◆第101話◆ 『文化祭準備二・三日目』
――翌日、放課後。文化祭準備二日目が始まる。
「......」
「......」
周りを見渡せば、創作物コンテストについてワイワイと話し合うペアが多数見受けられる。早いところは、もう作品作りまで進んでいるところもあった。ペースはそれぞれ。文化祭までにはまだたっぷりと時間があるので、構想に時間を多く費やすのも最優秀賞を手に入れる作戦の一つと言える。
そして、様々なペアがいるなか、唯一何も進展のないペアがいて――、
「......朝比奈さん、創作物コンテストどうするんですか。このままじゃ何も進みませんよ」
「どうするも何も、あんたにすべて任せるって昨日言ったでしょ。好きな動物でも食べ物でも、勝手に作れば」
「......私一人で進めたらペアである意味がないじゃないですか」
「だからなに。そもそも、あんたと私が仲良くするほうがありえない話でしょ。このコンテストで良い賞取りたいんなら、私を無視して。私はあんたに協力するつもりはないけど、邪魔までするつもりはないから」
星宮が説得をするも、朝比奈には取り付く島もない。このまま説得を続けるのは無駄だと察した星宮は、こっそりとため息をつきながら頭を回す。どうすれば朝比奈はこちらに手を貸す気になるのだろう。未だに火花をバチバチとさせている状態の朝比奈なので、まずは火花の消火を優先――つまり、星宮に対する隔たりを取っ払ってしまうことから始めるべきなのか。
(とはいっても、私も朝比奈さんと仲良くできる自信なんて無いですし......)
ちらりと視線を向けてみるも、朝比奈は手元のスマホに集中している。もうこれ以上は話しかけてくるなといったオーラがプンプンと漂っていた。
「秋ちゃんに相談しますか......天馬くんにも相談できたらいいのに」
自分の友だちの少なさを改めて実感して、星宮はこの停滞した状況を何とかしようと意気込む。幸いにも朝比奈は星宮に対して露骨な距離の取り方はしていない。放課後になればきちんと集まってくれるし、話しかければ嫌そうながらも答えてくれる。
きっと、他の人の知恵も借りれれば打開策が見えてくるはずだ。
***
――そして翌日。
今日は文化祭準備三日目。言うまでもないが、昨日の文化祭準備は何も進展がなかった。ほとんどの時間を無言で過ごしたので、やることのなかった星宮がどれだけ居たたまれない気持ちになったことか。それでも星宮は朝比奈に協力要請することを諦めない。
一応昨日秋には相談をしてみたがまともなアドバイスは貰えなかった。根性論を言われたのを覚えている。
「朝比奈さん、何回も言ってますけど一緒に創作物コンテスト頑張りませんか? きっと、楽しいですよ」
「いい加減しつこい。いつまで言ってんの、それ」
今日も今日とて、スマホいじりに専念する朝比奈。毎日毎日スマホをいじっているが、一体何をしているのだろうと疑問に思う。長時間そんなに見るものがあるのか。
「はぁ......だる」
はっきりと聞こえる声量で不満を垂らす朝日奈。隠す気ゼロだ。
「あの、朝比奈さんが”前あった出来事”を気にしているのは分かるんですけど、文化祭期間だけは水に流してくれませんか。私も流すので......。朝比奈さんが私のこと嫌いなのは分かるんですけど、私は朝比奈さんのこと嫌いじゃないです......」
「は」
星宮の精一杯選んで出した言葉を、朝比奈は鼻で笑う。スマホから視線を外して、こちらに向けてきた。
「さすがにお人好しにもほどがあるでしょ。私があんたのことイジメたの忘れたの? 記憶喪失? それを覚えてるうえで、私のこと嫌いじゃないとかアホなこと言ってんの?」
「......はい。別にもう、気にしてないです」
「は。ここまでくると驚き。私があんたの立場なら、めちゃくちゃ恨みまくるけどね。なんでこんな奴とペア組まなきゃいけないのって。こう考えるのが、普通」
自虐のようにも聞こえるが、たしかに朝日奈の言うことには一理あるし、共感もできる。口には絶対出さないけど、なんで朝比奈さんとペアなんだろうと、星宮も頭を抱えてしまいそうになる。でも、そんな愚痴吐いていたって状況は改善されない。
もうペアが変わることはない。なら、どう足掻いても朝比奈とのペアワークを星宮は頑張るしかないのだ。まだスタートラインにすら立ててない。それならスタートラインに立てばいい話。単純すぎる話だろう。でも、そこまで状況を持っていくのが、どれだけ難しいことか。
「私は、朝比奈さんと創作物コンテストに出たいです。別に仲良く作業は進めたいとまではいいません。それが難しいことくらい私も分かります。でも、仲良くしなくたって、作品くらいは......」
「あのさ、いい加減キモい。私は手伝うつもりないって何回も何回も言ってんじゃん。そんなに作品作りたいんなら、他のペアのとこにでも混ぜてもらえばいいでしょ。てか、それで解決するじゃん」
――他のペアに混ぜてもらえばいい。
確かに、その手は考えていなかった。かなりグレー寄りの手段ではあるが、別にダメとは言われていない。それに文化祭準備に先生の監視はないので、ダメだったとしても咎める人間はおそらくいないだろう。もしかしたら既にこの手段を取っているクラスメートはいるのかもしれない。
「――でも」
でも星宮は直ぐにその選択肢を除外した。朝比奈が本気で星宮のことを拒絶しているのなら話は別だったけれど、朝比奈は一応星宮と接してくれている。なら、それで十分だ。
さっきからいろいろと言い合いをしているが、いい加減星宮も慣れてきたし、少しだけ熱くなってきた。澄ました顔で「ご自由にどうぞ。私は何もしません」を貫き通す朝比奈が、怖いを通り越して少しだけ腹立たしく思えるようになってきた。
朝比奈に過去受けたイジメが頭に浮かぶ。あのときからずっとギスギスしているけれど、ここで朝比奈に心を開かせることができたら、とてもおもしろいのではないか。何がどうおもしろいのかは分からないけど、それができたらきっと「やってやった」と思えるはずだ。
「......あぁ、もう」
朝比奈を怖いなんて思いたくない。怖いって思ってしまう時点で、朝比奈に負けてしまっているのだ。星宮は今成長しようと、友達を作り、愛想も良くし、今まで出来ていなかったことを出来るようになろうと努力している。
成長過程にちょっとした壁があったっておかしくない。その壁を越えれたなら、きっと星宮はもっと成長できるはずだ。逆にこのまま何もせずに屈してしまったら、今までと何も変わらない。そうはなりたくない。朝比奈に負けたくないという燃えるように強い意志が、星宮を突き動かす。
「――私は、朝比奈さんと創作物コンテストで勝ちに行きます......絶対に」
「バカ言わないで。私があんたと一緒にいるのをどれだけ憂鬱だと思ってるの」
星宮の意地が、この融通がきかない女に抗うことを決意する。
これは、星宮の朝比奈に対する『復讐』。朝比奈の不動の心を揺さぶり、その心を開かせたとき星宮の勝利となる。
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