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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第二章・前編

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◆第52話◆ 『いつかこうなるとは分かっていたけど』


 ――天馬家の一階のリビングにて。


 四人用のダイニングテーブルに座るのは、庵、青美、そして――星宮だ。庵と星宮が隣り合わせで、その反対側に青美が座る席順。張り詰めた空気が広がる中、庵が座っている椅子がギシィと不快な音を立てる。


「――」


 居心地悪そうに体をもじもじさせて、未だに頬を赤らめているのは星宮。雪色の髪から少し覗いている真っ赤な耳を見れば、今どれだけ星宮が緊張しているかがよく分かるだろう。


 そして星宮とは反対に、血の気の引いた真っ青な顔をしているのは庵。死んでしまったかのようにピクリとも動かず、ただ無心でダイニングテーブルを見つめていた。思考を放棄したというべきか、最早言い訳をする気も起きないといった感じ。緊張や恥ずかしさを通り越して、絶望してしまっているのがよく分かるだろう。


 そしてこの重い雰囲気の中、唯一満面の笑みを浮かべる場違いな存在が――青美だ。


「で、庵の部屋に居た、あなたの名前を聞いてもいいかしら?」


 青美の言葉に、星宮の肩がピクンと跳ねる。


「は、はい。私は、星宮琥珀......です」


「琥珀ちゃんかぁ。可愛い名前だし、可愛い声ねぇ」


「あ、ありがとう、ございます」


「おばさんは天馬青美。呼び方とかは全然好きなのでいいから、よろしくね」


「よろしくお願いします......」


 初対面からグイグイと距離を詰める青美。そんな青美に星宮は圧倒されている様子で、たどたどしく言葉を返している。


「それでそれで琥珀ちゃん。聞きたいことはいっぱいあるんだけど、まず私が一番聞きたい事から聞いていいかしら」

 

「......私が答えれる範囲なら、大丈夫、です」


「そう。じゃあ、単刀直入に聞くけど――」


 少しの間が開いて、青美が再び口を開く。その表情は先程よりも増してにやけていて。


「琥珀ちゃんは、うちの庵とどういう関係なのかしら?」


 本当に単刀直入に放たれた質問。今の一連の会話を聞いていた庵は「まあ聞いてくるよな」と心の中で思い、俯いていた顔を上げる。視線を星宮に向けると、今の青美の質問に「え、えーと」と、もごもごして答えに困っているようだった。


 星宮がなかなか答えを言わない理由。その理由に庵は思い当たる。


(ルール守ろうとして、なんとか誤魔化そうとしてんのか)


 交際ルールその三、交際関係は二人だけの秘密。二人の間には、このルールが存在している。だからこそ、星宮はなんとかしようと考え、言葉を詰まらせているのだろう。


 星宮が回答に困っているところ、庵はこっそりと星宮に耳打ちをした。いや、青美が目の前に居る状況でこっそりもクソもないかもしれないが。


「星宮、もう母さんには俺から言うよ」


「えっ。でも......」


「この状況から誤魔化すのは無理だ。俺が母さんの立場だったら、もうほぼ確信に至ってるよ」


「......」


 星宮の不安そうな顔に、作り笑いを浮かべてなんとか安心させたいと思う。でも、あまり良い表情をできた自信が無い。


「っー......」


 小さく息を吐く。星宮の心配そうな表情を横目に、ゆっくりと青美へと視線を移す。青美は何も言わずにニヤニヤと庵の視線を見つめ返した。


「母さん。俺は......」


「なーに」


「俺は......」


 真面目に言葉にしようとするも、それを発する寸前で思いとどまる。なんで、わざわざこんなにも畏まる必要があるのか。相手はいつも能天気な青美だ。この相手に畏まる方が余計恥ずかしい。そうして急に自分の言おうとしていることに馬鹿らしくなった庵は、ぷいっと青美から視線を外して――、


「......星宮と付き合ってるけど、なんか文句あるのかよ」


 と、ツンデレキャラのような口調で、母親に星宮との交際関係を明かしたのだった。



***



「はいオムライス。琥珀ちゃんの分も」


「わぁ。わざわざありがとうございます」


「いえいえ~。全然気にしなくていいのよ」


 それから紆余曲折とあり、昼御飯は星宮も一緒に食べることになった。今日のランチメニューは青美の得意料理オムライス。年甲斐もなく三人分のオムライスにケチャップでハートを描いてある。


「まさか庵がこんな可愛くて礼儀正しそうな子と付き合ってたなんてねぇ......母さんちょっと安心したわぁ」


 オムライスを口に含みながら、何やら独り言を語り出す青美。勿論、庵は無視をする。


「それで琥珀ちゃん。琥珀ちゃんは庵のどういうところが好きなの?」


「え、えぇ!?」


「ッ。ごふぉっ」


 唐突すぎる青美の質問に、星宮はびくんと肩を跳ねさせ、隣の庵は口の中のライスが気管に入り込み、大きくむせた。庵は直ぐ様コップの水を口に流し込んで、青美を強く睨み付ける。これはさすがに無視できない。


「おほっ。げほっ。っ、変なこと聞くんじゃねーよ母さん! 少しは空気を読め!」


「あんたは黙っときなさい。母さんは今、琥珀ちゃんと話してるの」


「ふっざけんなっ。母さんは別に大丈夫でも、俺が後々気まずくなるんだよ。それに、星宮困ってるだろ!」


「それで琥珀ちゃん、教えてもらっていい?」


「無視すんな!」


 必死の抗議をするも、聞く耳を持たないどころか、視線すら合わせようとしない。これだから青美には交際関係を絶対にバラしたくなかったのだ。これは話にならないと察した庵は、隣の星宮に視線を向ける。


「星宮、俺の母さんの言葉なんか全然無視していいから。うちの母さんは本当に変な人だから本当に無視で大丈夫。気にしなくていいよ」


「無視なんてそんな......」


 語気を荒げて星宮を説得しようとするも、困り顔をされてしまう。さすがに今日会ったばかりの彼氏の母親を無視するのは心苦しいだろう。庵だってそんなメンタルは持ち合わせていない。


「琥珀ちゃん。そんなに恥ずかしがらなくても、おばさん誰にもバラしたりしないわよ?」


 そういう問題じゃない、とツッコミを入れようとしたところで、星宮がずっと逸らしていた視線を青美に向けた。青美と星宮の視線が絡み合う。星宮の頬は赤く染まっているが、マリンブルー色の瞳には何か決意したような力強さが見えて――、


「――優しいところ、です」


 消え入りそうな声で、星宮は精一杯の言葉を呟いた。


更新遅くなってすみません

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