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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
最終章・前編

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◆ホシミヤクエスト◆


 ここは『スターアンバー王国』。


 緑が溢れ、人々が賑わい、小鳥さえも囀る、世界に一つだけの超大国。広大な領土と豊かな資源を蓄えたこの国は、世界の中心と言われ、ありとあらゆる技術、人材、富が、集まっていた。


 王国の中心にそびえるのは壮麗な都『ペガサス』。白亜の城壁が輝くこの都市は、まるで神々が造りし宮殿のごとき美しさを誇っていた。そして王宮『ミノリル宮殿』は、まさにこの国の繁栄を象徴する建築であり、金と瑠璃で彩られた回廊、空に届かんばかりの尖塔が並ぶ。


 その他、街路は整備され、噴水広場には吟遊詩人が集う。世界各地から集められた希少な植物は、四季に応じて街をイルミネーションし、人々を活気付ける。東西南北からやってくる商人は、活気に満ちた市場を賑わせる。貴族や、戦士や、平民の憧れが、すべてここにある。


 スターアンバー王国こそが、まさに世界の希望の象徴。


 がしかし、そんな素晴らしき国は、今、未曾有の危機に瀕していた。


 

***



 草むらがざわりと揺れた。次の瞬間、テカテカと陽の光を反射する青い塊が、地面を跳ねてこちらに近づいてくる。一見して、無害そうな生命体だ。


「で、でましたね......スライム」


 それを見て、ごくりと喉を鳴らすのは『勇者』ホシミヤ・コハクネス。剣の柄に手をかけ、ゆっくりとそれを引き抜く。一切の油断はしないよう、ジッと目を細め、近づいてくるスライムを睨みつけた。


「えいっ」


 掛け声とともに、空を飛ぶスライムに剣を振り下ろす。

 見事命中し、スライムは両断――否、青い体液を撒き散らして、原型をなくしてしまった。


 撒き散らされた体液は、不運にもホシミヤの鎧や顔や剣に、付着してしまう。一部始終を後ろから見ていた他のメンバーは、それを見て少し気まずそうにしていた。


「きゃぁぁっ! 変なのがっ、変なのがつきましたっ。タオルくださいっ」


「落ち着いてホシミヤ。別にそれ毒とかじゃないから。ただのスライムの体液だよ」


「それが嫌なんですよっ!」


 目尻に涙を浮かべ、声を荒げるホシミヤ。メンバーが持ってきたタオルを乱暴に受け取り、ごしごしとまず顔から体液を拭き取った。だが、なかなか粘着力の強い体液のようで、いくら拭き取っても何かがこびりついている不快感が一生拭いきれない。


「テンマくんっ! まだ私の顔にスライムがついてませんか!」


「ついてるな」


「早く取ってくださいっ」


 タオルではどうしようもなかったようで、メンバーの『剣士』テンマ・イオーリに助けを求める。わがままでお転婆なホシミヤにいつも手を焼かされているテンマは、肩をすくめてから、手慣れた様子でホシミヤの顔から残ったスライムの体液を摘みとった。


「あんたさ、いっつもテンマに迷惑かけすぎ。勇者って肩書背負ってんだから、少しくらい我慢しなさいよ」


 テンマに慰められるホシミヤを見て、大きな溜め息をついた『魔法使い』アサヒナ・ミレーユ。腕を組みながら、呆れた目でホシミヤを見下ろしている。それに対し、ホシミヤも負けじと、タオルをたたみながら睨みつけた。


「うるさいですね。アサヒナさんだって、ゴブリンの群れに一人で突撃しにいったとき、返り討ちにあって私たちに泣いて助けを求めてきたじゃないですか」


「う、うるさいわね。その話が、今何に関係あんのよ。てか、いつまでそれ言ってんの。早く忘れなさい」


「ふんっ」


 『勇者』ホシミヤと『魔法使い』アサヒナは、よくぶつかり合って、険悪な空気になる。そのたびにテンマやクロバネが仲裁に入るのだが、彼女たちはほぼ毎日のように喧嘩しているので、最近はほったらかしにすることも多い。喧嘩するほど仲が良いという言葉もあるので、ある程度放っておいても大丈夫だろうというのがクロバネの結論だ。


「クロバネくん。私、さっきのスライムに、毒と入れられてませんよね? 一応確認してください」


「大丈夫ですよホシミヤさん。さっきのモンスターは、この世界のモンスターで最弱クラスのものです。少なくとも、毒を扱うモンスターはこの付近には存在しません」


「そうですよね......まぁ知ってましたけど。確認ありがとうございます」


 『僧侶』クロバネ・A・キラに確認を取った瞬間、余裕の表情を浮かべるホシミヤ。思わずツッコミを入れたくなる一同だが、またややこしくなるので今回はよしておく。ともかく、これにてスライム討伐は一件落着だ。


「......はぁ。なんで私たち勇者パーティーが王国の危機にスライム討伐なんかしてんのよ。なんかすごく馬鹿らしいんだけど」


「そう言うなよアサヒナ。国を脅かす魔王を倒せるのは、勇者の剣『アイリーン・ソード』を扱えるホシミヤだけなんだから。だからまずは、ホシミヤに少しずつ経験を積ませていかないと」


 『勇者』ホシミヤは、まだ剣もまともに扱えず、経験も浅い、新米冒険者。ただし『勇者』の家系である彼女は、代々受け継がれる『勇者』の肩書と力を持っているはずなのだ。


 そして今、世界を脅かす『魔王』ホージョー・カスヒロの息の根を止めることができるのは、『勇者』であるホシミヤしかいない。

 英雄譚にはこう記されている。勇者が持つことで本当の力を発揮する剣『アイリーン・ソード』が、皆が絶望に瀕したとき、希望の光となって『魔王』の心臓を打ち砕くのだ、と。


「本当にこの子が魔王を倒してくれると思う?」


 アサヒナにはとてもじゃないが、ホシミヤに魔王が倒せるどころか、勇者が務まるとさえ思えなかった。スライム一匹にきゃーきゃー騒いでいる現状を見れば、当然だろう。臆病で、物怖じで、勇者とは思えない愛らしい顔立ち。歴代の勇者の中でも、ホシミヤのような存在はかなり異例だ。


「僕は思うよ。ホシミヤさんには、秘められた可能性を感じるんだ」


「......あれに? 昨日も包丁で指切ったーって泣いてたけど」


「まぁいずれ分かることだよ。勇者の力は突然覚醒するものだから」


 『勇者』の力の覚醒。そんな過去の偉大なる英雄のように、ホシミヤもなれるのだろうか。アサヒナにはとてもそんなビジョンが想像できず、苦笑を浮かべた。


「テンマくん、私今日は疲れちゃったので、もう帰りましょ。あとお腹すきましたっ。早くお家に帰って、美味しいミネストローネが食べたいですっ」


「だめに決まってるだろホシミヤ。今日はまだスライム一匹倒しただけなんだぞ。このペースじゃいつまで経っても魔王を倒しに行けない」


「えぇー......魔王とかぶっちゃけどうでもよくないですか?」


「それ『勇者』が一番言っちゃいけないセリフだぞ」


 まだまだ新米冒険者な四人。


 いずれ来たる魔王との決戦の日に備え、今日も厳しい鍛錬を続ける。いつしかこの国は魔王によって侵略され、空は鈍色に曇り、風は不吉な囁きを運ぶだろう。静寂の中に漂うのは、終焉の足音か、それとも希望の前兆か。


 この先、歴史に名を刻む英雄たちは、

 武器を握りしめ、運命の扉を叩こうとしていた――。





 To be continued......?

 エイプリルフール企画です。その場のノリで一気に書いたので、設定とか全然考えてません。一体この国は、魔王によってどういう危機に瀕しているんだっ、とお思いかもしれませんが、私にも分かりません。ご想像にお任せします。てか『勇者』はともかく、他のメンバーは熟練冒険者であれよってツッコみたくなりましたね。自分で書いておきながら。


 若干キャラの性格が本編とぶれてますが、これは本編とは一切の関係のない番外編なのでご了承ください(暁に関しては面影ゼロですね。星宮はギリ本編でも言ってそう)。


 多分、おそらく、絶対、続き出します。すぐには出ないと思うけどね。ではでは~


 

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます!ホージョー・カスヒロでめっちゃ笑った。カスめ!もし甘音が殺してるならなんでだろう?続き楽しみにしています!
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