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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第二章・前編

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◆第49話◆ 『宝石級美少女からお金を借りました』


 星宮が庵と同じバイトを始めるという風に話は終わり、残された時間はいつも通りのんびんりとデートの時間となる。とはいえ、今日は特に何をするか予定は決めていなかった。最近は小テスト対策のため勉強会をさせられていたが、今はもう冬休み。冬休み序盤くらいはゆっくり羽を伸ばしてもいいだろう。


「今日は天馬くんのお母さんは仕事ですか?」


「仕事ではないけど、仕事仲間と食事に行くんだってさ。今日は母さん遅くなるらしいから心配しなくても大丈夫だと思う」


 星宮との交際関係はルール上、誰に対しても秘密となっている。だからこの交際関係はひっそりと行わなければならない。唯一例外として、思わぬ形で交際関係がバレてしまった暁がいるが、あれに関しては仕方ないとしか言い様がない。幸いにも暁は口が堅いので、余計なことを心配をする必要はないだろうが。


「......母さんが一番怖いからなぁ」


 庵の母親である天馬青美は、妙なところで謎の勘の良さを発揮する。星宮と付き合って約二ヶ月となるが、ここまで青美に気づかれず交際関係を続けれたのは、ある意味奇跡なのかもしれない。最早バレてしまうのは時間の問題な気もするが。


 とにかく、星宮との交際において一番この関係に気づく可能性が高いのは、この天馬家に住む青美。庵の父も危険だが、父は帰ってくるのがいつも夜遅くなのであまり心配する必要はない。どちらにせよ、気づかれるといろいろ面倒なので、そろそろお家デートはやめるべきかもだ。


「あっ。天馬くん、そういえば私、今日面白いもの持ってきたんですよ」


 考え事をしている最中、星宮が「あっ」と手を合わせて、自身のバックから何かを探しだす。そして、何やら折り畳まれた大きな紙のような物を取り出した。


「......何これ?」


 庵の疑問に答える前に、星宮は手に持つ大きな紙を目の前のテーブルに広げる。その広げられた紙は、何やら沢山のカラフルな色を持っていた。


「人生ゲームです」


「人生ゲーム!?」


「はいっ。部屋の要らないものを整理していたらたまたま見つかったんですよ」


 自信満々に『人生ゲーム』と言い切った星宮。人生ゲームとは簡単に言えば、サイコロを振ってコマを進めていき、踏んだマスに応じて何かイベントが発生していく、まさに人生のシュミレショーンのようなゲームだ。


 しかし、このゲームをするにあたって一つ問題がある。それは――、


「......これ、二人でするの?」


「はいっ。私たちしかいないんですから、当たり前じゃないですか。最近は勉強ばっかりだったので、たまには遊びましょ」


「......なるほど」


 当たり前と言われて庵は少し言葉を詰まらせる。人生ゲームはてっきり複数人でするのが当たり前だと思っていたが、もしかしたら星宮の当たり前と庵の当たり前はどこか食い違っているのかもしれない。庵はテーブルに広がる人生ゲームに視線を落とし、しばらくジッと見つめた。


「天馬くん?」


 言葉を発しない庵に、星宮が不思議そうに首を傾げる。その何の悪意も含まれていない純粋そのものな瞳に見つめられ、庵は心を揺さぶられた。


 結局、まあ無駄に時間を過ごすよりかは悪くないかという結論に庵は至り――、


「ま、するかぁ」


 という経緯で、二人は『波乱のきっかけ』となる人生ゲームを始めることになった。



***



 ――人生ゲーム。


 星宮が持ってきたそれは、ほぼすごろくと変わりのないような内容のものだった。サイコロを転がし、コマを動かす。踏んだマスによって様々なイベントが起き、それらをプレイヤー同士で楽しみあうのが醍醐味のゲームである。


 一つすごろくとは違うルールがあるとすれば、このゲームは『先にゴールにたどり着いたら勝ち』というルールではなく、『ゴールしたときに一番お金持ちだった人が勝ち』という部分。つまり、優勝は先着順ではないのだ。


 お金は勿論偽物の物を使い、プレイヤーは最初から五万円を持ってゲームをスタートする。そうしてゲームを進めていくうちに、お金がどんどん増減していくような感じだ。


「――」


 話は変わり、この帰宅部所属である天馬庵は、ゲームが大の得意である。長年コントローラーを握り続けてきた庵は、様々な精密な動作を可能とし、そのコントローラーの動かし方はありとあらゆるゲームに応用をさせていた。


 おかげで友達の暁とゲームで対戦するときは、必ず庵が何かハンデを背負うことになっている。そうでもしないと、庵が暁に圧勝してしまうのだ。


「――あっ」


 だが、そんな庵にもゲームにおいて弱点はある。その弱点とは、ビデオゲームではなく、テーブルゲームだった。庵はテーブルゲームでの対戦となると、何故か不幸な目ばっかりあうのだ。


 人生ゲームを始めて数分、庵は何やら薄暗い色をしたマスの上にコマが止まった。


「......交通事故マス?」


「あ、天馬くん、交通事故にあっちゃいましたね。治療費として三万円を払わないといけないみたいですよー」


「なんだそれ」


 交通事故マスとは名前からして物騒なマスだ。そのマスの説明を星宮から受けて、庵は自分の手元に視線を落とす。今の庵の所持金は一万円。とてもじゃないが三万円なんて払えるわけがなかった。

 

「俺、一万しか残ってないんだけど。これどうしたらいい?」


「ちなみに治療費が払えないと、その人は治療を受けられずに死んじゃいます。結構細かいルールですねー」


「え、はい?」


 星宮は説明書に視線を落としながら『死んじゃいます』と、あまりにも軽く死の宣告を庵に下した。それを聞いた庵は苦笑いをする。


「死んじゃうと、どうなるの?」


「死んじゃったらその人はゲームオーバーです。ゲームでも人生ですからね」


「ああ、じゃあ俺死んだじゃん」


 なんともあっさりゲームオーバーとなってしまった庵。交通事故にあって治療費が払えず死亡なんて、あまりにも空しい最期だ。ゲームとは分かっていても、少しだけ傷ついてしまう。現実ではこのような死に方は絶対にしたくないと、強く拳を握りしめておいた。


 ただ、ここでゲームが終わってしまうのは味気ない。


 庵がゲーム内で死亡したことにより、これでゲーム終了と思われたが、どうやらこのゲームには死んだ人に対する救済措置があるらしい。星宮はまだゲームは終わっていないと言わんばかりに、どこか張り切っている様子だった。


「天馬くん、まだ諦めないでください」


「諦めないでって......俺もう死んだんだろ? それじゃもうどうしようもないだろ」


「私が天馬くんの治療費の足りない分を出しますよ。このゲーム、他のプレイヤーに借金をすることができるみたいです」


「......マジか」


 まさかの展開に庵は言葉を失った。潰えたと思われた庵の命に、希望の光が差し込みだす。目の前にいる宝石級の美貌を持つ天使が、庵に何かを手渡そうとしていた。


「はい。二万円です。これは借金なので、あとで返してくださいね」


「ありがとう......なんか、ごめん」


 星宮の優しさを強く感じる一方、何かとてつもなく最低な事をしている気分になり、少し居たたまれなくなってしまう。これはゲームだからよかったが、もし現実でこんな非行に走ったら庵は本当のクズと成り下がる。


「......はぁ」


 庵は、絶対にそんなクズにはなりたくないと心の底から思う。そして、絶対に星宮を傷つけるような真似をしてはならないと誓っている。それくらいの最低限のことは、きっと自分なら守れると庵は自分を信じていた。


 そう、きっと、これからもこの先も庵はクズにはならないと。星宮を傷つけないと。信じている。

ほのぼの回長くてごめんなさいー(?)。あともう少しで大きな山場を迎えるので、それまで心してお待ちください

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