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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
After Story・残りの高校生活

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◇After Story第7話◇ 『宝石級美少女と夏祭りに行きました』


 提灯が沢山ついた大きな竿が、夜空に堂々と立っている。これは万灯と呼ばれるもので、軽快な音楽とに合わせて、大量の提灯のついた竿を片手で持ち上げたり、腰で支えたりする見世物だ。祭りのある日は、これがなければ始まらない。万灯は、庵の中で祭りには欠かせないものと言えるだろう。


「――琥珀、着物めっっちゃ似合ってる」


「ありがとうございます。って、さっきもそれ言ってくれましたよ。庵くん」


「別何回言ってもいいだろ」


「そうですね。何回言われても嬉しいです」

 

 明るく騒がしい夜道。庵の隣を歩いているのは、ピンクの花柄の着物を着る琥珀だ。この着物は、庵の母、青美が、生前に琥珀へ贈ろうとしていたものだ。今は琥珀が家に保管していて、今日で琥珀がこの着物に袖を通すのは初詣以来二度目。


 そして今日は夏祭り。そんな特別な日には、琥珀も特別仕様。着物姿が似合っているのは勿論のこと。髪はお団子にまとめられて、簪が挿されている。触覚も丁寧にアイロンがかけられ、くるりとカールがつけられていた。

 今の琥珀はまさに、可愛いと美しいの両方を兼ね備えた女性としての完成形。普段から十分すぎるほどの美貌を持ち合わせていたのに、更に先へ行ってしまうものだから、庵はまた更に琥珀が遠い存在に思えてしまう。


「なんか、お嬢様と歩いてるみたい。琥珀と夏祭り回ってる実感湧いてこないわ」


「今日はメイクとヘアセットと、えーとあと着替えで二時間はかけました。我ながら上出来な仕上がりだと思ってます。ママに写真送ったら、スマホのロック画面にしてくれました」


「......おお。気合の入り方が違うな。さすが琥珀さん」


 琥珀はこんなにも準備を頑張って庵との夏祭りに臨んでくれたのに、肝心の庵はというと完全なノーセット。普段と変わらない私服と、一応寝癖だけ直した、特に整髪料が付いているわけでもないチクチクとした髪形。こんなに気合の入った彼女と比べて、庵は申し訳なく思う。


「俺も、琥珀の写真スマホのロック画面にしていい?」


「いいですよー。でも、私単体じゃなくて、庵くんも映ってください」


 琥珀ママの真似をしようとしたら、琥珀が条件付きでおっけーを出す。庵はスマホを取り出して、琥珀と肩が触れ合うくらいの距離まで近寄った。


「じゃあ撮るよ」

「はいっ」


 琥珀は写真映えする笑顔で、庵は少しこわばった笑顔。また思い出が一つ庵のスマホに保存された。


「あー良い。マジでありがとう」


「はい。あとで私にも送っといてくださいね」


「おっけー任せろ」


 というわけで、庵は早速ロック画面を琥珀とのツーショットに変えた。スマホの電源を入れなおすと、当然先ほど撮った写真が真っ先に表示される。じっくり見てみると、なんだかアイドルと一般人のチェキみたいだ。庵はそっと、しばらくとしたら元に戻そうと思った。


「それじゃま、花火まで屋台回るか」


「そうですねっ。私、たこ焼き食べたいです!」


「なんでたこ焼き?」


「お腹すいたからです」


 花火が始まるまで、あと一時間あまり。それまでは、休憩を挟みながらぶらぶらと屋台を回る予定だ。まずは、たこ焼きの屋台探し。腹が減っては戦はできぬので、庵も琥珀と一緒にたこ焼きを買おうと思う。


「――ぁ」


 庵が無言で琥珀の手を握る。琥珀は一瞬肩をぴくんとさせて驚いていたけれど、庵の横顔をちらりと見てからすぐ元に戻った。その表情はどこか満足げだ。


「はぐれないようにな」


「これじゃはぐれられませんよ」


 庵はこっぱずかしくなって、しばらくは琥珀の顔を直視できなかった。



***



「――はい。たこ焼き二個いっちょあがり」


 頭にハチマキを巻いた初老の男性から、たこ焼きを二パック分受け取る。さっき目の前で作ってもらったので、出来立てのほやほやだ。輪ゴムを外して中を開くと大量の煙が出てくる。


「わーっ。美味しそう!」


「オラが作ったたこ焼きは一級品だぜお嬢ちゃん。覚悟して食べな」


「はいっ。覚悟して食べます!」


「おう。また来いよ」


 熱いたこ焼き店員から激励の言葉をもらい、たこ焼きパック両手に意気込む琥珀。たこ焼きに対する気合の入り方が異常なので、庵は少し笑ってしまった。


「お。あそこ席空いてるから、あそこで食べるか」


「はいっ」


 たこ焼きの屋台から離れ、庵は遠くに見えるステージ閲覧用のテーブルを見つける。食べるなら座って食べたいので、庵はステージに興味はないが、そこに座らせてもらおう。


「あーっ。もう私すっごくお腹すきました。というか今日お昼ごはん食べてないんですよね」


「え。なんで食べてないんだよ」


「だから言ったじゃないですか。準備にすごく時間がかかったって。もうご飯食べる時間がなかったんですよ」


「あーそゆことか。そりゃお腹減るわ」


「ほんとですよ。もーぺこぺこです」


 琥珀のお腹事情を聞きながら、庵はテーブルにたこ焼きを置く。それから琥珀と向かい合わせに座った。


「ふーっ。さっきからずっと歩きっぱだったから疲れたな」


「ほんとですねー。余計お腹減りましたよ」


 庵が歩きっぱなしで疲れたことについて共感を求めると、そこにお腹が減ったという情報も付け加える琥珀。そんなさっきから変わらない琥珀の発言に、庵は思わず吹き出した。


「ははっ。さっきから琥珀、お腹が減ったばっか言うな」


「......事実なんだからいいじゃないですか」


 庵のツッコミに、琥珀が頬を膨らます。でも空腹には抗えないようで、怒りながら割り箸を割っていた。


「じゃあいただきまーす」


「はいどうぞ」


 一パック八個入りのたこ焼き。箸で一つ持ち上げると、煙がもくもくと一緒についてくる。それを琥珀の桜色の唇がふーふーと息を吐いて、搔き消していく。でも我慢ができなかったのか、三回ほど息を吹きかけたあとで半分かぶりついた。


「あっつ。は、はふ。熱いですっ。熱いです庵くん!」


「俺に言われてもな。どう? うまい?」


 まだ全然冷めてなかったのか、口に入れた瞬間手をパタパタとさせる琥珀。それをしたって何の解決にもならないのに、飲み込むまでずっと続けてるのだから庵はまた笑ってしまう。

 そしてなんとか水で流し込み、一息つく琥珀。だいぶ熱かったのか、耳まで真っ赤だ。


「美味しいです。美味しいけど、熱いです」


「そりゃな。でも熱いから美味しいんだよ」


「そうなんですかね......私は冷めてた方が食べやすくていいんですけど」


 なんて言いながら、またふーふー少なめで口に入れて呻きだす琥珀。琥珀は頭が良いのに、たこ焼きに関しては学習しないのか。


「あっつい......庵くんも私ばっか見てないで食べてくださいよ。何ボーっとしてるんですか」


「え。あ、ごめん。ちょっと琥珀の反応が面白すぎた」


「面白いって何がですか。私は真面目にたこ焼きを食べてるんですけど」


「なんか、琥珀もバカなんだなーって」


「あーっ! 今庵くん、私のことバカって言いましたね! 初めて私のことバカにしましたね!」


 庵から放たれた『バカ』というワードに、席から立ち上がって琥珀が指を差してくる。そのあまりの過剰な反応に、庵は少し心臓を飛び跳ねさせた。確かに今ままで庵は琥珀をストレートにバカにするような発言はしてこなかったが、実は琥珀にとって禁句だったのだろうか。


 と思ったら、すぐに席に着席しなおし、不満げな顔で頬杖をつきだした琥珀。そしてジッと庵に視線を向けてくる。


「最近、私の仲の良い人がみんな私のことバカにしてくるんですけど......なんなんですかね」


 と、ぽつりと小さく溢す。おそらく、朝比奈と、秋と、愛利のことを言っているのだろう。愛利は暁に振られてから琥珀へのいじりが過剰になったし、朝比奈は今まで通り琥珀にはまだ塩。秋に関しては琥珀の扱いは変わらず雑なまま。そんな中、彼氏の庵にまでバカと言われたら、確かに不満も爆発するだろう。


「えっと、それは大変だな。バカにしてごめんな、琥珀」


「別いいですけどっ。でも、あんまり私のこと舐めてると、今度は私がみんなのことバカにしちゃいますよ。私だってできるんですからね」


 腕を組んでぷんぷんと怒ってるアピールをする琥珀。怒りながらもたこ焼きを食べて、また呻いていた。可愛い。


「じゃあ試しに俺のことバカにしてみてよ」


「えっ」


 お試しに聞いてみたら、想定外の振りだったのか、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。それから首を傾げ、難しそうな表情になった。数秒後にハッと顔を上げ、ふふんと口の端をいたずらっぽく上げる。


「じゃあ、いいんですね。今から庵くんのこと、ものすっごくバカにしますよ」


「おう。どんとこい」


 果たして琥珀にどこまで庵をバカにできるのか。お手並み拝見だ。


「――庵くん。この前の中間考査で一個赤点ありましたよね。庵くんって、バカなんですね」


「......」


「......」


「え? そんだけ?」


「え? いや、はい。そうですけど......」


 もうちょっと何かあると思ったら、いつの間にか終わってた琥珀の罵倒。幸か不幸か、全然ダメージを負わなかったのであまりにも拍子抜けを感じる。ちょっとでも傷ついたらオーバーリアクションしようと庵は考えていたのだが、余裕のゼロダメージできょとんとしてしまった。


「......なんですかその反応」


「いや、琥珀って人のことバカにするの下手だなーって思ってさ。だって俺が赤点取ることなんていつものことだし、今更指摘されたって何も思わんよ。もっとこう......人の心をえぐるようなこと言わないと」


「むぅ......」


 へらへらと感想と改善点を述べられ、また更に不満げになる琥珀。すごく何か言いたげだ。そんな琥珀に、庵はさっき己が言っていたことを実演してみせる。


「例えば――庵くんって、学校のテストすら解けない社会不適合者なんですね。今はまだ赤点で済んでますけど、このまま社会に出たら次はバカの烙印押されちゃいますよ。今のままじゃ庵くんの将来はお先真っ暗ですね。今は真っ赤ですけど――くらい言わなきゃな」


「なっ。言うわけないじゃないですかそんな酷いこと! 私をなんだと思ってるんですか」


 これくらい言われたら傷つくというのを琥珀の高い声を意識して実演してみたところ、そのあまりの酷い内容に、琥珀が雷に打たれたかのような反応をして否定する。最も、こんな酷い言葉を琥珀が言うはずも思いつくはずもないが。


「知ってるよ。琥珀は優しいからこんなこと絶対言わないもんな」


「......言いませんけど、なんか言いくるめられた感じがして嫌です」


 庵に言いくるめたつもりはなかったけれど、思うような仕返しができなくて琥珀は悔しがっている。ちょっと琥珀を怒らせてしまったので、あとで何か甘いものでも買ってあげた方がよさそうだ。


「――よっ」


 すると突然、庵は後ろから肩を叩かれた。聞き覚えのある声だ。


「え、暁じゃん」


 後ろを振り返ると、ほのぼのとした笑みを浮かべる親友が立っていた。手には祭りの景品であろうピンク色の人形が抱えられており、彼も祭りを楽しんでいるのが見て取れる。


「もうすぐ花火の前なのに、なんで星宮さんと喧嘩してんだよ」


「いや別に喧嘩してたわけじゃ......」

「そうなんですよ黒羽くんっ。庵くんが、私のことバカって言ってくるんです!」


「おお、それは庵最低だ。今すぐ星宮さんに土下座したほうがいいな」


「えぇ......」


 暁の参戦に、突然追い詰められる庵。暁は話の流れを何も分かっていないくせに琥珀の肩を持つので、庵の立場がない。救世主の登場に、琥珀はふふんと得意顔で庵にちらっと視線を向けた。


「まぁ、仲睦まじそうで何よりだよ。――それはさておき、偶然だな。人めっちゃ多いから会えるとは思わんかったよ」


 ただ庵を少しからかいたかっただけなのか、すぐに話題を切り替えて、ここで会えた喜びを口にする。庵も学校の人間とは誰かしら会うだろうとは考えていたけれど、まさか一番手が友人である暁とは想定外だ。庵は素直に嬉しいと感じる。


「ほんとだな。で、暁は一人で祭りに来たのか?」


「いや、部活の奴らと来てるよ。男だけでも意外と楽しいぞ」


「へぇー」


 ワンチャンス朝比奈と一緒かとも思ったが、さすがに誘えていないようだ。朝比奈がまだ暁に心を開いていないのでしょうがない話ではある。


「てかさ、さっき朝比奈さんっぽい人見かけたんだよね。話しかけようかと思ったけど、友達と回ってるみたいだし、割り込む勇気出なくて無理だったわ」


 朝比奈のことを考えたら、タイミング良く朝比奈のことを口にする暁。どうやら朝比奈も祭りには来ているようだ。

 僕情けないなーなんて口にしながら、笑みをこぼす。しかし、まったく知らない友達と話してるところに割り込むのはとてつもない勇気が必要だ。庵はそれが分かるので、暁を笑ったりはしない。


「朝比奈さんも来てるんですね。祭りとかあんまり行かなそうなイメージでした」


「そんなイメージあるかな? まぁでも、普通に私服だったしめちゃくちゃ気合が入ってるってわけではなさそうかも」


 琥珀の思う朝比奈に対するイメージと、暁の思う朝比奈に対するイメージは違う。庵はどちらかというと琥珀側の意見だった。これは、付き合いの長さも関係しているだろうから、暁も朝比奈のことをよく知っていけば琥珀たちと同じ考えになる可能性も大いにある。


「はーぁ。星宮さんたちが羨ましいな。僕も好きな人と祭り回って花火見たいよ」


 そう羨ましがられても、庵たちにしてあげられることは何もない。琥珀は困ったように整った眉を寄せて、なんとか暁を助けられないか考えている。


「うーん、そうですね。なんとか朝比奈さんが一人のタイミング見計らって話しかけられたらいいですけど」


「そんなタイミングあるかなぁ」


 祭りで一人になるタイミングなんて、庵が思いつくのはトイレくらいだ。無論、トイレで待ち伏せなんてしたらドン引きされること間違いなしなので、実行するわけにはいかない。

 と、庵が実用性のない作戦を考えている目の前で、琥珀は一人屋台の方へと目を細めていた。


「え、あれ朝比奈さんじゃないですか、黒羽くん」


 瞬間、目を見開いた琥珀から放たれる衝撃の一言。最初は世にも珍しい琥珀の冗談かと勘違いする庵だったが、琥珀が指さした先には確かに朝比奈らしき紫髪のツインテールの人物が。


 ――しかも一人だった。


「ほんとだ。しかもあれ、一人だよな......」


「すごくタイミングが良いですね」


 急展開に、頭の整理が追いつかなくて呆然とする暁。そんな暁の背中を、庵は勢いよく叩く。よろっと暁はバランスを崩し、それから庵の方を振り返った。


「行ってこいよ暁。これはどう考えてもチャンスだし、行くしかないって」


「マジ......? 心の準備何もできてないんだけど」


「暁ならぶっつけ本番でいける。やってやれ!」


「......」


 背中を押す庵の言葉に、暁は両手で顔を覆う。視界を閉ざした彼は、きっと様々な不安と心で戦っているのだろう。

 朝比奈もずっと同じ場所に留まっているわけではないし、もしかしたら一時的に友達と分かれているだけかもしれない。とにかく時間は限られている。

 しかし、庵は信じてた。この男ならきっとできると。


「――分かった。ちょっとかましてくるわ」


「おおっ」


 ものの数秒で覚悟を決めた暁は、庵たちに背を向ける。その友人の勇ましい背中に、庵は声援を送った。琥珀も拳を上げて暁を応援する。


「頑張ってください黒羽くん!」

「頑張れよ暁」


「ありがとう二人とも。いきなり邪魔してごめんな。じゃあ、行ってくる」


 二人の応援に見送られ、一人の男は好きな女のもとに走っていった。人ごみに溶け行く暁を最後まで手を振って見送り、庵と琥珀は視線を合わせる。琥珀はどこか楽しそうに、口元を緩めた。


「黒羽くんの恋が実るといいですね」


「だな」


 そう、暁の恋の成就を祈りながら、庵たちも暁とは別に祭りを楽しんでいくのであった。


◇宝石級美少女tips◇


かなりの猫舌。


※次回から二話使って暁と朝比奈のストーリーを更新します。本文自体はもう既に書き終えているので精査が完了したら投稿します。お楽しみに。

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