東京終戦 1
作戦完了から次の日、今後の予定が司令官からリリィ、そして私達に伝えられた。
何故か小夜さんも立ち会いで脇に居る。
「叙勲?」
「ああ、くれるって日本」
「断ろ?」
「難しいと思うけどねえ」
リリィは肩を竦めながら苦笑した。
うーん、でも私達が日本から勲章を貰うのって違うと思うんだよね。
今回の軍事作戦って自衛隊有りきの展開だったし、陸海空からの手厚い支援を受けていた。
「勲章を貰うなら自衛隊じゃないの?」
「それなんだけど、自衛隊は国防が職務で仕事だから」
「でも米軍、私達も仕事だよね?」
自衛隊が仕事なら私達もそうだ、なのに私達だけ勲章もおかしな話で。
「国民からの声で、そもそも初期段階で災害を抑え込んでいたら、って言われていてね」
「いやいや、あの時の法律だと自衛隊が武器を十分に行使するのは難しかったでしょ」
「それはそうなんだけど、目に見えた活躍をした巨人特殊部隊には叙勲するべきって声も大きくて・・・」
「ええ?」
いやあ、それはどうなの?
第一級敵性生物と領域外敵性生物は巨人が倒した方がコスパが良いってだけで、決してミサイルや砲撃で倒せない訳じゃない。
数十発撃ち込めば倒せるんだよ、そりゃあ私達なら概ね一撃必殺だけどさ。
今回の作戦に関して言うのなら、数との戦いがメインだったよ。
私達が倒した一級と領域外敵性生物は精々数千か一万、いっても二万体には届かない。
それに対して二級は数十万体、これらの殆どが自衛隊と米軍の攻撃で殲滅された。
叙勲するなら自衛隊と米軍にするのが良いと思う。
「分かった、私からは担当部局にそう伝えておくわね」
「うん」
「俺はくれるんなら受け取るけど、確かに個人への叙勲よかは軍一括の方が建て前として無難だな」
「アタシらは分かりやすく目立つ存在だからねぇ」
既に米軍内では内々に叙勲と昇給、昇格のお報せを戴いてるからね。
米軍だと先ず本作戦に参加した人員へ一律与えられる勲章があって、今回だと『日本従軍記章』がそれに当たる。
更に『戦功章』と『功績勲章』が各活躍に応じて与えられる予定だ。
私達は事前に聞いていた通り、ライアンは中尉、リリィが少佐になる、私は少尉って話だったけど尉官の教導を受けていないので上級准尉となった。
て言うか、リリィも左官でライアンも尉官、昇格速度が早すぎて必要な教導を皆して終えていないという謎の状況だ。
私とライアンは階級の前に『名誉』が着くから実務面では問題ないけど、リリィだけは叩き上げの軍人なので、これから後付けになる左官教育を受ける事になるそうだ。
まあそんな感じなので、日本から勲章を貰っても持て余すというか、こっちの分だけで十分というか、あけすけに言えばお腹いっぱいなんだよね。
とは言え、米軍とアメリカに面子があるように、自衛隊と日本にも面子はある訳で。
米日同盟に従って支援しただけだから褒賞は不要だ、と突っ返すのもまた相手の顔を潰す事になる。
だから、落とし所としては米軍への叙勲とするのが一番無難だと思う。
叙勲の準備は既に整っているので、作戦完了から三日後、つまり明後日大々的に行われる予定だと通達された。
在日米軍はいいとして、私達巨人特殊部隊はアメリカ本土から派遣されている身、すぐに帰国する可能性もあって事前準備をしていたそうだ。
***
「———————であるからして、以下の功績を以て、」
式典参加者は内閣、防衛省、自衛隊、米軍、在日大使等の顔役と現場の隊員が複数臨席して行われた。
私達、巨人特殊部隊守護者もまた前線で作戦の完了に貢献したとして呼ばれている。
場所は国会議事堂の真ん前、上手の建物側に3人直立不動で挨拶を拝聴していた。
下手側は日本、上手側はアメリカといった具合に分けられ、国会議事堂正門前にはマスコミがカメラを構えている、まあ正面から撮られて一番良い絵面だそうだ。
梅雨の季節にも関わらず、今日晴れて式典を迎えられたのは本当に良かった。
私達が入れる建物なんて専用に建てない限りは無いからね、外でやるしかない。
「此処に桐花大授賞を在日米軍へ授賞する」
「ツツシンデ、オウケイタシマス」
ぎこちない日本語、米軍代表として勲章を受け取るのは本作戦の副司令官だ、【穴】の脅威は未だに残っているので不測の事態の為の対応となっている。
かく言う私達も即応体制で、フェイスマスクと電子ゴーグルを除いた完全武装の格好での参列だ。
また東京災害の時のようなモンスターが溢れる事がないとも言いきれない、そんな区域に人が集まるのだから必要な措置でもある。
本来国会議事堂に武器の持ち込みは出来ないのだけど、周囲に広がる廃墟や瓦礫、戦闘の爪痕などを見て、反対の言葉が挙がることは無かった。
さて、桐花大授賞は日本で上から2番目の勲章だ。
小夜さんに教えて貰ったけど、1番上の勲章は大勲位菊花章というもので、こちらの受勲者は殆どが本人が亡くなった後に贈られる勲章なので桐花大授賞は事実上の最高位、最大の感謝を込められた受勲となる。
因みに米軍と個人名ではなく団体に贈られたのは史上初。
歴史ある勲章の前例踏襲主義を曲げる程の感謝と尊敬の念が込められた受勲となった。
副司令官が勲章を受け取ると同時に米軍関係者は敬礼をして、すぐ直った。
何にせよ、自分達の活動が認められるのは誇らしい気持ちになるね。
私は緩みそうになる口元を引き締め、待ちの体勢を堅持するよう務めた。




