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第43話 躁鬱少女との出会い


 もともとレーベは忙しい身の上だ。それが、光明と僕たちという重大事項が舞い込んできたおかげでかかりきりになってしまっていた。当然、いつまでも彼女ほどの人材をかかりきりにさせるわけにも行かず、ルナの下には他の人間が派遣されて来た。


「通りすがりのヒーロー、レン・ザ・ブラッドクルスここに参上!」


 幼女がポーズを付けている。しかも、組合の屋根に上ってかっこつけていた。……思うのは、ほほえましいということだ。

 僕と同じくらいの年齢の女の子がヒーローごっこをするのを見ている感覚に近い。もちろん、この年齢は外見年齢のことだ。まあ、どっちも年齢詐欺であることは疑いようがないけれど。


「ッとう!」


 飛び降りた。組合は5階建ての建物だ、普通の人間なら怪我をする。悪くすれば命を失う危険すらもある行為だ。まあ、もっとも――


「初めまして、かな。レン。人類存続のため、ともに力を合わせて頑張っていこうか」


 この子は【翡翠の夜明け団】関係者……しかも、改造人間だ。この程度の高さが問題になるはずがない。監視役というからには、ノーマルな人間では勤まらない。走っただけで置いて行かれては邪魔なだけなのだから。


「うむ。よろしく頼む、ルナ」


 握手した。少し固い感触がした。

 まあ、男どもと比べればはるかに柔らかいのだろうけど。……アリスやアルカナに慣れすぎたかな。かなり可愛い子だと思う。見劣りは、するけれど。


「……くふ。さっそく指令だよ。白露街に行き、あるものを回収してほしい。きひゃ」


 凶悪な笑みを見せた。幼女が浮かべていいような顔とは程遠い凶相。そして、なぜかそれが似合っている。退廃的な雰囲気がそう見せているのかもしれない。


「君はなかなか面白い子だね、了解だ。【光明】の皆と別れの挨拶をしてくるよ。まあ、任務にそこまで日数をかけるつもりもないけど」

「にひ。我は貴様らの指示を受けるように通達された。存分に使い捨ててくれて構わぬぞよ」


「――使い捨てるなんてとんでもない。僕は、生き残れる可能性がない作戦は絶対に立てないよ」


 そう、終末少女の力を用いて裏から介入しても”それ”は許さない。もちろん、それは100%成功させるわけじゃない。0%を0.1%かそれ以下にするようなものでも、生き残る可能性の芽は作っておく。

 チャンスを掴めるかどうかは本人次第だ。けれど、捨てることだけは決してない。


「くひひ、あまり期待しないでおく。それに、我はもう――廃棄品だ」

「……ああ、初期の作品か。身体内部に刻まれた魔法が色々と粗雑に混ざり合ってるのが見て取れる。相乗作用どころか、いくつかは悪い効果を生み出してる」


「お前らに、ついていけないというほどではなかろうよ――かはは。もちろん、足の話だぞ。それ以外に取り柄がないもんでな」

「うん、それもいいよ。別に君に戦ってもらおうとは思わないしね」


「きひ。……ありがたい言葉で、嫌な言葉だ……にひひ」

「戦いたいというなら、機会はあげるよ。まあ、それも――まだ時ではないがね」


「……? 何を……きひ」

「今はまだ、雨が降っただけ。芽が出て、そして闇鍋のごとき状況を呈すのはまだ先さ。混沌とした状況でこそ、光のために命を投げ出すのは美しいと思わないかな? こんな薄暗がりの茶番劇で死ぬほど面白くないことはないさ」


「思わんよ……きひ。だけど、”それ”は我のようなものにもったいないくらいの死に際だな」

「ただ――ま、まだまだ”それ”とは程遠いのさ。僕は遊んでいるから、今はまだアルカナに守ってもらってね。いいよね?」


 僕は後ろを振りむく。

 何者かにつけられている。殺意を持った”敵”。隙を見せれば殺されるのみ。ただ、相当の暗殺者ではあれど勇者の器ではない。魔王を相手に倒しきれるほどの強さは持っていない。


「いいよ、ルナちゃん」

「アリスは?」


 ぐい、と頭を突き出してくる。あまり、この子は僕が”遊ぶ”のにいい感情を持ってない。ちょっとくらい怪我をしてもなんてことないのに。


「アリスはいい子にしててね。まあ、僕が危なくなったら助けてもらおうかな?」


 頭を撫でてあげた。やわらかい手触り、いい香り。癒される。

 彼女は心地良さそうにしながら、不安げに僕を見上げている。まあ、アリスが心配するようなことなんてありえないけど、ね。


「……うん」


 こっくり、とうなづいた。九竺たちとニ、三話して別れを告げ王都を出る。


「さて、少し走るよ」




 そして、少しの時が過ぎる。

 辺りは見渡す限りの荒野だった。遠目に王都が見える。……敵の姿は見えない。けれど、ついてきてる。そして、僕は三人から少し離れて走る。


「やりやすいようにここまで来てあげたんだけどまだ来ないなんて、根性のない虫けらだ。じゃあ、もうちょっとやりやすくしてあげよう」


 アーティファクトを脱ぐ。とはいっても、下着姿になったわけじゃない。エッチな姿を見せびらかせて喜ぶような性癖なんて持ってない。

 王都で買った、またもやふりふりの服を下に着ていた。まあ、普通はしない。それを下に来ても邪魔なだけだろう。


 せっかくかわいい姿になってしまったのだから、おしゃれもしたいという女心だ。

 男だったときは着飾りなんてしなかったけれど。……やっぱり、下地が違うと、全然違うね。まあ、それに――鏡とはいえどかわいらしい女の子の格好を見るのは悪くない。


「……っはは」


 頭を右にずらす。何かが通り抜けた。


「銃弾じゃないね」


 今の視力でも影くらいは見えたはずだ。弾丸が見えないということ、そしてあの弾速なら。


「見えない弾丸。空気か衝撃波かな」


 少ない魔力で最大の破壊を、という意味では”衝撃”を使うのはとても理にかなっている。副次効果がない分、威力に魔力をさける。


「……で」


 左右から襲い掛かってきた黒服のナイフを、それぞれ指で挟んで止める。


「姿を消すなら足跡まで消さなきゃ無意味だよ。音を消すのはいい判断かもしれないけど。もう少し考えろよ」


 隠れているときは姿を透明にしていた。……空気の操作能力かな。光を捻じ曲げて、いないように見せかけ、さらには音まで閉じ込める。

 もっとも、体から離れた足跡まではどうにもできなかったようだけど。


「……化け物め」


 そいつがぽつりとつぶやく。


「君らも似たようなものだろ?」


 どん、と衝撃が来た。


「大砲みたいだね。三人分の衝撃波を重ね合わせたか」


 もちろん、僕はそれが来る前に身をひるがえしている。タイミングを合わせるために弱い衝撃を当ててくるから、それをかわせば本命を回避可能というだけの話。


「貴様は殺す。”魔物モドキ”め!」


 敵は指を刀のように伸ばして、斬る動作をする。衝撃波による斬撃だ、軽く鋭いそれは物質の刀とは一線を画す。

 なるほど、一人一人タイプが違うか。一人は長距離射撃に、一人は刀。そして、もちろん最後の一人は中距離、接近戦には弱い。


「……そう評すなら、”災厄モドキ”くらいには思っとけよ」


 スピードを上げて懐に入り込み、肘を打ち込み内臓を壊す。


「……F! っち。これほどとは――」


 そいつは崩れ落ちそうになる体を強引に起こす。痛みを無視……いや、痛覚を制限しているんだな。


「こんなのは単純な身体能力に過ぎないさ。もっと言えば中身の強化魔術と素体の差だよ。初手でこれくらいのことも見抜けなかったのかい? 暗殺はできても、対人戦闘のセンスが無いよ」


 僕は能力がない代わりに身体能力に特化したタイプ。それにアーティファクトで防御性能を極大化、さらには最強の”槍”すらも限定的に扱える。そういう〈設定〉だ。

 撃たれた時から最高速で戦っていたわけじゃないのが、そもそもにして僕の張った罠だった。当たり前に警戒すべきだったことだけど、こいつらは油断した。


「……このガキにあるのは”槍”を扱う能力ではないのか!」

「それを扱うに堪えるだけの身体能力を増設したのが、この僕さ」


 隙だらけだ。というより身体能力で勝っている分、一対一では僕の勝利はゆるぎない。敵の勝利の筋道は最初にやったような奇襲。もしくは――


「……っち!」


 連携で敵の身体能力を殺すかだ。遠距離狙撃能力持ちが抜き打ちで銃撃を打ち込んだ。アーティファクトを纏っていれば無視して倒せたが――うん、面白い。

 いいね、戦いはこうでなくては面白みがない! もちろん、舌打ちという演出も欠かさない僕だ。すぐに終わっては興冷めだろう。


「気をそらすな、T。さっさと起きろ、F。身命を賭してそいつを押さえろ。決して、アーティファクトを纏う暇を与えるな」


 やまびこのような声が届く。衝撃波の能力で声を飛ばしているのだろう。二人の目に光が戻る。


「T、やれ」


 魔力のほとばしりを感じる。この流れは範囲攻撃か! しかも、巻き込まれようともそのまま攻撃してやると刀の能力者が待ち構えている。……この二段攻撃はいなしきれない。なら。


「……っく」


 腕をクロスさせて後ろに跳ぶ。と、衝撃が来た。……せっかくの服がボロボロ。おなかが見えちゃってるし、部分的に超ミニスカートになってるから動くだけでパンツが見えそう。

 それでも、距離は取れた。威力も殺した、問題はない。


「さすがに恥ずかしいし……終わりにしようか」


 ボロボロになったスカートを眺めて、ため息をつく。全力で動いて距離を詰め、身体能力を頼りに前衛から殴り飛ばしてやる。


「F、足止めだ!」


 空気の刀を全身に張り巡らせ、はりねずみのようになった男が立ちはだかる。


「痛覚がないのはわかったよ。今度はきっちり気絶させる」


 頭狙い。空気の刃とは言えど魔力は見える。かわして、刃ごと砕くアッパーカットで意識を奪った。そして――。


「……く」


 獲物を倒した一瞬、僕の動きが止まったその時に銃弾が迫る。けどね。


「頭を狙うのは読めてるよ」


 懐から取り出したナイフで防御した。風見町で買ったありあわせのもの。この一発を受け止めただけで砕け散ったし、破片がほおをかすって血が流れてるけど、まあ値段以上の働きはしてくれた。


「……ふ!」


 さらに、両腕を突き出して、気を失った刀の能力者を突き飛ばす。……範囲攻撃能力者の盾にするように。


「……この!」


 けれど、その敵は仲間ごと攻撃した。


「へ?」

「あは」


 その仲間だけが飛んだ状態から地面へと叩きつけられる。

 裏をかいてそいつを盾にして突進したように見せかけたのだ。僕は、そもそも動いていない。そいつの陰に隠れていたならば確実に当たっていた攻撃だった。


「相手の裏をかくのが対人戦闘の基本だぜ?」


 攻撃にはためが必要というのは一回目の攻撃の時に見抜いている。仲間に攻撃されて目を回しているそいつを、近づいてあっけなく頭を揺らして意識を落とした。


「――さて」


 三人目の銃撃を、今度こそ本当に倒したやつを盾にして時間を稼ぎ、取り出した刀を投げた。……ジャストミート。


「中々、楽しかったよ」


 彼らを放置して歩きだす。回収部隊はいるだろうから、僕らが手当てまでしてやる必要はない。

 どうせ、狙撃能力者以外は2時間もすれば起きるはずだ。まあ、刀傷の彼はあのまま夜を越すのは難しいだろうが、起きたやつにでも縫ってもらえばいいだろう。

 案外、改造人間だからそのままでも治るかもしれない。刀は回収したし。


「あ、アルカナありがとね」


 うー、うーとうなるアリスをアルカナが抱えていた。放置すれば、あの三人は八つ裂きになるだろう。


「楽しめたようじゃな」


 回復魔法をくれた。そして、下半身にものすごい視線を感じる。


「アルカナ。僕のどことお話ししているの?」

「ルナちゃんは、わしがその格好で町を歩いてたらどうする」


「目撃者は全員消すよ?」

「それしていいかの?」


「だめだね。とりあえず着替えるよ。あまり怖い顔しないでね」

「しとらん」


 ふい、と顔を背けた。


「……ぴら」


 ぼろぼろのスカートをめくってみた。


「――ッ!」


 アルカナが僕のパンツを凝視する。たっぷり1分は経った後、目線を上にあげたアルカナと僕の目が合った。


「アルカナはエッチだね」

「……むぅぅ」


 むくれて頬を膨らませちゃった。……かわいい。


「アルカナは置いといて、進もうか」


 アーティファクトを着なおして、何事もなかったように歩を進める。……アリスのご機嫌取りに手をつないで。



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