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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
最終章・前編

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◆第189話◆ 『宝石級美少女はとても困りました』


 時は三時間ほど遡り、昼休憩。庵は暁と共に、屋上で弁当を食べていた。


 未だ憂鬱な表情なのは変わらず、なかなか箸が進まない庵。十秒に一回は出てくる溜め息は、見ている側まで気持ちが落ち込みそうになるが、暁はそんな庵を責めたりしなかった。


「いやぁ、何回でも言わせてもらうけど僕は庵悪くないと思うよ。というか、良い悪いの話じゃなくて、別にどっちも悪くないと思う。ちょっとお互いの気持ちがすれ違っちゃただけだよ」


「んなわけないだろ......俺が100悪いって」


 金曜日の話は、暁にだけはすべて打ち明けた。最初は半笑いで聞いていた暁も、異常なまでの庵の落ち込み具合を察すると、真面目に相談に乗ってくれた。

 そして、彼曰く庵は別にそこまで悪いことはしてないらしい。そんなわけないだろと庵は思うが、暁の心に訴えかけるかのような真面目な口調にはさすがに心が揺さぶられた。


 とはいえ、そんな簡単に切り替えれるほど庵のメンタルは強くない。


「あぁもう何もかもおしまいだぁ。琥珀に嫌われた。このまま振られて、二度と琥珀と話せなくなるんだ。あぁぁぁ、悪夢だぁぁぁ」


「一回落ち着きなよ。星宮さんがそんな簡単に庵を振るわけないだろ。まず、金曜日から星宮さんと連絡は取った?」


「......取ったけど」


「見せてよ」


 暁に琥珀とのやり取りを見せるよう求められ、庵はまた溜め息をつきながらスマホを取り出す。正直、もし琥珀から何かメッセージが届いてたら見るのが怖いので、あまりLINEは開きたくない。ただ、その心配はすぐに杞憂に終わったが。


「えーと『今日はほんとごめん』『ほんと最低なことした』『来週実際に会って謝りたい』、『大丈夫です! 気にしないでください』『私の方こそごめんなさい』でスタンプと。え、これだけ?」


「そうだよ! こんだけだよ! 俺はもっと続けるつもりだったけど、こんな早々にスタンプ送って会話をぶった切るってことは、これ以上は俺とは会話したくないっていう意思表示だろ!? やっぱ俺のこと嫌いになったんだよぉ! そうに違いないんだぁ!」


「うわぁ、これは重症だな」


 突如早口になって、頭をぶんぶんと振りながら、勝手に自己完結する庵。これにはさすがの暁も引いている。


 だが、実際に会って謝りたいという申し出を拒否されたのは、当時の庵にとってはかなりのオーバーキルだった。このLINEがなければ、まだ現在の庵のメンタルはもう少しマシだったかもしれない。


「......ま、今の庵には何を言っても無駄だけどさ」


「......」


 暁が一度言葉を区切って、大きく伸びをする。うつむくのをやめて顔を上げると、そこには爽やかな男の表情があった。


「くよくよすんなって。もう、過去のことだし今更後悔してもしゃーないだろ。今の庵にできることは、さっさと切り替えて、星宮さんを沢山愛してあげること。な?」


「......」


「僕が嫉妬するくらい庵星宮カップルはラブラブなんだからさ、末永く幸せになってくれよ」


 そんな彼なりのアドバイスを残し、立ち上がる暁。手には弁当袋がぶら下がっている。スマホで時刻を確認したら、次の授業まであと五分だった。気づかぬうちに、だいぶ話し込んでいたらしい。


「さ、教室に戻ろ。僕は次の時間が今年度初授業なんだよ」


 そういえば、庵も次の時間が初めて琥珀と同じ教室で行う授業だ。



***



 南条に一緒に帰ろうと誘われた琥珀は、どう断ろうかと必死に頭を回した。できる限り相手を傷つけない断り方をしたい。とすると、無難なのはこれだろうか。


「あっ、ごめんなさい。教室に忘れ物したのを思い出しました。せっかく誘ってもらったのに、すみません」


 唐突に忘れ物を思い出す作戦。この作戦は、すぐにその場から逃げられるし、相手も嘘をついてるなと勘づいてくれる。しっかりと諦めさせて、かつ穏便にフェードアウトするにはもってこいの手段だ。


 尚、これは琥珀が中学時代に編み出した手段であり、過去にもこれでやり過ごすことは少なからずあったらしい。


「あー、じゃあオレもついてくわ。オレも忘れ物思い出した」


「え、え?」


 そうは問屋が卸さない。予想外の返答に、頭がフリーズしてしまう琥珀。対する南条は、いたって冷静で落ち着いた様子だ。琥珀の言葉を何一つ疑っていないのだろう。まさか、こんなあからさまな嘘を本当に信じてくるなんて衝撃だ。純粋なのか、見かけによらず天然なのか、とにかくこれでは何の意味もない。


「......やっぱり、大丈夫です。別に今日わざわざ持ち帰らなくてもいいものなので」


「そっか。じゃー、オレもいいわ。さ、一緒に帰ろ」


「......」


 今初めて話したとは思えないほどの距離間でぐいぐい攻めてくる南条。正直、琥珀は今かなり困っていた。ここまでぐいぐい攻められるのは、例外を除けば初めてだ。無論、一緒に帰るつもりは毛頭ない。しかし、忘れ物作戦が失敗したが以上、ここからどうすればいいかが本当に分からなかった。


(......申し訳ないですけど、きっぱり断った方がいいんでしょうか)


 これは最終手段。できる限り、相手を傷つけずに断りたいのが琥珀の本音。ただ、今回は相手が悪い。あまり使いたくはないが、最終手段に舵を切るのもやむを得ないだろうか。


「あっ」


 どうするべきかうんうんと悩んでいる矢先、突然琥珀はバランスを崩した。なんとなく一歩後ずさったら、ちょうど玄関の段差があったようだ。ふわりと、体が浮く感覚に襲われる。体がひやりとした。


 大きく視界が回って、琥珀の小さな頭が地面と衝突しそうに――、


「危ないっ!」


 かけ声と共に、手を伸ばした南条が琥珀の腕をつかんだ。つかまれた琥珀は、南条の手によって衝突寸前のところで急停止。そして間一髪のところで琥珀は地面に連れ戻され、事なきを得た。


「あっ。え?」


 転びかけたショックを含め、なかなか状況が呑み込めない琥珀。とりあえず、どこも怪我はしていない。心臓は未だドキドキとしているが。


「ふーあぶね。大丈夫? 星宮さん」


「だい......じょうぶです。ありがとうございます。反射神経すごいですね」


 危機一髪で助けられ、やっと状況を理解した琥珀。未だ掴まれている前腕は、南条に助けられた証。今、自分が地面に二本の足で立っていることをしみじみと噛み締めた。もう、頭を怪我するのは懲り懲りだったから。


 南条は琥珀の無事を確認すると、ふぅと小さく息を吐く。琥珀は、そんな南条と恐る恐る目を合わせた。


「なら良かった。オレ昔ボクシングやってたから、反射神経は自信あるんだよね」


「そう、なんですね」


 どうやら、南条はかなりの体育会系の人間らしい。確かに、素人の琥珀から見ても、体は引き締まって見えて、ただ者ではないオーラを感じてしまう。体だけでいったら、北条とだいぶ近い印象を抱いた。


 それはそうと、ここでまた一つ問題が。琥珀は心の中で、頭を抱えてしまう。


(余計断りにくくなっちゃったじゃないですか......もう。私のばかぁ)


 あやうく怪我しそうになるところを助けられ、恩ができてしまった。これで、断るハードルが更に上がってしまう。こうなるなら最初からきっぱり断っておくべきだった。だが今更後悔しても、もう遅い。


「それで、一緒に帰ってくれる?」


「え、えっと、その......」


 そもそも南条が話しかけてこなかったらこんなことにはならなかったという考え方もあるが、琥珀はそんな他責思考をするような女じゃない。さっきのは自分が足元を見ていなかったのが悪いし、助けてくれた南条にはとても感謝をしている。


 その上で琥珀は、南条の誘いを断らなくてはいけない。だって琥珀には、もう心に決めた男が居るのだから。


「とりあえず、もう腕離してもらっていいですか?」


 助けてもらったときから、何故かずっと掴まれている腕。なかなか放してくれないので、さすがにツッコんだ。言うと、南条は思い出したかのようにすぐに手を放してくれる。


「あーごめん、普通に忘れてた」


「別に大丈夫です。で、その―――えっ」


 もともと騒がしかった廊下だが、その中でも取り分けうるさい、ドタドタとした音が真っすぐこちらに近づいてくる。音のする方向を振り向けば、見覚えのある顔がこちらに向かってきていた。


「え、何」


 南条も自分たち目掛けて走ってくる男の姿に気づき、首を傾げていた。その男は、必死の様子で琥珀の目の前までやってくると立ち止まり――、


「――お前、何琥珀の腕掴んでんだよ。琥珀困らせんなよ!」


 窮地に颯爽とやってきたのは庵。琥珀が困っていたのは事実。ただ、南条が琥珀の腕を掴んでいたのは理由があるので、少し勘違いをしている部分もある。


 だが、庵からしたらそんなのは関係ない。チャラいやつにつっかかるのは怖いが、琥珀を助けるためなら何だってする。もう、同じ過ちは犯したくないから。







◇宝石級美少女tips◇


頭の良さ順

秋>暁>琥珀>>>庵=朝比奈>愛利


最終章前編もあと五話くらいかな。


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― 新着の感想 ―
庵めちゃくちゃ格好いいな! もう最終章前編の終わりが近い…もうちょっとで終わっちゃうよお泣
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