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巨人になった私  作者: EVO
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東京決戦 2

「熱っ!?」


リリィから数十m離れた私の足下にもバリバリと電撃が伝導、同時に眼が一瞬だけ焼けるように痛んだ。

握った小太刀にもビリビリと纏わりつき、手を痺れさせる。

周囲に散って飛行していたドローンは、その殆どが地面に落ちて停止。

近くを飛んでいたものは例外無くバッテリーを爆裂させていた。


「な、に?」


破裂?

違っ、ウナギが自爆した?


「リリィ!」


電撃が炸裂した中心にはリリィが倒れていた、小太刀は地面に突き刺さり未だに電撃がパリパリと帯びている。

巻き付いたウナギは真っ黒に炭化していて、微風で全身が崩れて無くなった。


「っ、ライアン!息してない!」


「っ!?」


先程の炸裂でフェイスマスクとゴーグルは大きく破損していた、意識の無いリリィから脈が取れない、息もしていなかった。

私は小太刀で胸当てのバンドを切って外すと、ジャケットの前を開いた。


「任せろ! おい!イブ、バイタルを」


ライアンは私の言いたいことを理解して直ぐ行動に移した、私はリリィの口をこじ開ける。

舌が喉の奥に詰まっているように見えたので慌てて掻き出すと、顎と額を支点にして気道を確保した。


「イブ、周囲の警戒と撤退ルートを、・・・イブ、イブ!?」


そうか、さっきのは多分強力な電撃。

余波でドローンが機能不全に陥る程だ、インカムやカメラが壊れていても不思議じゃない。

私はヘリに向かって叫んだ


「警戒と援護!」


3機の戦闘ヘリはそれぞれ別方向へ飛んだ、1機は後方へ、2機は前方へと。


「リリィ!リリィ!」


ライアンは即座に心臓マッサージを開始した、私も人工呼吸を行う。

当然ながらAEDなんて物は無いので、息も心臓も止まっているなら心肺蘇生法しかない。


「フッ、フッ、フッ、フッ!」


「ふうーーー、ふうーーー!」







「ガッ、ゲホッ、ヒュッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ!」


恐らく時間にして1分も経っていない、数十秒の出来事だった。

リリィがすぐに息を吹き返したので、私もライアンも顔を見合わせ、同時に脱力してその場にへたりこんだ。


「クソっ、驚かせやがって」


「良かったリリィ・・・」


「ゼエ、ゼエ、何が、」


『ザッ、ザザザッ、ナ、・・・リィ、ライ・・・、無、・・・、状況、・・・ザザッ』


漸くノイズ混じりで通信が入った、いや「漸く」という言葉もおかしいか、実時間にすると全部で120秒も経っていない短時間の話だ。


「水、くれ・・・」


「ちょっと待て、しょっと、サナ」


「はい」


ライアンはリリィを近くのビルに寄り掛からせる、私は自分の腰にある簡易水筒を開けてリリィの口に寄せた。

強烈な電撃の影響かリリィの所作は覚束無い


「ヅ、ゴボッ、ゲホッ」


「リリィ、大丈夫!?」


「あ゛ー、・・・なんとか、ごほ、何があった?」


意識喪失のせいか前後の記憶が完全に抜けているリリィに説明をする。

リリィの脚にウナギが絡み付いた事、絡み付いたウナギが自爆して電撃が炸裂した事、リリィは心臓が止まっていた事、すぐに蘇生した事。


「マジか、いや、あー、そうだね、思い出してきた・・・」


リリィ視点だと、絡み付いたウナギからピリピリと刺激が伝わって来た、咄嗟に小太刀をウナギの胴に刺して地面に突き立てたそうだ。


「電撃が来そうとは思ったけど、あそこまで威力が高いとは思わなかったよ」


「だからか、あんなのどっから見ても雷よか強力な電撃だ、リリィが至近距離で食らったにしては怪我が少ないと思ったぜ」


「あ、アース?」


「ああ」「だね」


全身スーツと防護服に包まれた体は露出が少ない、スーツの下は汗をかいているけど直に触れて感電するよりはマシだ。

そしてウナギの身体を貫通した刀から地面へ大部分の電気が逃げた事で、リリィは心肺停止()()で済んだ可能性が高かった。


「スーツのお陰でもあるね、これを着てなかったら直撃だ、無事じゃあなかったよ」


いや、それでも心肺停止だったからね、本当に運が良かった。


「もう、心配させないでよ!」


「お、っとと、わるいわるい」


リリィを抱き締めるとポンポンと弱々しい力で彼女は私の背中を撫でた。


「通信はダメだな、撤退だ」


「あー・・・」「うん」


インカムからはザラザラとノイズ混じりで殆ど声が聴こえない、リリィの方は完全に破損、私達のも無事とは言い難い。

まだ動けないリリィをライアンが背負い、私は最初に斬り殺したウナギを回収する事にした。



***



横須賀米軍基地に帰投した私達には、その後最低5日の静養の命令が下った。

先ずリリィの怪我は、全身に軽度の火傷、眼球の火傷、中度の脱水症状、一時的な身体機能の麻痺と診断された。

私とライアンも眼球の火傷、これはコンタクトHUDが電撃によって焼き切れた事が原因だった。


回収されたウナギのサンプルはすぐさま解析に回された。

それによって判明したのはウナギ自体が強力な電池のような構造をしていて、意図的に電池を暴走放電させたのではないか、との分析だ。

その電力(パワー)は雷より遥かに上で、リリィが咄嗟に小太刀をウナギごと地面に突き刺していなかったら内臓の損傷は免れず、高確率で死亡していただろうと言われた。


遠く離れていた自衛隊や米軍の望遠監視カメラには、私達を中心に球体上に電撃の余波が拡がっているのが確認されている。

それほど強力な放電現象がこの程度の被害に抑えられたのは、特に全身スーツの性能のお陰だった。


スーツは表面が電撃で変質しているのが確認されたのでその補修と、インカム、HUDコンタクト、フェイスマスク、電子ゴーグルの対策処理や修理に掛かる時間が最低5日との事だ。


「Hahaha!サナ見ろよ、アタシのムダ毛、全部無くなってら!Hahaha!!」


いや、笑えないからね!?

一時的に麻痺のあるリリィのお世話は勿論私がこなす、お風呂に一緒に入るとリリィはゲラゲラと大笑いした。

まあムダ毛の脱毛処理って大体電気で毛根を焼くから、高出力の放電を至近距離で食らったリリィは全身のムダ毛が綺麗さっぱり無くなっていた。

アフロにはなっていない。

て言うか、離れていた私でさえムダ毛は焼き切れて無くなっていた、ツルツルだ、ライアンは知らない。


「よいしょ!」


「すまないね」


身体を洗い終えてリリィを正面から抱きしめサポート、と言っても1番小柄な私ではリリィを持ち上げることは出来ない。

体勢に気をつけながら、どうにかお風呂に入った。

いつもならリリィが下になるけど、今回は支える私が下でリリィが対面座位の体勢で跨っている。


「Hahaha...ha..サナ」


「ん?」


リリィは陽気に笑っていたかと思えば突然真面目な顔になった。


「助かったよ、有難う、それとファースキス貰って悪かったね」


???


「何言ってんの!? 何言ってんの!?」


オフでは珍しい真面目な表情かと思って、一瞬ビックリした私に謝ってよ。


「ファーストキス・・・」


「ああ、すまない」


え、真面目か?

リリィは真面目にバカみたいな事を気にしているみたいだ、私は訳が分からなくて何とも言えない。

多分、いや確実に、


「人工呼吸、のこと?」


「ああ」


「o.oh」


待って、これはきっとリリィの悪ふざけだ。

多分、Hahaha!って笑って終わるに決まってる、つまり私の対応は、


「ふうん、そう言うなら責任取ってよね」


コレしかない!

するとリリィは「そうだな!」って陽気に笑い飛ばして終わ・・・


「分かった」


「はえ?」


リリィは私の頬に両手を添えて、人工呼吸(キス)をした。

挨拶のキスじゃない、


!????


「ン、はぁ、アレがファーストキスだと不本意だろう、だから、コレがアタシ達の初めてだ」


「・・・ふぁい」


下の私に逃げ場はない、上に、対面座位でリリィに跨られているからだ。

体格に勝るリリィが上なので、いくら麻痺の影響があっても私の力では脱出は不可能だった。


リリィはチロリと真っ赤な舌を出して唇を舐める、恐ろしく感じる程の妖艶さを纏って再び唇は重なった。

大混乱の私が思ったのはたったひとつ、リリィが電撃でおかしくなった!

助けてライアン!イブ!!






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