異譚26 肩を並べて
暗い森を最大限警戒しながら進む。
「……っ、アリス先輩! 人の声ッス!」
暫く進むと、ヴォルフが人の声を耳に捉える。
「状況は?」
「悪いッス! 悲鳴も聞こえるんで、一般人を魔法少女が護ってる形ッス!」
「了解。全員、最大限警戒しながら急行」
「「「「「了解(ッス)!」」」」」
先程遭遇した木の山羊達を警戒しつつ、六人は声のする方へと急行する。
現場に近付けば、アリス達の耳にも悲鳴や怒号が聞こえて来た。
「イェーガー、ヴォルフ、先行して」
「了解」
「了解ッス!」
「ヘンゼルとグレーテルは空からお願い」
「「了解」」
「アシェンプテルは私と一般人の護衛」
「分かったわ!」
先行を支持されたイェーガーとヴォルフは速度を上げて戦闘区域へと進む。
ヘンゼルとグレーテルは巨大なキャンディケインに乗って空を飛び、上空から戦闘の状況を確認する。
「アシェンプテルは補助の準備をお願い。護りは全て私に任せて」
「分かったわ!」
アシェンプテルは即座に補助魔法を使えるように準備する。アリスの指示に迷いなく即座に従う。
アリス達より先行したイェーガーとヴォルフは森を抜ける。
開けた場所に出た二人は、一瞬で状況を認識し判断する。
ヴォルフの言っていた前情報通り、避難をするために集められた一般人とそれを守護する魔法少女。そして、魔法少女が対峙している木の山羊達。そして、その後方から感じる嫌な魔力。
恐らくは異譚支配者のモノだろうけれど、姿を確認する事は出来ない。森の中に紛れているのか、それとも透明になれる異譚支配者なのかは分からないけれど、警戒をするに越した事は無い。
「ヴォルフ! ゴー!」
「了解ッス!」
力強く地面を蹴り、ヴォルフは駆け出す。
魔法少女達の間を抜け、最前線に躍り出る。
「助太刀するッス!!」
凶悪な鉤爪を伸ばし、木の山羊を掴む。
「んっしょぉッ!!」
掴んだ木の山羊を振り回し、他の木の山羊にぶち当てる。
「んっせいッ!!」
拳を握り締め、木の山羊をぶん殴る。木の山羊は陥没しながら吹き飛び、他の木の山羊を押し潰す。
ヴォルフの攻撃では木の山羊を一撃で仕留める事は出来ない。アリスのような両断も出来なければ、イェーガーのように貫通する事も出来ない、陥没させるのが精々だ。
陥没させた個所に核があれば御の字。ヴォルフの役割は相手の前線を下げる事だ。
味方が敵に攻撃される回数を減らす。そのための妨害を最前線で行う。一撃で仕留めきれなくとも、ヴォルフの膂力があれば大きく吹き飛ばす事が出来る。そうすれば、前線で戦う魔法少女達に余裕を持たせる事が出来る。
自分に出来る事は多くは無いけれど、自分に出来る事を精一杯努める。
対して、イェーガーは最前線でどんどん木の山羊達を殲滅する。
イェーガーのいつもの戦闘スタイルからかけ離れた、超攻撃的な戦闘スタイルを披露する。
木の山羊に近付き、ショットガンを撃つ。
散弾は木の山羊に水玉模様を描く。散弾であれば、どこかにある核に当たる確率が高い。構成する核が大きいのか、それとも毎回当たり所が良いのか、今のところ散弾に撃ち抜かれた木の山羊は一発で倒れている。
ただ、まだ近接戦闘に完全に慣れてはいないのか、木の山羊の接近を許してしまう。ショットガンは近接専用とはいえ、安全のためにある程度距離を空けて戦う必要がある。
その、ある程度の距離に入られるとイェーガーは対応が難しくな――
「ふっ!!」
――る事も無く、イェーガーは木の山羊が伸ばした先端の鋭い枝を避けながらショットガンを撃つ。
「近付いただけで勝てると思うなよ」
小柄な体格を生かして俊敏に動き回り、自ら接近し、迫る木の枝を避け、足蹴にし、ショットガンを乱射する。
春花の動画を見たあの日から、イェーガーは自身に足りないモノを自覚した。
狙撃さえ出来れば良いと思っていた。一撃で相手を葬り去り、近接戦をする仲間を援護する事が出来る。
相手に気付かれず、相手の命を奪う。
本来異譚生命体を倒すために生じる危険を回避する事が出来る。イェーガーの狙撃があるだけで、生存率は著しく上がる。銀の弾列という一撃必殺の威力を誇る弾もある。
だから、狙撃さえ出来れば良いと思っていた。
だが、森林での戦闘の際、長銃の取り回しづらさに気付いた。精密射撃は健在だったけれど、ふとした瞬間に長銃では小回りが利かない場面があった。
その時は、距離は短くなるけれど、精密射撃の出来る短銃で対応した。多少接近を許したけれど問題無く対処できた。
だが、その時思ったのだ。
一撃で倒せない相手だったら?
相手に近接を許してしまったら?
複数体に囲まれたら?
あり得ない話では無い。そして、そうなった時、完全に対処出来る自信が無かった。
狙撃には絶対の自信を持っている。だが、狙撃だけではどうしようもない時だってある。そうなった時、戦えないだなんてださい事になりたくなかった。そんな自分を、イェーガーは許せなかった。
春花のC.A.R.を見て、正直憧れた。ただの人間が、ハンドガン一つと己の身体だけで半魚人と十分に戦えているのだから。
体術、銃の取り回し、視線。その全てが参考になる程、春花の銃撃戦は参考になった。
ただ、C.A.R.だけでは異譚支配者や異譚生命体に勝てない。そこに、魔法少女らしい戦い方を組み込む必要がある。
アリスや朱里に近接戦の相手をして貰った。接近戦であれば、短銃よりもショットガンの方が相手にとって脅威である事に気付いた。
一撃必殺。一発必中。それがイェーガーの美学だけれど、美学を曲げてでもイェーガーは近接戦を習得しなければいけないのだ。
敬愛する天使の足手纏いにだけはなってはいけない。それに、近接戦も出来ればアリスと肩を並べて戦う事が出来る。アリスを陰ながら護るのも良いけれど、一緒に前線で戦うのも良い。実に良い。
「練習台だよ、てめーらは」
鋭く、素早く、木の山羊達を殲滅する。
以前の自分より強くなるために。アリスと一緒に肩を並べて戦うために。




