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第2話:鉱山の街

 ファンファーレが鳴り響く。

 いつもは喧騒に包まれている鉱山の街がにわかに装いを変え始める。

 街のメイン通りを仰々しい行列が通り過ぎていき、何事かと人々はその行列を見つめていた。

 先頭の従者が持つのは金の竪琴を表した国王の印が入った旗である。

 これは現国王のリューデリスク・バルト・タトラ=エスタニアの守護神に由来する。

 赤い地に金の旗は滑稽なほど青い空に映えていた。

 いぶかしみながらも誰もその行列の足並みを乱す事はできず、街はずれの屋敷に行列は着々と近づいていく。

 屋敷の主は、セイラ・リューデリスク・リーズ=エスタニア。

 このエスタニア王国の第8王女である。

 この長ったらしい名前は、己の名前・父の名・守護神の名=国名となっている。

 なぜ王女がこの都から離れた街にいるか……。

 彼女の母親の身分は低く、また第8王女ということもあり、母親の故郷であるジニスの街に屋敷を与えられたのだ。

 ジニスは鉱山の街として国内外に知れ渡っている。

 エスタニアで採れる鉱物資源はほとんどがジニスのもので、その加工技術は国外からも賞賛されるほどだ。

 

 街が喧騒を沈めている反動のように屋敷の中は慌しかった。

 数人しかいない使用人たちは屋敷中を動き回り、何か手落ちは無いかとチェックに勤しんでいる。

 なにせ国王直属の使者が来る事など初めてのことだ。

 部屋のセッティングにかかり、料理を用意し、目の回るような忙しさだ。


 「セイラ様はどこにいったのよ!」


 その上、あろうことか王女自身が行方不明なのだ。

 王女が勝手に街に出かけるのはいつもの事だ。

 街の皆にも可愛がられ、溶け込んでいる。

 特に鉱山で働くものたちからは孫のような扱いを受け、セイという愛称で呼ばれている。

 母はすでにこの世に無く、父とも疎遠である彼女にとって、それは喜ぶべき事なのだが、いかんせん時期が悪すぎる。

 使者はもう目の前なのだ。長旅に疲れた使者を待たすにも限度がある。


「お昼には帰るよ」


 そういっていたにも関わらず、姿はどこにも見えず、使者も夕方着くはずだったのに何故か早い到着。

 あせらないでいられようか。


「お昼には帰ってくるといったのに!」


 廊下で叫んでいるのは、黒目のはっきりした可愛らしい少女だ。

 彼女は王女の付き人である。

 二人は年恰好も近く、互いが幼いときから常に近くにいる存在だった。


「ハナ」


 廊下の先で年かさの侍女が少女を呼んだ。

 手には皇かなドレスと淡いヴェールを持っている。

 次に侍女の口から出た言葉が予想通りで少女は心の中で愚痴った。

 

―セイラ様の馬鹿……












「いや〜セイラ様は美しくなられましたな〜」

 

 楚々と微笑む少女の前で使者は出っ張った腹を揺らしながら笑った。

 使者を招いた部屋は急遽作ったようには思えぬほど上品に出来上がっていた。

 それが上品であればあるほど、そこで生活してきたものにとっては可笑しい。

 けれど、躾の行き届いた侍女たちは慇懃にお茶の用意をした。


「遠いところをようこそおいで下さいました」


 セイラ王女は完璧な礼をとって使者を室内に迎えた。

 その仕草は都で幾多の貴族のお嬢様を見てきた男も感心するほどであった。

 お茶と茶菓子を薦めると、それを頬張りながら、なおも少女の美しさを褒め称える。

 淡いヴェールで隠された頬はほんのり色づき、ご冗談をと微笑む。

 鉱脈の街には似つかわしくない深窓のお姫様ぶりだ。

 ヴェールで顔の半分が隠れていたとしても関係の無い事だった。

 父である国王ですらセイラの顔をしらないのだから。


「ご用件は?」


 聞き飽きた世辞はほっておき、王女は用件を尋ねた。

 国王直属の使者がきたのだ。なにか重要な事に違いない。


「おお。そうでありましたな」


 使者はクリームのついた口元を拭きながら、ごほんと咳払いをした。


「セイラ様。どうぞお喜びください」


―何をだ


 少女が笑顔の奥で鋭くつっこんだ事になど気づくわけもない使者はにこやかに王女を見つめ、

 もったいぶった動作で王女に手紙を渡した。

 旗と同じく王の印が入っている。

 直筆の手紙だ。

 手紙を受け取って怪訝な顔をする王女に使者は告げた。


「ご結婚がきまりましたぞ」


「はぁ?」


 思わず出てしまった声を慌てて引っ込める。

 目を丸くする使者から目を離し、崩れたお姫様を立て直す。

 居住まいを正して可愛らしく首をかしげ、上目遣いもばっちりだ。


「結婚……わたくしが?」


 もとのお姫様ぶりに、先ほどのことは無かった事にしたのか、

 使者はにこりと効果音がつきそうなほどはっきりと笑みを浮かべた。


「そうでございますよ。こんな良縁はございません。」


 セイラはまだ14になったばかりの第8王女だ。

 まだ上には適齢期の王女たちがいるというのにどうしてだろう。

 少女の困惑など知らぬげに使者は、彼女の嫁ぎ先を告げた。


「お相手はアリオス王国のジルフォード王子ですよ。」


 それで納得がいった。

 アリオス国はエスタニアに隣接する武力で成り上がった国のことだ。

 ここ数十年でぐんと領土も広がった。

 けれど歴史を重んじるエスタニアではなりあがり者を好しとしない。

 王女は挨拶もそこそこに手紙を握り締めて部屋を後にした。

 残された使者は使用人たちがどうにかしてくれるだろう。


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