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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・前編

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◆第98話◆ 『宝石級美少女の家』


 文化祭準備一日目が終わった帰り道。いつものように、星宮と秋の二人は一緒に帰宅をしていた。他愛のない会話をしながら(主に秋からの一方的なアニメトーク)、ふと秋の表情が真面目なものに変わる。


「コハはあの女のこと嫌いなの?」


 秋のドストレートな質問に、星宮は言葉を詰まらせた。秋の言う"あの女"とは、朝比奈美結のこと。勿論、秋は星宮と朝比奈の間に何があったのか知らないので、単純に星宮と朝比奈の関係に疑問を思ったのだろう。


「......自分でも、よく分からないんですよね。朝比奈さんが私のことを嫌っているのは確かなんですけど、私は......」


「......」


「......私は、朝比奈さんのことが苦手です。でも、嫌いかどうか聞かれたら......嫌いではないんじゃないかなって、思ったり、します。理由は、よく分からない......ですけど」


「すっごいしどろもどろ」


 星宮は朝比奈のことが苦手。でも、そこに嫌いという意味合いは込められていない。暴力も受けたのに、その事について謝られてもいないのに、何故星宮は朝比奈のことを嫌わないのか。それは、星宮が優しすぎるが故の理由もあるのだろう。


「朝比奈さんが過去のことを全部水に流して、普通に接してきてくれたら、私もやりやすいんですけどね」

 

 実は星宮はもう、朝比奈のことは恨んではいない。いろいろと思うところはあるが、朝比奈のおかげで庵の魅力に気づけたりと、なんやかんや感謝している部分もある。だが、だからといってそこまで積極的に朝比奈と関わりを持ちたいわけではない。それに、恨んでないとはいえ、一度は暴力を受けた相手。そんな人間はやっぱり怖いので、彼女とどう接していくかはどのみち難しい話だ。


「コハとあの女がどういう関係か知らないし、興味もないけど......ま、がんばれ」

 

「......がんばりたいですね」


 抑揚のない口調で返事をし、話題を切る秋。何か良い助言が貰えると思いきや、適当に話を終わらせるところが実に秋らしい。


 星宮が黙り、考え事をしながら前を歩く。電柱にぶつかりかけて、間一髪で立ち止まった。


「......?」


 気づけば、いつの間にか秋が隣に居ない。来た道を振り返ると、ジーット自販機を見つめている秋の姿がある。


「秋ちゃん、どうしたんですか」


「コハ、これ買って。私お金ないから」


「はい?」


 星宮は秋の居る場所まで戻り、秋が指差しているものを確認する。どうやら、ファン○オレンジがお望みのようだった。ジトーっとした視線を秋に送る。


「なんで私が買わなきゃいけないんですか。それくらい、自分で買ってください」


「硬いこと言わないで。今、目の前で大切な友達が困ってるでしょ。助けあげたいとか思わないの」


「......困ってるのは私の方です」


 はあ、と軽く溜め息を付き、星宮は自身のカバンの中から財布を取り出す。白い長財布から小銭を取り出し、手のひらに乗せた。これも親睦を深めるためだと自分に言い聞かせて、渋々秋に手のひらのものを押し付ける。


「ありがと」


「いつか返してくださいよ」


 万年金欠の秋は、一生この貸しを返すことはなかった。



***



 ――星宮の自宅にて。


「おー、思ったよりシンプル。なんかコハらしい」


 星宮の部屋をキョロキョロと見回し、落ち着きのない秋。そう、今日は星宮が秋を家に招き入れたのだ。なんやかんや星宮は他人を自宅に招き入れたことがなかったので、いつも一人で過ごしている部屋に自分以外の人間が居るとどうも落ち着かない。といっても、特段変なものは置かれていないはずだが。


「適当な場所に座っていていいですよ。私は飲み物持ってきます」


「飲み物はさっきのファン○あるからいい。それよりお菓子ちょうだい」


「......確か、シュークリームがあったはずですけど、それでいいですか」


「最高」


 あまりに遠慮のなさすぎる秋の図々しさに、星宮も苦笑いを隠せない。ベッドにダイブしながらくつろいでいる秋を横目に、冷蔵庫に保存してあるシュークリームを取りに行く。それを皿に乗せて、くつろぐ秋のところまで運んであげた。


「おー、美味しそ」


「私のお気に入りです。美味しいですよ」


 秋にシュークリームを提供してから、星宮も冷蔵庫から麦茶を取り出して喉を潤しておく。ふう、と星宮が冷蔵庫前で一息ついていると、口端にクリームを付けた秋が顔だけこちらに向けてきた。


「――そういえばコハって一人暮らしだっけ」


「そうですよ。自分で言うのも変ですけど、珍しいですよね」


 なんやかんやで語る機会がなかったが、星宮は高校を入学したときから一人暮らしを始めている。親元はもう、とっくの昔に離れていた。秋の不思議そうな視線が突き刺さる。


「なんで一人暮らしなんかしてるの。親が居なきゃ不便でしょ」


「そのとおりなんですけどね......私の実家と通っている高校がとっても遠いんですよ。本当は実家近くの高校を受験する予定だったんですけど、そうもいかなくなっちゃって」


「へえ、そう。電車とかは使わないの?」


「その選択肢もあったんですけどね......いろいろあって、一人暮らしを選びました。でもまあ、今思えば一人暮らしを選んで良かったって思ってます。親が居ないっていうのも、自由で良いものですよー」


 星宮はそう笑いながら語るが、この一人暮らしに至るまでには壮絶な背景がある。胸元に手を当てて深く深呼吸。久しぶりに『昔』のことを思い出してしまった。


(一人暮らしじゃなきゃ、だめなんですよ)


 星宮が一人暮らしをする理由は二つある。


 一つは、中学三年のころに受けたいじめによるもの。詳しい経緯は以前に語っているので省かせてもらうが、中三のときに星宮は壮絶ないじめを受けていた。クラス全体からいじめの対象にされて、先生も頼りにならなくて、どうしようもならなくなった経験をしている。そのようなことから、高校では中学のころのクラスメイトが誰も居ない場所を選びたく、遠い今の高校を選んだ。


 二つ目は、複雑な家庭環境によるもの。今は深くは語らないが、星宮の父親はかなり変わった人間で、星宮のことについてよく夫婦で言い争いをしていた。ただ母親の方はまともな人間で、星宮のことを大切にしてくれていたのだが、次第に父親の行動がエスカレートしていって、鬱病に陥ってしまった。自分が原因で家庭が崩壊していってしまうと悟るのに、そこまで時間は要していない。家庭を守るためにも、親元を離れなければならないと思い、一人暮らしを始めることを決意するきっかけとなったのだ。


 秋が「へえ」と、共感できなさそうに頷いてくれる。昔を思い出したせいで表情が暗くなりかけたので、軽く手の甲をつねって気合を入れ直しておいた。


「ま、コハがいいならいいんだけど......一人暮らしとか私絶対無理」


「最初は私も大変でしたよ。でも、お母さんがいろいろと教えてくれたのでなんとかなりました。一人暮らし始めたては、毎日お母さんと通話してましたね」


「マザコン?」


「なんでそうなるんですか」


 秋の急なツッコミに星宮は目をジトーっとさせる。でも、実は図星だったりするので、これ以上は何も口にしなかった。母親はとても優しかったし、父親からよく守ってくれたので、まだ幼い頃はだいぶべったりだった覚えがある。


「......でも、最近はお母さんとあまり連絡が取れていないんですよね」


「へえ......ん?」


 最近は通話は疎か、メッセージのやり取りすらあまりできておらず、だいぶ疎遠になってしまっている。母親の話をしたら声を聞きたくなってきたので、今日、ひさしぶりに連絡を取るのもいいかもしれない。


 と、そんなことを考えていたときだった。いつの間にか秋の視線が星宮から外れている。


「今日お母さんにLINEしてみましょうっ.....って、あの、秋ちゃん?」


 気づくと、秋がベッド横の引き出しを開けて、中をいじっている。勝手に引き出しを漁る秋を咎めようとするが、その前に星宮の顔色が変わった。その理由は、秋が引き出しから取り出した小さな一枚の写真にある。一瞬にして、星宮の顔が真っ赤になった。


「っ、ああっ!」


「ほうほう。なんだこれは」


「秋ちゃん! それは見ちゃダメで――」


 時すでに遅し。秋が珍しくにやけた表情になっていて、引き出しから見つけたものを星宮にも見せつける。


「コハ、彼氏いるんだ」


「〜〜〜っ!」

 

 クリスマスのときに撮った、庵とのプリクラのツーショット。引き出しに仕舞っぱなしだったのをすっかり忘れていた。いつか秋には庵のことを話そうと思っていたが、まさかこんな形でバレてしまうとは。星宮は顔を真赤にさせたまま、すぐに秋の手から写真を奪い取った。

執筆する機械を変えました。おかげでだいぶ快適になったので、これからしばらくは更新頻度が高まるかと。誤字も減りそうです。

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