東京決戦 10
横須賀基地へ帰投後、改めて私は検診を受けた。
スーツの下は予想通り、叩き付けられた背中とお尻の広範囲が真っ青に内出血していた。
更に頚椎捻挫が追加されて、打撲と合わせて数日の療養が言い渡される事となった。
「いてて・・・」
まともに動けない私はリリィの手を借り、シャワーでサッと汗を流した後、届けられた湿布薬を塗ってもらっていた。
「ほれ、これで終わりだ、寝るよ」
「うん、じゃあ服を、」
「このままで良いだろ、ブラもショーツも内出血に当たって痛いだろう?」
「痛いけどさ、湿布薬がシーツに移っちゃうよ」
私に貼れる大きさの湿布が無いので塗り薬の湿布薬を塗ったんだけど、当然あの独特の香りはかなり匂っている。
「そんなの洗えば済むんだから、ほれ」
「あ、うん」
口の中が切れたのは慣れたけど打撲は相当キツい、ヨタヨタとお年寄りみたいな動きしか出来ないので、完全にリリィにおんぶにだっこだ。
ギ・・・
匂いが迷惑かなと思って別のベッドで寝るつもりが、リリィは構わず一緒のベッドに私を引き込んだ。
「うーん」
寝る体勢が決まらない・・・
仰向けは背面が痛くて無理、うつ伏せか横向きしかないけど、うつ伏せだと若干反った感じで背中に痛みが、横かな?
ごろごろもぞもぞと探っても中々良い体勢が見つからない。
「なーにやってんだい」
「いやあ、痛くない体勢がね?」
「・・・こっちに頭をのせな」
リリィが示したのは自分の腕だった、腕と言うより肩が近いけど。
「良いの?」
「良いんだよ、ほれ」
じゃあお言葉に甘えて、と私はリリィの肩口に頭をのせた。
体勢的にはリリィの上に半身を任せるカタチだ、目の前には美しい曲線の鎖骨と喉元。
これは楽だけど、腕(肩)まくらって朝起きると腕死んでるよね。
ライアンくらいの筋骨隆々な腕なら兎も角、私やリリィくらいの腕に頭をのせて眠ると重さで圧迫されて血流が止まるからだ。
同衾歴10ヵ月の私とリリィは、そんな感じで同衾経験はかなり有る。
通常の落ち着いた体勢はリリィが私の首の下に腕を差し込んで抱く、私はリリィのウエスト辺りに手を回して抱き合って眠るといったカタチだ。
「ありがとうリリィ」
「ああ」
リリィは私のおでこにキスを落とすと少し体を揺すって密着を深めた。
流石に素肌を重ねて眠るのは初めてで気恥しい感じもしたけど、人肌の温もりで程なく眠りに入ることが出来た。
***
「サナ、あーん」
「あ、あーん?」
「ほら、こぼしてる」
次の日、朝起きてからはリリィが何くれとなく、せっせと私のお世話を焼いてくれた。
一晩明けた私は首周りがガチガチに強ばっていて動けなくなっていた。
頚椎捻挫って車の追突事故とかでなりやすい怪我なんだけど、大体はこういう風に時間が経ってから症状が出るらしい。
巨人の回復力は高い、だから口の中はほぼ大丈夫になったのに対して、首、こればかりは私も驚いた。
起き上がるのも難儀で、リリィの手を借りてクッションと枕を山程積んで寄りかからせて貰う。
それにしたって背中とお尻が打撲でズクズクする・・・
タオル地のホットパンツと緩めのキャミソールを被って横になる、リリィは食器を片付けに出て行った。
丁度入れ違いにイブがやって来た
「Hi!サナ、どう?」
「Hiイブ、痛くて動けない」
「そう、上にも報告しておくわ」
「ごめんね、なんか休んでばかりだね」
「問題無いわ、何の為に戦線構築していると思うの、この為よ?」
「へ?」
イブの話によると自衛隊が東京戦線構築をした理由は大きく分けて2つ有るそうだ。
ひとつ、敵性生物の封じ込め、ふたつ、3人しか居ない巨人特殊部隊の為の時間稼ぎ。
「歩兵部隊が3人なんて運用、普通は不可能なの、陸上から機甲部隊と連携、制空権の奪い合い、基本的には数十人単位を複数で、つまり連隊でないと意味が無いわ」
「うん」
「巨人特殊部隊は3人、補充要員は0、でも作戦の中核を担う存在、戦力の分散投入は愚策、1人が不良なら任務は休止。
だから、怪我や病気で休養が入るのも計画の日数に織り込み済みなのよ」
「じゃあ作戦全体の進捗はどうなってるの?」
「かなり前倒しで進んでるから気にしなくて良いわ」
「そうなんだ、あ、ところで」
「なに?」
「リリィがやたらと親切なんだけど」
「ああ、ふふ」
いやね、リリィが負傷した時に私もお世話したけど、今回は逆に私がリリィに気を遣われているというか、少し違和感があるというか。
イブはクスクスと笑って言った
「サナ、昨日あなたリリィになんて言ったか憶えてる? 【穴】の時の話しよ」
「昨日? 【穴】?」
なんだっけ、
「えーっと、「うるさいバカ!黙ってて!」?」
「ええ、それと?」
「え、他に? んー、・・・「 歯ぁ食いしばれ」?」
「それ」
「これ?」
「ええ、それ言った時の、リリィから見たサナの顔がこれまで見た事の無い程恐ろしかったらしくて、怒らせちゃった、って気にしてるのよ」
「は?」
無茶をした私が言うのもなんだけど、あの時リリィも無茶したよね。
そういう意味では怒ったけど、あの時だけの話だ。
そもそも空を飛ぶ敵性生物自体が想定外だったし、巨人を抱えて飛んでしまうなんて誰も予測していなかったよ。
リリィの判断も間違いとは言えない、更に高度を上げられて振り落とされたら致命的だし、戦線を飛び越えて振り落とされても問題だ。
余裕が無かったから言葉はキツくなっちゃったけど、別に怒り心頭許さない!って訳じゃない。
「私も言われてドローンの映像見直したわ、確かに普段のサナを知ってると、ちょっと驚くかも」
「え、そんな怖い顔してた?」
「・・・」
イブは答えなかった、それはある意味で肯定と同義だよ。
マジで?
「Hey.サナ、コーラ持ってきたよ、飲むだろ?」
「リリィ」
「あん?」
「私、別に怒ってないからね」
「あ? ・・・・・・・・・・・・あ、イブ、バラしたな!?」
「バラしたも何も、サナがリリィの態度を不審がってたから教えただけです」
「リリィ、私そんな怖い顔してた?」
「・・・」スッ
リリィは無言で視線を逸らした、えっ、そんななの!?




