◆第74話◆ 『宝石級美少女は勇気を貰いたい』
久しぶりの更新すみません
コロナに感染して少し寝込んでました
喉にまち針刺されてるのでは?ってくらい辛かったです.....はい
そんな辛いなか書いた文章なので、あまり精査もできてなく、もしかしたら誤字も多いかもしれません
後々確認するので、許してください´`*
「久しぶりだね星宮さん。庵のやつ、冬休みの間に星宮さんに変なことしなかった?」
人懐っこい爽やかな笑顔を顔にくっつけ、暁は調子良く星宮に話しかける。その愛想の良さに助けられて、星宮もいくらか心に余裕ができた。
「そうですね。天馬くんは......うーん......」
「ああごめん。野暮な事聞いたね。星宮さんも、庵の事情を知ってるのは当然か」
「え? 天馬くんの事、知ってるんですか」
「うん勿論。僕はアイツの友達だからね」
どう庵の話をするか悩んだ星宮だが、その心配は杞憂に終わる。どうやら暁も庵の母親の話を知っている様子だった。よくよく考えれば、暁は庵の唯一の友達であるので、知っていることは当然なのかもしれない。
「まぁ......本当に災難だったよな。僕もアイツに何て言葉かけてやれば分からなくなったよ」
目を細め、複雑な思いを噛み締めるように暁は口を開く。心の底から庵を友達と思っているからこそ、ここまで彼の事を労れるのだろう。
「それでさ星宮さん。話変わって一つ聞きたいんだけど、星宮さんって庵とLINE交換してる?」
「はい。してますけど......?」
突然の暁の質問に、星宮は首を傾げる。そうすると、少し暁の表情が暗くなった気がした。
「じゃあアイツとさ、冬休みにLINEしてるよね」
「......」
ここで星宮は暁が何を聞こうとしているのか察した。どうりで表情が少し暗くなったわけだと納得もできる。そして予想通りのことを、暁は口にした。
「庵のやつ、1月入った辺りから僕のLINE全部未読無視してんだよ。いつもアイツはその日の内に返信寄越すくせにさ。星宮さん、何か知らない?」
暁にそう聞かれて、星宮は少し頬を固くする。
暁は、庵の事情を知っているだけで、庵が今具体的にどういう状態に陥っているのか知らないのだ。だから、暁は星宮と違い、どの程度庵が落ち込んでいるのか理解していない。
そして、庵が友人である暁に何も相談をしていないことを星宮は今知れた。それは、庵が誰にも悩みを相談せずに溜め込んでいたことの証明である。
「......あれ星宮さん。急に固まったけどどうしたの?」
星宮はその言葉にハッとし、暁と視線を合わせ直す。その顔には少しだけ真剣さが宿っていた。
「黒羽くん。もしよかったら、ちょっと天馬くんの話をしませんか?」
久しぶりに庵以外の男子と話して緊張するが、暁にだけは庵の事を話しておくべき気がした。
***
「えー......それ本当? アイツ今そんな病んでんだ。うわぁ、マジか。それ、かなりマズイ感じ?」
「......はい。マズイ感じです」
「しかも星宮さん振ったとか。めちゃくちゃビックリなんだけど。それ、すごくヤバい感じでしょ」
「はい。ヤバい感じです」
人目のつかない校舎裏にて。星宮は、暁にすべてのことを話した。勿論、庵の許可を取ったわけではないが、暁には今すぐにでも事実を伝えておくべきだと判断したのだ。あとで庵に怒られるはめになったとしても、これは正しい選択だと心が訴えていた。
そうすれば、予想通りに暁は心底驚いた様子を見せる。まさか、そこまで庵が落ち込んでいるとは思いもしなかったのだろう。近くの壁に寄りかかる暁は、前髪を押し上げて、複雑な気持ちを圧し殺すように唸る。
「だからアイツ、急に連絡も何もしてこなくなったのか。いやぁ、そりゃそこまで追い詰められたら、そうなるのも仕方ないか......」
「もう、なんていうんでしょうね。誰が見ても覇気が無いというか、魂が抜けたみたいな顔してるんです。本当にあのままじゃ、天馬くんはもう持ちませんよ」
「そっか......それは酷いな」
二人揃って、顔を俯かせて表情を暗くする。だが、星宮は直ぐに顔を上げ、マリンブルー色の瞳に決意の色を輝かせた。その様子はどこか頼もしささえも感じられる。
「それでなんですけど、私は今天馬くんを助けるために色々と準備している最中なんです」
「庵を助ける? 具体的にどうやって......?」
星宮の言葉に暁が首を傾げる。それは、聞かれて当然の質問だ。星宮は胸に手を当て、暁に微笑みかける。
「言葉で訴えかけるんですよ。私は魔法使いでもスーパーマンでもないんですから、正攻法でしか天馬くんを助ける方法は無いと思うんです」
星宮は庵を助けるために正攻法を――『言葉で訴えかける』のだ。何か特別な事をするわけではなく、ただ庵と言葉を交わし、庵を救う。とても単純な考えではあるが、絶望のどん底にいる庵を救うとなると、そう簡単にはうまくいかなそうだ。
「言葉で訴えかけて、勝算はあるの?」
「あると思いますよ。ある程度は」
「まぁ......ならいいんじゃないかな。僕は詳しい事情を知らないから口出しできないしね。でも、そんな酷い状態の庵が星宮さんの言葉だけで動くかな......」
勝算があるかどうかは分からない。だが、今は勝算を気にしている場合ではないのだ。出来るだけ早く、今の庵を助ける。彼の苦しみを取り除くことが、今の星宮の一番の目的だ。そのためには多少のリスクを伴う賭けも必要である。
「......星宮さん。僕にも、なんか手伝えることない?」
「黒羽くんが手伝えること、ですか......?」
何もすることがなく、歯痒い思いをする暁は星宮にそう聞く。だが星宮の作戦上、庵の元へ向かうのは星宮一人のみである。だから、その当日の日に暁が手伝えることはない。
だがその目的の達成に向けた作戦決行の日まで、星宮には下準備としてやらなければならないことがあった。
「――じゃあ黒羽くん」
「ん?」
少しだけ星宮の中で緊張が生まれる。呼吸を整えてから、口を開いた。
「今日私、クラスの人に話しかけて、お友達を作ろうと思うんですよ」
星宮の頬がほんのりと赤くなると同時に、暁は首を傾げた。急な話の切り替わりに理解が追いつかなかったのだろう。だが暁は直ぐに星宮に話題を合わせていく。
「え? 友達?......そういえば、星宮さんって友達が一人も居ないって噂が結構前からあったね。あれやっぱり本当なんだ」
「はい。不名誉な噂ですね」
「.....それで、急にどうしたの」
昔からある宝石級美少女の奇妙な噂――『友達が居ない』。優れた容姿をして、性格の良さも兼ね備えた星宮。なのに彼女は、学校に友達が一人も居ないのだ。
何故友達が一人も居ないのか、それは星宮がクラスメイトから距離を取っているからである。それは今まで、星宮が意図してやってきた事だ。
「友達が居なくても高校生活を乗りきられると思っていたんですけど、最近考えが変わったんですよ。......居心地の良い場所に人は慣れると、もう元には戻れなくなるもんなんですね、本当に」
「......つまり何が言いたいのかよく分からないけど、なるほど?」
遠い目をして、暁には理解できない事を語る星宮。だが、別に理解されなくてもいい。暁に協力してもらうことは、とても簡単なことである。
「――それでですね黒羽くん。ちょっと、恥ずかしいお願いしていいですか?」
「え? 恥ずかしい? 何それ」
顔を赤くし、体を少しもじもじとさせる星宮。それに対し、暁の表情はより一層困惑の色が深まっていく。暁の困惑の視線を受けながら、星宮はゆっくりと口を開いた。
「あの......私の事、応援してくれませんか? フレーとか、頑張れーとか何でもいいです。私、今日中にお友達を作りたいんですけど、なかなかクラスの人に話しかける勇気が出ないんですよ」
「......」
星宮からのお願いに、暁は拍子抜けを喰らったかのような表情をする。一瞬、星宮の冗談かもしれないと疑いかけるが、その考えは星宮の朱色に染まった頬を見れば直ぐに疑いは晴れる。つまり、星宮は純粋に暁に勇気を貰いたいのだ。
そのあまりにも可愛いお願いに、暁は数秒の時差でクスリと笑った。
「ははっ。なにそれ。よく分からないけど、そのくらいのことならお安いご用だね」
そう言い、暁は顔に百点満点スマイルを張り付ける。爽やかオーラを全開にして、真っ直ぐに星宮と向き合った。
「――頑張って星宮さん。星宮さんなら、きっと良い友達作れるよ」
暁から放たれた言葉が、星宮の胸の奥に染み渡る。その効果は絶大で、ずっと踏み出せなかった後一歩が、今なら踏み出せそうな気がした。星宮はゆっくりと深呼吸し、小さく安堵の息を吐く。
「......こんな感じでいい?」
「はいっ。ありがとうございます。今なら私、何でもできそうですっ」
「ははっマジか。なら役に立ててよかったよ」
虚勢抜きで、今の星宮は強いやる気に満ちていた。それだけ、他人の応援の効果は凄まじいものである。その力強い星宮の様子に、暁も満足そうに頬を緩めた。
「あっ。そろそろ7限ですねっ。じゃあ私は、戻りますっ。ありがとうございました黒羽くん」
「ああ本当だ。バイバイ星宮さん」
「はいっ。さようなら!」
そう話を続けている内に、7限の授業開始の時刻が間近に迫っていることに星宮は気づく。別れの挨拶は慌ただしく、星宮は授業のファイルを胸に抱えて、一足早く教室へと向かっていった。その様子を、暁は微笑ましいものを見る目で見送った。
「......なんで、庵を助けるために、星宮さんは友達を作るんだろうなぁ」
一人取り残された暁は、腕を組んで、少し考え事をする。だが、どれだけ考えても星宮の意図は読めなそうだ。そもそも、星宮に友達が居ないことから謎である。
「星宮さんが何するかは分からないけど、俺が何も手伝わなくても......ワンチャン星宮さんなら、いけるかもな。なんか、頼もしい」
そう誰にも聞かれていない感想を呟き、暁も自身の教室へと戻るため動き出す。誰も居ない無人の廊下をカツカツと歩きながら、ふと暁は足を止めた。それはなんとなく、一人言を溢したくて――、
「......関係ないけど、星宮さんってなんか闇深そうだよな」
ちなみに星宮に友達が居ないという設定は後付けのものではなく、確か20話辺りに描かれてます




