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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・前編

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◆第95話◆ 『北条康弘という男』


 帰路を歩いていく内に、日は完全に落ちてしまった。吹き荒れる寒風がコート越しに身に染みるが、今はそれが心地よく感じられる。何故なら、秋の手によって帰路を走らられたからだ。そのせいで体が温まり、息切れもしてしまった。


「......はぁ、はぁ。秋ちゃん、そろそろ聞かせてください。何で北条くんたちから逃げたんですか」


 何の説明も無しに北条たちからの逃走を図った秋。何か理由があっての事だとは思うが、星宮にはその真意が分からない。

 

 問いかけを受け、秋は顔だけ星宮に向ける。


「――私、あの男、北条ってやつ嫌いなの」


 答えは至ってシンプル。これだけではただの秋の好き嫌いに見えるが、今の口調の重みからして、理由もなく北条が嫌いとは思えない。


「えっ。なんでですか?」


「......目がキモい」


「目......はい?」


 性格ではなく、まさかの部位を理由にした秋。目といっても、別に北条の目は他の人と特に変わりはない。というか、彼の目は客観的に見て優しそうな目をしている。少なくとも星宮は北条の目に違和感は感じていない。


「なんか、作り笑いしてるように見える。目が笑ってない」


「......アニメの見すぎじゃないですか?」


「違うし。私の勘がそう言ってる」


「は、はぁ」

 

 そんなことを言われても、具体的な根拠に欠けすぎて信用ができない。それに、普段の秋の印象が更に信用性を損なわせるので、星宮は秋の言葉を真に受けれなかった。そもそも、北条には一度助けられている身なので、あらぬ疑いはなるべくかけたくない。ましてや、一度告白された相手だ。


「コハ。あいつとはあんまり関わらない方が良いと思う。私の『女の勘』はよく当たるから」


「......私、どちらかと言えば朝比奈さんの方が苦手なんですよね」 


「あの女は知らんけど、問題は男の方だから」


 初めて見る、秋の念押し。少しは心の迷いが生まれたが、結局星宮はこの言葉を信じきれなかった。


「あいつ、コハと喋るとき、若干声が強ばってる」 



***



 ――同刻。


「あーうざいうざいうざい。超ムカつくなぁ。へらへら楽しそうにしやがって。マジで捻り潰したい」


 血管が浮き出るほどに体をひくひくとさせ、目を大きく見開きながら暴言を吐き続ける北条。時々頭を掻きむしっていて、余程イライラが溜まっているのが見てとれる。


 歩きスマホをしながら隣を歩く朝比奈も、どこか気まずそうに冷や汗をかいていた。


「あいつに何があったんだよ。どうして友人ができてんだよ。孤立してたはずだよなぁ。なのになんでだよ。小岩井秋? 誰だよそいつ。ふざけるのも大概にしろよ、なぁ」


「......」


「星宮さん、お前は孤立してるのがお似合いなんだよ。孤立すべきなんだよ。お前は俺を散々バカにしやがったんだから、苦しむべきなんだよ。それが、運命(さだめ)ってやつなんだよ!」


「......」


 止まることのない怨嗟の声。そんな北条の豹変ぶりに、朝比奈もかける言葉がない。とりあえずスマホをいじって無視をするが、いい加減聞いてて耳が痛くなってきた。言っている内容は半分も理解できないが、とりあえず星宮を余程恨んでいることはよく分かる。


「いつもいつもそうだ。俺を舐めた目で見やがって。笑ってる声も、楽しそうな声も全部うざい。あぁ、やっぱり捻り潰したいなぁ」


「......」


「俺がどれだけ努力してると思ってんだよ。何も知らないお前は俺の努力を踏みにじりやがってさぁ。少し顔が良いからって浮かれるなよ。お前は――」


「あの、北条くん」


 堪えかねた朝比奈が声をかける。北条のギロリとした視線が、朝比奈に突き刺さった。


「ちょっとうるさいんだけど。そういうの、誰も居ないところでやってくれない?」


「――」

 

 呆れたような声で、北条にストップをかける朝比奈。その言葉を耳にした瞬間、北条が立ち止まり、しばらくの沈黙が流れる。何も反応が無く、朝比奈が後ろを振り返ろうとした瞬間だ。


「――っ!? うぁっ!」


 躊躇なく伸ばされた腕が朝比奈の首を掴んだ。首を掴まれた朝比奈は、そのまま近くの壁に叩きつけられ、鋭い衝撃とともに悲鳴を溢す。同じタイミングで、手に持っていたスマホがどこかにぶっ飛んだ。


 それを成した人物――北条の冷徹な視線が、朝比奈に突き刺さっていて――、


「朝比奈さん、俺が今超イラついてんの分からない? バカなのか?」


「ご、ごめんって! 分かったから、手離してっ!」


 咄嗟に謝罪して、朝比奈が北条の手を強引にどかそうとする。だが男の腕力には敵わず、ただジタバタと暴れることしかできない。


 北条の手にこめる力はみるみると強まる。呼吸ができなくなった。


「痛いっ! いやっ。やめっ、て。ふざけないで、よ」


「朝比奈さん。ギブアンドテイクの話、覚えてる? 俺は朝比奈さんの要望通り、天馬への復讐を代行したんだよ。だから、朝比奈さんは俺に貸しがあるはずだ。なのになんだよ、その生意気な態度」


 手の力を一切ゆるめずに、淡々と口を開く北条。苦しさのあまり朝比奈が涙目になるが、そんなのお構い無しだ。突然の北条の暴力に、朝比奈は成す術がない。今は視界も滲んで、北条の姿すら捉えられないのだから。


「俺たちの関係が『友達』だとでも思ってる? だから、俺に舐めた口聞いてんのか? 俺と朝比奈さんの関係に名前を付けるとしたら、ビジネスパートナーってところだ。ただ、お互いの利益のためだけに、俺らは手を組んでるんだよ」


「分かったっ、分かった、から! 手、離して!」


「いいや分かってない。朝比奈さん、ぶっちゃけた話、俺に協力する気あまりないだろ。俺は星宮さんの弱みを握れって君に命令してるはずだけど、動いてる? 俺、朝比奈さんがスマホいじってるとこしかまだ見てないんだけど」


「んんっ、んんんッ」


 北条が問いかけるが、いよいよ朝比奈の呼吸がきつくなってきていて、答えられる状態にない。口端からよだれも垂れて、だいぶ限界が近そうだ。


 北条は鼻を鳴らしながら、ようやく朝比奈の首から手を乱暴に離す。首にはうっすらと赤いアザができていた。


「ッ。かはッ。けほっ。けほっ。はぁ......はぁ......」


「ごめん、力の加減ミスったよ」


 抑揚の薄い口調で、短く謝罪する北条。対する朝比奈は満身創痍。言い返す気力も削り取られ、何も言葉が出ない。


 そんな彼女はガクガクと足を震わせながら、壁を利用して立ち上がる。呼吸を荒げながら、まず落としたスマホを回収した。その様子を見て、北条は不快そうに目を細める。


 ――チャッと、金属の擦れるような音が響いた。


「――とりあえず、話を変えようか。といっても、そこまで変わらないけど」


「......はぁ?」


 朝比奈が、力の抜けた声を漏らす。途端、再び朝比奈の呼吸が乱れ出した。さっきまで首を絞められていた余韻は関係ない。理由はもっと、別に、直ぐ近くにある。

 

 額に冷たい感触が当たった。


「今日で、小岩井さんが俺にとって邪魔な存在ってことが分かった。俺の作戦が完遂するまで、あの女は邪魔」


「......待って。ちょっと待ってよ、北条くん。なにそれ」


「これのことは気にしなくていいよ。だいぶ昔に知り合いから貰ったんだ。本物だけど、脅しにしか使うつもりはない」


「は、はぁ?」


 北条は『これ』を手にしながら、朝比奈に次なる命令を下す。口角を大きく上げ、酷く、残酷に、冷徹に、悪魔のように嗤いながら――、



「朝比奈さん、生意気な君にもう一つ命令だよ。小岩井さんを、しばらくでいいから学校に来させるな。とりあえずはそれを最優先にしよう。勿論、手段は問わない。できるよな?」


 

 ポケットナイフを額に突きつけられた朝比奈は、首を縦に振るしか選択肢は無かった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 流石に拳銃まで出てくると、韓国で朝にやっているマクチャンドラマだったり、以前フジテレビ系列でやっていたお昼のドラマみたいになってしまっていて、やり過ぎな気がします…。マクチャンドラマを…
2023/05/06 08:19 退会済み
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