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巨人になった私  作者: EVO
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東京決戦 8

「「リリィ!!!」」


『問題、無い!』


いやいや、問題有るでしょう!?

私も捕まえてしまえば勝てるとは思っていたのに、あの飛龍はリリィを抱えたまま飛んだのだから。


通常、飛行するというのは絶妙なバランスの上で成り立っている。

旅客機も戦闘機も、そして鳥もそうだけど、総重量を浮かす為に出力(パワー)が上回っていないと飛べない。


あの巨体の飛龍が空を飛翔するには相応の筋力を有しているのに加え、見た目よりは体重は軽い筈だ、鳥の骨がスカスカで軽いとか、そんな感じで。


だから〇〇(ピー)t有る私達を乗せたまま飛ぶなんて基本的に考えづらい。

実際、私達を載せて飛べる飛行機がほぼ存在していないので、禁則事項(ピー)tの荷重がどれだけ空を飛ぶのに負担になるのかなんて考えるまでもない。


「イブ!」


『は! あ、えとリリィは現在400m上空に、』


「っ、400m!?」


巨人が飛び降りて大丈夫な高さはどれくらいだろうか、高層ビルの屋上はまあ大丈夫だ。

東京タワーの333mはどうだろう、ギリ着地が痛そうな気はする。

スカイツリーだと、体感的には捻挫か骨折くらいはしそうな気がする。

やった事ないけど流石に私達でも1000mから落ちたら死ぬ、と思う、やった事ないし、試すつもりもないけど多分無理だ。


今のリリィの高度は生身ダイブでは割と限界に近い高さだ。


『Hahaha!任せろって、すぐ降りるから待ってな』


「えぇ?」


「・・・まあ、本人がそう言うなら何かあるんだろ」


『行くよ!』


遠い空で断末魔のような叫びが響いた、と同時に視界の簡易マップ上にあるリリィのマーカーがふたつに増えた。


「え」「おん?」


『リリィ、何したんですか!?』


『Hahaha!インカムの片方を奴に取り付けてやったのさ、こっちがアタシ、アッチが奴だ』


「「どっち(だよ)!?」」


『リリィ、インカムはどちらの耳に!?』


『あ? 左耳にしてる』


『では、右耳のインカムが飛龍ですね!』


タタタンとタップ音、そして簡易マップ上も目視したマーカーもリリィと飛龍の区別がついた。


『やべえ・・・、やっちまった』


「今度は何!」


『サナ、リリィの落下予測地点が【穴】です』


「は?」「おいおい」


私は反射的に【穴】方面、リリィを追い掛けた。

ライアンは言うまでもなく飛龍の方へ走る、互いにアイコンタクトも声掛けも必要無い。


『もう!リリィ何かやるなら相談してくれれば落下地点の調整くらい!!』


『Hahaha!あー、一応【穴】の真上は避けたつもりだったけど、暴れて放り出されたせいだなこりゃ、Hahaha!!』


「イブ!落下予測地点と落下軌道、速度、必要な情報全部出して!」


『は、はい!』


即座に応えたイブの仕事により、視界にリリィの落下放物線、そして残り時間が見えた。


残り9秒弱!


確か自由落下500mだと約10秒と聞いたことがある、今この瞬間の時間を考えるとリリィは500以上700m以下くらいの高度から落下した事になる。


『おいサナ、落ちてるもんはしゃあないんだ、無茶するな』


「うるさいバカ!黙ってて!」


『・・・ぁぃ』


「イブ、強制破棄(パージ)!」


『はい!サナ、まさか』


全力で走る私のガントレットとグリーブが外部命令を受け、内蔵された火薬により取り付けバンドが吹き飛んだ。


「フォロー!」


『Yes.Maam』


【穴】に落ちたらどうなるか分からない、GPSを落としてもカメラを落としても、その他観測機器を落としても【穴】の中を観測した記録は皆無だ。

ドローンを降ろした瞬間も信号が途切れてしまうので、少なくとも通常の物理法則に支配されていない空間としか分かっていない。

いや、唯一確実な事はモンスターが溢れる環境であることは間違いなかった。


そんな【穴】に人が、リリィが落ちて無事に居られる保証は無い。

私達は空を飛べない、だからやる事はひとつしか無かった。


防具が外れた事で腕と脚が軽くなり速度が上がる、このタイミングならギリギリ・・・、ううん絶対に間に合わせてみせる!


リリィは笑ってみせたけど、こんなのはただの強がりだ、若しくは自由落下自体はどうにもならないから諦観しかない。

いつもの陽気な笑い声より少し低く、若干の強ばりがあったのを私は聞き逃さなかった。

私がリリィの事で分からない事はそこそこ有るけど、それでも彼女の性格は1番知っているつもりだ。


『サナ、そのままトップスピードを維持して! 頑張って!』


「あああああぁぁぁ!!」


呼吸が苦しい、フェイスマスクを引きちぎり投げ捨てる、ゴーグルも邪魔だ。

全力のストライドで【穴】へと駆ける。


リリィを助ける手段はひとつ、【穴】に落ちる前に横合いから全力で体当たりするしかない。

タイミングも落下地点も軌道計算も視界にある、イブを信じて私は全力でやるだけだ。


ぽっ、ぽっ、と顔に水滴が掛かる、ついさっき切り裂かれた前腕を振り抜いているせいで血が舞っていた。

痛みは無い、走れる、問題は無い。


目の前には漆黒の【穴】がある、もう止まれない、だから跳ぶしかない。


「リリィーー!! 歯ぁ食いしばれ!!!」


『待っ・・・』「たない!」


私は全身全霊を以て、淵ギリギリを踏み切った。








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