東京決戦 1
「ハアアアアッ!!」
振り切った刀で胴を真っ二つにされた泥の巨人は、接近して来た勢いをそのままに左右のビルに激突して動かなくなった。
「ッ!」
咄嗟に右足を滑らせ開脚で地面に伏せる、背後のビルの上から襲って来た別の泥の巨人の拳がギリギリの所を唸りを挙げて通り過ぎた。
空いた片手で地面を殴り付け、反動で浮いた半身を無理矢理捻り回し蹴りを放つ。
脇腹に突き刺さった蹴りの手応えは十分にあったけど、逆に掴まれてしまった。
「ふっ!」
刀を手放して近くのビルを掴む、力づくと全身のバネを使って捻り強引に拘束を引きちぎった。
体勢は不十分、でも回転の勢いがあるのでハイキックを全力で頸に叩き込んだ。
ごぎゅ
鈍い音と感触、ガラス玉の瞳が濁った。
ガシャァン!!
ガラス張りのビルから更に一体、私へ襲い掛かった。
刀は、間に合わない、足下を瞬時に確認すると掴みかかる泥の巨人を避けるようにしてバク転、ついでに顔面をサマーソルトで蹴り上げる。
着地は半身、目の前のビルに足を突っ込んで数歩登り、途中三角飛びの要領でバク宙、小太刀を引き抜くと泥の巨人の背後頭上から体重も乗せて振り下ろした。
ゴキン!
巨人の頭部は相当硬い、小太刀だと基本的に攻撃力が足りないけど高さと重さを加えた小太刀の一撃は頭の半分まで食い込んだ。
「はあ、ふー・・・」
『サナ、大丈夫?』
「大丈夫」
怪我はしていない、小太刀は荒っぽく使ったけど血振りをして刃をじっくり見ても特に変わりはない、太刀も拾うと鞘に納めた。
『そっちは無事かい?』
『こっちは片付いたぜー』
「クリアー」
渋谷区の討伐作戦で途中私達は分断された。
出来るだけ進行ルートは注意しているけど、それでも四方から波状攻撃のように襲われるとそれぞれ単独で対処せざるを得ない。
道路幅と建物の配置次第で3人、もしくは2人で戦闘をする広さを確保出来ない事も多い。
これまでこういった場面はあったけど、まだ練馬区の【穴】から遠かった事でそこまで問題にはならなかった。
現在地は渋谷区、【穴】がある練馬区に近付いた事で敵性生物の質と密度が上がり、こうして1人で対処する場面が増えた。
コンタクトHUDとドローン、偵察機、情報衛星のサポートが無かったら不意をつかれてかなり危険だった。
常に視界には敵味方のマーキングが表示されているので、目に見えない位置からの奇襲にもほぼ対応出来ている。
「ビル群はやっぱりナシだな」
「頭取られるのがな」
「敵マーカー有ってもギクッとする時あるしね」
今回こうなったのは渋谷駅周辺に第一級敵性生物が巣食ったことが発端になっていた。
まあ巣食うと言うよりは縄張りにしている、と言った方が正確かも知れない。
2、3体ずつ片付けるつもりがワッと来られたので散開、各個撃破に移った。
刃物を振り回す都合上、ある程度離れた方が気兼ねなく戦えるからね。
早々にビル群を抜けて、建物が比較的低い大通りへと場所を移す。
「え、ウナギ?」
「蛇、か?」
「いや、その割には全体がヌメリ気を帯びているような」
『ウナギですね・・・』
場所は首都高ICのある通りで、大きな陸橋がある立体交差の下からヌタっと長いモノが這い出た。
「偵察の報告は?」
『待って下さい、・・・米軍、自衛隊共に報告無し、要警戒です』
「陸橋の裏から出て来たし、空からだと見落とした可能性は高いな」
「待って、なんかヌメヌメが・・・」
ウナギが接している地面を中心に、まるで冠水したように水( というかヌメリ)が拡がっていく。
更にウナギはビタンビタンとのたうち回ってヌメリを周囲に飛び散らせた。
それはかなりの量で、離れた私達の足下まで飛んできた。
ジュルッ
「え、きゃあっ!?」
「サナ!」
一瞬、近くのヌメリに気を取られたタイミングにウナギは恐ろしい瞬発力で接近してきた。
反射的に、と言うよりも小太刀を抜いて振り回したのが丁度良くウナギの首をストンと切断した感じだ。
ウナギの首はヌメリを帯びているので、数百m程道路を滑り、突き当たりのビルに当たって漸く止まった。
「びっくりしたー」
「おいおい、狼よか速くなかったか、今の」
「サナ、怪我は?」
「大丈夫」
『随分、柔らかかったように見えましたが』
「あ、うん、手応え殆ど無かったね、一級の硬さは感じなかったかな」
魚を捌くと骨を断つ感触があるけど、今のは豆腐を切ったくらい柔らかかった。
それよりも本当に速くて驚いた、偶然倒せたけど心臓はドキドキと早鐘を打っていた。
ジュルッ、ジュルジュルジュル
「「「・・・」」」
『居ますよね、もう一体、・・・ドローンで捕捉します』
居ますねえ!
場所は分からない、ビルの間を這っているみたいで、音のした方を見るとヌルっと目を掠める位しか捉えられなかった。
ドローンが高度を上げて散開していく、これなら姿も丸見えになるはずだ。
ジュルッ、ジュルッジュルジュル!
捉えるより先にウナギの行動の方が早かった。
「リリィ、そっち」
と言った瞬間には、既にウナギはリリィの左脚にとぐろを巻いて絡み付いていた。
「ん、こいつ大して締め付けも強くないねえ」
速いだけなのか、リリィは痛がる様子も無く小太刀を引き抜き、
バリッ、ドガァァァーーーーーン!!!!
激しい閃光に視界は焼かれ、外部音を一定程度カットしている筈のインカムを越えて爆裂音と振動が辺りに響き渡った。




