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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・後編

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◆第122話◆ 『前島愛利(1)』


 アタシはめちゃくちゃバカな女だ。


 バカっていうのは、別に深い意味があるわけでもなく、普通に学力面においてのバカって話。勉強なんて真面目にしたことないし、小学校、中学校の頃で受けたテストは全部名前しか書いていない。高校には入らず就職するつもりだったけど、親の勧めで通信制の高校に入れられた。


 アタシは勉強が苦痛なだけで、学校自体は嫌いじゃない。コミュ力はまあまあ自信あるし、初対面でもグイグイいけちゃう。だから、学校で楽しいって思えるのは、友達とバカしてるときだけ。PCで授業受けるだけの通信制高校なんて、ただの時間の無駄としか思えなかった。


『――どう生きるのもあんたの自由だけど、親にまで迷惑をかけないでちょうだい』


 いつだっただろうか。暇で暇でしょうがなかった時、近所をぶらぶらと散歩していたときの話。公園に行くと、中学生くらい男子二人組が小学生三人組をイジメているのを見かけた。アタシは幼い頃から空手を習っていて、喧嘩には自信がある。そして、アタシの心にはいつだって『正義』があった。たぶん、アタシの思う『正義』は、他のみんなとは違う『アタシだけの正義』。曲がったことが嫌いで、許せないと思うことがあったら地獄の果まで徹底的に追い詰める。


 アタシはイジメをしていた中学生二人組を、どちらも骨が折れるまでボコボコにしてしまった。


 小学生たちには感謝されたのだが、その中学生たちの親から後に慰謝料を請求された。アタシは正しいことをしたはずなのに、親から蔑んだ目で見られ、中学生の親からも蔑んだ目で見られ、意味が分からなかった。悪いのはイジメをしていた中学生の方で、アタシは何も悪くない。少しやりすぎだったかとは思うけれど、それでもアタシは悪を裁いたのだ。


 どれだけ変な目で見られても、『アタシだけの正義』は揺るがない。だって、アタシがあの時小学生を助けなかったら、取り返しのつかないことになってしまったかもしれないから。


『――そんなに暇を持て余しているのなら、バイトでもしたらどうなの』


 話は変わり、アタシは親の勧めでバイトを始めることになった。初めてのバイトはコンビニ。金髪でチャラいアタシみたいな女がバイトとして採用されるか謎だったけれど、意外とよゆーだった。店長も優しいおじいちゃんみたいな感じでよかったし。


 それで、アタシは庵先輩に出会った。庵先輩はまさかの彼女持ち。陰のオーラを纏わせているくせに、あんなに可愛い彼女を持っているなんて驚きだった。まぁ、人は見かけによらないっていうし、そこまで気にはしなかったけど。


 バイトは意外と楽しくて、庵先輩はからかい甲斐があるし、あとから入ってきた庵先輩の彼女、琥珀ちゃんは素直でめっちゃ可愛い。庵先輩はともかく、琥珀ちゃんはお人形みたいでずっと話したくなった。最高の空間ができたなー、なんてそのときは思った。


 ――でも、バイトを始めて直ぐに事件が起きた。


『は? どうしたの、琥珀ちゃん。ほっぺた赤いけど』


『......なんでもないです』


 アタシと琥珀ちゃんのバイト日が重なった時、アタシはとんでもないものを見せられた。超絶綺麗な琥珀ちゃんのほっぺたに絆創膏が貼られている。しかも、周りの肌がうっすら赤い。化粧で隠そうとしているようだが、それでも透けて見えるほどに酷かった。


 これがなんでもないわけがない。アタシは気になって、琥珀ちゃんが口を開けたタイミングでしれっと歯を確認してみた。一度じゃしっかり見えなくて、何度も見ようとしたと思う。努力の末、アタシは琥珀ちゃんの歯が折れていることに気づいた。


『――許せない』


 それから、琥珀ちゃんを傷つけた犯人が庵先輩だってことを知って、アタシは庵先輩をボコボコにしてしまった。庵先輩も庵先輩で何かあった様子だったけれど、そんなの知ったこっちゃない。女の子に暴力を、しかも顔に振るうなんて絶対に許してはいけない。だから、アタシはまた『アタシだけの正義』を庵先輩に振るってしまった。


 そのときのアタシの怒りがなかなか収まらなかった。どうすれば収まるか考えた結果、一番に思いついたのは庵先輩と琥珀ちゃんを別れさせること。そうすればもう、琥珀ちゃんが傷つくことはない。やるなら徹底的に。これが『アタシだけの正義』なのだから。


 でも――、


『なんで前島さんはっ、そんなに天馬くんのことを否定するんですかっ』


 いつの間にか庵先輩と琥珀ちゃんは仲直りしていて、普通にデートしていた。アタシはそれが許せなくて庵先輩に交際破棄を迫ったら、琥珀ちゃんに涙声で怒られた。マジで意味が分からなかった。アタシが正義なはずのに、まるでアタシが悪者みたいな目で琥珀ちゃんから見られてしまった。


 頭がハテナマークで溢れ返る。だってアタシは何も悪いことをしていない、正しいことをしたからだ。なのに誰にも認められなくて、怒られて......どういうことなのだろうか。


 アタシはふと中学生をイジメたときのことを思い出した。よくよく考えてみれば、今回のもそれに似ている。正しいことをしているはずなのに、周囲からはそれを否定されて。


 アタシはここでようやく考えだすようになった。


 もしかして、『アタシだけの正義』は間違っているんじゃないかって。



***



 それから一週間も経ってない頃、バイトに一人の男がやってきた。庵先輩だった。


「――あ」


「――」


 ちょうどレジを担当していたので、そこにやってきた庵先輩と目があった。でもアタシはガン無視した。今更庵先輩にかける言葉なんて何もない。というか、アタシはまだ庵先輩のことは許していないのだ。


「――あ、あの、愛利」


 挙動不審にアタシの名前を口にした。アタシは内心、マジかって思った。あんだけアタシにボロクソにされたくせに、よくまだアタシと会話しようなんて思えたな、なんて魔王様みたいなことを考えた。


「えっと、俺バイトに復帰したんだ。星宮はとりあえず辞めるみたいだけど......」


「――」


「それでさ、愛利にお願いがあるんだ」


「は?」


 ガン無視で貫くはずだったのに、思わず声が出た。だって、このアタシにお願いがあるとか言い出したんだから。どの面下げて庵先輩はアタシに頼み事をしようっていうのか。本当に理解不能だった。


 そして、頼み事の内容も本当に意味不明で――、



「俺に空手を教えてほしいんだけど、お願いできないか?」





 

更新遅れてすみません。眠気に耐えながら書いた文章です。今度こそ、明日も更新します

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