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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
After Story・残りの高校生活

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◇After Story第5話◇ 『小岩井秋は宝石級美少女の友達と言えるのか?』


 ――ある日の昼休憩時間。琥珀は他クラスで弁当を食べていた。


「......」


「......」


 琥珀はほうれん草のおひたしを箸で口に運びながら、向かいの席に座って必死にスマホをカタカタ叩く女をぼーっと見つめている。紫色のボブを揺らしながら、目はスマホだけに一点集中。今だけは絶対に話しかけてはいけないという危ないオーラで、琥珀は何も口出しができなかった。


「――よっしゃAP!」


「おお......」


 どうやらゲームは終わったようで、顔を上げてガッツポーズをする女――秋。

 彼女が今やっていたのは有名な音ゲーのようで、結構なガチ勢らしい。適当に拍手をするも、琥珀は音ゲーどころかそもそもゲームをしない人なのでいまいちすごさが分からなかった。


「秋ちゃん。ゲームするのもいいですけど、お弁当食べる時間なくなりますよ」


「私今お腹すいてないから。すいたらあとで授業中におにぎり食べる」


 今食べればいいのに......と内心でツッコむも、これが秋のデフォルトだと琥珀も段々理解してきたので特に口出しはしない。もっと言えば、注意しても無駄なのだ。

 それに秋は琥珀もびっくりなほどに小食なので、食事が一瞬で終わるため先生にばれる心配も少ないだろう。


「まぁそういう問題じゃないんですけど......」


 卵焼きを口に運びながら、琥珀は明後日の方向を見つめる。ほんと秋ちゃんは自由な人間ですね、なんて思いながら。


「......うーん」


 秋の音ゲーを眺めながら、琥珀はふと頭を悩ませた。それは勿論、秋についてだ。


 琥珀は秋のことを当然大切な友達だと思ってる。だが、秋から見た琥珀はどのように映っているのだろうか。秋とはまるで告白のような形で友達になった仲なので、さすがに秋も琥珀のことを友達とみなしていると思いたいが、琥珀は最近不安になってきている。何せ、秋の琥珀への扱いが、あまりにも雑だからだ。


「なんか朝比奈さんにちょっと似てますね」


「コハ、今ものすごい悪口言った?」


「言ってませんよー」


 音ゲーに集中しているから聞こえないと思ったけれど、思いっきり聞こえていた。ぎょろりと目だけを向けてくるので、琥珀の小鳥の心臓が飛び跳ねる。


「――ま、いいですけど」


 秋から視線を外してお弁当に戻ろうとする琥珀。どうして私の周りの女の子は私をもっと大切にしてくれないんだろうなんて思いながら、箸を持つ――、


「――あれ星宮さんじゃん」


 突然、琥珀は後ろから声をかけられた。男の声だった。


「え?」


「やっほー。初めまして」


 びくっとして後ろを振り返ると、琥珀の記憶には1ミリたりとも残っていないはずの顔があった。金髪の、チャラそうな男子だ。澄ました顔で、ジッと琥珀を見つめている。


「えっと、誰ですか?」


「俺、松本悠斗。星宮さん、小岩井さんと仲良いんだね」


「はい......まぁ」


「いやぁ、なんか意外な組み合わせだな。あの小岩井さんがまさか星宮さんと仲良いなんて」


 名前を聞いても分からない。本気で知らない人だ。琥珀はなんだか嫌な予感がして表情が重くなる。

 そして、あの小岩井さんという言い方が気に食わない。なんだか秋のことを小馬鹿にしているような気がして、琥珀はちょっと不快に感じた。


「星宮さんは俺のこと知らないと思うけどさ、俺は星宮さんのこと知ってるの。いやさ、前廊下ですれ違ったときにめっちゃ可愛い子いるじゃんって思って、それであとで知り合いに誰なのか聞いてみたら星宮さんだったのよ。また会えて嬉しいわー」


「へぇ......あ、そうですか」


「うん。そうそう。いやマジまた再会とか奇跡だよね」


 残念ながら、琥珀にはこの男とすれ違った記憶は一切ない。つまり、琥珀の眼中にはないということだ。

 勝手に再会を喜ばれているけれど、あまりにも一方的すぎて正直気持ち悪いとすら感じてしまう。それと顔面至近距離で話しかけてくるのをまずやめてほしい。


「あ、そうだ星宮さん。インスタ交換しようよ。俺普通に星宮さんのインスタ知りたい」


「......」


 次はインスタを要求する男。距離感がバグりまくった男に、さすがの琥珀も苦笑いする。しかし琥珀はインスタをしていない。していても交換する気はさらさらないが。


「あの、私――」

「おいお前、私のコハに話しかけんな」


 琥珀の言葉が秋の言葉に遮られ、次の瞬間、琥珀の顔の横を何かが飛んでいく。そしてそれは松本を名乗る男の顔面に直撃した。


「いたっ。え、何?」


 松本の悲鳴と共に、何かがぽとりと床に落ちて転がり、琥珀の足元で停止する。視線を落として確認してみると、それは秋があとで授業中に食べると言っていた、ラップに包まれたおにぎりだった。

 おにぎりを投げた人と投げられた人。そんな二人に琥珀は挟まれ言葉を失った。


「何すんだよお前! 食べ物投げんなよ! 作ってくれたお母さんがかわいそうだろ!」


 まず松本が机を叩きながら声を荒げた。意外にも怒る場所はそこだった。


「お前に話しかけられるコハの方がかわいそう。知り合いでもないくせにコハの連絡先聞くな。なれなれしすぎ、お前」


 言葉の刺々しさはだいぶあるが、それでも琥珀が思っていたことを冷静な口調で淡々と、ほとんど代弁してくれた秋。いつもは何考えているか分からないふわふわとした秋が、今だけはとてもかっこよく見える。

 

「そんなん俺の自由だろ! 聞いちゃダメな法律があんのかよ! あ?」


「うっさいなキモ金髪。そんな意味わからん言い訳してるから誰にもモテないんでしょ」


「はぁー?? お前よりはモテるわこの陰キャ!」


 秋の必要以上の罵倒に、松本の額に青筋が浮かぶ。そして言い合いはどんどんエスカレートし、クラスの注目が秋と松本に集まっていった。


「ちょ、ちょっと秋ちゃん。もういいですよ。みんな見てるのでやめてください」


 完全に巻き込まれてしまった琥珀が仲裁に入るも、秋は一切聞く耳を持たない。成す術がなくなった琥珀は頭を抱え、苦肉の策として、弁当を食べることを再開する。こうすることによって無関係を装うのだ。さすがに無理があったが。


「お前みたいな気持ち悪い量産型マッシュがモテるわけないって。冗談きついよ、マジで」


「だまれや! 休憩時間中に教室の端っこでスマホカタカタ叩いてるようなやつに言われたくねぇわ。このオタク!」


「私は自分がオタクであることを認めてるけど? でもお前は自分が私より劣ってるって認められないんだ。ふーん、やっぱキモイってお前」


「はぁぁぁぁああああ???」


 口喧嘩の盛り上がりも最高潮。秋が女でなければ手が出ていたのではと思うほどに松本は怒り狂い、周りの視線など気にせず汚い言葉を吐きつける。


「――黙れよブス! 陰キャ! てめぇみたいなのが居ると、クラスの空気が悪くなるからさっさと出てけや!」


「――」


「......あ?」


 今日一の大声での罵倒が飛び出し、クラスが静まり返った。それに対して秋は、さっきまでぺらぺらと言い返していた口を閉じ、いきなり勢いを失う。


「......お、おい。急に黙ってどうしたんだよ」

「秋ちゃん?」


 少し冷静さを取り戻したのか、秋から何も言葉が返ってこず困惑する松本。勿論琥珀も困惑して、松本と一緒に秋に視線を送る。

 すると黙っていた秋はポケットから謎のキャラクターが描かれたハンカチを取り出し、それを目元に押し当てた。


「......私、何もしてないのに。ゲームしてただけなのに」


 突如、鼻をすする音と共に、弱弱しく切ない声でか弱い女の子を演じだした秋。それを間近で見た琥珀はあまりの切り替えの早さに感服し、逆に松本は絶句した。

 まさかここで女の武器を使ってくるとは。絶対嘘な泣き真似に、松本は口をぱくぱくとさせる。


「松本さいてー」

「悠斗それはないわー」

「女子泣かせんなよ」

「弱い者いじめとかださ」

「ねぇ先生呼びに行こ」


「いやいやマジで待って! 俺悪くないから! てかあれ絶対泣き真似! 俺嵌められたの!」


「言い訳すんなー」

「早く謝れー」

「謝罪会見開け―」


 そして追い打ちをかけるかの如くクラスからのブーイングの嵐。してやられた松本は、もうどうしたらいいか分からず情緒不安定になる。何か弁明しようとしているが、松本が暴言を吐いていたのは事実なので誰も松本をかばうものはいなかった。


***



 琥珀はたまらず、秋を連れて教室を飛びだした。やっと地獄の空気とプレッシャーから解放されて一息つく。それから隣で何食わぬ顔をしている秋にジッと視線を向けた。


「ちょっと秋ちゃん! さすがにやりすぎですよ。別にあそこまでしなくても......」


「ああいう悪い虫は徹底的につぶした方がいいよ。初対面でいきなりグイグイくるタイプは下手に関わると後々面倒くさいことなるから」


「え」


 秋を叱ろうと思ったら真面目な顔つきでそんな言葉を返された。それを聞いて、琥珀は喉から出かかっていた言葉を引っ込めてしまう。


「コハは嫌なことは嫌ってはっきり言えるようにならんとね。じゃないと、今度は彼氏くん泣かせることになっちゃうよ」


 いつもはなかなか目を合わせてくれない秋が、今は琥珀をしっかりとその瞳に映し、琥珀のためを思ってアドバイスをくれる。その姿はまるで、いつもと別人のようだ。普段の秋を琥珀は知っているから、今の言葉が秋の本心なのだと理解できる。


「は、はい......分かりました」


 琥珀は特に反論せず、素直に頷いた。そして胸の奥がどこか温かくなっているのを感じる。この温かさはどこから――嬉しさからだ。

 秋はしっかり琥珀のことを大切に思ってくれている。友達だと思っている。そのことが知れた、嬉しさ。


「ま、もう面倒くさいから次は助けないけど」


「秋ちゃん......」


 琥珀は溢れ出る思いを体で表現するため、秋を優しく抱きしめた。秋の髪からはシャンプーのとても良い匂いがする。


「急に何」


「もう秋ちゃんはずっと友達です。大好きです」


 琥珀のハグを拒否することなく、棒立ちで真顔のまま受け入れる秋。こんなご褒美、秋以外の人間だったら誰しもが鼻血を出して倒れるほどの破壊力だ。しかも琥珀の告白付き。秋はよくすまし顔で居られたものだ。尊敬に値する。


「かわいいやつだな、コハは」


 最後に秋がなんとなく琥珀を頭なでなでをして、お互いにご褒美を与え合った二人だった。




 

◇宝石級美少女tips◇


秋のことをふしぎちゃんだと思ってる。 

実際そう。

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― 新着の感想 ―
秋ちゃん強かでめっちゃ好きです!
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