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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
最終章・前編

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◆第181話◆ 『思い出話』


 話の続きはまた今度。琥珀の体調も鑑みて、今日の祝勝会は解散された。今は既に別れの挨拶も済ませて、各々が帰路に向かっている。

 庵は、琥珀を見送るために彼女の家まで歩いていた。隣には、いつもどおりの様子に戻った琥珀が、小さな歩幅で歩いている。


「迷惑かけてごめんなさい。私のせいで、気を遣わせちゃって......」


 ぽつりと謝罪の言葉を口にする琥珀。解散のときも、琥珀は悪くないのに何度も謝っていた。そのたびに、 庵は胸がチクリと痛むのを感じてしまう。


「いや悪いのは俺だよ。さすがに、無配慮すぎた。ほんとごめん」


「いえそんな......あ、この話、もうやめましょ」


 この会話と同じ流れをもう既にしているので、琥珀もさすがに気が引いたのか、苦笑しながら会話を終わらせようとする。庵はそれに「そうだな」と頷いた。


「ふーっ。昼はちょっと暖かくなってきましたけど、夜はまだ全然寒いですね」


「分かる。俺の部屋、寝る直前までストーブガンガンに焚いてる。まじでまだ全然冬」


 琥珀が当たり障りのない話題を持ってくる。それに対し、庵が自分の部屋事情を話すと琥珀がくすりと笑ってくれた。今は、こういう何でもない会話が一番心がリラックスできる。


「ほんと、早くあたっかくなってほしいですね。私も、寝るときアンカーを付けないと、足が冷たくてなかなか寝れないです」


「あー分かる。ほんと足が一番寒いよな。毛布だけじゃなかなか温まらないし」


「ですよねー」


 お互い、夜の寒さについて共感し合えて、少々の喜びを感じる。琥珀も同じなんだと知れると、すごく親近感が湧いた気がした。


「やっぱりまだまだ冬なんですね。もうすぐ桜が咲きそうなのに」


「――あぁ、ほんとだ。もうすぐだな」


 琥珀の視線の先には、桜の木の枝があった。暗くてよく見えにくいが、目を凝らせば、枝の先に沢山の蕾が付いてるのが分かる。気温はまだまだ冬だけど、しっかりと春が訪れようとしている証拠だ。


「もうすぐ新学期ですか」


「......新学期、か」


 新学期というワードに、庵は少し頬を硬めた。思わず、ちらりと琥珀の横顔を覗いてしまう。普段と変わらぬその美しい横顔を見て、庵は心臓をチクリと傷ませた。


「あの高校入学して、もう一年経ったんですね。なんか、すごく早くなかったですか?」


 桜の木を見て入学式でも思い出したのか、高校入学してからの時間の速さを振り返る琥珀。その場の勢いで庵は同意しかけたが、ギリギリで踏みとどまった。


「......いやぁ、どうだろ。俺は、高一は色々ありすぎて、あんまりそうは思わないかも」


「あー、確かに。言われてみれば、私もそんな気がしてきます」


 高一の9月、琥珀の命を救った日から始まり、今までのぬるま湯に浸かっていたような日々からは一変して、沢山の出来事が庵の身の回りで起きた。それはまるで新しい人生を歩みだしたかのような感覚で、言葉では現しようのないもの。それを、あっという間に過ぎ去ったと片付けるには、庵には少し無理があるように思えた。


「......悪いこともあったけど、良いことも沢山あったよな」


「ですね。庵くんは、高一を振り返って一番思い出に残ってることはなんですか?」


「えぇ......」


 高一を振り返って、一番良かったこと。答えはパッと思いついた。でも、それをすぐ口にするのはちょっと小っ恥ずかしくて、少し間を開けてから口を開く。


「――琥珀と、初詣に行けたときだな。あれが一番、思い出に残ってる」


「え、初詣ですか?」


 庵が答えたのは初詣。琥珀にとってそれは予想外の回答だったらしく、きょとんと庵の顔を覗いてきた。


「だって、1月はほんとに琥珀には迷惑かけまくって、絶対嫌われたと思ってたからさ。なのに琥珀は俺を好きって言ってくれて......そっからの初詣だったから、ほんとに心に来るものがあったんだよ」


 庵の母、青美が亡くなったショックで、庵は琥珀を沢山傷つけてしまった。普通であれば、絶交されるほどのことをやらかしたのだ。それでも琥珀は庵を見限ったりせず、弱くて、どうしようもなくて、ダメダメな庵を受け入れてくれて、普段通りに接してくれた。


 そんな琥珀に、庵はどれだけ救われたか。琥珀が居てくれたからこそ、今庵はこの場に居られるのだろう。本当に、感謝してもしきれない恩人だ。


「そんな真面目に話されちゃうと照れちゃいますね。でも、はい。庵くんの一番良かったことが私で安心しました」


「琥珀の一番の思い出は?」


「私ですか? 私はですね......」


 逆に質問してみると、琥珀は「うーん」と目をつむって顎に手を当てて、悩む素振りを見せる。そんな彼女の横顔を見て、まつ毛長いな、なんて場違いで益体もない感想を抱いてしまった。


 それからすぐ、ぱちりと目を開けて――、


「今日の焼肉です。すごく、美味しかったですから」


「焼肉!?」


「はい。焼肉です」


 まさかのド直近すぎる回答に、庵は目を丸くした。確かにおいしい焼肉だったが、まさか琥珀の一番の思い出にランクインするとは。それすなわち、今までの庵との思い出は今日の焼肉に負けたということ。衝撃と少々の悲しさを同時に味わい、少し落ち込みかける。


「マジか......」


 それを見た琥珀が「ふふっ」と笑った。


「嘘ですよ。一番は勿論、庵くんとの思い出です」


「えっ。なんだ、焦ったぁ......心臓に悪いって」


 どうやら嘘だったようで、庵は胸を撫で下ろした。琥珀がからかってくるのは珍しいことなので、彼女の言葉はなんの疑いもなく信じてしまう。たまに見せるあざとさは、庵にとって急所への一撃だ。


「で、その一番の思い出が何か知りたいんだけど......」


「それは秘密です」


 思い出を教えてもらおうとしたら、指でバッテンを作って拒否されてしまった。


「なんでだよ。俺言ったんだから、琥珀も教えろよ」


「恥ずかしいからだめです。残念でした」


「えぇ......」


 恥ずかしいという割には、ニコニコとしている琥珀。からかわれているのか、本当に言いたくないのか、それがどっちか庵には分からない。深追いしたいところだが、ここでしつこく聞いたらきもがられるかな、なんて想像が邪魔してできなかった。


「そんな残念そうな顔しないでください。いつか、ちゃんと教えてあげますよ」


「......マジで?」


「はいマジです。私、約束破りませんから」


 そのいつかは、いつ来るのだろうか。でも、琥珀の言うことなのだから、きっと答えてくれるのだろう。庵は、未来のお楽しみということで納得した。


「でも、その思い出を話すまでに、庵くんが新しく私の一番を更新してくれたら、この約束は守れないかもしれませんね」


「それは......俺は更新した方がいいのか、しない方がいいのか悩むな。どうしよう」


「私は更新してほしいですよ」


 そんな会話を経て、庵たちは琥珀のマンションに到着した。琥珀との帰路も、ここでお別れだ。もうすぐ新学期が始まるので、次に会うのは学校になるのだろうか。


「――じゃ、またな」


「はい。庵くんも気をつけて帰ってくださいね」


「おけ。あ、あともし帰ってから体調悪くなったら連絡してくれ。もう大丈夫だとは思うけど」


「はい。ありがとうございます」


 そうして、庵は琥珀に背を向けて自分の帰路を歩き出した。


「あ、庵くん!」


 すると、琥珀が後ろから声をかけてくる。正直、今日もまた去り際に声をかけられるだろうな、なんて予想してたからドンピシャだ。いっつも琥珀は、恥ずかしくてなかなか口にできなかったことを、最後の最後に言ってくれる。


「二年生、一緒のクラスだと良いですね!」


「っ。あぁ、そうだな!」


 それは、庵も小っ恥ずかしくてなかなか言えかったことだ。自分から言えなくて申し訳ないと思いつつも、お互い同じことを思っていたという嬉しさが、庵の胸を踊らせた。


 



祝勝会編終了。次回から新展開入ります。



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― 新着の感想 ―
今回の星宮まじで特にかわいい!新展開楽しみにしています!
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