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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
最終章・前編

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◆第182話◆ 『宝石級美少女を願うのは欲張りでしょうか』



 ――新学期。


 今日この日は、春休みを終えた元高校一年生たちが、新高校二年生へと進級する日。憂鬱な気持ちで登校する者、期待に胸をふくらませる者、不安で仕方ない者。今日という日に対する向き合い方は、多種多様だろう。


 そんな中で、やはり皆が一番気になっているのはクラス替えだ。正直、今日のドキドキやワクワクの大半はこのクラス替えが占めている。今日から一年間過ごすクラスの発表なので、当然と言えば当然だろう。


 庵の高校では、高二からは文系5クラスと理系2クラスに分かれる。1クラスの人数は40人。男女比は大体半分ずつだ。


 そして、新クラスの名簿表は、登校前、既に玄関に張り出されている。




***



「大丈夫。大丈夫。俺は、ぼっちにならない。大丈夫。大丈夫だ」


 ぶつぶつと暗示をかけながら、重たい足取りで見慣れた登校道を歩くのは、新高校二年生、天馬庵。星宮琥珀という宝石級美少女な彼女を持っているはずの彼は、新学期早々、情けない面立ちで歩みを進めていた。


「俺は、大丈夫。神様はそんな意地悪じゃない。きっと、大丈夫」


 彼が何故こんなに思い詰めているかと言うと、やはりクラス替えの恐怖だ。

 今日から一年間、苦楽を共に過ごさなければならないクラスの決定。結果次第では、丸々一年、悲しい日々を送ることになる。そして、どんな結果でも受け入れるしかない強制的なものだ。それはあまりにも、理不尽で残酷な選別である。


「琥珀と同じクラスなんて欲張りは言いません。せめて、暁と同じクラスにしてください。頼みます、神様。暁が、暁が居てくれればいいんです」


 無論、琥珀と同じクラスなら最高なのだが、思い詰めた庵はそれは欲張りな話だと判断した。よって、次点の唯一の男友達である暁を懇願することにした。都合の良いときだけ神様を信じる庵は、今日だけは謙虚になって、神頼みをする。


「大丈夫、大丈夫......」


 両手を擦り合わせながら歩き、そろそろ校舎が視界に映ってきた頃。後ろから、庵に向かって近づいてくる足音が聞こえた。


「お、庵。おはよ」


「っ!」


 爽やかな声を後ろからかけられる。完全に自分の世界に入っていた庵は、その声の主にびくりと肩を震わせた。


「あ、あぁ、暁か。なんだよ」


「なんだよってなんだよ。新学期早々しょぼくれた顔して」


 苦笑しながら庵の隣を歩くのは、黒羽暁。今日は新学期初日なので気合が入っているのか、珍しくセンター分けの彼。庵の心中はお察しのようで、隣に来てすぐ背中を優しく叩いてくれる。


「やっぱ、クラス替えが不安?」


「そりゃ、な。俺は友達が少ないから、ほんと重大な問題なんだよ」


「はは。庵はクラスで僕としか話さないからな」


 重大だと言っているのに、軽く笑ってくれる暁。そんな友達の多い彼を、じろっと睨みつけた。


「暁はいいよな。俺と違って友達も多いし」


「いやそんなことないよ。僕、確かに人脈は広いかもだけど、浅く広くって感じだから、庵ほど仲のいいやつはなかなか居ないんだよね」


「はぁそうですか。話半分に聞いとくよ」


「いやこれはほんとだからな」


 メンタル不安定な影響もあって、暁の気遣いに冷たく対応してしまう。ただ、本当に暁の人脈が浅いのかは議論の余地がありそうだが。


「――やっぱ、星宮さんと同じクラスになれるかが不安?」


「......いや、どうだろ。そりゃなれるならなりたいけど、琥珀と同じクラスを願うなんて少し欲張りな気がしてきてさ。なんか、あまり期待できてない」


「はは。なんだよそれ。星宮さんは庵と同じクラスになりたいって思ってるだろうし、庵も一緒に願っときなよ。二人の愛の力が、神クラスを引き寄せるかもよ」


「でも、同じクラスになったとて、まだ俺ら学校では付き合ってること隠してるから迂闊にクラスで話せないんだよな」


 交際を二人だけの秘密にすると決めたのは、付き合い始めてだいぶ最初の方の話だ。そんなルールを決めてからだいぶ経ったが、未だ学校では知人くらいの関係を装っている。ただ、隠す理由もなくなってきているので、そろそろ大っぴらにしていく頃合いだとは思うが。


「そっか。まぁでも、僕は二人が同じクラスになれるのを祈ってるよ」


「暁もな。俺は、暁と同じクラスになれるかも、琥珀と同じくらい不安」


「ん?」


 暁と同じクラスになれるかの不安も正直に打ち明けると、当人である暁はきょとんとした顔つきになった。庵はその反応の意味が分からず、首をかしげる。


「え、庵文系だよな?」


「そうだけど......それが?」


「そうだよな。僕理系だから、僕と庵が同じクラスになる可能性はゼロだよ」


「はぁっ!?!?」


 突然のカミングアウトに、先程までの悩みはすべて吹き飛んで、素っ頓狂な声を上げる庵。そのとてつもなくオーバーな反応に、暁はポリポリと頬を掻いていた。


「あれ、言ってなかったか」


「聞いてねぇよ! 初耳だわ! 嘘だろ!?」


「ほんとなんだ。ごめん」


「終わったぁぁぁ!」


 唯一の男友達である暁が同じクラス可能性は早々に消え去り、庵はその場に崩れ落ちた。



***



 玄関前。

 校庭に咲き乱れている桜が、高校生の新たなるスタートを祝うかのように、花弁を風に乗せていた。花弁が行き着く先である玄関には、白い紙が張り出されている。そこには既に、沢山の生徒が集まって、抱きしめ合ったり、うなだれていたり、各々の反応を見せていた。


「ばいばい庵。僕は理系だから、あっちの方だ」


「あ、あぁ」


「またあとでクラスの感想を聞かせろよ」


 玄関を眼の前にして、暁は庵から離れていった。取り残された庵は、玄関に白い紙が張り出されていることを視認する。だが、この距離ではまだ何が書いてあるか見えない。


「......」


 ごくりと息を飲む。覚悟は決まっていた。先程、暁が同じクラスではないことを知って、一周回って冷静になったのだ。


「......っ」


 覚悟は決まっていたはずなのに、一歩足を踏み出すと心臓の鼓動が早くなって、呼吸が荒くなった。とても怖くなった。逃げ出したくなった。


「――」


 眼の前には沢山の人。喜んだり、悲しんだり、色んな人がいる。

 自分はどちら側になれるのだろうか。期待と不安が入り混じるけれど、不安の方が圧倒的に大きい。嫌な予感しか、しなかった。


「――ぅ」


 でも、名簿に体が近づいてくるうちに、早くこの苦しみから解放されたいと思うようになって、同時に早く結果を見たいという気持ちも湧いてきた。その突然湧いた気持ちが庵を後押しし、名簿が見える距離まで近づいてしまう。


「――」


 一呼吸置く。そして、名簿に目を通した。


「――。」


 まずは、一組。並びは五十音順。ゆっくりと目を通す。あ行、か行、さ行、た行......


 庵の名前はなかった。


「......」


 次に琥珀の名前を確認する。な行、は行......


 琥珀の名前もなかった。


 つまり、琥珀も庵も、1組ではないということ。


「......」


 次は2組と言いたいところだが、なんとなく4組から見てみることにした。早まる鼓動を抑えて、視線をゆっくりと動かす。


「――。――。」


 あ行、か行、さ行、た行......なし。な行、は行......なし。


 4組でも、ない。


「ふぅ......」


 一度呼吸を整え、次は隣の3組を確認することを決める。気合を入れ直し、名簿に再び視線を向けた。三度目になると、だんだんと慣れてきたのか、名簿の確認の速さが上がってくる。


「――。」


 あ行......朝比奈美結の名前が最前列にあることを確認。


 あ行、か行、さ行、た行......




 ......あった。


 天馬庵の名前が、出席番号18番に記載されている。庵は、3組だ。


「――」


 それを理解した瞬間、心臓がどきりと飛び跳ねる。とりあえず、朝比奈とは同じクラスであることが確定した。だが朝比奈とはあまり仲が良くないので、同じクラスだとしても素直に喜べない。問題はここからなのだ。


「すぅ......はぁ......」


 もう一度、深呼吸。一度目をつむり、僅かな時間、自分の雑念と向き合った。そして今は、無心。心を無にしたまま、瞼を上げる。


「――、」


 そして、名簿の確認を再開した。残された、な行とは行、それ以降の確認をする。


 な行、は行――、


 は、ひ、ふ、へ、ほ。ほ。ほ......











「――どうでしたか?」


 いつもより少し上ずった、鈴の音のような声が、庵の鼓膜をくすぐった。その天使の呼びかけに現実に引き戻されて、釘付けになっていた名簿から目を離す。


 ゆっくりと後ろを振り返った。そこには、久しぶりに見るセーラー服を着た琥珀が、後ろで手を組みながら庵に微笑みかけていて――、


「やった」


 庵の口から震えた声が漏れた。あまりの嬉しさと安堵で、何も感情を言語化できなくて、ただ一言、心から溢れ出た言葉が、漏れた。



「やりましたね、庵くん。今年からは一緒のクラスですよ」



 そんな満面の笑みを浮かべる彼女に、庵はまたその場に崩れ落ちそうになったのであった。







 新学期編スタートです。


 私的に高校のクラス替えは、文化祭や体育祭、球技大会と肩を並べるくらいに......いやもしくはそれ以上のビッグイベントだと思っています。イベントの方向性は違いますけどね。


 今回の庵のクラス替えに対する向き合い方は、作者である私の高校時代そのものです。いやぁ、懐かしいですね。前日の不安、当日の緊張、神クラスを引き当てた時の喜び。そのときの感情は今でもよく覚えています。


 私の話はさておき、ついに二年生編。いよいよクライマックス......の予定です。物語としては二年生の途中で完結、という形になると思います。ですが、あくまで予定なので、もしかしたら少し時間を飛ばして三年生になった彼らの様子もちょびっと描くかもしれません。


 それと、近いうちにまたキャラ設定集を更新する予定です。一度すでに投稿してありますが、今回はもっと詳しい内容を書いてみようかなという所存なので。


◇新クラス◇


2組 甘音アヤ

3組 朝比奈美結 天馬庵 星宮琥珀

6組 黒羽暁 小岩井秋

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― 新着の感想 ―
クラス替えって緊張しますよね…とうとうクライマックス!犯人やイベント等楽しみにしています!
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