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宝石級美少女の命を救ったら付き合うことになりました  作者: マムル
第三章・前編

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◆第94話・B◆ 『モンクマ』


「じゃあ何作ろっかっ。ワタシはね、天馬くんが好きなモノとワタシが好きなモノを混ぜ合わせて一つの作品を作るのがいいって考えたんだけどどうかな? 天馬くんの忌憚のない意見もちょーだい」


「俺は甘音の指示に従うよ。こういうの苦手だし」


「むー。ノリが悪いなぁ。もっと積極的になってよ天馬くん」


「あ、ごめん。じゃあ俺も甘音の意見に賛成かなぁ」


 慌てて発言を訂正する庵に「じゃあって何〜。もう〜」と笑ってくれる甘音。表情の変化が激しく、いちいちリアクションの大きいので、話を聞いてる側も自然に甘音のペースに乗せられてしまう。この愛想の良さでは友達が多いのも納得だ。


「それじゃ、好きなもの言い合おっか! ワタシはねー、うーんとぉ......あっ、あれ! クマ! ワタシテディベアめっちゃ好きなの!」


「テディベアか。良いじゃん」


「でしょでしょぉ〜。天馬くんは? 好きなの教えて!」


「俺は......」


 甘音はテディベアを候補にあげ、庵も何を答えるか考える。正直、候補はいくらでも浮かんでいた。ただ、それを何の考えも無しに答えるのはまずくて――、


(いくら甘音が優しいからってオタク趣味に関することを答えるのはまずいよな......)


 答えても悪い顔はしなさそうな甘音ではあるが、あまり甘音に気を遣わせたくはない。それに、どうせなら二人が知っているものを候補に上げたい。熟考の末、結論はとても無難なものに落ち着いた。


「――サーモンかな。寿司が好き」


「サーモンっ。いいねっ。ワタシも好きだよぉ〜!」


 庵の出した答えにとろけた表情をする甘音。とはいえ、甘音と庵が出したのはテディベアとサーモン。あまりにも共通点が無さすぎることに遅れて気づき、庵は苦笑いを浮かべる。


「それで、どうする? 好きなものを混ぜるっていっても、クマとサーモンじゃ難しくないか?」


「え、そうかな? サーモン食べてるクマさんを作るとかおもしろそうじゃない?」


「サーモン食べてるクマさん!?」


 想像しただけでカオスな構図が浮かぶ。圧倒的混ぜるな危険だ。


「確かに言葉にしたら変だけどさ、ワタシは良いと思うんだよね! ユニーク賞なら絶対一位だよこれぇ!」


「賞は最優秀賞しかないって聞いたけど......」


「まあまあそういうことは気にしない気にしない! それで、天馬くんはワタシに賛成?」


 唇に手を当て、可愛らしく訪ねてくる甘音。サーモンを食べるクマさんという構図は想像しただけで笑ってしまうが、別に庵がそれを否定する理由はない。むしろ、甘音がせっかく話し合いをリードしてくれているのだから、わざわざ反論する必要は皆無だ。


「まぁ俺も面白そうって思うから賛成かな。サーモン食べてるクマさん、作るか」


「いぇーいっ! ハイタッチ!」


「お、おう」


 何を作るかが決まっただけで謎にハイタッチを要求する甘音。変わらぬハイテンションさに苦笑しながらも、拒否する理由はないので甘音に合わせる庵。えへへと、甘音が笑った。


「じゃあ次は、どうやってサーモン食べてるクマさんを作るかだね!」


「そーだな......というか、サーモン食べてるクマさんっていちいち言うのちょっと長くない? それに地味に口にするの恥ずいんだよな」


 言いにくそうに、少し気になったことを口にする庵。庵的には特に『クマさん』という部分の発音が、口にすることに拒否感を抱いていた。こればっかりは思春期の男の子なので仕方がない。


「あぁー......それもそうだねぇ〜。じゃーあー、略して『モンクマ』!」


「もんくま?」


「うん! サーモンのモンと、クマさんのクマで『モンクマ』! どう? 我ながら良い案だと思うんだけど!」


「なるほど......いいな、それ。モンクマ決定だー」


「いぇーい」


 サーモン食べてるクマさん略してモンクマ。口にしやすい略称が決まり庵も一安心。これでより話し合いがスムーズになる。


「じゃ、話をもどすけど、モンクマを作る材料はどうするー? 粘土? ダンボール? 画用紙?」


「あぁ〜、そうだなぁ。ぶっちゃけなんでもいいんだけどな。甘音が決めてくれない?」


 どこまでも投げやりな庵。いくらなんでも甘音に任せすぎだが、陰キャはこういう重要な判断はしたくないのだ。前を歩いている人が右に曲がれば自分も右に曲がってしまう、コバンザメのような人間。庵はどこまでも甘音の判断にしたがっていく。


 だが、庵の『甘音にすべてを任せる』判断は間違っていた。庵はまだ甘音のことを詳しく知らない。それ故に、甘音のことを舐めていた。



「――あ、じゃあさ、今日の放課後......あ、もう放課後か。それなら今から一緒にモンクマの材料探しに行こうよ! 天馬くんとワタシの二人で! やっぱり素材は自分たちの目で見てちゃんと確認した方が良いと思うの!」


「へ?」



 庵の思考が硬直する。それはつまり、ほぼ放課後デートのようなものだ。


「え、いや、それは......どうなんだ?」


「何もごもご言ってるの? もしかして、今日用事があったりとか?」


「いや、そういうわけではないんだけど......えぇ?」


 庵の中でたくさんの考えがぶつかり合う。


 男女二人で放課後に待ち合わせて買い物に出かけるのはさすがにまずい。しかし、甘音の庵に対する恋愛感情的なものは皆無。それは断言できた。庵も甘音に対して恋愛感情なんてあるはずがないので、二人が出かけても何かイベントが起きるわけがない。とはいっても、さすがにモラル的に良くない気がした。


 だが庵は甘音に判断を委ねている。それなのに、放課後一緒に材料探しに行くという提案だけ突っぱねるのはあまりにも自分勝手じゃないだろうか。自分勝手になるのが嫌なら、甘音と言うとおりに従うべきだ。しかしこの問題には最大の懸念点がもう一つある。それが一番庵を迷わせている原因でもあって――、


(甘音と外で一緒にいるのを星宮に見つけられでもしたらどうすんだよ......浮気はしないって約束してんのに。いや、浮気ではないんだけども。絶対誤解を生むだろぉ)


 そう、星宮という彼女の存在。星宮のためを思うならば、絶対にこの誘いは断るべきだ。それが一番庵にとってベストな選択であるはず。


 が、ここで甘音の誘いを断れば庵はクズだ。意見を出さないくせに人の意見は突っぱねる、わかりやすいクズだ。しかし甘音の誘いに乗れば、彼女がいるくせに平気で浮気紛いのことをするクズとなる。どちらを選んでクズに成り下がるルートしかなく、庵は頭を抱えた。


「はぁ......ごめん星宮。これは浮気じゃないから許してくれ」


 ぽつりと溢し、庵は結論を出す。甘音に視線を向けた。


「......行くか、材料の買い出し」


「うんっ! じゃ、早速レッツゴー!」


 今はいない星宮よりも、目の前にいる甘音を傷つけてしまうことを恐れて、二人で買い出しに行くことを決意する。決して浮気ではないのだが、星宮には心のなかで土下座をしたようだ。





創作物コンテストとは、二人ペアでジャンルを問わずに何か作品を作って最優秀賞を決めるシンプルなコンテストです

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― 新着の感想 ―
[一言] 庵のグズっぷりは治りきっていないみたいですね…。インキャだのなんだのというのは関係なしに自分で色々決断しなくちゃいけないのに…。
2023/06/12 00:13 退会済み
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