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巨人になった私  作者: EVO
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東京決戦 12

あれから山もなく落ちもなく、淡々と作戦は完遂したのだった。

敵性生物はほぼ殲滅、脅威は排除された、と言いたい所だけど【穴】の脅威は未だに残されている。

アメリカもそうだけど【穴】から定期的に敵性生物が現れるので、根本的な解決はまだまだ先になる。

この辺りの対応は自衛隊と在日米軍によって対処されるのだろう。


軍の一部では核兵器の使用が検討されているらしいけど、ワシントンDCも東京もその立地から許可が降りる事は無い。


「お疲れ様、ライアン、サナ」

「お疲れ!リリィ、サナ」

「お疲れ様でした、リリィ、ライアン」

『ご苦労様でした、巨人特殊部隊ミッションコンプリート』


最後の一体にトドメを刺して私達は互いに労った。


「終わったね」


「大変なのはここからさ」


「壊すのは簡単なんだがな」


確かに東京災害に係る状況は振り出しに戻ったと言える。

でもこれからは【穴】から現れる敵性生物の封じ込めと、復興が始まる。

東京23区の大半を戦場とした本作戦により、空爆で破壊された面積はかなりものとなる。


練馬区【穴】の封鎖、戦線構築を何処までの範囲にするのか、居住地の許可範囲、道路の修理、瓦礫や敵性生物の死骸の撤去、体液や内臓の処理、建物だって無事なものを探す方が難しい。


陸海空から繰り出された砲撃爆撃の不発弾も問題になるし、サーモバリックの未燃焼燃料の除染。

死者・行方不明者の本格的な捜索も欠かせない。

やるべき事、やらなければならない事は山積みと言える。


「ま、今後の事は日本の仕事さね」


「どれくらい掛かるかな」


「2年、いや数年は掛かるだろうな」


建物にしても取り壊して更地にしてから再建築だもんね、そこへ至る道も破壊されているし東京の規模を考えると数年でも足りるかどうか分からない。


使える物は何でも使って戦って来た。

電柱、鉄塔、鉄骨、車を投げたりもしたし、地下鉄を踏み抜いてしまったり、首都高も相当破壊されている。


「素人考えだけど復興するより別の土地に建て直した方が早くないかな」


『日本国では検討中よ、遷都の話も挙がってるみたいね』


だよね、23区を更地にするだけでも大変だ。


「あ、でも空路、海路の問題もあるか」


「東京クラスの大都市を遷都ぉ? 無理じゃねえか?」


「街づくりはアタシらの仕事じゃないから、頑張れとしか言えないね」


瓦礫、死骸の撤去は手伝えるけど、そうなると長期間日本に滞在する事になるね。

軍の、アメリカの判断がどうなるかは分からないけど、私はアメリカに戻ってハイスクールに行かないと困る。


「さてライアン、サナ、襟を正せ!」


襟を正せは服装点検の事だ、私とライアンは自分で正した後、互いに確認出来ない背後を確かめる。


「良し」

「良し」


多少血糊が着いている程度で乱れは無い、埃を軽く落として刀の位置を修正した。


「どうしたのリリィ」


「任務完了したのはライブで放送されているからね、基地までは整然と歩くんだよ」


「まあ相応の姿勢を見せるのは必要だよな」


「あー、そういうこと」


未だに東京23区は一般人の立ち入り禁止区域だ、緊急時には23区全域を使用した戦闘も有りうるとして戦線とは別の部隊が封鎖をしている。


任務完了後は基地へ帰投するけど、日本の意向から作戦の一部は国営放送を通して生中継されている。

作戦開始の空爆から、途中機密に触れない程度に放送はされていた、当然作戦の終わりも。


軍っていうのは結構見映えに拘る、面子に置き換えても良い。

私が米軍に入って一番最初に指導を受けたのは立ち方と待ち方、そして行進(歩き方)だった。

普段はあまり意識しないけど、式典や撮影の入る時は必ず指導された振る舞いを求められる。


動画を見せられて、ダラダラと歩く部隊とキッチリ整然と行進する部隊、どちらが格好良く強そうに見えるか、なんて聞かれる。

勿論、整然と行進する部隊の方が格好良く、強く見える。


基地へ戻る際に疲労感を出して帰投するより、泥や血に塗れていても姿勢を正して行進して行けばイメージも全く違う。

強く格好良い軍なら優秀な人材も集まるし、他国へも精強さを見せ付ける事が出来る、一種のイメージ戦略だね。


作戦途中はそこまで徹底してやっていないけど、こういう区切りには注目を集めるからしっかり()()して帰投せよ、という意図だ。



***



ザ、ザ、ザ。


封鎖区域の境目で米軍の車両と合流。

陸軍の歩兵部隊で、誘導弾のレーザー照準や偵察、ドローンや装備の回収と、私達と肩を並べて戦っていた部隊だ。

指揮車も加わり車列を組んで進む、私達は最後方を行進する。




ワッ!!!



大通りに差し掛かり視界が開ける、歩道は人で溢れ返り、建物からも顔を覗かせた人でいっぱい。

皆、小さな星条旗を手に大歓迎してくれていた。


イブの方でノイズキャンセリングを解除したのか、そこかしこから「サンキューベリーマッチ!」「ありがとうー!」「お疲れ様でした!」と感謝や労いの声に満ちていた。


通常、私達の移動の際は動線を完全封鎖していた。

信号は警察官が着いていて全て青、人の出入りも恐らく制限されていて、そこまで日本人に会う事は無かったのに。


『これくらいは感謝してくれないと困ります』


『Hahaha.Yo!Yo!イブ、アレの許可は?』


『はあー、もう、許可は降りましたよ、どうぞライアン』


『あん?』『え?』


見ればライアンは胸当ての裏に手を突っ込んでいた、あー、またぁ?


『サナは日本国旗な、俺は星条旗だ』


『ライアン、アンタ・・・』


『何となくこうなるとは思ってたよ』


察した予想は外れることなく、ライアンの手には私達巨人が持っても大きいと言える巨大国旗が握られていた。


『許可は取ってるから良いだろ、こういう演出も米日同盟には必要だぜ?』


『はいはい、好きにしな』


呆れたリリィを横目に私は日の丸を肩に掛けた、ライアンも同じく星条旗を掲げる。

イブも呆れ気味なのは声色で分かったけど、皮肉な事に、両国旗を見た沿道の人は最高の盛り上がりを見せたのだった。







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