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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・後編

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◆第120話◆ 『第三の敵』

庵パートと予告していましたが違います、すみません


 今日の文化祭準備が終わり、誰も居なくなって静かになった教室。窓を見れば、すっかり暗くなった空が広がっている。外は暗いのにまだ教室に居残っているという背徳感は少年心をくすぐるのだが、生憎と今この教室に居残っているメンツはそんな感傷に浸っている様子はない。


 静まりきった学校は、当たり前だが普段よりも音がよく聞こえる。タンタンと、この一年生の教室に近づいてくる足音が二人の耳に届く。そして教室の扉が開くと、そこには他クラスの一年生の女子が目に映った。


「おまたせ〜。二人ともごめんごめーん、遅れちゃったよぉ」


 手を合わせながら、申し訳無さそうに教室へと入ってくる女子。黄髪の腰まで届くポニーテールに、カーディガンを腰に巻き付けた、まさにギャルといった印象の容姿。そんな人物の登場に、一人は頬を緩ませ、一人はため息をついた。


「おつかれ、アヤ。そっちのクラスは文化祭準備が長引いたのか?」


 入ってきた女子にまず声をかけたのは北条。そして、今入ってきたこの女子は甘音アヤ。二人は暖かな視線を送り、言葉を交わし合う。


「長引いたっていうか、ペアの天馬くんと遊んでたかな。天馬くんめっちゃ帰りたそうだったけど、無理やり引き止めて困らせちゃった」


「へぇ。必要以上に動いてくれてるみたいだな。アヤ、もしかしてほんとに天馬のこと好きになったのか?」


「まっさかぁ。天馬くんは友達としては良いかもしれないけど、恋愛対象的には論外かなぁ。でも、意外と一緒に居るのは苦痛じゃないかも」


「ははっ、なるほど」

 

 まず話題に上がったのは天馬庵。しかし、天馬庵については『本題』の前置きにしか過ぎない。今日、この教室に三人が集まった目的は、今日の成果の確認と、これからについての話し合いだ。


 甘音のクリリとした瞳が、北条の隣に居るもう一人に向いた。


「朝比奈ちゃんやっほー。そういえば少し久しぶりだねぇ、元気してた?」


「......まぁ、それなりには」


「えー、ほんとぉ? でもなんか少し元気なさそうじゃん、だいじょぶ?」


「だいじょうぶよ」


 この場に居る最後の一人――朝比奈美結あさひなみゆ。藍色のツインテールで、少しツンとしたオーラを放つ北条のクラスメイト。友達が多く、学校では常に群れている彼女であるが、一人になると途端に静かになる。それに加えてプライドがとても高いのも彼女の特徴だが、今はそれは置いておこう。


 放課後にも関わらず元気いっぱいな様子の甘音を見て、朝比奈はため息をつき、ジトッとした視線を向けた。


「んで、あんたやったの?」


「やったっていうのは、何のことかな?」


「言わなくても分かるでしょ......星宮に、言ったの? 天馬庵は私のものだぞー、的なことよ」


「あぁ、それねー」


 丁寧に朝比奈が聞くと、甘音はウンウンと大げさに首を振る。北条も今の朝比奈の質問が気になるのか、興味深そうに甘音に目を細めていた。対する甘音は悪意なんて一切感じない明るい口調で、ありのままを語る。


「星宮ちゃんには、天馬くんとのプリも見せて、ワタシが新しい彼氏になったってことをしっかり分からせてあげたよー。星宮ちゃんめちゃくちゃ辛そうにしてて、ちょっとかわいそうだったなぁ」


「うわぁ......」


「もう、うわぁって何、朝比奈ちゃん。ワタシだってやりたくてこんなことしてるわけじゃないんだよ? それに彼氏になったってのは全然嘘だしぃ。全部北条くんがやれって言ったことなんだから、ワタシは何も悪くないもん」


 今日、甘音は昼食の時間に星宮を捕まえ、彼氏を奪ったという話をした。その話は結局嘘であったが、精神的に辛い状態ある星宮は、容易くその話を飲み込み、絶望してしまっている。北条の策は、またも星宮に深い傷を負わせていたのだ。


 その話を聞き、朝比奈は目を伏せて呆れた反応を見せ、北条は満足そうに頬を緩めていた。北条が一歩、甘音の元へ歩み寄る。


「最高の仕事だよ、アヤ。これで星宮と天馬の関係は最悪な方向に崩れていくはずだ。これでようやく、星宮への復讐を完璧なものにできる」


「ふふん、ワタシ頑張ったでしょ、ホージョーくんっ」


「あぁ、頑張ったな、アヤ」


「いえーい、ちょー嬉しいっ」


 そんな二人のやり取りを見て、朝比奈は目を細めた。目が細まった理由は、話題についていけない戸惑いからか、それとも自分が何故この二人と関わっているのかを理解できず、自分を見失っている喪失感からか。おそらく答えは後者だろう。



 ――何せ、朝比奈は北条が星宮を追い詰める理由を知らない。



 以前、北条に問いかけたのだが、その時は雑にはぐらかされてしまった。それ以来、聞き直したことは一度もない。その理由は、どうせ答えてくれないという謎の確信があったからだ。甘音は知っているらしいが、意外としっかりしている彼女は絶対に口を割らない。それ故に、北条は甘音を信用しているのだ。そして北条にとって朝比奈は、甘音よりも信頼度が数段劣っているのだろう。


(......でも、私は北条くんに貸しを作ってるから、返すまでは駒でいないと)


 朝比奈は以前、北条に『天馬庵への復讐』を依頼した。しかし北条がしたことは朝比奈の想像の遥か上を越えた、まさかの殺人だった。間接的な殺人とはいえ、犯罪には何も変わりがない。


 それが貸しになって、今まで北条とともに星宮を追い詰める手伝いをしてきたわけだが、いよいよ何か危険な匂いを感じだした。このままでは、北条は――否、北条と甘音はきっと大変な事をしでかしてしまう。そんな気がしてならなかった。


「――あのさ、北条くん」


「ん?」


 朝比奈が後ろから声をかける。希望は見えなくとも、言うだけならタダ。ツインテールをいじりながら、言いたいことを口にした。


「もうそろそろ星宮を追い詰めるのやめたら? もう十分なんじゃないの」


「は? 何言ってんだ、これからだろ。十分かどうかはお前の物差しじゃなく俺ので測るから、お前はおとなしく俺の指示に従っていればいいんだ」


「......あっそ」


 予想通りの返答が返ってきて、朝比奈は苦笑いを浮かべながら黙り込む。分かっていたことだが、この二人はどうやろうとも止められない。


 ふと、朝比奈はこの二人にジワジワと苦しめられていく星宮を想像した。当たり前だが、あまり良い気持ちにはなれなかった。


(最近、星宮ぜんぜん文化祭準備に参加してないし、よっぽど疲弊してるんでしょうね。おかげで『創作物コンテスト』を一人でやらないといけないから私もとても困ってるんですけど)


 なんとなく星宮との思い出を回想してみるが、直ぐにやめた。何故か胸が痛くなってしまったのだ。なんやかんや星宮には優しくされているので、朝比奈の良心が痛んでいるのだろう。少し前まで大嫌いな存在だったはずなのに、大きな変化だ。


(......ほんと、私って変わった)


 ぽつりと心の中で溢し、朝比奈は前を向く。楽しそうに話をしている北条と甘音を横目に、小さく口を開いた。別に誰に聞かせるわけでもなく、ただなんとなく――、


「敵の私が言えることじゃないけど、あんた一人で私たちと戦おうなんて無理だからね、星宮。私はまだしも、北条くんと甘音アヤはほんとにヤバい人だから」


 戦いとは口にしてみたものの、星宮一人では戦いにすらならない。ただ、星宮が少しずつ追い込まれていくだけの地獄。ありとあらゆる絶望を見せられた星宮に、まだ抗う気力が残っているかは分からないが、朝比奈は何となく星宮の救済を願っていた。

 



というわけで甘音アヤちゃんはゴリゴリの敵でした

第109話で星宮が廃屋から脱出しようとしたときにそれを阻止したナゾの敵が居るんですけど、その正体は彼女です。勘の良い方は気づいたでしょうか。暇がある方は是非確認してみてください´`*

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