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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第二章・前編

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◆第53話◆ 『宝石級美少女は雑用を任せられる』


 昼食を終えて、もうそろそろ時間帯は午後になっただろうか。最初は青美に見つかったことで、一体どうなってしまうことやらと心臓はドキドキであったが、ようやく庵も星宮も精神的に落ち着いてきた。


 しかし、落ち着いたとはいえ、まだまだ問題は残っている。いや、前途多難の問題だらけだ。そんな沢山の問題に囲まれたなか、何かを思い出したような様子の庵が星宮に視線を向けた。


「そういえば星宮、もう十二時過ぎたけど帰らなくて大丈夫?」


「あ......本当ですね。どうしましょう」


 いつもは星宮は午前中には帰ってしまう。だが、今日は不慮の事故によりそういうわけにはいかなくなってしまった。少し困り顔の星宮が視線をスマホに落とす。


「とりあえず私のお父さんに何か適当にメッセージ送っておきます。今日は特に何か予定があるわけでもないので」


「え、帰らなくて大丈夫なの? 母さんのことなら別に気にしなくても、何も言わずに帰っていいけど。というか星宮がここに居ると母さんが興奮して困るんだよな」


 庵はそう言って、鼻歌を歌いながらシンクで皿洗いをする青美を指差す。上機嫌な様子の青美を見て、星宮はクスリと少し笑った。


「別に私のことは気にしなくて大丈夫ですよ。天馬くんに迷惑がかからないように上手く立ち回りますね」


「まぁ......星宮がいいならいいけど」


 青美の魔の手から星宮を守りたい気持ちはあるが、星宮気にしないというのなら無理に手を差しのべる必要はない。少し複雑な気持ちではあるが、庵は星宮の言葉を信じることにした。


 ――しかし、そんな会話も束の間。


「琥珀ちゃーん。ちょっとこっち来てくれないかしら?」


「えっ。わ、私ですか?」


「琥珀ちゃんはアナタ以外に居ないわよ。ちょっとこっち来て」


「は、はいっ」


 急な呼び出しをくらった星宮。星宮はおずおずとシンクまで向かい、青美の隣に立つ。震えるマリンブルー色の瞳に、黙々と皿洗いを続ける青美を映した。


 奥の方で緊迫している空気が流れている中、庵は二人の後ろ姿を見比べて『結構星宮って身長低いんだな』なんてことをボーッと心の中で呟く。比較対象が青美なので詳しいことは分からないが、女子高生の身長としては平均的なのだろうか。庵としては女は自分よりも身長が低い方がタイプなので問題は全くないのだが。

 

「琥珀ちゃん、洗った皿をそこのタオルで拭いてもらっていい? そこまで丁寧に拭かなくてもいいから、頼んだわ」


「お皿......はい。分かりました」


 青美が頼んだのは濡れた皿の皿拭き。急な星宮に対する扱いの雑さに、さすがにこれは見過ごせないと、結局庵は青美に声を荒げる。


「おい母さん。何勝手に星宮に雑用押し付けてんだよ。常識的に考えて普通ありえんだろ」


「別にいいじゃない。女手二人で家事するのは母さんのちょっとした夢だったのよ。母さんだってある程度の常識は弁えているわ」


「......ったく。この前、仕事仲間を家に連れ込んでなんか色々と料理してただろ」


 ぶつくさと文句を言うが、青美はもう庵の言葉など聞いてはいない。隣に居る星宮にニヤニヤと視線を送り、星宮を困らせている。本当に厄介な母親だ。


「天馬くん、いいんですよ。私、お皿を拭くの好きなので」


「無理がある嘘だな」


「......本当ですよ?」


 勝手な想像ではあるが、皿を拭くのが好きな人間などそうそうこの世に存在しないだろう。だけど、星宮が別にいいというのなら無理に止めるわけにはいかない。青美の思い通りになるのはなんとなく癪だが、ここはグッと我慢だ。


「......」


「......」


 黙々と奥で二人が皿洗いをしている中、一人取り残されてやる事のない庵は仕方なくスマホをいじりだす。いつの間にか暁からLINEがきていたので、手短に返信しておいた。


「ねぇ、琥珀ちゃん。琥珀ちゃんは料理とかできるの?」


「料理......ですか」


 庵がスマホをいじっている最中、奥の方では青美が星宮に話題を振っていた。星宮はその質問に眉を寄せ、少しだけ困った表情を見せる。


「学校での調理実習くらいでしか、あまり料理の経験はないです。自分から作ろうとすることはあまりなくて......」


「へぇ、そうなの。なら、おばさんが料理を教えてあげてもいいのよ?」


 ニヤリとした笑みを浮かべる青美。だが、それを聞いた星宮は皿拭きを中断して、顔の前で手をブンブンと振る。


「そ、そんなっ。絶対迷惑になるので、大丈夫ですっ。私なんかのためにそこまでしなくても......!」


「何言ってるのよ。うちの息子の彼女のためなのよ。そのくらい御安い御用だわ」


「で、でも......」


 遠慮がちで前向きな反応を示さない星宮。さすがにまだ青美とはそこまで打ち解けていないのだろう。そんな星宮がもごもごとしている間、青美は「それに」と言葉を続けて――、


「好きな男を掴むためには、まず胃袋から掴むものなのよ?」


 この言葉に、星宮が顔を真っ赤にしたのは最早言うまでもないだろう。もし庵が今の会話を聞いていたらきっと憤慨していたに違いない。



***



「......?」


 そうして、穏やかとはいえない時間が続くなか、一つの大きな物音が庵の耳に届いた。最初は聞き間違えかと思ったが、何度もその物音が聞こえるので聞き間違えではないことが確信に変わる。


「いや、まさか......な」


 その物音の正体に一つ心当たりがあった庵は、その可能性を勝手に自分の中で否定する。しかし、この発言を世間一般的に『フラグ発言』というのだろう。


 綺麗に放たれたフラグ発言は、案の定、直ぐ様綺麗に回収されることとなる。



「――帰ったぞお」


 玄関の方から天馬家に響き渡る、この場の誰のものでもない図太い声。その声に庵は全身の毛を逆立たせた。


 だってその声は、庵にとってあまりにも聞き覚えのありすぎるものであり――、


「......嘘だろ、父さん」


 庵の父、天馬恭次(てんまきょうじ)は最低最悪のタイミングで帰宅をした。




リアルが忙しかったです。山場は越えたので更新ペースを元に戻していきます

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― 新着の感想 ―
[一言] もう家族エピソードが続いていおりくん、大ピンチですね…!普通の親なら面白がった果てに応援しますが果たして…!
2022/12/30 22:20 退会済み
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