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1.黒歴史の朝


 瞼にカーテンの横から漏れる光が当たり、眩しさに思わずそろそろと目を開ければ、閉じられていた耳から小鳥の声が聞こえてくる。

 もう朝か、と顔に落ちる前髪をくしゃりとかき上げ、枕元の時計を見ようとしたが何故か所定の場所には無く、ティナは寝起きの定まらない視点で首を傾げた。


 まあ、寝ている間に落ちたのかもしれないとベッドから体を起こせば、全身の倦怠感と視界の違和感に襲われ、動きを止めた。


(家じゃないな)


 よく見れば間取りと壁紙等は似ているが何より家具が違うものだ。それにとてつもなく汚い。床には洋服が落ちているし、本も落ちていれば何だかよくわからないゴミもある。シンクは洗い物で溢れているのかベッド上からでも積み上がった食器が見えた。それにこの部屋の臭さの原因でもあるのだろう。酒瓶が部屋のあちらこちらにゴロゴロ転がっている。


 部屋を見渡している時点で眠気は吹っ飛び、現実を受け入れてきたティナは青ざめた顔でそろりそろりと横を見た。


 左側に感じる、自分以外の温かさは確かに部屋を見回している時にも感じていた。いや、起きてからずっと感じていた。でも気付いた時に脳が処理を拒否して他のものを見ていたのだ。


「ん……」


 隣の物体が身動ぎ、眩しかったのか毛布を頭から被る。

 それと同時にティナの全身からぶわっと汗が噴き出てきた。


(やってしまった!やってしまったぞ!)


 隣で未だ気持ちよさそうに寝ている男は当然のように服を着ていない。ばっと自分の体を見ればティナも着ていなかった。男の下は分からないが、少なくともティナは全裸である。


 この事から察するに、そう、ティナは『ヤってしまった』のだ。


―――ワンナイトラブという名の一夜の過ちを。


 ティナは隣を起こさない様にゆっくりとベッドから降り、汚い床に散らばった服を拾い着る。いつから掃除していないのかわからない床に拾う時にぞっとしたが、着なければしょうがないので軽く叩いてから着た。だが何故かパンツだけはどうしても見つからず、時間をかけて探すのは男が起きる危険性があるので捜索は中止。心許ない気持ちでノーパンのまま男の部屋を出た。


 鍵は掛けてない。そもそも出る時も掛かってもいなかったので掛けなくても問題ないだろう。


 静かに扉を閉め、そっとノブから手を離す。ほぼ無音で部屋から脱出出来た事で緊張感が少し緩まったが、所詮少しだ。冷や汗は止まらず、体も少し震えている。


 ティナは廊下を見渡し、やはり知っている場所だと落胆した。ここは自分の職場、王城の独身寮だ。つまり、見知らぬ同僚とやってしまったのだ。

 引き攣る心と顔にティナは寮の自分の部屋まで早歩きで急ぐ。乱暴に着た服を抑えて、必死に廊下を抜けていった。


 涙も出ない悲壮な表情は、明るみ始めた静かな朝でも曇天の夜の様に暗さを残していた。




全12話くらい予定です。

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