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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・前編

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◆第104話◆ 『2月3日』


 文化祭準備四日目、放課後。


 今日の文化祭準備は終わって、クラスの全員が教室から出たあと。薄暗い教室に二人の男女が未だ帰らずに居残っていた。傍から見たらまるで青春の一ページのように見えそうだが、二人の関係はそんな輝かしいものではない。


 教卓の上で足を組む男――北条が、下で気まずそうにする朝比奈を見下ろしている。


「――今日の文化祭準備はやけに星宮さんと仲良さそうにしてたけど、心境の変化があったのかな? 朝比奈さん」


「......」


「俺の知ってる朝比奈さんは、星宮さんのことが大嫌いなはずなんだけどな。あれれ、おかしいな」


 表情こそ笑っているが、目だけは笑っていない北条。朝比奈は自身のツインテールをいじりながら、北条から目を逸らして口を開く。


「いや、仲良くしてたつもりはないし。......あっちがどうしても私とコンテストに参加したいっていうから、仕方なく話してあげてるの。私が星宮のこと嫌いなのはまだ変わってないから」


「へぇ。まだってことは、そのうち好きになるってこと?」


「っ。気持ち悪いこと言わないで! そんなの、絶対ありえないから!」


 キンと高い声で北条の言葉を否定する。そんな朝比奈をどこか面白がる北条は、教卓の前で足を組み直した。どこまで見通しているのか分からない目が、ゆっくりと細まっていく。


「ま、だいたい予想はつくよ。今日の体育の時間で星宮さんにちょっと優しくされたから、情が湧いたんだろ。ほんと単純な女だよな、朝比奈さんは。そんなんじゃ将来悪い男に騙されるぞ」


「......うるっさい。今現在進行系で私悪い男に利用されてるでしょ」


「ははっ! 超ウケる。ナイスツッコミだね」


 何故かウケている北条を見て渋い顔をする朝比奈。何が北条の地雷となるか分からないので、会話をすることさえ一苦労だ。


「まぁ俺としては朝比奈さんが星宮さんと仲良くしようとどうでもいい。どうせ、その仲良しごっこはすぐ終わるからな。というかこれからのことを考えれば逆に好都合だ。好きにしろよ」


「あっそ......それで、私に何の用なの。まさかこんなくだらない話するためだけに呼び出したんじゃないんでしょうね......私、友達待たせてんだけど」


 教室で待っていろと命令されていた朝比奈だが、なんの話をするかは聞かされていない。以前、北条にはポケットナイフを突きつけられたばかりなので、最近は二人きりで話すことに恐怖を抱いている。今も冷静を装ってはいるが、それは虚勢であり内心は震え上がっていた。


「もちろん。ちゃんと用件はあるよ」


「なら早く話してよ」


「そうだね。それじゃ、本題に移るとするか」


 そう言うと、北条は座っていた教卓から飛び降りる。大股で朝比奈のもとまで歩き出すので、急に距離を詰められた朝比奈は一歩後ずさった。



「――今日は2月3日。その明後日、2月5日に計画を行動に移す。そのことについて、少し話しておきたくてね」


「っ!?」



***


 

 ――2月3日、放課後。同刻。文化祭準備四日目を終えたあと、星宮と秋は二人で下校していた。


「これが私の命よりも大事な究極のレアグッズ、『あっきー役の声優のサインが入ったアクリルキーホルダー』。通販で十万もした」


「十万!? どこからそんなお金が出てくるんですか......?」


 放課後下校中。不意に秋が見せたいものがあるというので見せてもらった星宮。秋のカバンから出てきたものは『あっきー役の声優のサインが入ったアクリルキーホルダー』という謎めいた物。あっきー役も、そのキャラが出てくるアニメすらも分からない星宮。小さなアクリル板にサインが入っただけのものがそんなにもレアなのか。星宮には理解しかねた。


「これを買うためにどれだけ苦労したことか。妹に土下座してお金を貸してもらったり、こっそり親の財布から――」


「あ、やっぱりそれ以上は聞きたくないです。やめてください」


 さらっととんでもないことを暴露しようとするので、星宮は真顔でストップをかける。今の一瞬の会話で秋の将来が本当に心配になった。あまりの衝撃に、ジトーっとした視線を送ってしまう。


「なにその目。でも半分以上は私が出してるし、ほぼ私が買ったようなものだから。コハは余計な心配しなくて大丈夫」


「心配に決まってますよ......半分以上じゃなくて全額秋ちゃんが出すべきなんじゃないですか。自分の欲しい物なんですし。みのりちゃんに嫌われちゃいますよ」


「もう嫌われてるから問題なし」


「問題大ありです」


 秋の妹であるみのりは一体いくら秋から搾り取られたのだろうか。あまり想像したくはないが、せめて常識の範囲内である金額であってほしい。もう少し秋にはみのりの姉としての自覚を持ってもらいたいところだ。


「私にはそのグッズの良さが分からないんですけど、それの何がどうすごいんですか? どう見ても普通の......」


 難しい顔をする星宮は、なんとなく秋の『あっきー役の声優のサインが入ったアクリルキーホルダー』を触ろうとするが――、


「何気安く触ろうとしてるの。価値の分からない人間に、この究極のレアグッズを触れる資格はない」


 触ろうとした瞬間、『あっきー役の以下略』が遠ざかる。今度は逆に星宮がジトーっとした視線を送られてしまった。


「えぇ......?」


「気になるならアニメ見て。原作見て」


「......」


 カバンの中で雑に保管してるのに、何かのプライドがあるのか触らせてはくれなかった。どうやらオタクには謎のこだわりがあるらしい。そもそも十万もするグッズを学校に持ち込んでいる時点でおかしい話なのだが。


「まぁ、別にいいんですけどね」


 秋がキーホルダーを触らせてくれなかったのは少しショックだが、星宮は秋と違ってオタク趣味はないのでそこまで気にはならない。それよりも今日は良いことがあった日なのだ。秋に少し冷たくされたくらいで落ち込んだりはしない。


(朝比奈さんとも秋ちゃんみたいに一緒に帰れる日がくるんですかね。そもそも、そこまで仲良くなれるかは分かんないですけど)


 そんな夢を思い描きながら歩みを進める星宮。思い返せば、今日はぐっと朝比奈と距離が縮んだ一日だった。これから二人の関係がどう変わっていくかは星宮の行動次第だろう。




 


 

 

あっきーという謎の存在は三秒で考えつきました

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