異譚8 クルールー教団
「私達はクルールー教団の者です! 皆さん、直に神の使いがこの世に現れます! 世界を浄化する地ル・リエーと共に、世界を浄化する使者がこの世に現れます! 審判の時は近いのです! 日々を改め、身も心も清らかにして、神の審判を待つのです!」
クルールー教団と掛かれた段ボール板を首から下げ、フードコートに居る人達に声を掛け、手書きのビラを配る教団の信者達。
警備員が止めに入るも、信者達は構わず声を上げてビラを配り続ける。
「何アレ」
「さ、さぁ? は、初めて聞くよね、くるーるーって」
「どちらにせよ、関わらないのが吉よ。まともじゃ無いのは確かだからね」
「そ、そッスね! 皆、気にしないでご飯食べるッス!」
瑠奈莉愛が無理くり笑みを浮かべて妹弟達を安心させる。
だが、笑みが引き攣ってしまっている事に気付けない程、妹弟達は鈍感では無かった。それに、得体のしれない人達が騒いでいるのは子供からすれば恐ろしいものだ。
加えて言うのであれば、小さい子供は大人達の感情の機微に敏感なものである。
一番年下の虹空と或叶は涙目になってしまっている。
さっさと食べて席を立つのが良いだろうけれど、子供達は萎縮してしまって食べるどころではない。
関わらないのが吉。けれど、警備員よりも教団の数の方が多く、手が回っていない様子。
「おー、治安、わりー、です。これがクールジャパン。ん、クレイジージャパン?」
警察が介入する前にみのりの魔法で鎮静化させようかと考えていると、不意に聞き覚えのある声が聞こえて来た。
見やれば、そこにはアリスのコスプレをして白兎のリュックを背負う金髪美少女――シャーロットが居た。
「今日はよく知り合いに会うわね。アンタも買い物してたんだ」
「いえあ。戦利品、たぷたぷ」
言いながら、シャーロットは両手に持ったアリスのイラストがプリントされたエコバッグを持ち上げる。イラストは自分で描き、印刷会社にエコバッグに印刷して貰った特注品である。
「それより、下々」
「誰が下々よ」
「ん? オマエ達? 皆の衆? ……どっちでも良い。ちと、まずい」
「不味いって何が?」
「あれ、イギ――」
「貴様等、悪魔の手先だなッ!!」
シャーロットが説明をしようとしたその時、怒号がシャーロットの言葉を遮る。
声の方を見やれば、そこには血走った目で朱里達を見る男の姿があった。
明らかに悪意のある者の目。いや、悪意というよりも、敵意という言葉の方が適しているだろう。
ずかずかと荒い足取りで近付いてくる男に、子供達は完全に怖がってしまっている。
すかさず朱里は立ち上がり、子供達に近付ききる前に男の前に立ち塞がる。
「ちょっと、子供達が怖がってるでしょ。それに、良い大人が公共の場所で騒ぐなんて非常識よ。場所を弁えなさい」
「黙れ悪魔の手先! 貴様等は我らクルールー教団の神の使徒を不当に虐殺して来た! 虐殺者共が常識を語るな!」
「そうよ! 我らクルールー教団の帰るべき地であるル・リエーからの使徒を虐殺し、我らを現世の地獄に閉じ込める悪魔共めが、正義の味方面するんじゃないわよ!」
勧誘をしていた者達までこちらに集まってきてしまい、ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる。
そうなれば、子供達の恐怖も限界に達してしまう。
歳の若い子供達から泣き始めてしまい、瑠奈莉愛や依溜、立夢は子供達をなだめるのに手一杯になってしまう。
警備員が抑えるも、まるで暴動のように警備員を押し退けて前に出てこようとする。
散々な言いように朱里の頭にも血が昇りかけるけれど、子供達をこれ以上怖い目に遭わせるのは悪手なので、ぐっと怒りを抑える。
だが、そうこうしている間にも教団の者達はヒートアップしていく。
ついには、男が一人警備員の間を抜けて朱里に迫る。
朱里に掴みかかろうとした男に、朱里は素早く反応して対処しようとした――
「――っ、アンタ……!」
――が、それよりも早く春花が動いた。
掴みかかろうとする男の腕を掴み、外側に捻る。
男が痛みに悶える間も無く、男の肩を下に押しながら、腕を捻り上げて男を抑え込む。
一連の動作に淀みは無く、まるで演舞のように男を取り押さえた春花に騒動を見ていた全員が見惚れる。
先程ナンパされた時はたまたま瑠奈莉愛が助けてくれたけれど、男達が無理矢理手を出そうとした場合はこの男のように対処されていただろう。
「ひゅー。カワイ子ちゃんすげーです」
ぺちぺちと手を叩いて春花を賞賛するシャーロット。
「言ってる場合? みのり、鎮静化出来る?」
「う、うん。こうなったら、仕方ないよね!」
素早くみのりは魔法少女へと変身する。
大きなチューリップがみのりを包み込み、次の瞬間には親指程の少女が現れる。
サンベリーナは即座に鎮静効果のある匂いを出す花を教団の者達の周囲に出現させる。
最初は騒いでいた教団の者達だったが、段々と声量が落ちて行き、次第にその場に膝を突き始める。
「ちょ、ちょっと強めのやつだったけど……仕方ない、よね?」
「まぁ、暴力で訴えようとしてたからね。後遺症が残らなけりゃ大丈夫でしょ。アンタも、ソイツ放して大丈夫よ」
「うん」
朱里に言われ、春花は拘束していた男を離す。
男も花の効力にあてられているので、その場に力無く座り込んでいる。
男達が静かになったところで、ようやくやって来た警察が男達を連れて行く。
「東雲さんは、大丈夫だった?」
「アンタこそ、怪我とかしてないでしょうね?」
回り込んだり、手を取ったりして、朱里は春花に怪我が無いか確認する。
「うん、大丈夫だよ。それより、子供達が……」
「あー……完全に怖がっちゃったわね……」
二人は視線を泣き続ける子供達へと向ける。
大の大人が揃いも揃って怒鳴り散らしていたのだ。小さい子であればそれだけで怖いだろう。大人だって、大人が集団で怒鳴り散らしていれば恐怖を感じるものだ。
瑠奈莉愛達もなんとか宥めて泣き声を出す事は無くなったけれど、それでも悲しそうな顔をしている。
白奈やサンベリーナも子供達をあやし、シャーロットは連行される教団の者達の尻を蹴って警察に止められている。
「子供泣かす、悪い奴。ワシが、泣かす。魔法少女、嘗めんな? 地獄の果てまで、ケツ蹴る」
質の悪い輩のような事を言いながら、ぶんぶんと脚を振っている。
何かを知っていそうなシャーロットに事情を聞きたいけれど、今は子供達の方が優先だ。
「はぁ……仕方ないわね。スマートなやり方じゃないけど、一番確実な方法を選ぶわ」
「どうするの?」
春花が問えば、朱里は財布を持って春花に見せつける。
「財力で解決よ」




