◆第33話◆ 『宝石級美少女のご褒美作戦』
「58点!?」
「あ?」
隣で驚愕をしているのは庵の友人である暁。彼は目を丸くし、まるで信じられない物を見るかのような目付きで庵を――いや、庵の手に持つ紙を見ていた。
その紙とは昨日行われた数学のテスト。そのテストでなんと庵は58点を獲得していたのだ。
「庵......ついにカンニングに手を出したか」
「暁お前、いくらなんでも俺を信用してなさすぎだろ」
確かにいつも平均点以下の庵であるが、さすがに根拠もなくカンニング扱いはあんまりだ。少々気分を害された庵はジトーッとした視線を暁に向ける。
「いや、僕は本気でカンニングを疑ってるぞ。カンニングしてないならどうやって58点なんか取ったんだよ」
「勉強したからに決まってるだろ。正攻法だ」
「庵が勉強? 何の冗談だよ」
「おい。そろそろ俺怒るぞ」
少し声を低くして言うと、暁が「あぁ、ごめんごめん」と短く謝罪する。いくら唯一無二の友人とはいえ、ここまで言われるのはあまりにも心外だ。絶交という単語がちらつきそうになる。
「じゃあ一応信じるけどさ......なんで急に勉強する気になったんだよ」
そう問われて、庵は「あーっ」と唸った。これに関しては答えるのが難しい。
「......なんか急にやる気になったんだよ。なんかふと思い立って......みたいな?」
「とはいっても今回のテスト範囲結構広かったぞ? テスト範囲全部網羅したのか?」
「まぁな。全部きっちりとやった」
「......誰だお前」
やはり怪物を見るかのような目で見てくる暁。庵も正直と答えたいところであるが、そういうわけにはいかない。このテストの結果は全て星宮のおかげなのだから。
***
というわけで放課後。今日は水曜日であり、デートの日であった。いつも通り庵の部屋にて、今回のテストについて話している最中である。
「やりましたね天馬くん。赤点回避ですよ」
「まぁな。全部星宮のおかげだよ。本当にありがとう」
「教えるくらいお安い御用です。私のおかげじゃなくて、頑張ったのは天馬くんですよ」
58点の答案を見せると、星宮は天使の笑みを浮かべて庵を賞賛してくれた。テスト勉強をして良かったなぁと思えてしまうほどの宝石級の表情。その言葉が少しむず痒くて、庵は照れ笑いを浮かべてしまう。
「んで星宮の方は何点だった?」
「私は100点でした」
「おぉ。さすがだな」
さすが星宮。庵の家庭教師に時間を割かれたにも関わらず、しっかりと満点を取ったようだ。庵とはまるで次元が違う。
「この調子で次のテストも赤点を回避していきましょう。次も私が手伝いますっ」
「お、おう。ありがたいにはありがたいけど、次もすんの?」
「はい。勿論ですよ」
早速次のテストに意気込み始める星宮。そんな気の早い星宮に庵は乾いた笑いをする。ぶっちゃけた話、結構憂鬱なのだ。宝石級美少女に教われるのは嬉しいのだが、それでも面倒臭いが庵の中で勝ってしまう。とても情けない話だ。
「......嫌ですか? 天馬くん」
「嫌というか面倒臭いなぁ。別に俺は赤点でもいいと思ってるしさぁ......?」
「よくないですよ。成績に響きますっ」
「あっ。すみません」
正直に答えると星宮が少し頬を膨らませて怒る。さすがにせっかくの星宮の申し出に失礼だったか。
「......なら、どうしたら天馬くんは勉強をする気になるんですか?」
「どうしたら、か。難しい質問だな」
「何かないですか?」
「うーん......」
どうしたら勉強に対するモチベーションが上がるか少し頭を悩ませてみたが、モチベーションが上がりそうな方法は全くといっていいほど見つからない。
うーんと庵が頭を悩ませていると、星宮が何か思いついたのか「あっ」と声を上げた。
「勉強のモチベーションを上げるために、赤点を回避したら自分に何かご褒美をあげるってのはどうですか?」
「ご褒美?」
「はい。赤点を回避できたら自分にご褒美をあげるんです。それなら頑張ろうと思えませんか?」
「あー......」
中々の名案を出した星宮。確かに効果的ではありそうだが、この作戦には一つ大きな問題があった。
「ご褒美っていっても、俺今欲しいものとか無いんだよなぁ」
そう。肝心のご褒美の内容が思いつかないのだ。ゲームならある程度はもう揃っているし、何か特別食べたい物があるかと聞かれれば何も思いつかない。ご褒美といえるご褒美は庵は全くといっていいほどに思いつかないのだ。
しかし、ここで星宮が中々の発言をぶっ飛ばしてきた。
「それなら私が天馬くんのご褒美になります」
「......はい?」
ほんのり頬を赤らめてそんなことを言ってきた星宮。星宮の言ったことが理解できなかった庵は思わず間抜けな声を漏らす。この宝石級美少女は一体何を言っているのだろうか。
「だから私が天馬くんのご褒美になるんですよ」
「......」
「て、天馬くん?」
庵はポカーンとした心の中で思う。
「何それエロい」
(何それエロい)
あ、となる庵。心の中で思ったことがつい口にも出てしまった。庵の発言によりみるみる星宮の頬がリンゴのように赤く染まっていく。庵の視線と星宮の視線が重なった。
「そ、そういう意味じゃないですっ!!」
前のめりで否定をする星宮。庵は、こんなに恥ずかしがる星宮を見るのは初めてだなという益体もない場違いな感想を頭の中に浮かべるのであった。




