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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第二章・前編

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◆第48話◆ 『宝石級美少女は働きたいそうです』


「本当にごめん。マジで、ごめん」


「......別にそこまで謝らなくてもいいですけど」


 翌日のデート日。自室にて、庵は再び星宮に頭を下げていた。何について頭を下げているかというと、昨日の愛利と浮気を疑われるような真似をしたことについてだ。


 星宮は薄く笑いながら「もういいですよ」と許してくれるのだが、庵としては、これは簡単には許されてはいけないことだと重く受け止めていた。今回の出来事を庵は仮に逆の立場で考えてみたのだ。たまたま夜道を歩いていた矢先、自分の知らないチャラそうな男とじゃれあう星宮の姿。考えただけでも背筋が凍る。


 故に、今回の件は、星宮はあまり不満を口に出してはいないとはいえ、とても星宮の心を傷つけてしまった可能性がある。でも、それは星宮がちゃんと庵のことを一人の異性として、彼氏として見ていた場合に限る。でも、今さらその根幹の部分を疑うことの方が星宮をより傷つけることになるだろう。


 だから――、


「本っ当にごめんなさい。償いのために、何か一つなんでも俺が星宮のお願いを聞くから。それで、許してくれ」


「償いって......私はもう許してるんですよ? そこまで気に病まなくても......」


 庵は、お詫びに『一つ星宮のお願いをなんでも聞く』という事を星宮に話した。今回の件は、言葉を交わし合うだけで許されてはいけないことだと庵は考えている。やはり、何か形として残るようなお詫びをする方が、庵としても少なからず安心できるのだ。


 その庵の提案を聞いた星宮は、困ったような顔をして桜色の唇に人差し指を当てる。こんな時にでも星宮のさりげない仕草にドキリとしてしまう庵。自分の情けなさに、庵はこっそりと己の手をつねっておいた。


「......まあ、確かにちょっとはもやもやさせられましたからね。せっかくなので、天馬くんにお願いを聞いてもらいます」


 仕方なくといった感じで、星宮は庵の話を飲み込むことにした。その言葉に庵は少しホッとする。


「はい。何なりと申しつけてください」


 と言いつつも、星宮が嫉妬してくれたことに少しだけ嬉しくなる。またもや自分の情けなさに気づかされ、庵はさっきつねった手とは逆の手を、赤くなるくらいに強くつねっておいた。


「......じゃあ」


 何か思いついたのか、星宮が小さく唇を動かす。その小鳥の囀りのような音色に庵は耳を傾け、次の言葉を待つ。そして少しだけ間を開けて、星宮は再び口を開いた。


「――私も、天馬くんと同じコンビニでバイトしたいです」


「え?」


 星宮のお願いを聞き、思わず庵は変な声を漏らしていた。


 だって、星宮が庵と同じバイトを始めるなんて、そんなの庵からしたら都合の良すぎる展開だ。星宮とのデートの日は水曜日と土曜日のみだが、星宮がバイトを始めれば月曜日と金曜日も会えるようになる。そんなの、庵からしたら最高すぎる話だ。――だからこそ、躊躇してしまう。


 庵がなかなか口を開かないので、星宮が心配そうに庵の様子を伺っていた。


「ダメ、ですか?」


「いや、ダメなわけがないんだけどさ。本当にそれでいいの? それ、俺にとってご褒美になっちゃうんだけど」


「......ご褒美、ですか?」


 そう言うと、星宮は少し驚いたのか目を丸くした。でも、直ぐにその表情を崩して、可笑しそうにクスクスと笑い出す。その様子に庵は首を傾げた。


「......星宮?」


「ふふ。よかったですね天馬くん。私が無茶なお願いをしなくて」


「いや、まあ、星宮だしな」


「む。なんか舐められている感じがします」


「ごめん。そんなつもりはなかった」


 少し星宮が不満そうに頬を膨らませるので、庵がその様子に苦笑した。それと同時に場の空気も少し和らいだのか、庵の心にも余裕が生まれた気がする。


 気持ちを切り替えて、庵は星宮の瞳を真っ直ぐに見た。


「――でも、なんで俺と同じバイトをしたいんだ?」


 星宮が庵のバイト先のコンビニに来るのは勿論、大歓迎だ。しかし、庵は部活や勉強で忙しい星宮が、わざわざバイトを始めるというのはどうも引っ掛かる。何か、バイトを始めなければならない理由があるのだろうか。


「理由はいろいろとありますよ。お小遣いが欲しいっていうのもありますし、接客という経験を学びたいというのもあります」


「あー、なるほどね」


「それと、誰かさんが後輩の可愛い女の子に誑かされないように見張るためでもありますね」


「ぐ」


 痛いところを突かれて、庵は少し苦しげな表情を作る。そんな庵に星宮はクスリと笑い、「でも」と付け加えた。その言葉に庵は視線を上げ、星宮の眩しいくらいの微笑みを目に焼きつける。


「一番の理由は、ただ、私が天馬くんとバイトしたいからですよ」


「......俺と?」


 思わず問い返すと、「はい」と力強い返事が返ってくる。



「そろそろ、気づいてください。天馬くん」


「え? 何を」


「さあ。なんでしょうね」


 

 薄く微笑む星宮があまりにも綺麗で、庵は変な勘違いを起こしそうになってしまった。その勘違いは自分の勝手な思い上がりだと信じ、胸の奥へとしまいこむ。


 ――星宮は庵の手には届かない存在。星宮琥珀と天馬庵は釣り合わない。それは、今でも変わらないのだ。



第二章本編までのセッティングはあと少しで完成します

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