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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第二章・前編

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◆第39話◆ 『宝石級美少女の答え』


「まあ大体のことは分かったよ。できちゃったカップルってわけか」


「そんな言葉ないし、あったとしても絶対使い方間違ってるから二度と使うなよ?」


 長い会話の末、ようやく暁は庵と星宮の関係に頷き、多少の理解をしてくれたらしい。とはいっても理解した途端、茶化すようにいじってくるので少し腹立たしいが。


「なんにせよ、付き合ったからにはちゃんと星宮さんを幸せにしてやれよ、庵」


 そんな暁の応援の言葉に、庵は遠い目をして溜め息をついた。星宮を幸せに、なんて言われても出来る気がしないのだ。庵にはそのビジョンが見えない。


「いや、別に俺と星宮は薄っぺらい関係だし、どうせ直ぐ別れるよ。何せ恋愛感情がお互い無いからな。この高校卒業するまで交際関係が続いたら良い方だ」


「へぇ。恋愛感情がお互い無いね」


「そうだぞ」


 そもそも庵と星宮という存在は、住む世界が違う不釣り合いなもの。庵は星宮と付き合っていることについて、多少の罪悪感を抱いている。恋愛感情も無いし、彼女をまともにエスコートすることもできないし、頭の良さも雲泥の差だし、朝比奈の嫉妬から星宮を守ってあげることができなかったこともあった。


 この関係をこのまま続けるわけにはいかない。続けたら、きっといつか庵は星宮を傷つける。星宮という高嶺の花は庵には相応しくないのだ。


「庵って自己肯定感低そうだもんな。お前が星宮さんに対して恋愛感情が無くても、星宮さんは庵に対して恋愛感情があるかもしれないぞ」


「ははっ。面白い冗談言うな」


「冗談なんかじゃないよ。......ま、これ以上言っても庵は認めんよなぁ」


「認めるわけないだろ。星宮が俺なんかに恋愛感情抱くわけがない。それは、星宮と付き合っている俺が一番よく分かってんだ」


「何ダサいことを自信満々に言ってんだよ」


 そんなことを言われても、庵は星宮が自分のことを好きになる可能性がゼロと疑っていない。なんならつい数週間前にカフェに行った時に「恋愛感情は少しもありません」と面と向かって言われたのに。


 あまりにも自己肯定感の低い庵に、暁は「はぁ」と大きく溜め息をつく。そしてもう庵とは視線を合わせずに、屋上を下る階段へと向かい歩き始めた。


「友達の恋愛にあれこれと物申すのはあれだけどさ」


「?」


 屋上から出ていく前、暁はポツリと言葉を残していく。


「お前、もうちょっと自分に自信持てよ。星宮さんが悲しむぞ」



***



 ――放課後。体育館裏に、二人の男女が待ち合わせをしていた。


「お待たせ。待った?」


「大丈夫です。私も今来たばっかりなので」


 と、ありがちな会話をするのは星宮琥珀と北条康弘だ。待ち合わせをしていたのは同じクラスであるこの二人である。北条は部活に行く前にここに現れたので、部活用の服装にチェンジしていた。鍛え上げられた肉体がうっすらと見える、なかなかに男前な姿だ。


「それでだけど、早速答えを聞いていいかな?」


「そう......ですね」


 百点満点スマイルを放ちながら星宮にそう言った北条。そう、この場が設けられた理由は、以前の北条の公開告白の返事を星宮がするためだ。告白の日から数週間が経ち、ようやくその返事が今される。


 星宮は胸に手を当てて心を落ち着かせて、軽く深呼吸をした。そして身長差のある北条を見上げて、真っ直ぐに視線を合わせる。



「――ごめんなさい。私は、あなたと付き合えません」



 ぺこりと腰を折った星宮。それが星宮の答えだった。


 冷えた風が吹き、空しい沈黙が数秒間二人の間を包み込んだ。しかしその沈黙を破ったのは、いつもと変わらぬ北条の明るい声であり――、


「ま、だよなぁ。なんとなくそんな気はしてたんだよねぇ」


「で、でもっ。私は北条くんのことは嫌いってわけではないですよ。この前、朝比奈さんから私を助けてくれたのは本当に感謝してますし、それに北条くんは頭も良くて――」


 慌てて北条を持ち上げようとする星宮に、北条が苦笑する。どうやら振られたことについてそこまで気にしていないようだ。


「そんな無理に俺を持ち上げようとしなくてもいいよ。それに、前の朝比奈さんの件は俺のせいで始まったようなものだし、感謝されることじゃない。俺が星宮さんに公開告白なんかしなかったら、あんな酷いことは起きなかったからな」


「でも、北条くんは私を助けてくれたので、そこはしっかりと感謝してて......」


「ははっ。そっか。そんなに感謝してくれるんなら、ちょっとは受け取っとくよ」


 星宮の心配そうな視線を見た北条はすかさず百点満点スマイルを浮かべて、星宮を安心させる。もし北条の気分を害したらどうしようと不安にしていた星宮も、北条の優しい表情にいくつか緊張が解けた様子だった。


「それじゃ星宮さん。せめて、俺とは友達になってくれない?」


「は、はいっ。それは勿論です」


「なら良かったよ」


 そうして北条はぐっと伸びをする。友達となった二人はにこやかに微笑みあい、男が告白を断られた空気とは思えないほど明るかった。


「じゃ、俺は部活に行ってくるよ。今日はありがとう星宮さん」


「こちらこそありがとうございます。良い返事ができなくて、ちょっと申し訳ないですけど......」


 少し星宮が居心地悪そうに言うと、北条は呆れたように笑う。そんな北条に星宮は不思議そう首を傾げた。


「天馬とうまくいくといいな。頑張って」


「え?」


 そう言い残し、北条は走って星宮の視界から消えていった。最後にそんな事を言われた星宮は顔をほんのりと赤く染める。やっぱり、北条は二人の関係に薄々気づいていたのだろうか。


「......っ。私と天馬くんは別に」


 なんでこんなに恥ずかしい気持ちになってしまうか、星宮は理解できない。今まで誰も好きになったことがなかった彼女は、初めて沸き上がる感情に理解ができなかった。でもこの感情は、早く消えてほしいと思うほど悪いものではない。少し鼻がツンとしてしまうくらい、むず痒い気がして――、


「やっぱり最近、私おかしい......」


 一人取り残された星宮は頬を赤く染めたまま、ポツリと呟く。なんだろう、この気持ち。

甘酸っぱい展開をもっと私は作りたい

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