第十二話:めっけた

　さて、温泉入って宴会始まって、既に一時間。酒も回って宴もたけなわってやつか？

　社長自らカラオケをお振る舞いだそうな。

　……うん？ カラオケって、振る舞うっていうのか？

　一滴も酒が入っていない社長が、雰囲気で酔っ払ったようになっている。

　あ、あー。歌い過ぎて社長ふらふらしてるじゃねぇの。

　そろそろ部屋に連れてけよ。そしたら誰も歌わなくなって静かになるから。

　社長が宴会場からいなくなって、ようやくゆっくりとした飲み会になる。

　ここからは無礼講。席とか関係なくなる。

　なので、幾つかのグループに別れて静かに飲むわけだが、大体は、

　・未婚の狼ども、

　・既婚の紳士たち、

　・未婚の鬼女ども、

　・既婚のマダムとマダムに保護される未婚女子及び俺みたいな枯れた男子社員諸君の、四グループに分かれる。

　もう少しすると、狼どもと鬼女どもが牽制しだして空気が大変悪くなるわけだが、既婚の紳士淑女方、及び俺らは、席が大分離れて、話も聞こえなくなる。

　そのなかで、俺は直属の上司(既婚)と避難してきた女子社員と静かにソフトドリンクをいただく。

　ここら辺の空気は悪くなる気配すらない。

　……いや、悪くはならないんだが……。

　いやね、女子社員Aさん？ ちらちらこっち見てもね。結婚願望あるとか、課長に言わされてるだけでしょ？ 本気ならさ、酒の力を借りて、どうぞ言ってみてくださいな？

　ひっく、としゃくりあげて、ふらふらしてる。残念。時間切れだね。

　女子社員Bさん、ちゃんとセーフハウスに連れてってくださいな。

　間違っても、狼と鬼女がマウント取り合う戦場に紛れ込むんじゃないよ？

　え？ えー？ 課長？ 別部署の女子社員とか、別に……。あ、はい。上司命令ですね。分かりましたよ。

　監視役、と名乗りを上げた女子社員Cさんと、四人で連れ添って未婚限定の部屋へ。ちゃんと内側から鍵をかけたのを確認して、社員用トークアプリで無事を確認。

　お休みなさいっと。

　既婚の課長の元に戻るべく移動中。

　一旦トイレに寄れば、用足し中に、トークアプリにいやーなひとこと。

『意気地なし』

『あれだけ分かりやすくアピールしてたのに』

『ゲイなの？ ロリコンなの？』

　うるさいよ。名誉毀損で訴えるぞ？

　……他人の気持ちを、他人が語るなよ。

　本人が言ったなら、ちゃんとするさ。

　言えないなら、その程度の気持ちなんだろう。

　戻ったら、課長から、お叱りを受けましたよ。

　なぜ気づかない？ この朴念仁め。と。

　……いやですね、そんなこと言われましてもね。

　結婚願望のない相手に結婚を強制しようとするのは、パワハラとは言わないんですか？

　事もなく、一晩明けて、帰り道。

　帰りのバスのなかで一句できた。

　あれから、真面目に何もなかったよ。

　課長と飲んで、中学生の娘を薦められたよ。春には、高校生だ。とか言われてもな。普通に断ったわ。相手は中学生とか、犯罪だって言ってるだろうが。何回言ったら分かってくれるんだろうな？

　ああ、何事も無かったさ。

　代わりに、俺の事ロリコンって噂が広がるかもしれんがな。

　まあ、そうなったら、会社に対する忠誠心とか無くなるだろうなー。

　ふて腐れながら、バスに揺られて外を見る。

　すると、スマホに着信アリ。

　隣のヤツは寝てるし、もう遠慮無く舌打ちして、スマホを確認すると……

ε=ヽ(*・ω・)ノ

　メリーさんだったよ。

　なんともがっくりとくる顔文字だが、今度は何を追いかけてるんだい？

Σ(O_Oノ)ノ

　あれ？ 顔文字が変わった？

　メリーさんや？ 何があったんだい？

『もしもし、わたし、メリーさん』

　うん、今日はどうした？ 話してごらん？

『胴がやたら太い蛇を見つけて追いかけてたら、おじいちゃんとおばあちゃんがものすごい速度で飛んでったの！』

　……う、うん？ 情報量が多いぞ？

　胴が太い蛇って、まさかツチノコか？

『おじいちゃんは、お尻から火を噴いて飛んでったの！ おばあちゃんはそのあとを走って追いかけてったの！』

　……お、おおぅ。ジェットじじいにターボばあちゃん？

　ジェットじじいって、真面目にジェットなんだな……。

『どこへ行くか気になるの！ また電話するの！』

　がちゃ、つー、つー、つー。

　ああ、追っかけても良いがよ、人様に迷惑はかけるんじゃないぞ？

(また電話するの)

　…………なんだろうな？ めんどくさい大人の付き合いするより、メリーさんの電話受けてた方が、気が楽だな。

子供は、羨ましいねぇ。