100 旧王都攻略戦 ①
俺達は助けた老人に案内され子供たちを連れて村に来ている。
そして、村に入るとそこの代表という青年が俺達の前に現れた。
「私はこの村で村長代理をしているマリクです。見ての通り、現在この村に食料の余裕はありません。すみませんがあなた達を受け入れる事が出来ない状況です。」
聞くだけなら薄情に聞こえるが彼は苦り切った顔で言っている。
恐らくは受け入れたいが言葉の通り深刻なほど食料が不足しているのだろう。
手や顔を見れば彼もその周りの村人もかなり痩せているのが分かる。
それに老人と子供はこの村の出身らしいので家族や仲間と言える存在を拒まなければならない彼も辛いはずだ
そのため俺は最初に老人と交わした約束を守る事にした。
「食料はこちらで提供できる。それでもダメか?」
「ホントですか!?」
「ああ、この爺さんたちとも約束している。後で食料を渡す(返す)からうけ取ってくれ。」
「あ、ありがとうございます。」
そして、俺がその事を提案するとマリクは即座に表情を変えた。
やはり本心では戻って来た村の仲間を受け入れたかったのだろう。
彼を含め、村人たちは先程まで歪めていた顔を笑顔に変え半数は周囲へ走り、もう半数は老人と子供を迎え入れている。
「ああ、それと一晩の宿を頼みたい。」
「それ位なら構いません。我が家にお越しください。」
時間は少し早いが今日の移動はここまでにしておこうと既に話し合って決めておいた。
野宿をしたとしても自前の結界石で魔物は問題ないのだが、この世界にも獣が存在している。
スピカがいれば問題は無いがまだ誰にも話していないので結局は見張りを立てなければならなくなる。
ここなら安心して眠れるので泊まれるならここで夜を明かし、明日の朝に出発する事になっていた。
しかし宿泊を快く受け入れてくれたので俺は余分の含めて大量の食糧を渡しておく。
そして俺達はマリクに連れられて、この村で一番大きな家に案内された。
「ここが私の家です。村長である父と暮らしているのですが周辺の村に食料の交渉に出ております。おそらくは無理だろうと言っていましたので近日中には戻って来るでしょう。」
確かに、これが作物の不作なら周辺の村から支援が受けられるだろう。
しかし、今回の事は圧政による食糧不足だ。
どの村も国に食料を奪われて困窮しているだろうから成果は得られそうにない。
その証拠に兵士たちの持っていた食料はこの村一つ分とは思えない量だった。
あれだけあればこの村なら1年以上は食べて行けるだろう。
「俺達は旅を急いでいるので明日の朝には出発する。もし差し支えなければこの国の現状を教えてもらっても良いだろうか。」
「構いませんが私の知っている事はこの村と周囲の事ぐらいですよ。」
「それでも十分ですよ。」
そして俺達は彼からここ数年の出来事を聞くことが出来た。
既に知っている事が大半だったがこの国が農村から鉄類を集めている事を知ることが出来た。
その為、畑仕事には木の道具を使っているので、効率が下がってしまったらしい。
俺は情報料として彼に数本鍬などの農具を渡しておく。
「こんな立派な農具、よろしいのですか?」
「ああ、俺は使わないからな。良かったら使ってくれ。」
これは今は懐かしく感じるが世界が融合する前にホームセンターで買った道具たちだ。
あの時はもしもの時は自給自足も考えて買っておいたが不要になってしまった。
ライラに頼めば作ってもらえるしな。
(おっと忘れる所だった。)
俺は魔石を使いスピカに付与をお願いした。
『何を付与しますか?』
(自動修復か以前の様に強度を強化してくれ。)
『了解です。魔石を使い強化を行います。自動修復付与・・・成功しました。』
『続いて魔石を使用し強度を強化します。・・・成功しました。柄の部分の強度が10倍に上がりました。鍬の金属部の強度は自動修復を付けたため3倍で限界でした。』
(それだけ上がれば大丈夫だろう。他のも頼む。)
俺は全ての農具に同じ付与を行い強化した物をマリクに渡した。
「付与で強化と自動修復を付けておいた。ただ柄の部分には自動修復が付いてないから折れたら新しい物と交換してくれ。」
「あ、ありがとうございます。」
マリクはとても喜んで農具を受け取ってくれる。
その後、俺達はマリクの家で一泊して朝には出発していった。
そして車を走らせて1時間ほどしたころ、前方から一人の男が歩いて来る。
しかし、男は怪我をしている様で俺達に向けて手を振って助けを求めて来た。
「頼む!止まってくれーーーー!」
ブレーキを踏んで男の横に停車すると焦りを帯びた顔で駆け寄って来る。
魔物にでも襲われたのかと思えばその腕の怪我は剣による切り傷の様だ。
骨までは達していないが傷は深い様で抑えている手の下からはいまだに少しずつ血が流れだしている。
このままでは匂いで魔物を呼び寄せてしまう為、まずはその傷を魔法で回復させる事にした。
「まずはその傷を治します。」
「す、すまない。」
俺は車から下りると男に手を伸ばして魔法で傷を塞いだ。
やはり傷はかなり深いがこの程度なら俺でも回復させる事が出来る。
もし骨まで切り離されていると難易度が上がりイメージを上手く出来ないと骨が治る時にズレたりする。
秘薬を使えば簡単に全快させられるのだがこの先何があるか分からないのでおいそれと使用は出来ない。
回復が終わると男は頭を下げ、なぜこのような事になってしまったのかを話し始めた。
「まずは腕を治してもらい感謝する。俺は君たちが来た方向にある村の村長をしているゼノと言う者だ。」
「それならあなたがマリクの父親ですか。」
「息子に会ったのか!」
どうやらこの人がマリクの言っていた周辺の村に向かった父親の様だ。
しかし、俺がマリクの事を言うと再び焦り始め、俺の腕を強く掴んで来た。
「もしかして村に来たという王国兵の事を気にしているのですか。」
俺がそう言うとゼノはコクリと真剣な顔で頷いた。
そうなると急いでいたのは子供を連れて行かれる前にその事を知らせる為か。
「その通りだ。今、周辺の村で王国兵が子供を集め始めている。この先の村でも数人の子供が連れていかれた。奴等、俺達を家畜か何かと勘違いしてやがる。去り際にもっと子供を量産しろと言ってきやがった。」
俺はそれで国王が何をしたいのかおおよその見当がついた。
恐らく税を上げて村から食料を限界まで搾り取ったのは子供を奪う為だ。
子供の時なら教育次第にいくらでも洗脳できる。
それに早いうちから奴隷としておけば抵抗も弱く言う事を聞かせやすい。
食料は国中から税として集めた物がある。
それと同時に戦いにも仕事にも使えなくなった老人の間引きも兼ねているのだろう。
前の村では老人達が自ら命を投げ捨てていたが、もしかするとそうしなかった者達は王国兵に殺されているのかもしれない。
俺ならある程度の子供が集まれば、ここで一旦税を下げるだろう。
そして再び安定してから再び税を上げる。
その時には洗脳の終わった子供たちを試験として村に向かわせ子供を連れてこさせる。
そして試験に合格した者は更に訓練を受けさせ、連れてこなかった者達は再教育か使い潰すだろう。
そうなれば彼の言う通り国民は家畜と同じだ。
しかし、今回に限っては彼の心配は不要なモノになった。
何故なら、その兵士は魔物に襲われ、俺達に全ての食料を託して死んだ事になっているからだ。
当然子供も村に送り届けたので問題ない。
「それなら大丈夫ですよ。王国兵は魔物に襲われるという不慮の事故で全滅しました。」
「なに!本気で言っているのか!?」
驚くのも無理はないが一応はホントの事だ。
俺達は殺していないし、死んだ兵士は魔物が骨も残さず食べ尽くしている。
きっと持っていた結界プレートが不良品だったのだろう。
「ええ、しかし、この大変な時期に村長が居ないのは何かと大変でしょう。これを渡しておきますから早く村に帰ってあげてください。」
俺は結界プレートと魔石を取り出すとそれをゼノに渡した。
燃費は悪そうだがこれだけあれば数日分にはなるだろう。
急げば今日中には村に到着できるかもしれない。
しかし結界プレートを差し出されたゼノはなかなか受け取ろうとしない。
(そういえばこれはかなりの高価な品だったな。性能がしょぼ過ぎて忘れていた。)
「これは拾い物だから使ってください。王国兵が使っていた物ですが彼等も自分の持ち物が人のために使われるなら本望でしょう。」
するとゼノは俺の言葉に「ハハハ」と大笑いで答え結界プレートを受け取った。
どうやら少し言葉が過ぎて俺達が何をしたのか気付かれた様だ。
「それもそうだな。それならありがたく使わせてもらう。色々感謝するぞ。」
ゼノは何に対して感謝するかは言わなかったが俺を見て何かを感じ取ったようだ。
彼は苦笑を浮かべ最後にこう言い残して去って行った。
「俺の独り言だが・・・。他の所も頼む。」
何を頼まれたのかは分からないが俺達は目的のために旅を続けるだけだ。
その途中に気に食わない奴(王国兵)が居れば倒して進む。
それだけなので俺は車に乗ると再び走り出した。
その後、俺達は幾つもの農村を通り過ぎて行った。
これは別に急いでいるのではなく本当に村が多いのだ。
結界石があり、安全地帯が確保できるので多くの村が存在しているのだろう。
しかし、どの村でも子供を連れ去られた者達が悲しみに暮れていた。
俺達は少しの食料と引き換えに情報を得ると更に車を進めていく。
昨日の様に偶然に鉢合わせれば助けてやれるが、村を回っている王国兵の数は案外少ない様だ。
それに既にトゥルニクスが動き始めているはずなのでこれ以上の増員は無いだろう。
子供たちが連れていかれる様になったのは最近らしいので今ならまだ間に合うはずだ。
俺には分からないが洗脳関係のスキルがない事に期待する。
そして太陽が沈み始めた頃、俺達は一つの大きな町に到着した。
その作りは堅牢で、ここが王都と言われても信じられそうだ。
規模も大きく、直径で言えば5キロはある。
今まで訪れたこちらの町では一番大きく兵士の数も多い。
主に居るのは町の中心にある城の様な建物で殆どの兵士はそこで激しく動き回っている。
もしかするとトゥルニクスからの宣戦布告が届いたのかもしれない。
エルフならドライアドなどの精霊を使いかなりの速さで手紙などを届けることが出来る。
そして、もう一つ多いのが子供の数だ。
とは言え、兵士以外は殆ど子供しか居ない。
この町にはザっと数えても5000人は兵士がいるが、子供の数はその3倍はいるだろうか。
町の規模からいえば少ないがこれから更に子供たちが集められるならかなりの数になるだろう。
しかもどの子供も年齢が10歳未満で小さな家に10人単位で押し込められて暮らしているようだ。
しかも千里眼で確認するとどの子供の胸にも奴隷の印がある。
俺は意見を聞くためにアキトに声を掛けた。
「アキトはこの町をどう思う。」
「これは当たりを引いたかもしれんな。」
当たりとはすなわち、ここが子供を集めて教育を施す場所であると言う事だ。
そして、当たりと言っている時点で彼の考えは殲滅以外にはありえない。
アキトはどうもカエデと暮らし始めてから子供好きになった様だ。
そして、今のメンバーで冷静なのは俺とホロだけだろう。
俺達はもともと家族と仲間以外にはかなりドライな思考をしている。
そのためこういう時にも冷静なのだが、他の残り3人は違うようだ。
彼らは触れれば切れると錯覚する程の威圧を放ち、今にも飛び出して行きそうだ。
別に兵士を皆殺しにするのは構わないのでしばらくは彼らの好きにさせよう。
ただその前に少しだけやる事がある。
「すみません。少し待ってもらっても良いですか?」
「すぐに済むんじゃろうな。それほど待てんぞ。」
「すぐに戻ります。」
そして俺は急いで近くの森まで向かって行った。
するとそこには明かりも点けず武装した者達が集合しており、ゲンさん達と同じようにギラついた目をしている。
俺は彼らの前に出ると気楽な感じで声を掛けた。
「こんばんわ。皆さんもこれからあの町を襲撃するんですか?」
すると俺の言葉に目の前の男達は一斉に俺へと視線を向けた。
数にして500人は居るだろうがたったこれだけであの町を落とすのは不可能だろう。
冒険者も混ざっているようだが殆どが農民の様だ。
しかも何人かは盗賊も混ざっている。
目的は分かるがどのような集団なのかに疑問を感じる所だ。
「貴様は誰だ!既にリストのメンバーは全員が集まっている。すなわち、貴様は部外者と言う事で間違いない。王国の者なら命は無いぞ!言葉は喋るのなら慎重に選ぶんだな。」
どうやら、彼らは今日の為に周到な計画を立てていたようだ。
しかし、その計画に丁度かち合うとは運が良い。
「俺は通りすがりの旅人だ。少しあの町を襲撃しようと思うんだが協力してくれないか?」
すると先ほど話しかけてきた男の方眉が上がり腰の剣に手を掛けた。
その目は完全に俺の事を警戒しているがどうしたものか。
「貴様は何者だ!?」
「だから旅人だと言っている。ウチのご老公がこの国にかなりお怒りだからあの拠点を破壊しておく事になっただけだ。だが、1つだけ手が足りない事がある。この中でスキルの略奪を持っている者がいるはずだ。そいつらを貸してほしい。」
「何を勝手な事を・・・。」
「ユウ、儂を待たせるな。そろそろ我慢の限界じゃぞ。」
すると背後から声が聞こえて来た。
しかもその声は今までに無い程の怒気を孕んでおり、まるで鬼に背後を取られた様だ。
耐性があっても背中から冷や汗が噴き出すのを感じる。
そして、当然それを浴びている彼らも同様だ。
それどころか既に動く事すら不可能になっている。
「お前らもつべこべ言っとらんと儂らに協力しろ。今宵の儂は少しばかり機嫌が悪い。逆らう者は容赦せんぞ。」
こんな状態のゲンさんに逆らえる胆力を持つ者はこの場には居ないようだ。
彼らは首を縦に振って無言で了承を示した。
「行くぞ貴様ら!敵は本能寺にあり!」
(いや、あそこは本能寺じゃないし・・・。おそらくは気分なのだろうが彼らは知らないだろう。)
そう思って彼らに視線を向けると何故か納得した顔をしている。
もしかしたら言語スキルがあちらに分かり易く翻訳してくれたのかもしれない。
こんな争いの絶えない世界なので決戦という意味で似たような言葉があるのかもしれないな。
そして俺はここで新たなスキルと取得しておく事にした。
(スピカ、探し物をするのに向いたスキルはあるか?アイテムボックスの中も大まかにでも分かるものが良い。)
『それなら探索が有効です習得しますか?Yes/No』
(Yesだ。レベルを10へ上げてくれ。)
『探索を取得しました。』
『続いてスキルポイントを使い探索をレベル10へ上昇させます。』
これで食料を大量に持っている輜重兵的な役割を果たす者が分かるはずだ。
相手は5000人はいるので全員から食料を奪うのは難しい。
しかし、こういった兵は基本前線ではなく後方待機になっているはずだ。
食料は彼らとて生命線の1つなので無駄には出来ない。
そう思いマップと併用して使ってみると俺の予想は当たっていた。
5人程が大量の食糧を持って城の中で待機している。
その他の人間は1日分の食料しか持っていないようだ。
5000人分の食料を無駄にする事になるかもしれないがそこは我慢しておこう。
そして俺達は元の場所に戻りながら彼らから話を聞く事にした。




