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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第二章・後編

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78/234

◆第78話◆ 『宝石級美少女の過去(前編)』

今回は過去編という事で新キャラ多いです。多分混乱すると思われますので、予め、ざっくりとしたキャラ紹介を書いておきます。


星宮琥珀(中学3年生)

赤井理沙(星宮の中学の親友)

遠井あかり(星宮の中学の親友)


飯田遠矢(星宮のクラスメイト、星宮のことが好き)


神代真由美(学年カーストトップ、赤髪問題児ギャル)

?????(ハーフの大柄の男子、筋肉)


過激な描写を含みます。それと今回少し長いです。あと、地の文が星宮視点です。


 それは、私が中学3年だった頃の話。とある夏の日に、私は校舎裏に呼び出されていた。


「俺......琥珀ちゃんのことが好きなんだ。俺と付き合ってほしい」


「えっ......」


 校舎裏に私を呼び出したのはクラスメイトの男子。名前は、飯田遠矢(いいだとおや)くん。そしてされたのは告白だ。今でも、私に頭を下げて告白してきた光景が、目に焼き付いている。


「えっとですね......申し訳ないんですけど、お断り......します。別に飯田(いいだ)くんが嫌いってわけじゃないんですけど......」


 その時、飯田(いいだ)くんの顔は悲しそうに歪んでた。でも私だって、付き合う人を選ぶ権利がある。私と飯田くんは元からそこまで仲の良い関係ではないし、私は飯田くんがどういう人間なのか知らない。


 それは、飯田くんも同じだと思う。飯田くんも、大して言葉を交わしたことのない私が、どういう人間なのか分かっていないと思う。そんなに薄っぺらい関係性なのに、何で私に告白して勝算があると思ったのだろう。ダメ元、だったのでしょうか。


「......なら、お試しに、一週間だけ付き合うってのはどうかな?」


「えっ?」


「ほら、一週間試しに付き合ってみれば、案外気が合ったりして――」


「お断りします」


 告白でここまで食い下がってくるのは珍しいけれど、私はきっぱりとお断りした。お試しに付き合うなんて、そんなのとても良くないことだと私は思う。私の思う恋愛像は、もっとロマンチックなものなのだから。


「私はまだ、誰も好きになったことがないんです。だからまだ、恋愛というのがよく分からないっていうか......言い訳みたいに聞こえると思うんですけど、本当です」


 私は飯田くん以外にも、これまで沢山の男の子に告白されてきた。勿論全て、丁寧に断ってきているつもり。だから今回も、飯田くんを傷つけないように、丁寧に断っていく。


「せっかく勇気を出してくれたのに、ごめんなさい飯田くん。これから私と話すのが気まずくなるかもしれないですけど、私は飯田くんのこと嫌いなわけではないので、普通に話しかけてもらえたら大丈夫ですよ」


「......」


 自分で言うのも変だけど、私って罪な女なのかな。別に悪意はないのに、とても大人数の男の子を振り回している気がする。それが嬉しいことなのか、嬉しくないことなのか、このときは分からなかった。


 飯田くんも、私に振り回された人の一人。今さらだけど、飯田くんはクラスの中心に居る、所謂カースト上位の人間。陽キャって言ったほうが早いのかな。飯田くんは、思慮分別ができるとても優秀な男子だ。


「......そっか、無理言ってごめんね、琥珀ちゃん」


 そうして、告白の時間は無事穏便に終わる。私も飯田(いいだ)くんも、心臓ドキドキで仕方なかったと思う。ドキドキの方向性は、お互いに違うと思うけれども。



***



「琥珀~。やっぱり告白だった?」

「コハ、やっぱり告白されたか」


理沙(りさ)ちゃん、あかりちゃん、声大きい......」


 飯田くんに告白されて教室に戻ると、いつものメンバーが私の机を囲みながら、生暖かい目をして私を出迎えてくれた。このメンバーには、飯田くんの告白の事について既に相談済み。


 ツインテールをして切れ長な目をしているのが赤井理沙(あかいりさ)ちゃん。身長がちょっと高めで、運動神経が抜群の女の子。


 三つ編みおさげで、ちょっと態度が大きいのが遠井(とおい)あかりちゃん。私のことを『コハ』ってあだ名で呼んでくれる、可愛い女の子。


「やっぱりコハは罪な女だよな。アタシなんて、一回も告白なんかされたことないわ」

 

「マジそれな~。琥珀、あんたもう何回告白されてんの?」


「多分、もう5回目くらい?」


 私が真面目な顔で答えると、二人は顔を見合わせて肩を竦める。


「はぁ~。なんで琥珀は、そんな男子受けのする顔してんのかなぁ」


「そんなに私、男子受けする顔ですか? 鏡見ても、別にそこまでクラスの人と大差はないと思いますけど......」


「あーウザイぃ。持つ者が、持たざる者の気持ちが分かるわけないでしょ。ウチだって、めっちゃ努力してんのにさぁ......全く思う通りにならんわ」


「理沙ちゃんは可愛いですよ。だからそんなに項垂れなくても......」


 ――この頃の私のヘアスタイルはポニーテールだった。特に理由があってしていたわけではないけれど、強いて言うならばお気に入りの花柄のシュシュを持っていたからだ。


 ツインテールをする理沙ちゃんや、三つ編みをするあかりちゃんに比べて、私がしている努力は二人にとても劣っていると思う。でも、みんな私のことを可愛い可愛いと誉めてくれた。最初はそれを嬉しいって思えてた時もあったけれど、最近はプレッシャーになりつつあるし、いつか誰かを傷つけてしまいそうで怖い。


 そういう意味で考えれば、私ってやっぱり罪な女なのだと思う。だけど、だからといって不細工になる努力をするわけがない。


「コハ、特別アタシだけに可愛さの秘訣教えてよ。特に、どうやったら女に飢えたオスが寄ってくるか、を。寄ってきたオスを、全員アタシが下僕にしてやる」


「えぇ......」


 あかりちゃんは、真面目な顔して今のような冗談をちょくちょく言うので、本気なのかどうかが分かりにくくてちょっと怖い。こういうとき、大体私は苦笑いしてあかりちゃんをさりげなくスルーしていた。それが、いつもの流れだった気がする。


「まぁでも、琥珀がいる内は、ウチらまともな恋愛できないかもねぇ。ウチのクラスの男子、みーんな琥珀の虜にされてるし」


「それな。ま、このクラスには良さそうな男子一人も居ないし、アタシは気にせんけど」


 そんな会話をして話題は切り替わり、このメンバーはいつも通りの雑談を始めていく。ちなみに、理沙ちゃんとあかりちゃんが飯田くんのことについて深堀しなかったのは、私がどういう対処をしたのかおおよそ分かっているから。


 この二人にはいつもお世話になっていて、今まで受けてきた告白の相談は全部この二人にしてきた。どの告白も私は同じように断ってきているので、慣れている二人は今回の告白がどういう展開を迎えたのか然程気にならないんだと思う。


「んでさ~コハ、リサ。昨日うちの母さんから小遣い貰ってさ、今度三人でどっか行かない? アタシめっちゃ良いとこ知ってんだよ。そこのガトーショコラってやつ食べたくてさ」


「ウチは全然良いよ。いつだって暇だし」


「勿論いいですよ」


 他愛もない会話。そうして、今日も1日充実した日程が終わっていく。最後には三人で遊ぶ約束だってできた。あかりちゃんはこういう遊ぶ計画をよく立ててくれるので、本当に大助かりだった。


「おっけー。じゃあ明日、三人で......」


 多分、あかりちゃんは『三人で行こう』って言葉を続けようとしたんだと思う。でも、続かなかった。理由は、会話をする私たちの前に、一人の女の子が近づいてきたから。



「――ねぇ、ちょっといい」



 その女の子は、とても苛立った様子で三人に、いや特に私に視線を向けて、話しかけてきた。真っ先に反応したのは、私。


「神代さん......何か用?」


 この女子の名前は、神代真由美(かみしろまゆみ)。校則違反なのに、髪を堂々と赤色に染めている、ちょっと変わった人だ。それでも悪友達は多いようで、クラスカースト上位というべきか、学年カースト上位の人間。


 神代さんはとても強気な性格の女の子で、先生たちもあまり関わらないようにしていると噂の、問題児だった。私たちも、神代さんと関わったことはほとんどない。


「ちょっとさ、今から校舎裏来てよ――星宮」


「えっ?」


 神代さんは私を指差し、校舎裏に来るよう命令してきた。校舎裏なら、さっき行ってきたばっかりなのに。


 でも、そのことに文句を言えるような雰囲気でもなかった。何せ、神代さんが放っているオーラはとても不穏なものだったから。まるで、ガスの充満している部屋に火の付いたマッチを近づけているみたいな。


「待てよ神代さん。何かめっちゃ苛ついてそうだけど、コハがなんかした?」


「外野は黙ってくれない? ワタシは星宮に話しかけてんだよ」


「......」


 あかりちゃんが神代さんに話しかけるけれど、神代さんの眼圧にあかりちゃんは押し黙らされた。どうしていいか分からない私は、とてもあわあわと視線を泳がせていたと思う。


「ちなみに拒否権ないよ。早く来て、星宮」


「え......」


 拒否権がないと言われ、私はとても怖くなった。何かされるのではと、とても怖くなる。私が一向に答えを出せずにおどおどしていると、そんな私を気遣ってくれた理沙ちゃんが代わりに口を開いてくれた。


「神代さん。それって、私たちもついてきていいの?」


「......」


 そう理沙ちゃんが聞くと、神代さんは少し考えて、そして頷いた。


「まあ、いいけど。とにかく星宮が来ればいいんだよ」



 そうして私たち三人は、神代さんの後ろをついていき、校舎裏まで向かっていった。今思えば、わざわざ三人で行くのは大間違いの選択だったと思う。


 もし、また人生をやり直せるなら、理沙ちゃんとあかりちゃんを巻き込まないようにしたかった。



***



「よォ、お前カ。星宮とかいうやつは」


 校舎裏まで来てみると、そこには一人の大柄の男の子が立っていた。濃い褐色の肌からして、ハーフの男の子。制服越しにも腹筋が割れているのが丸わかりで、とてつもない威圧感があった。


 私たちはこの大きな男の子とは初対面。三人揃って、困惑した顔を作った。


「え、誰......」


 当たり前の疑問を理沙ちゃんが呟くと、神代さんがその大柄の男の子にすりよった。二人はとても仲が良いんだということが、一目見て分かる。


「ほらシャンドル、ワタシのクラスメイトが自己紹介してほしいんだって。してあげたら?」


「自己紹介? ああ、いいゾ」


 神代さんに頼まれた大柄の男の子は、よく分からない決めポーズを作って、その筋肉を見せつけてきた。そんなの見せられても、ちょっと気持ち悪いくらいしか思えないのに。



「オレは岡田シャンドルだ。よろしくナ!」



 威勢良く、短く自己紹介をした男の子――岡田シャンドルくん。特徴的な名前なので、分かりやすくシャンドルくんって呼ぶけれど、初対面からはあまり良い印象を抱けなかった。その理由はよく分からない。


「あの......神代さんと、えっと......岡田シャンドルくん? ウチらの琥珀をこんなとこに呼び出して、何の用?」


「そうだ。アタシらも暇じゃないんだから、用があるならさっさと済ませてよ」


 岡田シャンドルくんの圧に、私たちは少し冷や汗を掻いていた。よく分からないけれど、得体の知れない恐怖がこのとき沸き上がっていたんだと思う。そんななか、理沙ちゃんとあかりちゃんはしっかりと会話をしようとしていたのだから、本当に尊敬できる。


「ム。そういえば、あいつらは誰だ、真由美(まゆみ)。オレは、星宮が来るとしか聞いてないゾ」


 シャンドルくんが、神代さんに話しかける。やっぱり、神代さんは私一人でここに来させるつもりだったんだ。神代さんは「あ~」と自身の赤髪を掻きながら短く唸って――、


「なんかこいつら、勝手についてきたんだよねぇ」


「ほう。なら部外者というわけカ。なら、立ち去ってもらわねばな。真由美、星宮以外の奴らには今すぐ帰るよう、誘導してやってくレ」


 勝手に話を進めていくシャンドルくんと神代さんに対して、あかりちゃんが舌打ちした。その舌打ちの音に反応したシャンドルくんが、不機嫌そうにあかりちゃんに視線を向ける。


「なんだお前。なんで、オレに舌打ちしタ」


「いや、さっきから二人とも意味が分からないんだよ。いきなりコハを一人で来るように呼び出すなんてさ、そんなのコハが怖がるに決まってんだろ。少しは頭使えや。アタシは、絶対にコハを一人にしないからな」


「......ほう。生意気な女子だナ」


 強気に言葉を放つあかりちゃん。私はそんなあかりちゃんを止めたくて仕方なかったけれど、あかりちゃんの勇気を無駄にしたくないという気持ちもあった。せっかく私のためを思ってやってくれていることなのに、それを私の手で止めるのは違う気がする。


 でも、やっぱり止めるべきだった。絶対に、あかりちゃんを止めるべきだった。



「――うっざ。友情ごっことか見てて鳥肌立つわ」



 神代さんの冷えきった声が響く。冷酷な視線が、あかりちゃんだけを見ていた。でも、その視線はシャンドルくんに移されて――、


「ワタシとシャンドルはさ、星宮に用があんの。だからさ、ぶっちゃけ星宮以外消えてほしいわけ。なのにさっきからペチャクチャさぁ......」


 ふと、神代さんの瞳の色が消えた。桜色の唇が、短く動く。



「もういいや。シャンドル、こいつもやっちゃっていいよ」


「マジカ。なら、腕を温めるのに丁度良イ」



 不穏な空気が、とても濃いものになっていく。あかりちゃんの額には、汗がびっしりとついていた。多分、シャンドルくんに視線を合わせられているのが原因だと思う。


 そこから起きた出来事は、一瞬で理解することは不可能だった。


「アンタら、何考えて......」


「ごめんナ」


 刹那、シャンドルくんの姿が私の視界から消えた。少し遅れて、鈍い音が私の耳に届く。何が起こったかは分からないけれど、何かが起きたのは確かだった。



「きぁああああああぁ――ッ!!!」



 すると隣に居る理沙ちゃんが大きく悲鳴を上げた。理沙ちゃんは、あかりちゃんの居る方を見て、大きく叫んでいる。だけど、さっきまであかりちゃんが居た場所に、あかりちゃんは居なかった。


 いや、違う。居た。少し離れた場所に、横倒れになって、居た。私も、気づいた。


「......え? い、いやぁっ!!!」


 

 ――鼻から血を吹き出し、白目を剥き出しにして倒れるあかりちゃんの姿がそこにあった。



「ふン。少し加減をミスったな。骨が折れてないといいんだガ」


「さっすがシャンドル。とてもかっこよかったよぉ」


「そうカ? フハハハハ」


 今の状況で、圧倒的に場違いな会話をしているのが神代さんと高らかに笑うシャンドルくん。私は体をわなわなと震わせて、二人に――特にシャンドルくんに視線を向けた。


 私の目には見えなかったけど、あかりちゃんを殴り飛ばしたのはシャンドルくんなのだと大体察しがつく。とても怖いけれど、親友を傷つけられたことに対する怒りの方が、恐怖心に勝った。


「なんでっ、なんでこんな最低なことをするんですかッ!!!」


 掠れた声で、叫んだ。すると神代さんとシャンドルくんが私に視線を向けてくる。私の怒りに染まった顔を見て、神代さんはニマァと表情を崩した。


「なんで、こんなことをするのか......ねぇ。星宮、それマジで言ってんの?」


「は......?」


 神代さんの顔が真面目なものに変わる。だけどそれも一瞬の内。神代さんの視線が、まるで私をゴミを見るかのようなものに変化した。



「あんたが――星宮が、ワタシの飯田くんを奪ったからでしょ!?」


 あかりちゃんの流す血が、私の靴を濡らしていた。



 

次回、超絶胸糞展開(2)。

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― 新着の感想 ―
[一言] 星宮ちゃん、なんで振ったことが漏れないんでしょうね…振ったことが漏れれば助かるものでもないのかもしれませんが…それにしても星宮ちゃん、ちょっと罪作り体質みたいですね…辛そうです。
2023/02/20 13:29 退会済み
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