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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
After Story・卒業を控えて

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◇After Story第17話◇ 『宝石級美少女と江ノ島旅行【江ノ島観光】』


 海でのひと時を終えた二人は、次なる観光スポット――江ノ島弁財天仲見世通りへ向かった。


 そこは、小さい店がぎっしりと並んだ商店街。香ばしい匂いと甘い匂いが混ざり合った、食欲をそそる大通り。

 庵たちと同じ観光客が楽しそうに買い物をしていて、笑い声や呼び声がこだましている。

 両脇にはたこせんやしらすコロッケを売る屋台があって、まるで地元の夏祭りみたいだった。


「これがたこせん......江ノ島といえば、ですよね!」


「俺も気になってたんだよな、たこせん。ほんとにたこ焼き挟んであるんだな......」


 まず二人が買ったのはたこせん。手に持った大きなえびせんに、ちょこんとたこ焼きが挟まれている。ソースの甘い香りと青ノリの香ばしさが相まって、とてもおいしそうだ。


「じゃあ、いただきまーす」


 未知なるたこせんにかぶりつく。パリッとしたせんべいの食感と、とろっとしたたこ焼きの食感が口の中で混ざり合った。それはとても不思議な感覚で、今まで食べたどの食べ物にも例えられないものである。

 

「ん! すごくおいしいですっ」


「それな! こんなうまいもんなんだな......」


 目を見合わせて感情を共有し合う。海で体力を使ってお腹が減っていたからそう感じるのかもしれないが、このたこせんはとてつもなく絶品すぎる。是非、庵の地元でも販売してほしいと切実に願ってしまった。

 あまりの美味しさにとろけた表情をする琥珀。そんな可愛いお顔をよく見ると、更に可愛いことに気づいてしまう。


「ははっ。琥珀、口にソースついてる」


「えっ? ほんとですか?」


 庵の指摘に、口元を指で触る琥珀。しかしそっちは逆だ。

 一瞬のためらいはあったが、その場の空気にあてられてか、庵は琥珀の口元に手を伸ばす。そして親指でソースを拭ってあげた。それをペロッと舐めたりはさすがにしなかったが。


「取れましたか?」


「うん。いつも通りの琥珀に戻った」


 そんなやり取りを挟んで二人は観光を再開した。時間の許す限り、事前に決めていた江ノ島でのやりたいことリストを順調にこなし、同時に日も少しずつ暮れていく。

 今日という日だけは、受験や学校、人間関係、ありとあらゆる悩みを忘れて、思うがままに遊びつくした。それは本当に夢のような時間で、あっという間に過ぎ去ってしまう。



***



 ――夜がきた。


「いただきます」

「いただきます」


 二人が最後にやってきたのは海鮮定食屋。そこで注文したのは、江ノ島名物――しらす丼。

 丼の上に山のように盛られたしらすは、一粒一粒が宝石色に光っていて、海から上がったばかりの新鮮さを感じられた。こんな贅沢なものを食べていいのかと、箸でつまむときは少し手が震えてしまう。


「――」


 恐る恐る、口に運んだ。まず感じたのはとろけるような柔らかな食感。想像していたぷつっと弾けるような歯ごたえとは無縁で、口に入れた瞬間ふわりと舌の上で溶けてゆく。そのあとにほのかな塩気が口の中いっぱいに広がって、海の香りがハーモニーを奏でだした。

 気づけばもう一口、もう一口と箸が進んでしまう。


「やば! なんだこれ、うま!」


「んーっ。しらすがとろとろですねっ」


 ここで驚くのはまだ早い。既に絶品なしらす丼に、醤油をひとたらしすれば、コクが加わって新たな一面を見せてくれる。卵黄を落とせばまろやかさが丁度よく全体をまとめて、しらすの素朴な旨みが引き出される。

 庵たちは江ノ島の絶品グルメを思い知り、食べ終わるころには江ノ島のすべてを味わったかのような満足感が体に染みこんでいた。


「はぁー......俺もう満足だわ」


「私もです。今日はもう百点満点でしたね」


「だな。満点が過ぎるわ......」


 海を楽しんだあとは、商店街を探索したり、江ノ島エスカーに乗ったり、江ノ島神社に行ったり、もう今帰っても悔いはないという程に江ノ島を味わいつくした。これを百点満点と言わないで、なんという。

 庵は満腹感と幸福感を同時に感じながら、なんとなく天井を見上げた。


「俺、江ノ島住みたいなー」


「ふふっ。私もおんなじこと考えてたところですよ。こんなに楽しいとこと美味しいお店がいっぱいだと一生居ても飽きなさそうですよね」


「それな。俺大人になったら江ノ島に永住して毎日しらす丼食うわ。なんなら俺がしらす丼の店開くまである」


「たまに食べるから美味しいんですよ庵くん。毎日食べたら飽きちゃいますって」


「まぁ、それもそっか......」


 琥珀の言うことはもっともで、美味しいものはたまにしか食べられないから美味しいと思えるのだ。ずっと同じものを食べ続けてたら、そのうち味覚がマヒして美味しいと思えなくなってしまう。

 が、そんなの関係ねぇと割り切ってでも、庵はこのしらす丼を毎日食べたいと思ってしまった。三大欲求には抗いたくても抗えないのだ。


「あー、お腹いっぱいで眠くなってきたかも......今日遊びすぎて疲れたなぁ」


 そして次に襲ってくるのは、またもや三大欲求の一角、睡眠欲。海だけでも疲れたというのに、あれから食べ歩きや観光を続けて、正直だいぶ疲労が溜まっていた。今はアドレナリンがドバドバなおかげで意識を強く保てているが、一度落ち着いたらすぐに眠ってしまいそうだ。


「ここで寝ちゃだめですよ、庵くん。寝るのはホテルについてからにしてください」


 少しうとうととしだす庵に、琥珀が半笑いで忠告してくれる。せっかくホテルを予約してふわふわのベッドが待っているのに、こんなところで寝てしまったら台無しだ。

 だから、せめてホテルまでは意識を強く――、


「ホテル......ホテル、ホテ......っ!? はっ!?」


 突然、何かを思い出したかのように目を見開き、わなわなと肩を震わせだした庵。そんな彼からはもう、睡魔は消え去っていた。


「ど、どうしたんですか庵くん?」


「あぁ、いや、どうしたっていうか、どうもしてないんだけどさ......」


「え?」


 不思議そうに首を傾げる琥珀。だが、琥珀にだけはその理由をぺらぺらと語るわけにはいかない。

 江ノ島観光が楽しすぎて、いつの間にか頭の片隅からも消えていた。それは、今回の旅行において、庵の一番の試練だ。


(もう、お泊りくるじゃん......っ)


 そう、今日は初めて琥珀と夜を共にする日。人生初、彼女とお泊りイベントだ。

 正直なところ、庵の中で今日の琥珀とのお泊りをどうするかまだ結論は出ていない。避妊具まで地元から持ってきておいてそれはないだろうと思われるかもしれないが、未だ覚悟はついていなかった。


(......どう、しよう)


 傍から見たら情けないと罵られるかもしれない。だが、庵にも庵の事情がある。それだけは分かってほしいと願った。だけれど、一体誰に願っているんだ。


「――じゃあ、そろそろホテルに戻りますか」


「え? あ......そう、だな」


 時刻23時30分。

 庵たちは観光を終えて、今日泊まるホテルへと戻った。


◇宝石級美少女tips◇


デート代は男が出すみたいな風潮を嫌っている。

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