異譚9 お揃いのマグカップ
そう言えば、以前ブログにてこの作品を紹介していただきました。
とってもありがたいですし、嬉しかったです。
また、感想や評価、ブクマ、いいねもとっても嬉しいです。いつも励みになってます。
本当にありがとうございます。
春花の謎が深まる中、新たな問題も浮上する。
「ねぇ、春花ちゃんに言ったの?」
「何をです?」
「魔法少女の成長が止まるって事。私は女だから良いけど、あの子男の子でしょ? 魔法少女だって事も世間に隠す訳だし、ずっと成長しないままだと怪しまれるでしょ?」
ずっと歳をとらない少女が居れば、その少女は魔法少女なのだと周囲は理解する事だろう。それほどまでに、魔法少女の成長が止まると言う話は当たり前の話なのだ。
けれど、男の子の成長が止まると言うのは当たり前の事では無い。世間からは好奇の目に晒され、疑念を抱かれる事は間違いないだろう。
「……一応、本人には話してあります。ただ、その問題を正しく認識しているかどうかは分かりません……」
「そっか。まぁ、今は先の事を考えてる余裕も無いだろうしね」
記憶喪失の上に、魔法少女としての活動をしなければいけない。本人に覚えが無くとも、心に深い傷を負っているために私生活でも怯えて過ごす日々。
先の事に目を向けている余裕なんて無いだろう。
「ま、その問題は後で片付けましょう。言い方は悪いけど、春花ちゃんが生き残った末に発生する問題だからね。その問題に直面するためにも、春花ちゃんが生き残る力を養わないと」
「そうですね。引き続きよろしくお願いします、先輩」
「ええ、任せなさい」
黒奈は自信満々に、自身の薄い胸を叩いた。
「ただいま~」
「お帰り、お母さん」
家に帰れば、学校から戻って来た白奈がシンプルな白色のエプロンを着て料理をしていた。
黒奈の住むマンションは玄関の直ぐ横にキッチンがあるので、帰って来れば直ぐに分かるのだ。
「もうすぐお夕飯出来るから、お母さんは居間で待ってて」
「ありがとう~白奈~。お母さんもうお腹ぺこぺこ~」
お夕飯を作っている白奈にお礼を言いながら、黒奈はぎゅっと白奈を後ろから抱きしめる。
「料理中だよお母さん。危ないから止めて」
なんて口では言うけれど、親子のスキンシップを喜んでいる様子の白奈。
「ぶぅ~、娘がつれな~い」
ぶうたれながら、黒奈は居間へと向かいスーツから部屋着へと着替える。
黒奈が着替えている間に、白奈は料理を居間のローテーブルへと運ぶ。
「あ、そうだ。白奈、これ」
持ち帰って来た袋をがさごそと漁り、黒奈は袋の中からにんまり笑顔の猫がプリントされたマグカップを二つ取り出した。
黒色が黒奈ので、白色が白奈のだ。因みに、春花とお揃いであり、春花は青色を持っている。
カラーバリエーションが豊富で、三人のイメージカラーにあったマグカップを買う事が出来た。
「わぁ、可愛……い……?」
受け取り、そのガラを見て小首を傾げる白奈。
「え~、可愛いじゃ~ん」
「お母さん美的感覚はちょっとずれてるからなぁ」
「ずれてないですぅ! ちょー可愛いじゃんこれ~!」
膨れっ面をする黒奈を見て、白奈は思わず苦笑する。
「でも、ありがとうお母さん。マグカップ、大事にするね」
お礼を言われ、膨れっ面から一転して、黒奈は嬉しそうに微笑む。
「うん、大事にしてあげて。可愛い可愛いマグカップなんだからね」
「はいはい。それよりも、冷めちゃう前にご飯食べよう」
「はーい」
二人はローテーブルを挟んで座り、いただきますと言ってからご飯を食べ始める。
「う~ん、美味しい~。白奈、また腕上げた?」
「そんなに直ぐ変わらないよ」
言いながらも褒められて悪い気はしない。それが実の母であれば尚更である。
「そう言えば、聞いて良い事か分からないけど」
「うん? 何?」
口一杯に料理を頬張りながら答える黒奈。
「今日、会ったんでしょ? どうだった?」
会った。誰にとは言わないけれど、誰の事を言っているのかは分かる。
黒奈は口の中のものをごっくんと飲み込んだ後で真面目な表情で話をする。
「うん、会ったよ。でも、今日はちょっとお買い物行っただけ。運動着とか何も持って無かったみたいだからさ」
「マグカップもその時買って来たの?」
「そう。可愛いなって思って一目惚れでね」
「そう……」
少しだけ白奈の表情が翳るけれど、それも一瞬の事。直ぐにいつも通りの柔らかな笑みになる。
「今度、白奈も一緒に行きましょ。可愛いの一杯あったんだから」
「うん、今度行こう。その時は、その子と三人で……?」
「あー……暫くは無理かな。その子、対人恐怖症っぽいところあるから……」
「そっか……残念」
春花が男の子である事はおいそれと話す事は出来ない。例えそれが信頼の置ける家族であってもだ。本当は、春花の存在を外部に漏らしてしまう事だってしてはいけないのだ。家族への説得のために特別に許可を貰っていたのだ。
それに、対人恐怖症と言うのも嘘ではない。黒奈とは比較的普通に話してくれるけれど、ショッピングモールで春花自ら店員に声を掛ける事は無かった。
店員に声を掛けられた時だって、春花は恐怖で震えていた。ナンパされていた時もそれは同じである。
外は怖くないよと教えたくて一緒にショッピングモールに行ってみたけれど、結果的に怖い思いをさせてしまったのは申し訳無いと思っている。
それでも、黒奈だってずっと一緒に居られる訳では無い。いずれは、春花も独り立ちする時がやって来る。
春花は魔法少女としての高い素質を持っている。魔法少女として大成し、後輩達を引っ張ていく事になるだろう。
その時、黒奈は春花の隣には居ない。春花と友人として付き合う事は在るかもしれないけれど、魔法少女としての活動はきっともうしていないだろう。
責任を持って白奈を育てるために、母親としての責務を今度こそ真っ当しなくてはいけないのだから。
でも、その時は春花も自分の子供として迎え入れたい。急に男の子が家族になって白奈は戸惑うかもしれないし、春花だってきっと戸惑うだろう。けれど、家族の居ない春花の家族として一緒に暮らしていきたいのだ。
白奈はきっと良いお姉ちゃんになってくれる。今まで見て来たから分かる。
そして、欲を言えば、元の四人家族に戻って、もう一人増えて五人家族になって、一緒に家族団欒を過ごしたいとも思っている。自分勝手なのは分かっているけれど、そうなれば最高だとは思ってしまう。
だが、それも全て終わってからの話だ。何も終わっていない今は、ただの夢物語である。
「でも、いつか一緒にお買い物行けたらいいね」
「そうだね」
黒奈の言葉に、にっこりと微笑む白奈。
真面目な話が終わった後、二人はいつも通り楽しくお喋りをして過ごした。
食後に飲んだコーヒーはお揃いのマグカップを使っているからか、少しだけいつもより美味しいような気がした。




