◆第1話・B◆ 『宝石級美少女は命を救われました』
せっかくのエイプリルフールなので何か変わった話を書こうとかなーと考えたのですが、特に思いつかず第1話の星宮視点を書いてみました。
それと、あとがきに少し大切なお知らせがあるので確認してもらえると嬉しいです。
――何でもない、いつも通りの1日の始まりだった。
携帯のアラームで目を覚まして、顔を洗って、朝ご飯は昨日の夜ご飯の残りを食べて、歯磨きして、メイクして、制服に着替える。最後に電気を消して、スクールバッグを手に家を出た。ここまでは昨日までと何も変わらない日々のルーティン。
「――」
外に出れば、冷たい秋風が肌を優しく撫でてくる。まだ厚着をするほどではないかもしれないが、もうそろそろ衣替えの季節かもしれない。星宮は手を摩擦熱で温めてから、学校への道を歩きだした
「――テストまで、あと一週間」
ふと、今がテスト期間であることを思い出した。星宮は毎日、決まった時間に勉強する癖を付けている。基礎的なことは全て頭に入っている彼女には今回のテストも特に問題はない。
だが今回の試験の数学の問題作成を担当する教師が、いつも難しい問題を作ると有名なので、少し気合を入れて望まなければならないか。
「正弦定理、ですか......」
おもむろに参考書を取り出して、今回の試験範囲のページを開いた。この参考書は英語と数学の二教科兼用の結構分厚いものだ。問題を流し見しながら解法を頭の中に思い浮かべていく。一度、全部解いたことのある問題なので、しっかりと記憶しているかどうかのチェックだ。
「ん......」
基本問題はスラスラと解法が思いついたが、応用問題になると解き方も少々複雑になり、一度解いたとはいえ思い出すのに時間がかかる。頭の中でsin、cosといろいろ考えてみるも、書かなければなかなか考えに整理がつかない。ペンとノートが欲しくなって、もどかしくなる。
「え、っと......」
それから数学の参考書と格闘することに夢中になってしまった星宮は、危険だということさえ気づかず『ながら歩き』を始めてしまった。ちょっとだけのつもりが、どっぷりと数学の沼にはまり込んでいる。
「――ぇ」
ふと、足元に感じた違和感。さっきまで歩いていた道路とは違う、ゴツゴツとした感触。そういえば、さっきよりも秋風が強くなっているような――、
「バカっ!!」
「えっ?」
突然男の人の声が聞こえたと思ったら、星宮は背中を引っ張られ、その場に尻餅をついた。同時に手にしていた参考書も転がっていってしまう。
何が――そう思った瞬間、星宮の眼の前にあった線路を、轟音を鳴らしながら走る電車が過ぎ去っていった。
「あっ、ぶなかったぁ......」
星宮を突き飛ばした男子も一緒に倒れたのか、隣で胸をなでおろしている。そしてすぐ、目が合った。
「あっ、君大丈夫だった?」
どこかうわずった声で話しかけてきた男子。学校に友達なんて一人も居ない星宮にとって、もちろんこの男子とは知り合いでも何でもない。今、この瞬間が初対面だ。
(え、もしかして私今、命を助けてもらった?)
さっきまで自分の世界にのめりこんでいた弊害で、未だ何が起きたか把握しきれてない。とりあえず立ち上がって、ぺこりと目の前の男子に頭を下げた。
「大丈夫......あ、ありがとうございます。あ、そのっ。すみませんっ」
ここ最近人と会話していない弊害もあってか、しどろもどろに謝罪を述べてしまう。
自分の不注意を知らない人に助けてもらったというのが情けなくて、星宮は眼の前の男子となかなか視線を合わせられなかった。まず、申し訳ないという気持ちでいっぱいだ。
ここは改めて謝罪をしよう――そう思ったのだが、それよりも先に男子が口を開く。
「あれ、もしかして星宮?」
男子から飛び出した自分の名前に面食った。
「え。あ、はい。そうですけど......」
星宮が肯定すると、男子はやっぱりといった様子で納得している様子だった。もしかして知り合い? なんて事を考えるも、眼の前の顔に見覚えはない。ということは、相手が一方的に知っているだけだろうか。
「ケガはないか? おもいっきり押しちゃったけど」
「あっ、はい。お、おかげさまで」
「ならよかった」
話しを戻され、思わずビクッとしてしまう。咄嗟に言葉を返したが、どこか冷たい感じの返答になってしまった。本当はとても感謝しているのだが、うまく言葉を伝えられない。
「本当俺が押さなかったら危うく大事故になってたぞ。ながら歩きは良くないからこれからは気をつけてくれ」
「っ。本当に、ありがとうございました」
「どういたしまして。じゃあ俺は学校行くから」
最後に短く説教をしてすぐ、男子は背を向けてしまった。まだ伝えたいことは沢山あるのに、それがまとまりきらなくて声をかけれない。それでも何とか、星宮は男子を呼び止めた。
「あっ、あの私と同じ一年生ですよね。名前聞いてもいいですか?」
咄嗟に聞いたのは、男子の名前。声に反応し、後ろを振り返った男子だが、何故か残念そうな顔をしている。
「別に教えてもいいけど、聞いてどうするんだ?」
「どうするかは分かりませんけど、一応聞いておきたくて」
「そっか、なるほど。俺の名前は天馬庵だ。よろしく」
「天馬くん......はい。ありがとうございます」
天馬庵――やっぱり初めて聞く名前だった。今教えてくれた名前を忘れないよう「天馬庵くん、天馬庵くん、天馬庵くん......」と何度も頭の中で反芻する。
「――あ」
それからすぐ、天馬庵は星宮の視界から姿を消した。こちらのまだ謝り足りない気持ちが伝わっていなかったのか、それとも学校へ急いでいたのか。
一人取り残された星宮は参考書を抱きしめ、申し訳なさでいっぱいになる。
「私、今すごく危なかったですよね。あの人が助けてくれなかったら、私、今ごろ......」
ifの想像をすれば、最悪の展開がいとも簡単に目に浮かぶ。恐怖に己の体を抱きしめながら、改めて天馬庵に感謝した。同時に、自分の情けなさからメンタルにヒビが入りそうになる。最近ストレスがすごくて些細なことでも精神的にきてしまうのだ。
「お礼、しないと......」
そんなこんなで、星宮は時間を空けて改めて天馬庵に感謝を伝えに行くことを決意する。それで嫌がられたとしても、さっき納得のいく感謝と謝罪を伝えられなかった自分を星宮は許せない。
「でも、どういうお礼をしたらいいんでしょうか......」
そして今日の午後、星宮は天馬庵と恋愛感情ゼロの交際関係を始めることになった。
◆お知らせ◆
次の更新から登場キャラクターのイラストを少しずつ公開していこうと思います。イラストはAIに書いてもらったものですが、最初に私が大体のキャラのイメージを絵にして、それをAIに細かい修正や美化をしてもらっています。
最初のイラストは星宮琥珀の予定ですので、読者の皆さんは想像とどうだったか確認してもらえると嬉しいです(下書きは私ですが、AIが手を加えるとどうしても私のイメージと離れる部分があって、完成するまで案外大変でした笑。ですがちゃんと試行錯誤したおかげで、だいぶ私のイメージに近いものができたんじゃないかなと思います)
尚、最初はカラーにしようと思ったのですが、諸事情でとりあえず線画のものを貼ります。お楽しみに(これはエイプリルフールじゃないのでご安心を)。




