異譚8 存在しない校章
昨日は帰ってきたら爆睡してしまい、更新できませんでした
ごめんね
黒奈が魔法少女だと知ると、男達の反応は鈍くなる。見た目が若いからとは言え、流石に子持ちの相手をナンパするのはリスクが高い。
だが、魔法少女が歳をとらないという話は一般人でも知っている程に有名な話だ。目の前の少女が本当に見た目よりも歳をとっている可能性も在れば、ナンパ避けのために嘘を吐いてる可能性も高い。
それでも、手を出した時のしっぺ返しはそれ相応だ。何せ、相手は国防の要である魔法少女だ。この事が露呈すれば、世間からの風当たりも強くなる可能性が在る。
男達の反応が鈍くなったのを良い事に、黒奈は春花に預けた荷物を持ち、春花の手を引いてその場を離れようとする。
「ちょ、ちょっと待った!」
だが、三人の内の一人が咄嗟に春花の腕を掴む。
突然腕を掴まれて、大袈裟なくらいに驚く春花。
「ひっ……!!」
荷物をその場に落とし、怖がるように黒奈の腕にしがみつく。
「ちょっと! ウチの子に触らないで!」
慌てて春花を掴む男の手を叩く。男が手を離したら、即座に春花を自身の背中に庇う。
春花はがたがたと震えながら黒奈の背中にしがみつく。
「あんた達、これ以上ちょっかいかけるようなら警備員さん呼ぶけど?」
本気で怒りを露わにする黒奈を見て、春花の手を握った男も流石に不味いと思ったのかバツの悪そうな顔をする。
けれど、その視線は黒奈では無く黒奈の後ろにいる怯えた春花に固定されている。
「おい、不味いって……」
「なぁ、もう行こうぜ」
春花の手を取った男とは別の二人が、春花の手を取った男を引っ張って連れて行く。
その間も、男は春花の事を見ていた。それは興味と言うよりは執着に近い感情のように思えた。
何故そんなに春花に執着を示すのかは分からないけれど、男は初対面であるにも関わらず春花に執着を見せた。
確かに、春花は可愛い。それも、極上と言って良いほどの可愛さだ。
それでも春花は中学生だ。春花をナンパした男達はどう見ても大学生くらいの年齢だった。大人と言っても過言ではない年齢。
そんな年齢の相手が、中学生である春花に執着を示すのはある意味で異常とも取れた。
「大丈夫だった?」
背中に引っ付いている春花を優しく引き剝がした後に振り返る。
春花は怯えたように震えたままだ。黒奈が春花の手を握れば、春花は必至に黒奈の手を握り返す。
例え少しの時間とはいえ、春花を一人にするべきでは無かったと反省する黒奈。
「もう帰ろうか。帰ったら、一緒に美味しいご飯作ろうね。春花ちゃんも、お腹空いたでしょ?」
黒奈が優しく言えば、春花は震えながらもこくりと頷いた。
黒奈は荷物を全て自分で持ち、春花の手を握って駐車場まで向かった。
「って事があったのよ」
「そうですか……」
春花と一緒にお昼ご飯を作り、昼食を済ませた後で沙友里のオフィスでショッピングモールでの出来事を沙友里に伝えた。
春花は怖い思いをしたからか、お腹が一杯になったからかは分からないけれど、今はチェシャ猫と一緒にお昼寝をしている。
「いくら春花ちゃんが可愛いって言ってもさ、相手は中学生よ? 良い大人が声掛けるなんて節操の無さにドン引きよ、ドン引き」
怒り心頭の黒奈だけれど、先程の違和感の事は忘れていない。
何故か春花に執着を見せた男。出会って数分の相手に見せるには、あまりにも異常だった。
異常と言えば、春花の反応もそうだ。春花が恐らくいじめられていたであろうことは想像に難くない。
自身が作った料理しか食べられないのもそうだけれど、腕を掴まれたくらいで身体があれ程までに反応するのは、昔に余程怖い思いをしたという事を記憶では無く身体が覚えているという証拠なのだろう。
過去にいじめられていた黒奈は、反骨精神があった。何かされればその都度倍以上にやり返していたし、相手に恐怖をするよりも怒りや恨みの感情の方が強かった。
けれど、春花は違うのだろう。春花はされるがままで、反撃なんてした事が無かったのだろう。震えて耐え忍ぶ事しか出来なかったのだろう。
黒奈は春花の過去を知りたいと、いや、知らなければいけないと思っている。春花の事情が分からないと、対処をする事も出来ないのだから。
「そう言えば気になったんだけどさ」
「なんですか?」
「いくら春花ちゃんが記憶喪失って言ってもさ、あのセーラー服に付いてる校章で中学校とか分かるんじゃないの? 一般人なら時間かかるだろうけど、対策軍なら直ぐに分かるんじゃない?」
「私も、それは考えて直ぐに依頼を掛けました。ですが……」
「ですが?」
「無かったんです。何処を探しても」
「無い? そんな事ある? あんなにしっかりした校章なのに?」
春花のセーラー服に付いている校章はしっかりとしたモノだ。それに、セーラー服の造りもコスプレ用の衣装とは訳が違う。
「洗濯表記に載っている制服を作っている工場にも連絡をしました。確かに、その工場で造られている制服だったのですが、やはり校章には見覚えも無いみたいで……取引先の学校のリストにも載っていませんでした」
「すんごい昔のセーラー服って可能性は? ほら、セーラー服とか買えないからお下がり着てるとか」
「いえ、全て調べましたがこの日本でその校章を使っていた学校は在りませんでした」
「……じゃあ、実在しない学校の服着てるって事?」
「現状ですと、そうなりますね……」
「どういう事……」
春花が何も憶えていなくとも春花の周りから調べられるかとも考えてみた。だから、春花の着ているセーラー服から何か分からないかと思ったけれど、逆に謎が深まる事となってしまった。
春花は何処から来て、春花の身に何が起こったのか、最早推測も難しい。
制服自体はちゃんとした物だ。コスプレ用の衣装という訳でもない。にもかかわらず、何処の学校の校章にも当てはまらない。
「……あの子、本当に何者なのかしら……」
「一応、調査の方は続けて貰っています。ただ、あの子の情報があまりにも少なすぎるので、何か分かるのにも時間がかかると思います」
「そうよねぇ……まぁでも、分からなくても別に良いんだけどね」
ソファに深く座り、沙友里の淹れたコーヒーを飲む。
「思い出したくない事もあるだろうし、思い出さなくて良い事だってある。それに、なんであれあの子を助けるって決めたからね。過去にこだわるつもりは無いわ」
黒奈にだって思い出したくない過去はある。無かったことにしたい過去だってある。
苦しかった事、悲しかった事、辛かった事。今でも思い出して胸が苦しくなる事は在る。
春花がいじめられていた事実に変わりはない。きっと、思い出したくない事も多いはずだ。
「何かが分かって、もしあの子が悪かったなら私が叱ってあげる。何かを思い出して、あの子が傷付けられただけなら、私が寄り添う。母親として……なんて言う資格、私には無いけど、少しでもその代わりとしてあの子の力になれたらって思うわ」
ただ、やはり母親らしい事をするのには若干の申し訳無さがある。誰に対してと言われれば、それは自身の娘である白奈と美奈に対してだ。
家族を捨てた自分には、母親らしい事をする資格なんて無い。さりとて、同年代のように接する事も出来ない。
同じ心の傷を持つ者として寄り添い慰める事しか、今の黒奈には出来ないのだ。
それでも、誰も居ないよりはずっと良いはずだ。そして、ゆくゆくは誰かが傍にいる事の幸せを教えてあげられればと思っている。
全部が全部、春花を助ける事が出来なくても、少しでも春花を助けられればそれで良い。
自分がして貰ったように。自分が助けて貰ったように。
ゆっくりで良い。ゆっくり、春花と生きていけば良い。今は、そんな風に思っている。
春花のペースで、ゆっくり、一歩ずつ、幸せに向かって行ければ、それで良い。




