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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・後編

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◆第127話◆ 『――硬い音が、した』


「――なら、今ここで私にキスしてください。私に「好き」って言いながら」


 そんな、絶対星宮が言わなそうなセリフランキングトップ10には入りそうな言葉を、真面目な顔つきで、しかも涙を流されながら言われて、庵の思考は完全に停止した。


 思い返してみれば、星宮とは約一ヶ月半前にキスをするチャンスがあった。星宮が何でもしてくれるというので、庵がキスを頼んだのだ。しかし、星宮にキスをする心構えと度胸はなく、キスといってもチークキスという形になってしまった。あのときはそれでお互い満足していたし、これ以上の事はまだ早いという暗黙の了解も感じていたと思う。


 しかし、今は距離感がバグりまくっていた。チークキスであれだけ恥ずかしがっていたカップルが、今は彼女側が胸を触らせてきたり、キスを求めたりしている。しかもムードも何もない。冷静に考えておかしい話だ。


「......一回落ち着け、星宮。お前、マジでどうしたんだよ。星宮って、そういうの苦手そうな感じだったし、この空気でキスとか――」


「落ち着け? 落ち着けないですよっ! もうこれ以上私の心を弄ばないでください! キスができないのなら、天馬くんはもう私のことなんか既に興味がなくて、甘音さんの方が好きってことでいいですか!?」


「だ、だから落ち着けって。俺は星宮の心を弄ぶつもりなんかない」


 鈴の音のような声をキンキンとさせ、庵に一生懸命言葉をぶつけてくる星宮。キスの話は置いておいて、とりあえず星宮を落ち着かせようとするのだが、らしくもなく星宮は取り乱したまま。


 ――庵には、さっきから星宮の様子がどんどんおかしくなっているように思えた。


「あのさ星宮。キスって普通こんなノリでするもんじゃなくないか。一応俺まだキスとかしたことないし? ファーストキスはもっと良い感じのムードで......」


 星宮の機嫌を伺いながら、庵は願望を口にする。正直な話、庵にはキスに憧れがあった。それはアニメでよくロマンチックなキスシーンを何度も見てきたのが理由。いつか星宮とするときが訪れるのなら、もっとロマンチックにという願望があるのだ。


「――キス、できないんですね」


「いやできないとかじゃなくて、今するのは違うみたいな......」


「今の天馬くんには甘音さんがいるから、できないんですね。過去の女にキスなんかしたら、次は甘音さんに浮気することになりますもんね」


「......」


 星宮が引きつった笑みを浮かべながら、自嘲気味に顔を俯かせる。そんな星宮に、今日何度目か分からないがまたもや庵は言葉を失った。


 マイナス思考ばかりで、庵の言葉を信じず、見てるこちらもまで気分が落ち込んでしまいそうな重々しいオーラを放っている星宮。前のように、おとなしくて、冷静で、優しさに満ち溢れた表情は、今はどこにもない。


(なんか、メンヘラみたいになってる......な)


 メンヘラなんてワードは一番星宮に似合わないと思っていた庵なのだが、この様子を見たらそう感じずにはいられなくなってしまった。あまりにも今の星宮は精神不安定すぎる。最早、今の星宮は星宮じゃないといってしまっても過言ではない。


「......ほんと、ありえないです」


 冬の寒さが辺りを包んでいるはずなのに、汗が流れそうだった。苦しそうに胸を抑える星宮を見て、庵はごくりと息を飲む。今日出会ったときから、星宮は何かおかしい。



 ”いくら庵の浮気で怒っているとはいえ、様子があまりにも異常すぎる”



「ほし、みや」


「......」


 そしてようやく庵は一つの疑問に辿り着く。何故、星宮がここまで取り乱しているのかという疑問に。


「まさか」


 答えは庵の浮気の誤解と出ているが、答えはそれ以外だ。いつもの星宮なら、庵に浮気疑惑がかかったとて、もっと冷静に庵の話を聞いてくれるはず。今、こうして星宮の様子がおかしいのは、まだ何か別の要因があるはずだ。星宮が隠している、何かが。


 ふと、数日前の愛利の言葉が庵の脳裏にフラッシュバックする。



『――もしくは、その北条って男がヤバいやつで、琥珀ちゃんはそいつに脅されてる、とかね。庵先輩はひねくれた考えをやめて、もっとこういう柔軟な思考をしな』



 庵はありえてほしくない最悪の可能性を考え出す。


 星宮が北条との浮気を語れない理由、それは北条に何か口止めをされているからだとしたら? ここまで星宮が精神不安定なのは、北条から何かされているからなのか? そもそも、本当に星宮は浮気をしていなくて、北条との交際は不本意なものなのか?


 北条が善人という前提を否定し、庵は新たなる可能性を視野に入れる。ここまで事態が悪化してしまっている以上、疑わしきものは確認しなくてはならない。例えそれが、恩人だとしても。



「――星宮、お前もしかして、北条に何かされてるのか?」



 斯くして、庵はようやく『答え』に辿り着いた。ここが、スタートラインになる。



***



 ――星宮のクラスメイトであり、生徒会に所属しており、人柄も良く、庵の恩人でもある、ありとあらゆる点において完璧な男、北条康弘ほうじょうやすひろ


 彼を疑うなんて庵もしたくない。しかし、星宮がここまで精神不安定になっている理由を考えるとするならば、急に星宮と付き合い出した北条が一番怪しくなってくる。北条が星宮を何らかの方法で脅し、付き合っているとするならば、星宮が浮気を具体的な理由を語れないのも説明がつく。


 が、庵が正解を口に出せたとて、そう簡単に星宮が口を割るはずがなかった。


「......」


「無言っていうことは、肯定ってことでいいか?」


 北条の名前を口にした瞬間、星宮の方がピクンと跳ねたように庵には見えた。確信までは至らないが、北条が黒の匂いが庵の中で強まっていく。ごくりとつばを飲み込み、庵は一歩星宮に近づいた。


「北条、なのか? あいつが、なんか変なことを星宮にやらせてるのか?」


「......近づかないでください」


「っ。星宮!」


 答えたくなさそうに、嫌な顔をする星宮。明らかに何か隠し事があると、この瞬間庵は確信した。何かが吹っ切れ、後ずさっていく星宮の腕を力強く掴む。


「っ。気安く触らないでくださいっ」


「さっきキスしろとか言ってきたくせに何言ってんだよ! それより、お前絶対何か俺に隠し事あるだろ! それを、教えろっ!」


 何が星宮を苦しめているかはまだ確定していない。だが、確実に尻尾は掴めた。星宮を苦しめている別の何かがあるというのは、この反応を見ればもう確定だ。庵も熱くなってしまい、言葉が荒くなっていく。星宮が庵の手を振り払おうと、懸命に後ろへ下がろうとしていた。視線も後ろをチラチラと気にしている。


 逃げる気なのか。


「逃がすかよっ!」


「きゃっ!」


 逃げようとする星宮の腕を、痛めつけないようにうまく引っ張って頭を胸にダイブさせた。いつもの甘い香りが庵の鼻孔をくすぐる。ここにきて、最近の筋トレの成果が役に立った。


 庵より頭一つ分背が小さい星宮は、向き合うとちょうど庵の胸辺りに頭がくる。星宮の上目遣いが、庵を怯えたように見ていた。本当に綺麗なマリンブルー色だと、こんなときでも庵は思ってしまう。だが、今はそんな感想を抱いている場合じゃない。


 今真実に辿り着けなければ、後に取り返しのつかないことになると心の警鐘が鳴っていた。


「北条なのか!? あいつがお前をこんな風になるまで苦しめてるのかよ?」


「......っ!」

 

「答えろよ星宮! もしそうなら、俺がなんとかするから! 俺が頼りにならないって思うなら、愛利とか暁とかに頼ればいいしっ。大人にも頼ればいいっ。だから、答えてくれ!」


 星宮の今の様子を見て、北条が黒だという説は99%正解だと庵は確信する。あとはその言葉を星宮から聞きたい。そうしたら、いくらでも手は打てる。


 一人ですべて抱え込もうとしてしまうのは、星宮の過去が生んだ悪いクセの一つだ。だから、庵はそのことにいち早く気づいて、支えにならなければならない。そうしなければ、きっと星宮は今みたいに崩れてしまうから。


「......違うんです、天馬くん」


「違うって、何が」


「天馬くんが頼りにならないんじゃなくて、これがもし――」


 星宮がようやく口を開いた。か細い声で、耳をよくすましても聞こえないくらいの声量。でも、庵は聞き取ろうとする。急かしたりはしない。


 一瞬、星宮の口が止まった。目が大きく開いたようにも見える。それでも、何も口出しはせず、ゆっくりと語ってくれるのを待った――、





「――ぁ」


 しかし、星宮の言葉の続きはいつまで経っても聞けることはなかった。それどころか、そこから先の記憶は庵にはない。いつの間にか視界が真っ暗になって、星宮を見失っていた。


 何が起きたのか理解できないだろう。庵さえも、何が起きたか理解していない。理解する暇すらなかった。真実に辿り着ける直前で、まるでコンセントが抜けたかのように突然意識が消えたのだ。


 ただ一つ言えることがあるとすれば、”硬い音”が聞こえた気がした。



 

更新ペース上げていきます´`*

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