とすのは無茶を通り越して無謀だろう。
6人で行こうとしていた俺達に言えた事じゃないが。
「なら、相手から物資を奪い返すのも作戦の一部と見て良いな?」
「そのつもりだ。一部は諦めるが出来れば半分は回収したい。」
それで盗賊の協力者が居ると言う訳だな。
しかし、その支援者を信じても大丈夫だろうか。
もしかすると日頃は味方でも実は相手側の作戦で、こうして情報を流す事で不穏分子を集めるのが目的かもしれない。
現に彼らは今から10倍以上の敵と戦おうとしている。
しかも、王国兵の動きから何かの準備をしているのは確実だ。
先程まではエルフの国との戦争に備えているのかと思っていたが今の話を聞くと不安に駆られてしまう。
「ところで、その情報提供者は信用できるのか?」
「出来ると断言したいが絶対はない。情報が洩れる事もよくある事だ。」
なら、洩れていると仮定して行動すれば良いだろう。
そして俺達はアキトたちと合流して町へと向かって行った。
その道中で今回の隊列を決める為に先ほどの男に再び声を掛ける。
「今回の隊列だがこちらに任せてもらいたい。」
「無謀でない物なら採用しよう。」
「先頭は俺とあそこの二人が担当する。」
そう言って俺はゲンさんとサツキさんを指差した。
すると男は先程の事を思い出したのか顔色を悪くする。
しかし、それが都合よく恐怖という信頼になり、話を上手く進めてくれた。
「それは構わないが俺達をどこに置くつもりだ。」
「アンタらは一番後ろだ。俺達の後ろは残りの3人に任せる。ただ、後衛だからって楽が出来るとは思わない事だな。」
そう言って俺は前方の町に視線を向けた。
ここからは見えないが、あちらも準備万端の様だ。
城壁の向こうには子供たちが全員で待機しており俺達を待ち構えている。
王国兵5000人はその後ろだ。
どうやらこちらの目的を知っていて子供たちを消耗品として扱うつもりなのだろう。
こちらとしては願っても無い事だが気配に気付いているゲンさんの怒りが滝を昇る鯉の様に高まっている。
これは龍になって雲を突き抜ける時も近そうだ。
その怒りは全て王国兵にぶつけてもらおう。
「俺達も町の様子がおかしい事は分かっているが大丈夫か?救出対象である子供を殺したら意味が無いんだぞ。」
「それに関してはこちらに考えがある。だからアンタらは少し後ろで見ていてくれ。」
「分かった。やばくなりそうならすぐに助けに入るからな。」
これで彼らの中に裏切り者がいても対処できる。
もし、全員が俺達を陥れる為の罠だったとしてもアキトなら500人くらいすぐに殺しきれる。
まあ、それは無いにしても何人かは居るかもしれない。
そして、俺達が町の近くまで来ると閉ざされていた町の門が開き始めた。
するとそこからはゾクゾクと子供たちが駆け出し門の前で整列して行く。
しかもその手にはナイフが握らされ防具は一切付けていない。
恐らく俺達が攻撃できないと知っているのだろうが、中々に愉快な事をしてくれる。
子供たちは全員が今にも泣きだしそうな顔で整列を終えると今度は兵士たちがその後ろに並び始めた。
恐らくは奴隷紋で言う事は聞かせているが、更に精神的に追い込むためだろう。
俺達は子供たちの心を折る為の体の良い生贄と言う訳だ。
その様子を見てとうとうご老公が動き出した。
しかし、家のご老公は何処かの時代劇の様にお供に任せる事はしない。
ゲンさんは小太刀を二刀で構えると先ほどまでの憤怒の顔を消し、好々爺といった顔で子供たちに視線を向けた。
すると後ろで控えている兵士の一人が子供たちに声を張り上げた。
「突撃しろガキども。貴様らはこの試練を乗り越え戦士に変わるのだ。数で攻めれば絶対に勝てる!」
しかし、子供たちは防具を付けておらず人間相手に攻撃する事に戸惑っているようだ。
聞けば彼らは国を魔物から守るためと言って連れて行かれたらしい。
それなのに目の前の俺達を見れば動揺するのは当然だろう。
それに兵士の言葉に消耗に関しては一切触れていない所を見るとそれも織り込み済みの行動のようだ。
「何をしている。命令だ。奴らを殺せ!」
すると子供たちの顔色が目に見えて悪くなって行った。
まさか、殺人をさせられるとは思ってもいなかったのだろう。
しかし、奴隷である以上は命令には逆らえない。
子供たちは涙を流しながらナイフを構えてゲンさんに向かい駆け出した。
ゲンさんはそんな子供たちに優しい表情を浮かべて言葉を口ずさんだ。
「我は剣。全ての魔を絶つ浄化の剣なり。『聖魔融合』月の女神月読よ。彼らの身に宿る呪いを払いたまえ。」
するとゲンさんの体から魔力が吹き荒れそれを受けて子供たちの勢いが弱まる。
しかし、その足は命令に従い止まることは無い。
だが、あそこで止まるとドミノ倒しで大惨事になっていたので逆に助かったと言えた。
「奥義、ツクヨミ。」
そしてゲンさんは彼らが間合いに入った瞬間に小太刀を大きく一閃させた。
すると剣からは波動が放たれ子供たちの体を通過していく。
そしてその波動を受けた子供たちは意識を失い走りながら地面に倒れて行った。
しかし、彼らが走っていた速度は駆け足ほどの速度なので怪我はしても死ぬ程ではないだろう。
あれ位なら簡単に魔法で癒せるのでゲンさんは視線を後ろに向けて声を掛けた。
「お前らの仕事じゃ!後は任せたぞ!ユウよ。ここは儂らに任せよ。少し発散せんと爆発しそうじゃ。」
そう言ってゲンさんはサツキさんに声を掛け、二人で子供たちの上を天歩で移動していく。
するとその顔は次第に鬼の様に変わり剣からは黒いオーラが立ち上り始めた。
「ゴミ共が!子供を盾にしおってからに。儂はそういうのが一番嫌いなんじゃ!」
以前も盗賊が子供を利用して俺達の足を止めた時にもかなり怒っていたが今回はその比ではない。
今にも怒りで髪が立ち上がりそうな勢いで、それが全て王国兵たちに向けられている。
「私もこういうの弱い者を利用するのは好きではないのよね。だから個人的な考えだけど死んで頂戴。」
どうやらサツキさんは子供云々よりも弱者を盾にしたのが許せないようだ。
どうもこの人は強いか弱いかでしか他人を見ていないようで心配になって来る。
そして、二人の威圧に飲まれた兵士たちは一歩も動く事の出来ないままに二人が子供たちの上を通過するのを見過ごしてしまう。
しかし、もし兵士たちが動けたとして人質を取るような動きを見せればその瞬間に全滅していたのは確実だ。
今の段階でも既に二人から敵認定を受けているので命は無いだろうが。
そして、今も子供たちは続々と救助されている。
怪我が酷い者は魔法で癒し、軽い者はそのまま処置をせずに後方へと運ばれていく。
この人数を運ぼうとするとそれだけでもかなりの重労働な上に、こちらの30倍もいるので一人が一度に2人から3人は抱えて運んでいる。
俺の計画では近くに来た子供を片っ端から強奪していくつもりだったがゲンさんが全ての子供を奴隷から解放してくれたので手間が省けた。
前を見ればゲンさんとサツキさんは兵士の前で刀を構えている。
そろそろゲンさんの怒りも最高潮だろう。
俺は念のために彼らの中に食料を大量に持っている者がいないかを再確認しておく。
(どうやら、食料を持っているのは町に待機しているみたいだな。)
その事に安心して視線を戻せば兵士の一人が声を荒げていた。
「お前たちの腰の剣は飾りか!奴らを殺した者には特別に褒賞を出すぞ!」
しかし、その声に答えるられる者は誰も居ない。
どの兵士も既に腰が引けており戦意を喪失している。
威圧耐性がレベル10の俺でも今のゲンさんには恐怖を感じる。
恐らくは彼らは心臓が握り潰されそうな恐怖を感じているだろう。
するとゲンさんはそんな兵士たちに向けて侮蔑の籠った目を向けた。
「救いようがないな。」
「他人の命を何とも思わない者はどれも似た様なものじゃない。」
すると二人の会話を聞き兵士は顔を真っ赤にして再び声を荒げた。
(それにしてもあの威圧の中で声が出せるのはある意味凄いな。やってる事はクズでも、そこだけは称賛できる。)
「このままだと俺達は陛下に死刑にされるぞ。それでも良いのか。」
すると兵士たちの中で剣を構える者が出始める。
それに続く様にその波は広がり剣を抜き始めた。
きっと国王の怒りとはそれ程までに恐ろしいものなのだろう。
しかし、それでも子供を盾にしてしまった彼らにゲンさん達が慈悲を掛ける事は無さそうだ。
「ならば、最後は戦士として死ぬと良い。」
そして二人は刀を頭上に掲げて揃って言葉を口ずさむ。
「「怒りの男神素戔嗚よ。汝の狩りし大蛇の力を我が剣に与えたまえ。」」
すると二人に睨まれた兵士たちの動きが急に停止し蛇に睨まれた蛙の様に微動だにしない。
「「八首の大蛇よ我が敵を蹂躙せよ。」」
すると二人の刀から8本の黒いオーラが立ち上がった。
それは次第に生きている様に蠢きまるで伝説の大蛇の様だ。
そして二人が刀を振り下ろすとそのオーラは王国兵たちに襲い掛かった。
「「裏奥義、ヤマタノオロチ!」」
すると黒いオーラに触れた兵士たちは弾かれるのではなくその体を大きく切り裂かれていく。
その傷は深く、動く事の出来ない兵士たちは次々に蹂躙されていった。
「ぎゃああーーー助けてくれーーー!」
「どうして体が動かないんだ!」
「俺の・・俺の腕がーーー!」
そして数秒後にはそこに地獄絵図が出来上がった。
切り刻まれた死体が散乱し、大地は二人の技に蹂躙されて巨大な爪に抉られた様な傷痕を残している。
その余りの惨状に後ろで見ていた者の中には嘔吐したり、腰を抜かす者が続出した。
子供たちが見ればトラウマになりそうなので意識が無くてよかった。
マップで見ても一人の生き残りも居ない事が確認できたので俺はそのまま町へと向かう事にする。
俺達は子供を救出する事には成功したがここには残り半分。
すなわち食料奪還の目的が残されている。
これが無ければ子供を助けても食べ物が無いのでいずれは餓死させてしまう事になるだろう。
そして、俺は一人で食料を持つ兵士達がいる城へと向かって行った。




