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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
最終章・前編

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◆第188話◆ 『新学期は波乱続きのようです』


「あ、ぁぁぁ、あぁ、あああぁ、あぁ」


 休み明けの月曜日――新学期二日目。自分の席でうつぶせになりながら奇声を発するのは、天馬庵。金曜の放課後の出来事を未だ引きずっている彼は、ゾンビのようになってしまった。こうなったことにはしっかりとした事情があるのだが、何も知らないクラスメイトから気が狂ったとしか思われない。


「――」


 隣の席の朝比奈も大概なもので、朝一から寝たふりをかましている。新学期初日からだいぶ様子がおかしいのだが、今の庵には気にかけている余裕がなかった。


「――なぁ、あそこの二人やばくね。なんかすげぇ暗いオーラ出てるんだけど」


 そんな庵と朝比奈の二人は、早速クラスの笑われ者になりかけていた。勿論、二人の耳にも自分たちに対するこそこそ話は届いているが、正直改善しようとは思わない。二人のメンタルはそこまで強くなかった。


「庵くん......朝比奈さん......」


 そんな二人の様子を見て、唯一心配をしているのが琥珀。彼女だけは不安げな様子で、一人静かに胸を痛ませていた。




***



 ――放課後。



「ねぇ、そろそろいい加減にしてよ、美結。マジで、あたしらおちょくってるわけ?」


 使われていない空き教室。そこに友達だったはずの女子たちから呼び出され、朝比奈はまた尋問を受けていた。

 朝比奈一人に対し、相手は三人。一人は怯え、三人は怒りに肩を震わせている。


「――昨日も投稿してたけどさ、ほんとこれ何のつもり?」


「だから、私じゃないって言ってる。何回言ったら分かるのよ!」


 先週と同じくスマホの画面を突きつけられる。

 そこには、朝比奈たちの高校の掲示板の役目を果たすサイトが映っていた。ただ、このサイトは教職員たちが作ったものではなく、この学校の卒業生が作ったものだ。簡単に説明すれば、生徒間の交流を目的とした、知る人ぞ知る秘境である。


「まぁよくも100件もうちらの悪口を沢山書いてあるわけだけど、とりあえず直近の投稿が『友達の彼氏がブスすぎて死ぬ。自称B専らしいけど外面内面どっちもブスの男と付き合って何が楽しいの?爆笑』。写真付きで投稿してあるけどさぁ、この写真うちじゃん。うちの彼氏も映ってるし」


「――っ」


 まったくもって覚えのない投稿内容を聞かされる朝比奈。

 そう、朝比奈には今、冤罪がかけられていた。何者かが朝比奈を装い、友達の悪口や風評被害を学校の掲示板に書き込んでいる。だから皆、朝比奈を犯人だと勘違いし、激怒しているのだ。


「このうちの彼氏の写真、うちら四人しか持ってないはずじゃん。てことは、この投稿をした犯人はうちらの誰かになるけど......」


 怨念がこもっていそうな、ぎょろりとした目つきで睨まれる。そこにはもう、かつて友人だったときの面影はどこにもない。


「ぶっちゃけ、美結以外ありえないよね。高一の時も二学期くらいから突然付き合い悪くなったし。なんでかなーと思ってあんたのあとつけてみたら、”あの北条くん”とこそこそ密会してるのも見えたし。しかもその北条くんは突然死んだし?」


 確かに、理由としては申し分ない。高一の二学期は、朝比奈は北条と行動を共にすることが多かった。朝比奈が北条に失恋したことを知っている三人からすれば、違和感でしかないだろう。しかもその北条が直近で死んだのだ。きな臭さ、ここに極まれりとしか言いようがない。


「別に、今話したことはこの投稿に何も関係ないけどさ、美結からなんか変な感じがするんだよね。怪しい臭いがするっていうか。......いやもうほぼ確信してんだけどさ」


 どんと、朝比奈の肩のすぐ近くの壁を手で叩かれた。なんて最悪な壁ドンだろうか。


「もうさ、さっさと打ち明けてくんない? なんでここまでばれてんのに、まだしらばっくれるの? 裏はもう、取れてんだよ」


「私は、やってない。誰かが私を成りすまして、投稿してるの! 信じて!」


 訴え空しく、舌打ち、された。


「信じれるわけないでしょ! うちらを、裏切りやがって!!」


 裏返った声が、朝比奈の鼓膜を震わせる。この瞬間に、もうどんな説得や弁解をしても無駄なんだと悟った。それもそうだ。朝比奈が目の前の友達の同じ立場でも、自分を絶対に疑う。だって、どう考えても怪しいから。


(そこまでして、私を陥れたいのね)


 心の中で、うんざりとつぶやいた。学校の掲示板に勝手に他人を装って、こそこそと悪口を書き込む。そしてその事実を何らかの方法で広め、相手に無実の罪を着せ、友情にひびを入れる。なんて悪質で、幼稚な行いだろうか。本当に反吐が出る。


(あのバカ......っ)


 犯人はもう分かっている。だが、それだけではどうしようもない。相手も、それくらいのことに気づかれるのは当然想定内だ。



「――あぁ、もうガチで腹立ってきた。ねぇ二人とも、こいつ屋上に連れてこ」



 そうして、かつての悪夢が、今度は立場が入れ替わって再び蘇ろうとしていた。



***



 ――同刻。


「――」


 スクールバッグを手にした琥珀が、学校から帰ろうと下足場に向かっていた。秋と一緒に帰るつもりだったが、彼女の学校が終わってからの帰宅スピードは庵顔負けのもので、琥珀が秋のクラスに出向いたころにはすでに外にいた。


「――」


 しかし、別にどうとも思わない。一人で帰るのは慣れっこだからだからだ。逆に、誰かと一緒に帰る方が珍しい。本当は庵と帰れたら幸せなのだが、交際関係を隠している以上そうもいかないので仕方がない。だから、今日も今日とてぼっち帰宅。


(......今日は、庵くんと通話して、ちゃんとこの前のことについてお話しないとですね)


 靴を脱ぎながら、金曜日のことを思い出す。あの日のことはやっぱり琥珀の中でも衝撃が大きく、みのりに相談したとはいえ、未だうんうんと悩み続けていた。


 とりあえず今日庵と通話して和解して万事解決......といきたい予定なのだが、果たしてそううまくいくのだろうか。そもそも、うまく会話できるかも心配だ。話したいことは、ある程度決まっているのだが。


(なんとかなればいいんですけど......)


 不安がどうしても拭いきれず、少し暗い面持ちで靴を履き替えた琥珀。頭の中は庵のことでいっぱいだ。今日の帰り道は、ずっと考え事をしながら歩いてしまいそうなので、また踏み切りの中に入ってしまわないように前方には注意しなければならない。


 そんなことを考えていた矢先の出来事だった。


「――星宮さん」


「え?」


 後ろから低い声で名前を呼ばれた。とっさに後ろを振りかえると、そこには琥珀のクラスメイトである男子がいた。

 

「......えっと、南条、くん?」


「えー名前覚えててくれてたんだー。うれしー。あざーす」


 今琥珀の名前を呼んだ男の名は、印象が強かったので覚えていた。背が180cmくらいはあって、マッシュで、スポーツができそうな、ちょっとガラの悪い塩顔のイケメンだ。男――南条は、琥珀に名前を覚えてもらっていたことを知り、飄々とした様子で小さく笑った。


 そして南条はゆっくりと琥珀の傍に歩み寄り、至近距離まで迫ってくる。


「......何か私に用ですか?」


 さすがに警戒して、一歩後ずさる琥珀。それに対して、南条は「そんな怖がらないでよ」と言葉をかける。怖がらないでよと言われても、チャラそうなまだ全然知りもしない男にいきなり距離を詰められたら警戒するのは当たり前だ。


「別に用があるとかじゃなくてさ」


 用はない。では何だろうか。琥珀が整った眉を顰める。

 そんな警戒心MAXな琥珀に、南条は余裕の表情でこう口にした。



「帰るの一人ならオレと一緒に帰ろーよ。オレも今日、一人だからさぁ」


◇宝石級美少女tips◇


伊達メガネを持っている。

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― 新着の感想 ―
NTRの危機が再びやって来た…庵は結構かわいそうだし朝比奈はやばいしだて眼鏡つけてほしいし次回が楽しみ。
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