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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・後編

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◆第142話◆ 『対最恐無謀応戦・決着』

ラブコメの皮を被る


 北条VS愛利、その戦況は大きく傾きつつあった。


「おらおらッ! くたばれドクズ野郎!」


「くっそ、超うぜぇ......」


 守るべき存在である星宮と朝比奈がこの場から離れたことにより、愛利の足枷がなくなって北条に全力をぶつけられるようになった。おかげで北条は防御で精一杯になり、みるみるとジリ貧になっていく。先程まではピクリとも動かなかった表情が、今は苦しげに歪んでいた。


「動きがトロくなってるけど、ちょっとアタシを舐めすぎじゃないんですかー!?」


「ちっ。黙れよ、ちび!」


「口クセェ、喋んな!」


 愛利から隙の大きい大ぶりの蹴りが放たれる。先程までの北条なら容易く見切り、反撃に転じてきただろうが、今はそうはいかない。とっくに息を荒げている北条は、防御すらままならず、愛利の蹴りを横っ面に受け身すら取れず盛大に喰らった。


「げはっ。あ、がぁ......くそ、がぁ!!」


 愛利の蹴りに吹っ飛ばされた北条が、血を滴らせながら激情を露わにさせる。何度も愛利の蹴りを受けた頭部は、鋭い頭痛でおかしくなりそうだった。腕も、防御に使いすぎて最早感覚がない。少しずつ蓄積されていた北条へのダメージが、いよいよ戦闘不能の域まで持ち込んでいく。


「どうしたの。イケメンで、運動神経よくて、生徒会長で、みんなの憧れの北条くん。もう、立てなくなっちゃった?」


「うるせぇよ。そんな肩書き、今の俺にはもう必要ない、んだ」


「へぇ。あっそ」


 再び、愛利が北条のもとへ迫る。


「じゃ、ブサイクで、運動もできなくて、DV男で、みんなからの嫌われ者の肩書きでも背負う?」


 容赦のない愛利の蹴りが、北条に再度直撃した。口から白い歯が一本吹っ飛び、か細い悲鳴が上がる。だが、色を失った愛利の瞳は最早そんな北条の姿を映していない。


「うがぁッ!」


「アタシは、アンタを絶対許さない。やりすぎて警察に捕まったっていい。琥珀ちゃんをあそこまで苦しめたやつは、半殺しに、いや全殺しにしてやる」


 蹴りが何度も、何度も北条に炸裂する。その度に鈍い音がして、聞くに堪えない悲鳴があがる。もう北条に反撃できる余力は残されていなかった。これは、一方的な愛利の暴力。


「か、はがァ......」


「――」


 ドサリと、北条が愛利の前で膝を負った。愛利の容赦のない攻撃を受け続けたせいで、見るに絶えないほどに満身創痍になっている。誰が見ても、北条は限界を越えていた。


「......アタシの勝ちってことでい? ドクズ」


「しる、かよ」


「潔く認めなよ、あんたもう動くこともできないでしょ」


 冷徹に北条を見下ろす愛利は、躊躇なく北条の胸元を掴み、その細い腕で彼の全身を持ち上げた。


「ねぇ、今どんな気持ち?」


「......ぁ?」


「琥珀ちゃんをイジメて、アタシに逆襲された気分はどんな気持ちか聞いてんの。教えてよ、”北条くん”」


「ぅぁ、あ――」


 愛利の言葉に北条が苦しそうに言葉を絞り出そうとする。しかし声が出しにくいのか、なかなか聞き取れそうにない。


「はぁ? 何言ってるのか分からんわ!」


 苛立った愛利が声を荒げた。ぐっと愛利が北条の顔面に近づき、圧をかける。大切な知り合いを傷つけたこの男に、少しでも恐怖を植え付けてやりたくて仕方がない。もっと、もっと苦しんで怖がればいい。それが北条がやらかした罪の罰。愛利はそれを自分のやり方で断罪するのみ。


 そして北条の血だらけの唇がゆっくりと開いた。



「――このバカ女」


「は?」



 予想外の罵倒。まさしく愛利の逆鱗に触れた北条であるが、彼は笑っていた。


「え」


 妙な胸騒ぎ。愛利は後ろに気配を感じた。瞬間、直ぐに北条から手を離して対応しようとするが、それよりも早く何者が愛利に迫る。


「――はじめましてだね、金髪ちゃん。北条くんに勝つなんてほんとすごいよ!」


「なっ!?」


 この場に似合わない能天気で明るい声が聞こえたと同時に、愛利は羽交い締めにされた。突然のことに対応しきれなかった愛利は、闖入者にされるがまま無防備になってしまう。


 しかし、相手は女。力は北条と比べれば弱すぎる。これくらいの羽交い締め、余裕で逃れられる。



「――あ」



 眼前、立ち上がった北条が目の前に迫っていた。



***



「――それで、遅かったな、アヤ」


「そうかな? 割りと急いだよ? これから琥珀ちゃんも探さないといけないから、この後の予定はびっしりだけどね!」


「はっ、ギリギリだよ。話が早いやつだな」


「――それで、ほんとに覚悟が決まったんだね、北条くん。これは、ライン越えってやつだよ」


 

 北条が愛利にちらりと視線を向け、何も言葉をかけることなく直ぐに視線を逸らす。それを見た甘音アヤが、口元に薄っすらと笑みを浮かべていた。冷たい冬の冷風が、三人を襲う。この戦いの決着は、”北条の手によって”最悪の形で既についていたのだ。


「――は」


 ――腹にポケットナイフを刺された愛利が、その場に膝を負っていた。





95話

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