第二十三話:見つけてしまった……。
さて、退院明けの日、まずは急な入院となったことを、会社で直接面と向かって頭を下げないとな。
……などと思ったが、残念ながら今日は土曜日。会社は休みの日だ。
交代で常駐する警備員くらいしかいない。
仕方がないので、係長に遭って頭を下げるのは、土日挟んだ休み明けになるな。
あー、倒れて入院したにせよ、無断欠勤のこと、早くちゃんと謝罪しないとなー(棒読み)
そんなわけで、本日は、
「おはようございます! だ、だ、大丈夫、なんですか!?」
桜井さんとおデートの日です。
……や、うそうそ。デートじゃない。
土曜日の休日にわざわざ桜井さんに来てもらったのは、メリーさんにお礼をするためだ。
実際のとこ、メリーさんが救急車呼んでくれなかったら、俺はヤバかったかもしれんからな。
桜井さんなら、メリーさんと面識あるし、年頃の娘さんが欲しがるものとか分かるかも、と思ったわけだ。
……まあ、ほんとは、桜井さんに心配掛けたお詫びも兼ねてるけどな。
「今日は、よろしくお願いしますっ!」
勢いよく頭を下げる桜井さん。
もしもし、それはこっちの台詞なんですよ?
都市、と呼べるほどではないにせよ、この街も百貨店はある。
一応リサーチした結果、この10階建てのビルが一番品揃えが良さそうだからと選んだわけだが……。
「すみません。先に、向かいの服屋さんを見てみましょう」
その向かいの服屋、意外に、服以外のものもたくさんあった。
リボンやカチューシャ、ネックレスなどの装飾品、多種多様な生地、毛糸の玉、縫い針に糸に断ちばさみ等々。
お、携帯用ソーイングセットなんてのもある。
……で、メリーさんに似合いそうな、ネコミミカチューシャとネコしっぽなんてのもある。
ネコしっぽとか、どうやって付けるのよ?
…………なんだこの店? やべぇ品揃えだな。
で、あちこち見ていたら、店の奥の方に暖簾で仕切られたブースを発見。中を覗いて見ると…………。
…………なんだこの店! やべぇ品揃えだな!
水着に制服、イヌミミやいぬしっぽ、首輪などなど。こんなん、メリーさんどころか桜井さんにも見せられんわ!!
はよ行きましょう桜井さん。ここはあなたみたいな女性の入るところじゃありません。
桜井さんの手を掴んでさっさと店を出た。
……ネコミミカチューシャは買ったがな!
で、本命のデパート。
「何を買うかより、まずは何があるかを確認しましょう」
桜井さんからの提案で、まずは一通り見て回ることに。
基本冷やかし、たまに店員に相談して売れ筋を聞いたり、メリーさんの特徴を伝えて、プレゼントは何がいいか聞いてみたり。
特に、マダムが用意しそうにないものを考え、桜井さんと店員と俺の三人で話し合ってみたり。
時間ばかりが流れて、結局午前中は何も決まらず、予約していたレストランでランチを頂いた。
……うん、美味いよ。美味いけど、やっぱり二人なら、自分が今何を食ってるのか分からないようなものより、お座敷で鍋でもつついていた方がいいな。
お上品な京野菜の鍋もいいけど、地鶏ときりたんぽの鍋の方が俺は好きだな。
ごめんな桜井さん。貧乏舌でさ。
もちろん俺の奢りだったよ。
そうでなくても、すげぇ喜んでたけど。
デパートでメリーさんへのプレゼントを買って、西のマダムのお宅へお邪魔しようとしたときのことだった。
ふと、桜井さんの方を向けば、片耳の豚が桜井さんに突進しているところだった。
「……ふんっ!」
一切遠慮なしのサッカーキック。
顎をかち上げられ背中から地面に落ちた豚の腹目掛けて、全力で踵を落とした。
「……ふう、なんで離島の妖怪が……?」
何事かと振り向いた桜井さんは、キョトンとしていた。
俺の呟きは聞こえていなかったらしい。
それどころか、片耳豚が見えていないようだ。……あ、豚が消滅した。
「あの、どうしたんですか?」
「いや、なんでもないよ。行こう」
訝しがる桜井さんの手を引けば、顔を赤くしていた。初々しい反応、ゴチです。
・俺:主人公。男性。
……備考:職業・総合商社の営業。優良物件。
ハーレム願望はありません。
暖簾の先の業の深さに、戦慄した。
いけない想像もした。男ですから。
・メリーさん:少女の姿の……怪異?
……備考:もうすっかりマダムの家の子。
実は、倒れたのを察知して、めっちゃ心配したの。
・桜井さん:同じ会社の、同僚の女性。
……備考:会社内では、入籍カウントダウンな扱い。
事実上のデートに、気合い入りますん。ふんすっ!
・カタキラウワ:片耳の豚の妖怪。
……備考:奄美大島などの離島で語られる、豚の妖怪。沖縄では違う名前の似たヤツが居る。片耳豚と書く。
この豚に股の間をくぐられると、命を落としてしまうという。また、仮に助かったとしても不能となり、意気消沈したまま余生を過ごすという。
大きさ? 普通の豚くらい。つまり、控えめにいって、体高は人の腰や腹くらい。
そんなでかい豚なら、普通股の間なんか通れなくない? というツッコミは聞き入れてもらえないらしい。
後ろから来たらまずは膝カックンになると思うけど。
正面から来たら、普通避けると思うけど。
ここら辺、河童の尻子玉抜きとよく似ている。……河童と違い成功するとは思えない辺り、妖怪特有の恐ろしさとコミカルさを合わせ持つ存在。




