東京決戦 6
戦車の砲撃は日に日に精度を高めていった、同時に航空自衛隊による空対地攻撃も精密誘導弾で泥の巨人さえキッチリ足止めを行う程の練度を見せつけた。
「トップガンが自衛隊 is Crazy、って呆れていたぜ」
「アタシも呆れているよ」
「アメリカって世界最強の軍隊だよね?」
「「一応な」」
リリィとライアンは揃って同じことを口にした。
「そもそも自衛隊の戦闘機、一世代前なんだぜ?」
「場合によっては二世代前もあるねぇ」
「古くても中身は新しくしてるんでしょ?」
「近代化改修しても、根本的なハードの性能は限界が有るんだ、普通に考えて古いもんより新しいもんの方が性能が良いに決まってる」
「それは、まあそうなんだろうけど」
「あいつら一世代分のスペック差は腕でひっくり返して来るからな・・・」
国の体制としては東京災害の大きな被害を出してしまったけど、軍隊としての自衛隊は相当強かった。
まあそもそも東京のほぼ全域、北東南に戦線を構築して敵性生物が抜けた事はただの一度も無かったし、ご飯は美味しいし、攻撃の精度は陸海空全てが高水準だし、ご飯は美味しい。
これが東京災害当時から展開出来ていれば、なんて考える人は沢山居ると思う。
同盟国なので米日合同演習の内容からも、米軍内での自衛隊の評価は恐ろしく高かった。
但し、世界に知られる自衛隊は専守防衛、先制攻撃はしない。
攻撃命令や武器使用許可等の命令系統、法整備に問題があるとは常々指摘されていて、だからこそ東京災害の時のように後手後手になってしまう事態があった。
それが今では大都会東京で発砲どころの話じゃなく、空爆なんてね・・・
「自衛隊が味方で良かったと思うよ」
「そうだな、後退時の煙幕弾使用のタイミング、座標位置、細やかな所ですげぇやり易いんだよな」
それはそう!
性格なのかな、本当に要所要所で細やかな気配りやサポート、先に挙げた戦車の砲撃もあって、とてもやり易い。
米軍は米軍で圧倒的な力こそパワーみたいな、ゴリ押しは頼もしいんだけどね。
自衛隊に足りなかったのは行動する為のルール作りと米軍並の大火力だけだ、前者は東京災害の反省から、後者は米日同盟から補われた。
あ、ご飯は完全に自衛隊だと思うよ!米軍頑張ろ?
「実際の所ッ、練馬区を平らげ、たら、終わり?」
ヒト変異体の事で色々と悩みはするものの、任務が始まるとそうも言っていられない。
次から次へと襲いくる第一級敵性生物、領域外敵性生物を倒すのに思考の殆どが割かれるのでいっぱいになるからだ。
特に敵性生物の多い練馬区は空爆も執拗な程に繰り返されているので、その影響で足場は瓦礫の山と破壊の窪みばかり。
立ち回りは当然気を遣うし、余裕があればリリィとライアンの援護も行なう。
勿論、リリィとライアンも同様に3人で補い合いながら敵性生物の死骸の山を築いていった。
「まあ、あとは国の、手腕次第さね」
「俺らも、ずっと日本に居る訳には、いかねえ、からなっ!」
19、20、21!
首を刎ね、急所を貫き、頭を叩き潰す、本日32体目の敵性生物を斬って捨てると漸く敵勢が落ち着いた。
納刀して【穴】を見やる、数百m先には真っ黒にポッカリと口を開けた【穴】が、一年前のあの時と変わらず在った。
あれだけ固まり蠢いていた敵性生物は一級、二級、領域外、全てが視界に収まる程度の数まで作戦は進行している。
数日中には討伐作戦を終える、そんな局面まで来ていた。
『自爆個体確認、警戒態勢、焼夷弾投下まで20秒』
【穴】が近いとどうしても新たに現れる敵性生物との遭遇戦になりやすい。
ヌタァと出て来た自爆ウナギに対して、航空支援の焼夷弾がすかさず投下された。
これまでの空爆では使用を自粛していた焼夷弾も、瓦礫と廃墟ばかりとなった練馬区においては延焼の危険が少なく、有効な攻撃手段と認められたので積極的に使用していた。
あの自爆ウナギは速度と瞬発力、瞬間火力は恐ろしいものがあったけど、体は柔らかく簡単に斬れるし、動線として撒き散らす粘液と本体は滅法熱に弱かった。
私達に近付くこともなく、火炎に撒かれたウナギはあっという間に黒焦げになって息絶えた。
初めて遭遇した時、リリィが死ぬ目に遭ったのが嘘のような光景だ。
「明日か明後日には終わりそうだねえ」
「うん」「だな」
作戦は最終段階、戦線は【穴】を中心に編成し直され、ケーキを切り分ける様にぐるりと円周を回りながら敵性生物の討伐をしていた。
それも確実に数日間で終える所まで進んでいる、夏前にはアメリカに帰国出来そうなのでフと肩の力が抜けた気がした。




